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インフルエンサー

 目の前の女性が私のほうをギラリとにらんでくる。

 基本無口の兄。言い訳の言葉とかそんなにつらつら出てくるわけじゃなく。だがしかし、こういう体験も面白いかもしれない。

 今の今まで妬み、嫉みという感情とは激しく無縁だった。私をよいしょしてくれる人が多かったわけじゃないが、ただただ短絡的に生きてきたのでそういうのに気づかなかっただけなのかもしれないが。

 だがしかし、この感情を向けられたこと、気づけたのならネタにするチャンスではないか?


 私は兄の腕に自分の腕を絡めてみた。


「この女ッ……!」

「亜子、こいつは……はぶぅ」


 兄を黙らせる。

 ちょっとこういう修羅場を体験してみたい。自分で性格悪いというのは理解しているが、やっぱこういう体験しなくっちゃ。いいチャンスである。


 だがしかし、敵意がこもっていた視線が弱くなっていくのを感じた。


「あ、もしかして妹さん?」

「……はいそうです」

「なんで残念そうに?」

「お前なぁ……」

「妹の夢見と申します。私の義姉として、今後もよろしくお願いしますね」

「あ、えと、私は立花 亜子っていいます。よろしく!」


 私たちはぺこりとお辞儀。

 私は母さんと話してくると二人に告げて、病室の中へ入る。母さんはテレビでお笑い番組を見ていた。私のほうを向くと。


「夢見ーーーーーーっ!」

「お母さん。ただいま」

「おかえりなさい……ッ!」


 涙を浮かべて抱きしめてくる母親。

 良い母親だという自信はある。がこの反応はオーバーではなかろうか。まるで家出娘みたいな感じで抱きしめられてはいるが、家出なんて一度もしたことがない。

 もとより、高校卒業してすぐに漫画の持ち込みを始めているし、そこからずっと漫画家生活でそういう夜のお遊び的なことは一度もしたことない。


「あなたが出て行ってから8年……! 心配で心配で……」

「いや、帰ってこなかったのは悪いと思ってるけど、家出娘みたいに扱わないでほしい」

「もう思い残すこともないわ……」

「なにその最期の言葉みたいな感じ……」


 うちの母は若干天然ボケなところがある。


「では、顔を見せたので」

「もう少しいなさいよ~」

「お母さんが倒れたと聞いてすっ飛んできたんだよ。さすがにちょっと疲れてるの」

「んもう!」

「もう歳なんだから少しは気を付けてね」

「わかってるわよ!」


 病室を後にする。

 外ではもう帰る準備万端の兄と亜子さん。


「んじゃ、家で親父が待ってるし帰ろうぜ!」

「……だれが運転する?」

「そりゃ、兄さんじゃない?」

「そりゃ不公平だろう。運転できるのが四人いるんだ。公平にじゃんけんだ」

「えぇ……」

「じゃんけんならウツツ兄さんの一人負けでは?」

「お前勝ったことないからな」

「うるせえ、勝つ」


 四人でじゃんけん。

 その結果は。


「ちっくしょう……。やっぱ俺って勝負ごとに弱え……」

「あの、私運転してもいいです、よ?」

「いい。我が家のルールだから」


 兄が我が家に向かって車を走らせる。

 私は助手席で、亜子さんの名前をちょっと調べてみた。というのも、どこかで聞いたことのある名前だったから。

 調べてみると、彼女はSNSでフォロワーが数万人いる有名なインフルエンサーらしい。どこか可愛らしいし、スタイルもいいから何かしてそうだとは思ったが。

 

「亜子さんってインフルエンサーの方なんですね」

「あ、そうなんです! 知っててくれたんですか!?」

「名前程度は……」

「くっ……名前ぐらいしかまだ知られてないんですね……」

「あまりそういうの見ずにやってきましたからね」


 亜子さんの動画を見てみると、たまにゲーム配信もしているようだ。

 それも、私も今やっているゲームを。結構レベルが高い……。


「夢見さんはご職業何されているんですか?」

「ええと、しがない会社員です」

「そうなんですか?!」

「嘘つけよお前」

「嘘じゃないですよ。一応会社からお金もらってますし」

「嘘って?」

「こいつ漫画家だぞ。あの都市おい描いてるやつだ。お前も案件もらってたろ」

「あの!? マジですか!?」


 一気に笑顔になる亜子さん。


「すごい! 私、大好きだったんです! え、嘘……。あ、あのイベントの時の賞品である色紙も大切にとっていて……」

「イベントの時の……ああ、ゲームのですか? やってくれてたんですねぇ」

「コラボですから! え、ほんとに? 過去一結婚してよかったかもって思った……」

「おい」

「というか、夢見って聞いた段階で気づかなかったんすか? リアルネームで活動してんのに」

「芥屋 夢見っていうのは大体ペンネームって思われがちなんです」

「そう! そうなんです! 私もペンネームだとてっきり……」


 だから夢見って言っても気づかれないのがほとんど。あと少年誌に掲載しているバトル漫画っていうだけで作者は男性だと勘違いされているので、本当にペンネームだと思われがちなのである。

 最近はSNSの影響もあって女性ってのが知れ渡ってきたと思ったけど……。


「今度ゲームやりませんか? 一緒に。私、ユメミって名前で活動してまして」

「やりたいです! 私はあーこって名前でやってます! ぜひ今度やりましょう!」

「ふふ」


 指切りげんまん。


「……俺より仲良くなってないか?」

「どんまい!」










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