山奥の猿 ②
私はダガーで攻撃を試みるが、接近戦での反応速度は尋常じゃない。野生の勘みたいなものなのだろう。
私の攻撃はつくづく防がれている。でかい、大剣みたいな極大な威力を誇る攻撃ではないから軽くあしらわれるのも当然と言えば当然か。
だがしかし、それ以上に厄介なのは火力不足な点だ。相手のレベルはなぜか表示されていない。レベルが???となっている。
だがしかし、体力ゲージがあるということは倒せるモンスターなんだろう。
「ウキィ~……」
猿は再びにんまり笑うと、木に登り始めた。
そして、ぐるんぐるんと回転すると、竜巻が巻き起こる。竜巻の中には風の刃が見え、アレに触れるとダメージを受けるだろう。
竜巻が私たちの前に迫ってくる。
「うわぁあああああ!? 躱しようがないべぇえええええ!?」
「あの風の刃自身に判定があるんだとすればいけますか……?」
逃げようとしてみるも、あの竜巻はホーミング性能があるようだ。私を追ってきている。
逃げることは許さない。この猿は私たちを逃がすつもりはないようだった。なら、頑張ってあの竜巻を耐えるしかない。
私は一人で竜巻の中に突っ込んでいく。そして、風の刃が当たる瞬間にダガーでパリィ。
「無際限の風の刃……! でも無尽蔵ではないはず……!」
油断できない。
パリィはタイミングが合わないと失敗する。ダガーは一番難しいと聞く。確かにその通りだった。少しでもタイミングがずれた風の刃は私に当たり、私にダメージが入る。
一発で即死級……ではないが、威力は高く、ごっそり体力の6割程度削れていた。これを何発も受けるのは無理だろう。
「一、二、三、四、五、六、七、八ィ!」
風の刃は無規則ではあるが、反応できない速度でやってくるわけじゃない。私の全反射神経を研ぎ澄まし、私は風の刃を捌いていく。
いつこの攻防は終わるのだろうか。
「すんご……」
「ウキャ……ウキャキャ」
私は風の刃を防いでいると、突然隣に再び竜巻が発生していた。
だがしかし、その竜巻はこの竜巻と逆回転。順転の竜巻と、逆回転の竜巻がぶつかり合い相殺。私は風の刃の攻防戦から解放されたのだった。
私は地面に落っこちる。
「ウキャア」
「なんですか?」
猿は攻撃を止めた。
私の頭を撫でまわす猿。
《キングモンスター、猿人王ヴァララがあなたを認めました》
《猿人王ヴァララがあなたに教えたいことがあるそうです》
というアナウンスが流れる。
「……キングモンスターってなんですか?」
「おらもわからん……。でもおらたちになんか教えてくれるって……」
ヴァララが突然私たちの両手をつかむ。
《スキル:音速太刀を取得しました》
というアナウンスが聞こえてくる。
「音速太刀……?」
「ウキャア」
スキルを使用してみる。
ダガーを振ると、斬撃が前方に飛んでいくもののようだ。威力は十分で、攻撃を受けたキングモンスターのヴァララの体力が1割にも満たないが、ラーの攻撃を当てたときより削れていた。
《さらにスキル:猿舞踏を取得しました》
と謎のスキルまで。
これは特殊なスキルらしく、使用してみると、私の分身が二体現れた。私はその分身と行動すると、分身もヴァララに攻撃を仕掛けている。
私が動くと分身も同じように動くようだ。そして、これには特別な効果があるようで、三体の分身のうち本体は一体で、本体以外に攻撃を当てらえても分身は消えないようだ。
「なるほど、これはいいですね。ただ、分身が同じ動きをするのは面倒ですが……」
「ウキャ」
猿人王ヴァララは私たちに背を向ける。そして、森の奥へと消えていったのだった。
《クエスト:山ノツワモノをクリアしました》




