兄との対決
ウツツ兄さんは杖を構えて魔法を唱える。
昔からよく喧嘩する仲だった。長男であるゲン兄さんが無口で喧嘩なんてしたことないが、ウツツ兄さんとはよく喧嘩していた。
ただ、私は女の子だったために殴り合いではなく口論とか、それこそ近場のゲームセンターでのゲーム対決とかそういうの。ウツツ兄さんとの戦績は私が全勝である。
「お兄ちゃん、妹と喧嘩出来て嬉しいよ」
「いい歳こいて何が喧嘩ですか」
「優秀すぎる兄と妹を持ってお兄ちゃん嬉しい」
「……それ本気で思ってます?」
「これは本気なんだなぁ」
魔法が飛んでくる。
それを援護するかのように矢も同時に飛んでくる。まだ一人仕留めていないんだよな。
ただ、兄さんがあっちに向かわせてくれるとは思えないし、まず兄さんを倒さなくては。
「せいやッ!」
兄さんの顔面に回し蹴り。
対応できず兄さんはそのまま吹き飛んでいく。
「回復」
「回復魔法使えるのは厄介」
「昔から、ゲームではハメ攻撃とか、それが出来なかったら高火力でのゴリ押しとか好きだったよな」
「…………大人になったら嗜好も変わるものです」
「いいや、お前は昔のままだ」
「……気持ちわるっ」
「ひどい」
私はもう一撃叩き込もうと距離を詰めると、私の前を矢が横切った。
うーむ、援護をするかのように飛んでくるあの矢は普通に嫌だな……。
「雷魔法、サンダープリズン」
ウツツ兄さんは杖を地面に突き刺すとその場を離れる。
その瞬間、私の周辺に雷の檻が出来上がっていた。バチバチと私を取り囲むかのような稲妻。閉じ込められた……?
「闇精霊魔法」
閉じ込めて矢を放ち殺す手筈だろう。
自分は安全圏である場外に……と考えてるんだろうが私には通じない。
ウツツ兄さんを闇精霊魔法で強引に土俵に引き寄せる。サンダープリズンは兄さんには効果がない。
「一人だけ場外いくんじゃありませんよ」
「…………やべ」
「捕まえました」
「炎魔法」
「させません」
兄さんを地面に叩きつける。
兄さんは負けを悟り、ため息を吐いた。
「じゃ、遺言。たまには帰ってこいだと母さんが」
「……イベント終わったら帰省します」
「あぁ、伝えておく……」
私は兄さんをしこたまぶん殴る。
兄さんが消えた。だがしかし、サンダープリズンの効果は残ったままである。
持続時間があるのだろう。
矢が一定間隔で飛んでくる。
相手側の視点からしてみれば、身動きできない今のうちに仕留めておきたいんだろう。
私はこの雷の牢獄から解き放たれるのを待たなくちゃならない。
被弾すると覚悟してから、それなりに被弾もしている。触れたらワンチャン死ぬ。
「いいですね、こういう状況、だいぶ好みの展開!」
この牢獄が終わるのはいつか、それまでに生き延びられたら勝ち……!
ただ、この牢獄は狭い。そして、視認性も良くない。下手に動くと触れてしまいそうで怖いし、動かなければ恰好の良い的となってしまう。
気配を読み、矢を躱す。
バチバチと五月蝿いこの雷にも惑わされず、矢を回避することに専念するのだ。
最小限の動きで矢を躱す。
そして、雷が弱まり、消えてしまった。
「よーい、ドン!」
全力で駆け出し、プレイヤーを発見。
矢を放ち殺されまいとしているが、見えているのなら躱せる。銃ほど弾速が早くないので。
「勝ったのは、私です」




