限界漫画家のユメミさん(26歳)
闇の大結晶を採掘し終えて2週間が経過した。
私は今現在ゲームにログイン出来ていない。その理由は漫画である。
「映画原作漫画、描き終えました〜……」
先方からなる早でというお願いもあり、迅速に仕上げた。
我ながら良い出来だと思う。一つの大長編としてはものすごく面白いのでは?
「眠い……」
ここ数日、ほとんど寝ていない。しかもここ3日くらいは徹夜である。
生粋のショートスリーパーである私でも、さすがに寝てないのは……。
電話してから寝るとしよう。
私は喜谷さんの携帯に電話をかけた時、意識を失ったのだった。
そして、目を覚ましたのは知らない天井だった。
私の手には点滴が刺されている。
「よかった、目を覚ました」
「ここは?」
「病院だ。君から電話がかかってきて無言だったから確認しにいったんだ。そしたら君が倒れていた」
「あーー……」
「栄養失調らしい。そこまで無理をしていたのか?」
「あー……」
そういえばここ数日というか、ここ数週間ろくに食べてない気がする。
漫画に熱中しすぎたというか。
「漫画描くのに熱中しすぎてろくに食事とってなかった気がします」
「そうか……。漫画描いて死ぬというのは漫画家としては本望ではあるかもしれないが、我々にとってはあまり好ましくない。しっかり健康でいてくれ」
「はい。申し訳ありません……」
不覚である。
喜谷さんは原稿は確認したから持っていくと封筒を見せつけてきた。
喜谷さんから入院期間のこととかも教えられた。期間はおよそ1週間ほどらしい。
「じゃ、俺は他の担当もあるから行くとしよう。しばらくはゆっくり休んでくれ」
「はい」
喜谷さんが部屋を出ていったのを確認し、私はため息を吐く。
「限界というのは来るまでわからないものですね」
自分の限界にも気付けないとは情けない限りだ。
私は寝転がり、天井を眺めていると私のスマホに連絡が届いた。
『2週間くらいログインしてないけど飽きちゃった?』
そういえば何も言わずログアウトしたままだったことを思い出し、現状を伝えることにした。
伝えると、病院どこ!?と聞かれたので入院してる病院を教えると。
十分後にシュカさんがやってきた。
「フッ軽ですね」
「私はフッ軽が取り柄……じゃなくて大丈夫なの!?」
「大丈夫です。飲まず食わず寝ずに漫画描いていたら倒れただけなので」
「んもー、熱中しすぎー……。まあ何ともないならよかったぁ」
「ご心配をおかけしました」
シュカさんがベッドの上に座る。
改めて近くで見るとやはり美人だ。人気女優なだけはあるのだろう。
私がジロジロ眺めていると。
「やぁーん。そんな見られたら照れちゃ〜う」
「あ、すいません」
「この美貌に惚れちゃったカナ?」
「まぁ、そんなとこです」
そう言うと、シュカさんの顔が真っ赤になっていた。
「えっ……あっ……」
「揶揄ってきたんでしょうけど無駄ですよ」
「し、してやられたり……」
「してやりましたとも」
シュカさんは照れくさそうに笑っていた。
「あ、やば! ごめん、もーいくわ。撮影の休憩の合間に来たからさ!」
「そうだったのですか。時間取らせてすいません」
「今度は元気な姿を見せろよ! おとといきやがれー!」
「さよならの挨拶はそれでいいんですか?」
シュカさんが帰っていくと同時にやってきたのはタイタンさんだった。
「よぅ」
「来てくれたんですか?」
「あぁ。朱歌からさっき聞いたぜ」
「グループで送ってましたね」
「程々にしろよ」
タイタンさんはレジ袋を私に手渡してきた。
中に入っていたのは果物のゼリー。みかんや桃などのいろんな果物が豊富だった。
「邪魔したな」
「もういくんですか?」
「あまり長居するのも迷惑だろ」
「男の人って冷たい人多いですよね」
「それ今言うかよ。わあったよ。少しはいてやる」
椅子を引っ張りだし、どかっと座るタイタンさん。
タイタンさん、やはり筋肉質だ。元スポーツ選手というだけあり鍛えていたのだろう。ゴツゴツとしたデカい手、筋肉が膨張している腕。私とは大違いだ。
