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第14.5話 罰ゲーム

 新学期のレクリエーションで罰ゲームが決まったまゆおと真一と結衣は、食堂の後片付けをすることになっていた。


 夕食後、まゆおたちは暁の指導の下で食堂の清掃を始める。


「俺が手伝うのは、今日だけだからな! 明日からは3人でうまく分担して進めてくれよ!」


 清掃を終えると暁はまゆおたちの前に立ち、微笑みながらそう言った。


「分担……」


 真一はそう言って不満そうな表情をする。


 分け合うことに、真一君はあまり積極的なイメージがないかもしれないな――


 まゆおはそう思い、


「分担した方がきっと早く終わると思うし、力を合わせて頑張ろう?」


 真一にそう言った。


 しかし真一は、そんなまゆおから無言で顔をそらす。


 真一君って、僕のことを嫌っているのかな。もしそうだとしたら、明日からの1か月間はなんだか気が重いよ――


「はあ」


 まゆおは肩を落とし、大きなため息を吐いた。


「まゆお殿、真一殿も。がんばりましょう! これを乗り超えた先に、きっとまだ見ぬ何かが待っているに違いないですぞ!」


 結衣は、場の空気を明るくしようと前向きな言葉をまゆおと真一にかける。


「わかった」


 真一は小さい声で結衣にそう返した。


 僕もあまり重い気持ちでいたらダメだよね。結衣ちゃんにも迷惑になっちゃうから、僕はとりあえずいつも通りの僕でいよう――


 そう思ったまゆおは小さく頷き、食堂の清掃を始めた。


 それから数分後、まゆおたちは初日の罰ゲームを無事に終えたのだった。




 ――翌日の夕飯後。


 まゆおたちは再び食堂の清掃をする時間となった。


「えっと、分担はどうする?」


 真一はまゆおの問いに耳を傾けることもなく、一人で掃除を始めた。


 そんな真一を見たまゆおが結衣の方を見ると、結衣は苦笑いをして頷く。


 まあ、今日は仕方がないか――


 そしてまゆおたちは昨日と同じ作業を行なうことになった。


 しかし、翌日も翌々日も同じことが続き――またその翌日、真一はこの日もまた先に一人で掃除を始めた。


 今日こそは、ちゃんと分担して掃除をしてもらうんだ――


 そう思ったまゆおは、黙々と掃除を進める真一の前に立った。


「ねえ、真一君。先生は分担して清掃をすることって言ったよね? どうして一人で先に始めちゃうのかな?」


 まゆおがそう問うと、


「だって、話し合う時間が無駄じゃん。早くやって、早く終わったほうが効率的でしょ。ちゃんとやれば、問題はないはずだよね。いちいち分担してとか力を合わせてとか、意味わかんないし」


 真一は呆れながらそう答えた。


 言っていることに間違いはない。だけど、君のその考え方を僕は理解できないよ――


 まゆおは両手の拳を握りながら、そう思っていた。


「もしかして、真一君は一人で何でもできると思ってるの?」


 まゆおは真剣な顔で真一にそう言うと、


「まあね。いざというときに自分の人生を決めるのはいつだって自分自身だ。何かあった時、自分一人で選択をしなくちゃならない。

 人間は結局、孤独な生き物なんだよ。だから誰かに頼りきって、一人で生きていけないなんて、ダサいと思わない?」


 真一は冷めた瞳でまゆおにそう告げた。


「僕はそう思わない――人と人は支えあって生きていくものだ! 誰かと生きていくことはダサくなんかないよ!!」


 まゆおは語気を強めてそう言った。


「ふうん。まゆおはそう思うってだけの話でしょ。自分の価値観を押し付けるのはやめてほしいな。僕は僕の考えを曲げない。だって僕は、ずっと一人で生きてきたんだから」


 そう言って真一君は掃除に戻った。


 価値観を押し付けてなんか――


 それからまゆおは掃除をする真一を見つめ、


「真一君。僕は、君がわからないよ……」


 そう呟いたのだった。




 ――清掃後。


 まゆおは悶々とした気持ちを頂いたまま、自室に向かっていた。


 真一君の考えが僕にはわからない。それにあの言い方じゃ、まるで誰も必要としていないような感じだった。真一君にとって、ここの施設の生徒は仲間じゃないってことなのかな――


