俺達の性癖は革命だ
ヴァイオレットさんからグレイの所在が分からないと聞き、俺達は手分けして探すことにした。トラブルがあったとなると面倒であるし、純粋に心配でもあるからだ。
知らない人には付いて行かないように言ってはあるが、知っている人には付いて行きそうだし。騙されやすそうだし。
「ブライさん、そしてアゼリア学園の生徒よ。グレイを攫わなかったか」
「直球で失礼だな」
「だな」
という訳で、心当たりがありそうな人を当たってみた。
ブライさんと一緒に少年について語っている黒い制服を着た女生徒だ。さすがに攫ったとは本気で思わないが、彼らならばグレイの存在に目聡く反応して何処に行ったか記憶があるかもしれない。
「攫ったは流石に冗談ですが、グレイがちょっと何処に行ったか分からなくなりまして。一応全員に聞いているんですが」
「いや、記憶にねぇな。嬢ちゃんはあるか?」
「いえ、半径100mの障害物がない範囲ならば分かりますが、私のセンサーは反応しませんでしたね」
「ああ、屋外なら感じ取れる香りもしなかったからな」
「だな。彼は極上の少年だから、屋外に居れば感づきますね」
グレイに関係なくこの二人は大丈夫なのかと心配になる。つまりあの時もブライさんが鍛冶場に居なかったらグレイの存在を感じ取れていたということなのか。
そしてこの貴族女子は何者だ。
「クロ坊、我々にとって少年は愛でる者であって手折るものではないと言っただろう」
「それは知っています」
よく知っている。
愛で方が問題なければ良いんですけど、言動が割と問題なんです。
「だからもしグレイくんになにかあったら直ぐ俺達を呼べ。彼の健やかな成長を阻むものは許さない」
「勿論私にもだ領主さん。我が全権限を使って害となるモノは排除しよう」
有無を言わさない表情と声色だった。この熱意が手を出す方向に行かないことを願うばかりである。
でもなんというか前世の妹を思い出す。私はカップリングを愛でるのであって、そのものになりたいわけじゃないんだよ、と言っていたっけか。楽しみ方は人それぞれだけど、この人達もそちらの方面で助かったかもしれない。
「でも、知識のない子に対して優しく手ほどきしてあげて、初めての快感にアタフタするのも揶揄いたい気持ちは分からないでもないが……」
「……なんだと、貴様」
あ、なんかまずい雰囲気になった。
少年は健やかに育って欲しいと願う見守る派。成長を促し自分色に染めたくなる派。これらは決して相容れない――かどうかは知らない。
こういった趣味嗜好の同じジャンルにおいて見方の違いというものは時に戦争とすらなりうる。妹は寛大な方であったが、それでも相容れない存在はいたからよく分かる。俺自身もそういった所はあったし。
「どうやら嬢ちゃんには革命を起こす必要があるようだな……!」
「OK、とことんやり合おうじゃないか」
よし、逃げるとしよう。
俺はありがとうございましたとだけ言い残し、その場を去ることにした。多分聞こえていないとは思うけれど。
「次に行きそうなところと言えば……」
俺はそれからグレイが行きそうな所を当たってみた。
教会、宿屋、年齢の近い子がいる家、アプリコットの家、学園生徒達の所――と、探してみたが見つからない。行き違いの可能性も考え一度屋敷に戻ってみたが、居ない。
ふと見ると入ってすぐの所にヴァイオレットさんの書置きがあったので、これを見ていればグレイも一筆残すかここに留まっているであろう。つまりグレイは戻っていない。
「後は……」
思い当たる節を考える。
なにかイタズラで隠れているのであればまだ良いのだが、事故の場合を考えると不安になる。シュバルツさんの時のような人為的な策略については考えたくないが、視野に入れなくてはならない。
グレイは魔法技術に関して優れてはいるが、性格に関しては信じやすい性格だから――
「ん?」
ふと、妙な違和感を覚える。
勝手知ったる我が屋敷の中にしては空気が違う……といった、原因は分からないけれどなにかが違うことが分かる違和感だ。
グレイがやはりサプライズをしようとして隠れて屋敷でなにかをしようとしている――という前向きな方向に考えるが、どちらかといえば後ろ向きな方向の感覚がある。
勘違いだろうと確認するために、屋敷の中を軽く見て回る。無駄に広い屋敷を見て回る内に、違和感が拭えてくる。……事を望んだが、どうしても拭うことは出来なかった。
俺やグレイの部屋を見て回り、記憶の限りでは物が減っていないので物取りの類ではないだろうと判断する。
「失礼します」
そして最後にヴァイオレットさんの部屋の前に来る。
ごめんなさいと口にし扉に軽く頭を下げる。部屋に勝手に入るのは失礼であると理解はしているし、後でヴァイオレットさんにも謝るが、どうしても確認だけはしておきたかった。
部屋の扉を開け、中に入る。そこには……
「……変わった所は無いか」
特に荒らされた形跡もないし、中が荒れている訳でもない。
ただの杞憂であったのだと胸をなでおろし、長居は無用と思い部屋を出ようとした所で――机の上に置いてある何枚かの紙を見つけた。
個人的な内容ならば見てはいけないと理解しているので、すぐに視線を逸らそうと思ったのだが、嫌でも目立つ言葉が俺の目に入ってしまう。
一枚目の紙にはただ一言、こう記されてあった。
『お前に幸福はいらない』
――ああ、くそ。またなのか。




