音楽室の少女
一階音楽室。
中に入ると、ピアノや様々な楽器が設置され、壁にはベートーヴェンやバッハなど音楽の偉人たちの肖像画が飾られている。
ここの都市伝説、もとい七不思議は夜ここでピアノを弾く幽霊がいるということ。これも解決方法はいくらかあるのだが……。正攻法で行くとしようか。
私はピアノの椅子に座り、ピアノを奏でる。
音楽室にピアノの音色が響き渡っていく。
「ピアノ弾けるのね」
「音楽室の幽霊を描くにあたり、リアリティを体感するために教室に通いました」
「そこまでするのかよ……」
「我に頼めば奏でてやったのだが……。たしか原作内での条件はピアノでベートーヴェンの月光ソナタを弾くこと、もしくはラジカセで流すこと……だったな?」
「はい。そろそろ来るはずです」
私の隣に、ぼんやりと白い人影が浮かび上がってくる。
白い人影はピアノを弾いていた。私たちには目もくれず、ピアノを楽しそうな顔をして演奏している。この都市伝説ではバトルはない。
ただただ、彼女の思うままに演奏させてやればいいというだけのこと。
彼女はピアノが大好きな少女だった。音楽室を借りては、いつもピアノを弾いている。放課後に流れるピアノのメロディは先生方や部活動で残る生徒を魅了していた。
だがしかし、少女に不幸が訪れる。実家の事業が失敗し、少女は家族に無理やり心中に巻き込まれてしまった。彼女の無念はピアノだった。ピアノをもっと弾きたい、もっと人に聞いてほしいという願いから、彼女は怪異となった。
「平和ね」
「あぁ。とても美しい音色だ……。繊細であり、とても優美。この演奏はすさまじい」
月光ソナタ 第一楽章の演奏が終わる。
少女の幽霊は立ち上がり、こちらににこっと笑いかけてきた。
「アリガ……トウ」
彼女は笑い、そして消えていく。
音楽室の幽霊はこれでクリアである。
「さ、次は……校庭ですね」
「お前は情緒というものがないのか?」
「情緒?」
「せっかくバックボーンとか思い出して感動に浸っていたのに……」
「あぁ~」
しろんちゅがピアノの椅子に座る。
しろんちゅも再び月光を奏で始めた。プロの作曲者であるしろんちゅは、さすがというべきかピアノの演奏がとても上手だった。
世界に没頭するかのように、ただただひたすらに鍵盤をたたいていく。
「我も……貴様らも。すさまじい才能を持っている。この少女もまた同じ……。だがしかし、不幸は平等にやってくる」
「そうね……。気を引き締めていかないと」
「だな。せめて早く治して俺も復帰していかねーとな」
ずいぶんと皆が感傷的である。
しろんちゅが奏で終わり、皆が重い腰を上げていた。次は校庭である。校庭の桜の木の下に怪異、そしてプールに怪異がいる。
先ほどの演奏でタイム的にはだいぶロスだろう。巻き返すには二手に分かれてやるほうが効率的だ。
「よし、じゃ、ロスした時間を埋めるわよ! 原作で言うと、桜の木の下はそこまで問題になんないわ! 桜の木の下はタイタン、しろんちゅに任せる。私たちはプールよ!」
「了解です」
プールに潜む霊。
あの回は大体の人がトラウマという声を上げていた記憶があった。たしか、本当に死体を出したはずだ、そのプールに潜む霊では。
「……プールの霊、やりたくないわね」
「ははっ。大丈夫ですよ」
「だいぶグロテスクじゃないその回……」
「七不思議ということで一つは怖いの入れたほうがいいと編集の方に言われまして。その回はバトルでもなくホラーに徹しました」
音楽室ではちょっぴり感動、花子さんは怪異とのバトル、人体模型は面白おかしく描いた。となると、マジのホラーでやってみようと言われた。
だからトラウマになるレベルで容赦なく描いたのだが、OKもらえてビビった記憶がある。
「まぁ、強敵には違いないので心していきましょう」
「えぇ……」