「ま、なんだ。ちょっと気になることがあるしこの際だから質問するわ」
「なんでしょう?」
「なんでジャッツで野球漫画はすぐに打ち切りになるんだ?」
「打ち切り理由ですか」
「野球は好きだから野球漫画は読みたくてよ。でもすぐに打ち切られるから……」
「まぁ……絶対にこれだ!って言えるような根拠はないのですが」
野球漫画が打ち切られるのはどの時もそうだった。あまりジャッツで長続きした野球漫画はない。
「まず、野球は誰もが知ってるという前提で話を進める人が多いですね。有名なスポーツでルールも知れ渡ってることが多いのですが、それでも知らない人もいます」
「なるほど……。まぁそうか」
「あと、仲間集めに時間をかけすぎとかもありますね。仲間集めに時間かけすぎて野球全然しないじゃないですか」
「……たしかに言われてみればそうだな」
私の一意見ではある。
だからこれを対策すれば打ち切りにならないなんてことはない。打ち切られる時は打ち切られる。
「漫画全般に言えますが、何か惹き込まれる要素がなければ打ち切られますね。野球漫画で野球を売りにするのはあまり惹き込まれないかもしれません。動くのと見るだけというのは違いますから」
「そうか……。夢見が野球漫画描いても打ち切られたりするのか?」
「看板作家をやってた私でも打ち切られたりしますよ」
「そうか……」
タイタンさんは悲しそうな顔をして立ち上がる。
「じゃ、今度こそ俺いくから。またゲームでな」
「はい。ワガママすいませんでした」
「朱歌と比べたらこんなのワガママと呼べねえよ」
シュカさんすごいワガママなのか。私はそう思ってないけど……。
タイタンさんが帰ろうとした矢先だった。
「はーっはっは! 俺様参上!」
「しろんちゅ、病院内だぞ」
「それがどうした? ここは我の病院である」
「我の?」
「我の病院であるが故に、俺様は何をしても許されるのだ!」
「んなわけねーだろ」
しろんちゅさんが白いワンピースを着て現れた。
儚い美人という感じで似合ってはいるが、性格の方は似つかわしくない……。そもそもそのお淑やかそうな顔で厨二というのが怖い。
「ここ、しろんちゅさんの病院なんですか? 本職は医師?」
「ん? あぁ、ここは我の父が経営している病院だ。我も多少なりとも医療の知識はあり医師免許を取得してはいるが……我がここで働いてるわけではない」
そうなんだ……。たしかに家は豪邸だったしこういうことか。
「医師免許持ってんの?」
「あぁ。俺でも取れるんだ。簡単なものだぞ」
「んなわけねーだろ……。ま、夢見をよろしくな」
「あぁ、任された」
しろんちゅさんが椅子に座る。
「ユメミよ、時に……」
「はい」
「メロディを奏でたいとは思わぬか」
「いえ……」
「俺は今度のMVをユメミに描いてもらいたいと構想している。どうだ?」
「あ、そのお誘い。構いませんよ。……というか、叱ったりはしないのですか?」
「俺もクリエイターの端くれ、熱中すると周りが見えなくなるというのは理解できるのだ」
しろんちゅさんは優しくそう言ってくれた。
なんというか、こう優しくされるとやっぱ自分はダメダメだったなと少しナーバスになる。
「ま、程々にな。それで、MVなのだが……。漫画形式にしたいのだ。主人公がツインテールの女の子でな」
「ふむふむ」
「大まかな特徴を伝える。キャラデザは任せても良いだろうか」
「構いませんよ」
「そうか。そのキャラはしばらくMVに登場させるつもりでいる。曲の背後のストーリーを地続きにするつもりだ……」
しろんちゅさんの要望を聞き、私は頭の中で構想を始める。
ストーリーとしては物悲しい純愛、という感じだ。余命幾許もない女の子と、そのことを承知で告白する彼。
想いを引きずったまま生きていくというもの。
「では、頼んだぞ。金は後日……」
「はい。わかりました」
しろんちゅさんはそう言い残して帰っていった。
私はベッドに背をつける。
「早いところ回復しなければなりませんね」
私は目を瞑る。
そして、いつのまにか眠っていたのだった。




