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隅の老人

 精霊王様が木の幹から出てくる。

 普通のサイズで見るとやはりテディベアみたいな感じのぬいぐるみにしか見えない。


「エルフと仲直り……。いいよ。昔のことは私たち精霊も悪いところがあったからね……」

「いいんですか!?」

「あぁ。そちらの長老に話をつけにいこう。ただ、私はエルフの里の場所を知らないんだ。案内してくれるかい?」

「もちです!」


 チルミルさんは嬉しそうにしていた。


「ちなみになんで喧嘩してたんですか?」

「些細なことだよ。ほんの些細なこと。そのせいもあってなんで喧嘩していたのか忘れてしまった」

「私その時産まれてないからわかんないや。こっちです、精霊王様!!」

「元気な若い子だ。すまない、おぶってくれるかい?」

「わかりました」


 私は精霊王様を手に抱える。

 そしてチルミルさんの後ろをついていくことにした。エルフの里は初めてだ。


「エルフというのは長寿だろう? それを若いって……すごいな」

「ふふ、私はこの世界が出来た時からずっとここにいるからね」

「歴史と共に精霊王様は生きていたということですね」


 チルミルさんが森の中をウキウキで走り、集落の方についた。

 チルミルのようなエルフがたくさんいる。ただ気になるのは女性しかいない……。エルフは女性しか生まれない種族というわけでもないとは思うが……。


「ちょーろー!」

「なんじゃ……せ、精霊王……」

「久しぶりだね、エーフ」

「何が久しぶりじゃ! よくもまあ抜け抜けとワシの前に顔を表せたものじゃ!」

「まだ怒っているのかい?」

「当たり前じゃ!」


 エルフの長老はお怒りのようだ。


「何があったんですか?」

「こやつはな……。ワシの芸術を鼻で笑いおったんじゃ!」

「そんなことで? おじいちゃん……」

「そんなこととは……! ワシは、ワシは……あの作品は傑作で……!」

「ねちっこいおじいちゃん嫌い」

「ち、チルミル!」

「仲直りして?」

「……ぐっ」

「じゃないとおじいちゃん嫌いになっちゃう」

「ぐっ……精霊王……握手じゃ……」

「うん、ごめんね」

「ぐぅ……」


 エルフの長老は嫌そうに握手を交わした。

 要するに事の発端は精霊王様が長老さんの芸術を笑ってしまったことから始まったのか。そんな些細なことで精霊とエルフが関係断絶……。関係ない人たちにとってはいい迷惑だろう。


「ちなみにその芸術ってあるの?」

「あぁ。ワシの最高傑作は大事に保存してある。これじゃ」


 それは一枚の絵画のようだった。

 一言で説明するならばピカソである。ただピカソよりだいぶ抽象的で非常にわかりづらい。

 チルミルさんも言葉が出ていなかった。


「どう思う? 漫画家として」

「漫画家と芸術家は違いますし、美術品の価値は人それぞれで変わるので上手い下手は私の口からはなんとも……」

「上手いか下手でいえば?」

「独創的で味があって大変よろしいのではないでしょうか」

「ほらみろ! 分かるやつには分かるんじゃ!」

「いや下手でしょ」


 チルミルさんがぶっ込んだ。


「ユメミさんはただおじいちゃんを傷つけないようにおべっか使っただけでしょ? これを上手いというにはいささか……」

「…………」

「こんな絵より! おじいちゃん、精霊さんと仲直りしたよね!? じゃ、外に出ることできるー!」


 実の孫娘にばっさり切り捨てられ、角で泣いているエルフの長老。


「実の娘の方がだいぶ辛辣だね。私は言葉にはしなかったのに」

「愛すべき孫にばっさりいかれて怒るにも怒れず落ち込むことしかできてない……」

「だいぶ、哀れですね」

「悲哀に満ちてるべな」

「悲しきや……」


《クエスト:精霊の里を求めて をクリアしました》

《街にエルフが出現するようになります》










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