「はあ」


 いくら考えても出ない答えに、まゆおは大きなため息を吐く。


「どうしたんですか、まゆお君?」


 まゆおがその声の方に顔を向けると、共同スペースのソファに座る狂司の姿があった。


「狂司君……」


 まゆおの声を聞いた狂司は、首を傾げた。


「なんだか、お疲れのようですけど……。お掃除をしていて、何かありました?」


 狂司君は察しが良いというか、よく見ているというか。本当にすごいなって僕はつくづく思うよ――


「ははは……実はね、ちょっと真一君といろいろあってね」


 まゆおが苦笑いをしてそう返すと、


「そうですか。まあ何があったかは深く追求しないでおきます」


 狂司はそう言って微笑んだ。


 小学生なのに、こういう気遣いができるところは本当に学ぶべきところだよね――


 そう思いながら、感心するまゆお。


「ああでも、真一君はミステリアスなところがあって、つかみどころがない感じがしますよね」

「ミステリアス……?」

「え、違いますか?」


 そう言ってきょとんとした顔をする狂司。


 言われてみれば、不思議な雰囲気かもしれない。みんなとは少し違う独特な空気感みたいな。なんだか、僕はちっぽけなことで悶々としていたのかもしれない――


「ははは! うん。確かに、そうかも!」


 そう言ってすっきりとした顔をして笑うまゆお。


「え……今、笑うところなんてありました?」


 狂司は首を傾げてそう言った。


「あのね。さっきまで真一君のことで悶々としていたんだけど、でもミステリアスって聞いたら、なんだかすごく納得しちゃって!」

「は、はあ」


 困り顔をする狂司を横目に、まゆおはまた笑っていた。


 真一君を無理に理解しようとしなくてもいいんだ。彼は彼の考え方があるし、僕は僕の考え方がある。

 そして真一君はミステリアスなんだ。だからわからなくても仕方がないことなんだよ――


「ありがとう、狂司君。なんだかスッキリしたよ!」


 まゆおがそう言って微笑むと、


「よくわからないですけど、気分が晴れたならよかったです!」


 狂司もそう言って笑った。


「そうだ。なんで僕に何かあったってわかったの?」


 まゆおがそう問うと、狂司は遠くの方を見ながら、


「僕の兄も何かあると、似たような顔をしていたんですよ」


 悲し気な声でそう言った。


「そう、だったんだね」


 そんな狂司を見たまゆおは、離れ離れに暮らす兄のことを思い出して寂しく思っていたのだろうか、と思っていた。


 ここにいる間は、僕が狂司君のお兄さん代わりになろう。そうしたら、狂司君のさみしさが少しでも紛れるんじゃないのかな――


「では、僕はこれで。おやすみなさい」


 そう言って狂司は自室へ向かった。


「おやすみ!」


 それからまゆおは、狂司が部屋に戻るのを確認してから、自室に戻ったのだった。




 ――翌日の夕食後。


 この日もまた真一は一人で掃除を進めていた。


 しかし、この日のまゆおはそんな真一を見ても、突っかかることはしなかった。


 彼は彼の考えがあって行動をしている。理解をしようとなんてしなくてもいいんんだから――と。


 昨日と様子が違うまゆおに、真一は不思議そうな顔をしていた。そして何かを察した真一は、そんなまゆおを気にせずに掃除を再開したのだった。


 今回はわからなくてもいいって結論に至ったけれど、でもいつか真一君の思いや考えがわかるときがきたらいいな。そんな日はいつになるのかはわからないけどね――!


 そしてまゆおたちは、無事に罰ゲーム期間を終えたのだった。

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