謝罪
喜谷さんに私が抜けた直後の週刊少年ジャッツを持ってきてもらった。
私はしろんちゅさんの部屋でジャッツを見てみる。私が抜けた直後にたしかに新連載として木島 百鬼が作者の漫画が連載していた。
内容はよくあるバトルもの。現代日本で異能に目覚めた主人公が騒動に巻き込まれていくものだった。そして、読み進めていくうちに……。
「私が抜けてからそろそろ一か月……。最新号ではもうほとんど後ろのほう……」
四話目が掲載されているのがジャッツ後ろのほうというのが物語っている。
ジャッツはアンケートが上位のほど掲載順は前のほうになる。いや、必ずしもそうとはいえない。原稿を出す速度とかもいろいろあるが、アンケートがふるってない作品ほど後ろに行く。
このままいくとドベで打ち切り候補になりそうなものだが……。
「私の作品をくそつまんねーと評してこれですか」
私の作品も運がよかったというのは否めない。
連載で、人気を取るのは難しいからだ。読者にウケるための内容を考えても、本当にウケるかどうかは掲載してアンケートを取らないとわからない。
自分では面白いと思ってても読者にとってはつまんねーってことはよくある。そこが難しいところなのだ。
「さてと、ログインしましょうか」
下調べは終わった。
私はゲームにログインすると、ヒャッキはすでにログインしていたようで、ものすごく嫌そうな顔をして私を見ていた。
「……じゃ、私は依頼をこなしてきましょうかね」
「待てよ」
「あぁ、そういえばラーさん。昨日はすいませんでした」
「あ、いんですー! 依頼にいくんすか? おらもお供します!」
「わかりました。一緒に行きましょう」
ラーさんが私の隣に立つ。
緑色の髪が目立つラーさん。だいぶ背が高いっていうか……。アバターごしでもわかるが身長がものすごくある。現実でも長身なんだろうか?
「でもいんすか? あの人……」
「私を目の敵にしてるようですので。そういう態度を取られるのなら認めてあげる気にはなれませんから」
「でもぉ……」
「大人としての対応は間違ってますよね。でも、許せるもんじゃない。私は心が狭いんです」
ラーさんはヒャッキさんを気にかけているようだ。
まぁ……勧誘されてきた立場だし、何か目的があってこのクランに入りたいんだろうけど……。私を攻略しない限りそれはムリゲーだ。攻略を嫌がって私を目の敵にしてる時点でもう詰み。
プライドが許さないんじゃないかな。プライドは高いだろうし。
「んでも、なんでそんなユメミさんは怒ってるんだべ?」
「私の作品をくそつまんねーと言ったからです」
「私の作品?」
ラーさんは少々考え事を始めていた。
そして、ある結論にたどり着いたのか、驚いた顔をして私を見てくる。
「都市伝説おいてけの作者さんだべか!?」
「はい」
「驚いたぁ。おらの弟がファンでよー、おらも弟が買うジャッツを読ませてもらってよく読んでただ。ジャッツは都市おいが終わってから買わんくなっちまったが……」
「読者様でしたか」
「そーだったら確かに昨日のヒャッキさんの発言はむかつくべな! おらも好きな作品侮辱されてあまり気分良くなかったし……」
ラーさんも怒りを見せていた。
すると、私の肩を誰かがつかんでくる。背後を見ると、ヒャッキさんが必死そうな顔をして私の肩をつかんでいた。
「なぁ、なんで俺を認めねえのか教えてくれ……」
「……私の名前見て気づきませんか?」
「名前だァ?」
ヒャッキさんはユメミという名前を見て何かを考え始めた。
そして、どんどん顔を青ざめさせていく。きっと何者か漫画家の卵だったらわかったんじゃないだろうか。
「都市伝説おいてけの……」
「はい。作者です」
「…………」
顔を思い切り青ざめさせたまま、動かなくなるヒャッキさん。
そして、そのまま、頭を地面にこすりつけていた。
「すんません、イキってました!」
「…………」
「都市伝説おいてけをくそつまんねーと言ってすんませんした……」
「……はぁ」
私は溜息を吐いた。
「顔を上げてください」
「え?」
「謝罪は受けと」
と言おうとした時。
「あ! ユメミさーーーーーん!」
「ん?」
路地裏にやってきたのはマンダラ先生だった。
マンダラ先生が私を見かけて、こちらに走ってくる。
「……誰?」
「うお! 誰だチミは! ユメミさんに近づく悪い虫か!?」
「あん!? お前だろそれは!」
「んだとこの野郎!」
二人は戦闘態勢を取っていた。
ラーさんは困惑して二人をきょろきょろ眺めている。
「ゲーム制限がなくなった私をなめるんじゃねえ! ほわたぁ!」
「んだこいつ!?」
「あー、ヒャッキさん。一応先輩ですからね、あなたの」
「先輩?」
「先輩?」
二人の手が止まる。
「「お前もしかして漫画家か!?」」
ハモった。
「ヒャッキ……。そういや新連載のやつがそんな名前だったな……。でも打ち切りコースじゃねえか! 僕に打ち切り漫画家が敵うと思うなぁ!」
「うるせえ! テメエえこそ何の漫画を……」
「BAKAHOですよ」
「ああ、今時アナログで書いてるって言われてる……」
「うるせえ! 僕だってデジタルのほうがいいんだ!」
「「決闘だこんにゃろう!」」
面倒なことになった気がする。
私はらーさんの手を引っ張った。
「私たちは行きましょう。この場にいると面倒ですから」
「仲裁とかは……」
「大丈夫でしょう。二人ともメンタルは強そうですから」
ゲーム制限がなくなった理由:勝手に伊藤のスマホを操作して解除した
面白いと思っていただけたらブックマークしていただけたら嬉しいです。




