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第6話―⑨ 信じることの難しさ

 ――観測ルームにて。


「所長!! キリヤが!!」


 暁は勢いよく扉を開けて、そう叫んだ。


 しまった。所長がいるかどうかわからないのに――


 そう思いながら暁は観測ルームの中をぐるりと見渡すと、驚いた顔をする所長の姿があった。


「暁君! 私達も今さっき、脳波を確認したよ。良かったな。ほんとに……」


 そう言って所長は安堵の表情を浮かべた。


「はい」


 そう言って暁は目に涙を浮かべながら笑った。


「でも、目を覚ましたキリヤ君を一人残してきたのかい?」

「あ……」

「まあ、そういう考えなしで動いてしまうところは君らしいけどね!」

「あ、ははは」


 たぶん、褒められているわけじゃないんだろうな――


 そう思いながら、暁は頭の後ろを掻いた。


「じゃあキリヤ君のところへ行こう」

「はい!!」


 それから暁は所長ともにキリヤの個室に向かったのだった。




 ――キリヤの個室。


「うん。ひとまずは安心だな」


 そう言って、所長は安堵の表情を浮かべた。


「よかった……」


 暁がそう言ってほっと胸を撫で下ろしていると、キリヤはそんな暁を見て嬉しそうに笑っていた。


「それじゃあ、他に異常がないかを確認するために検査をしようかキリヤ君」

「はい!」


 そしてその後の検査で、キリヤの身体は特に異常もなく、完全に心の修復が終わっていることが確認できたのだった。


「うん、キリヤ君の心は完全に修復しているね。これは暁君に続く、奇跡だよ……キリヤ君も暁君と同じように、自分の力で心を取り戻した。これは本当にすごいことだ!」

 

 所長はその結果を自分のことのように喜んでいた。


 所長が嬉しそうにそう言ってくれると、なんだか俺も嬉しいな――


 暁はそう思いながら、微笑んだ。


「――キリヤは本当にすごいやつです。今回のこの経験から、キリヤはきっとこれからいろんな困難に立ち向かっていけるはずですよ」


 暁が真剣な顔でそう言うと、


「そうだね。キリヤ君のこれからの成長が楽しみだな! それと、暁君。キリヤ君の頑張りは、君にもきっと良い影響を与えてくれると思う。だから私は――暁君のこれからの成長も楽しみだよ」


 そう言いながら、所長は微笑んだ。


「はい、ありがとうございます」


 暁は頬を掻きながら、照れくさそうな顔でそう言った。


「ああ、そうだ。無事に目覚めたとはいえ、しばらくは大事を取ってキリヤ君はこちらで預かることにするよ。今後の研究のためにデータを取っておきたいからね」


 そっか。暴走後に目覚めた人間って、俺とキリヤくらいだからな――


 暁は「研究のため」と言う言葉に、少々不安を抱きつつも、


「わかりました。キリヤのこと、宜しくお願いします」


 暁はそう言って頭を下げた。


「任せてくれ! たぶん数日で戻れると思うから、心配はしなくても大丈夫だからね」

「はい。じゃあ、俺はこれで――」


 それから所長は急に何かをひらめいた顔をして、


「そうだ。暁君もついでに検査を受けて行きなさい。君も今回は無理をしたんだろう?」


 歩き出そうとした暁をそう言って引き留めた。


「あ、でも――生徒たちも心配して待っているだろうし。なるべく早く戻りたいんですが」


 奏多に施設のことは任せっきりだし、マリアもきっとキリヤのことを心配しているだろうしな――


 暁がそう思いながら、困った顔をしていると、


「そんなに時間は取らせないさ。それにもうすぐ定期検診だろう? ああ、そうだ! ついでにできるところまで済ませてしまおうか。その方が効率的だろう?」


 所長はまくし立てるようにそう言った。


 あ、あれ? 時間は取らせないって言っていましたよね、所長――!?


 それから暁は所長に言われるがまま、渋々検査を行うことになった。


 でも次回の検査時間が短縮できるのであれば、今回少しでもできるところまで検査をするのはありかもしれないな――


 検査中、暁はそんなことを思いつつ過ごしていた。


 そして検査を終えた暁は、無事にその日のうちに施設に戻ることができたのだった。


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