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第6話―① 信じることの難しさ

 結衣主催のアニメ上映会から、数週間が経った。


 あれからも時々上映会が行われ、暁はそのたびに新しい気づきや絆が深まっていくのを感じていた。


 そして暁はもともとアニメ好きの結衣とはもちろん、結衣と行動を共にすることの多いマリアとも少しずつ打ち解けていったのだった。


 そんなある日の昼食時間のこと。暁は結衣とマリアと共に食事を楽しんでいた。


「先生、今日もから揚げばっかり食べているの?」


 暁の皿を見たマリアは呆れた顔でそう言った。


「いやあ。だってここのから揚げっておいしいだろう? 外はカリッとしてて、中はジューシー。レモン汁をかけると、食欲がそそられてさ!」


 熱弁する暁にマリアはやれやれと言った顔をしながら、


「から揚げもいいけど、バランスよく食べないと体に悪いよ。ほら、先生のサラダ持ってきたから」


 そう言って野菜の盛り付けられた皿を暁の前に置いた。


「ありがと、マリア! 本当にマリアは気が利くな」

「そ、そんなこと……」


 そう言って恥ずかしそうに頬を赤らめるマリア。


 そんなマリアを見て、こんな表情もできる子なんだな――と新しいマリアの発見に暁は嬉しく思っていた。


 マリアは自分の能力を気にして、普段は男子には近づかないようにしているが、『無効化』がある暁にだけは普通に接するようになっていた。



「ふふふ……マリアちゃんはあのキリヤ君の妹ですからねぇ! 気が利くだけじゃなくて、美人で頭も良くて、すごく優しいんです! 完璧です!! パーフェクトです!!」


「結衣! 照れるから、そういうのやめてよ! 私はただ、先生も放って置くと、キリヤみたいに偏食になるから、心配なだけで!!」



 マリアは顔を真っ赤にして、結衣に向かってそう言った。


「ははっ。そうか。マリア、心配してくれてありがとな」


 暁はそう言って、マリアに微笑みかける。


「う、うん……」


 マリアは恥ずかしそうな顔をして、小さな声でそう言った。


 でもキリヤが偏食、か――


 暁の目にはキリヤがしっかり者に見えていたため、そんな癖があることを知り、驚いていたのだった。


 そして、普段からマリアに気にかけてもらっているキリヤは、きっと幸せ者なんだろうな――とマリアの話を聞きながら、暁はそう思っていた。


 それからもマリアは暁にキリヤの話を続ける。


「――放っておくと部屋の掃除もしないの。キリヤの部屋はちょっとごちゃごちゃしているから、しばらく掃除を忘れると大変」


 マリアは困った風に言いながらも、楽しそうにキリヤの話をしていた。


 こうやって俺は、キリヤの知らないところでキリヤに詳しくなっていくんだな――


 そんなことを思いながら、暁は楽しくマリアの話を聞いていた。


「そういえば、キリヤ君は今日も自室でご飯ですか?」


 結衣がそう言って首を傾げると、


「そう。だからあとで持っていかなくちゃいけない」


 マリアはそう言って困った顔で笑いながら頷く。


 そういえば、キリヤとは一度も食堂で顔を合わせたことがなかったな――


「キリヤもみんなと一緒に食べればいいのにな。その方が絶対楽しいのに……」


 暁がそう呟くと、


「先生が施設に来るまではここで一緒に食べていたんだけどね……先生と会いたくないみたいで、食堂に来なくなったの」


 マリアは申し訳なさそうな顔でそう言った。


「え!? キリヤが食堂に来ないのって俺のせいなのか!?」

「まあ、キリヤ君にもいろいろありますからね」


 結衣はウインナーを頬張りながら、そう言った。


 俺はキリヤに嫌われているとは思っていたけど、そこまでだったとは――


 そう思いながら、ため息を吐く暁。


 でもそんなに嫌われるほど、キリヤに何かをしただろうか――?


 暁はそんなことを思いながら、これまでのことを振り返り、初めてあった日のことを思い出した。


 初めて会った時から、他の生徒たちに比べて視線が冷たいなとは思ってはいたけれど……でも、俺って何かしたか――?


 そして教室に入った時のドラマを観て憧れていた自己紹介をしたことが間違いだったのではないか、と思い、後悔する暁。


「やっぱり初日の印象が悪かったかな……」


 そう言って肩を落とす暁に、


「そういうわけじゃない。キリヤがああいう性格になったのは、きっと私のせいだから、先生が気にすることはない」


 マリアは悲しそうな顔をしてそう言いながら箸を止めた。


「マリアのせい?」

「うん……」


 そう言ってマリアは俯いたままだった。


 そんなマリアを見た暁は、おそらくキリヤの過去のことと何か関りがあるんだろうと思い、それ以上マリアに言及することはなかった。


 たぶんその話は今聞くべきことではなくて、その時が来たら、マリアからきっと話してくれるだろう――


 それから暁が話題を変えると、マリアは笑顔を取り戻し、再び楽しい昼食時間となったのだった。


 その後、食事を終えたマリアはバランスの良い食事をとり分け、食堂を出て行った。


 兄のためにそこまでできるマリアは本当にできた妹だな――と暁は感心しながら、マリアの出て行った方を見つめていた。


 そして食事を終えた暁は、授業の準備のために職員室に向かったのだった。




 ――職員室にて。


 暁は授業の準備をしながら、昼食時にマリアの言った言葉について考えていた。


「あの時のマリア、悲しそうな顔をしていたな。キリヤとマリアの過去に何があったんだろう」


 マリアは自分のせいだって言っていたけれど、それってどういう意味なんだ――?


「……俺って、あの2人のことを何も知らないんだな」


 悶々とそんなことを考えながら、暁は授業のために教室へと向かったのだった。


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