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第6話ー② 信じることの難しさ

 ――教室にて。


 午後の授業が始まり、暁は教室にある自分の席でぼーっと先ほどのことを考えていた。


「――センセー。ねえ、センセー聞いてる? おーい!!」

「うわぁ! ――ってどうしたんだ、いろは?」


 目の前で仁王立ちをするいろはの登場に、暁は驚き、身体をそらした。


「なーんか難しい顔してたから、何考えてるのかなって思って!」

「そ、そうか!?」

「うん!」


 完全に無意識だったな。いろはに指摘されなければ、俺はずっと難しい顔をしていたかもしれない。今は授業中なんだから、俺も職務に集中しないと――


「あー、悪い。気が付かなかったよ。ありがとな、いろは。そういえば、ノルマは終わったのか?」

「あは☆」

「あはって……。まあまだ時間もあるし、無理のない範囲で頑張れよ」

「ういー」


 そう言っていろはは自席に戻り、再びタブレットに向かった。


 それにしても……俺はちょっとキリヤたちのことを気にし過ぎだろ。このままじゃ、教師としてどうかと思う――!


 それから淡々とノルマをこなすキリヤにちらりと視線を向ける暁。


 でも気になるものは仕方ない、よな――


「はあ」


 暁はそんな大きなため息をつき、窓の外を眺めたのだった。




 授業を終えた暁は職員室に戻り、報告書をまとめていた。


「えっと……こんな感じ、かな? よし……できた」


 報告書を終えた暁は、その場から立ち上がろうと机に手をつく。


 するとそこに積んであった書類の山に手が当たり、それはゆっくりと崩れて、床に広がって落ちたのだった。


「ああ、しまった」


 ちゃんと整頓しておかないと、俺も手が掛かるとマリアに言われてしまいそうだ――


 そして片付けようと暁が床に広がった書類に目を遣ると、そこには施設に来る前に渡された個人データの記載されている書類があったのだった。


「これって……」


 暁はその資料を拾い上げた。


「今まで参考にしてこなかったけど、少しくらいは目を通してみようかな」


 もしかしたらキリヤのことを少しはわかるかもしれない――


 そんな考えが暁の頭をよぎる。


 施設に来る時の車中で、1枚目の個人能力データと簡単なプロフィールのみに目を通していた暁だったが、過去のデータは一度も目を通していなかった。


「正しいデータかどうかはわからないけど、少しくらいは参考になるかもしれない」


 そして暁はキリヤの個人データの記載された書類を読み始める。




【生徒氏名】

 桑島 キリヤ 


【過去データ 詳細情報】

 小学4年生で『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』に目覚める。

 危険度S級クラスと診断され、その後に専用施設へ収容された。


 家族構成は父、母、キリヤ、マリアの4人家族。両親は再婚で父親との血のつながりはなく、兄妹仲は良好。

 なお、妹のマリアも同時期に施設へ収容となった。詳しくは別紙参照。


 桑島キリヤの能力覚醒のきっかけは、義父が妹マリアに対し、みだらな行為に及んでいるところを目撃し、逆上したことで感情が昂ぶったことが原因とみられる。

 この事件で義父は大けがを負い、病院へ搬送された。能力覚醒による事件だったため、桑島キリヤは罪には問われなかったが、要危険人物として専用施設に即連行となった。

 そして義父の行為は、桑島マリアの能力『フェロモン』によるものだったと事件後に証明された。




「そんなことが……」


 キリヤたちの過去を知った暁は驚愕し、目を見張っていた。


 義理の父親の裏切り行為が、今のキリヤの性格をつくったのか――?


 その過去を知り、キリヤの行動にも納得がいく暁。


 しかし、たった一度のことであれほどまでに殺意を向けるようになるのだろうか。とふと暁は疑問を抱いた。


 初日のレクリエーション時のキリヤを思い出す暁。


 殺意のこもった氷の刃。常人であれば、軽いけがでは済まないことをキリヤもわかっていたはずだ――


「ここに記述してある出来事も十分な理由だとは思うけれど、きっとこれだけじゃないよな」


 じゃあその他の要因って一体何なんだ――?


 そう思った暁は他の要因についての記述がないかと資料を読み漁ったが、そこには施設に収容後の記述は一切載っていなかった。


「はあ。この先のことは、結局何もわからずじまいか……」


 暁はため息交じりにそう言って、天を仰いだ。


「マリアもキリヤもきっと辛かっただろうな」


 もしかしたらキリヤは、マリアを守りたかっただけなのに、なぜ父親ではなく、自分たちが自由を奪われなくちゃいけないのかって思ったのかもしれない――


「キリヤがここに来たのは8年前、か。俺がここからいなくなって少し経ったくらいだな。……俺が暴走をしなかったら、俺たちはここで出会っていた可能性があるわけか」


 そうしたら、もっと仲良くなれていたかもしれない……いや。もしそうだとしたら、たぶん俺たちは出会うことなんてなかったかもしれない――

 

 そして暁は、それ以上データに目を通すことを止めたのだった。


「さて、もうすぐ夕食の時間か……それまでにここをなんとかしないとな」


 暁はそう言ってから床に散らばったその他の書類に目を向け、ため息を吐いた。


 それから暁は夕食の時間まで、その書類の整理整頓をすることになったのだった。


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