25、何度目の告白
菜摘視点です。
ヒロからはっきり幼馴染としての『大好き』宣言されて、自分との気持ちの違いに少なからずショックを受けた。
昔にした約束をヒロも覚えてくれて嬉しかったけど、それ以上に変えられない幼馴染という関係に悲しくなってくる。
私はちらっとヒロを横目に見ながらため息をついた。
『俺たちは誰よりも特別だ。ずっと一緒にいような、約束!』
小学校3年ぐらいだっただろうか…
あの頃の私は周りからヒロと一緒にいることが変だとからかわれて、ヒロと少し距離をとっていた。
そんなとき―――ヒロにお互い大事になのに離れる方がおかしいと、二人で約束を交わした。
この約束があったから、私はその後も続いた周囲からのからかいを聞き流せるようになったと言ってもいい。
それなのに、今となってはこの約束が関係を変えられない楔のようで、心の底から喜べない自分に嫌になる。
嬉しいのに、悲しいなんて…
どうしたらいいのか分からない…
私は顔を歪めると再度ため息をついて、もやもやする気持ちを抑え込んだのだった。
***
「なんか昼休みから元気ねーな?」
放課後―――文化祭に向けてのクラス会の最中、私がぼやっとしていると、元樹がいつの間にか隣の席に座っていた。
「うぅん…――――そうかな?」
「なんか悩み事でもあんのか?」
私がいつもより低めの声で返すと、元樹は首を傾げながら椅子ごと身体を寄せてくる。
いつにも増してグイグイくる姿に、ふと疑問に思っていたことが口から飛び出した。
「元樹は…、どうして私なんかのこと…ずっと中学の頃から変わらず想ってくれるの?」
「―――は?急にどうした?」
あまりにも唐突だったためか、元樹は目を丸くさせて私を見つめてきた。
「え…、それは―――私わりと何回もバッサリ断ってるのに…。全然変わらないから…。そのバイタリティーってどこからくるんだろうって思って…。」
私はヒロからただ幼馴染宣言されただけで、心が折れそうになりかけていたので、今までの元樹を思い返して自分との違いに不思議だった。
普通だったら、振り向きもしない女なんてとっくの昔に諦めてるだろう…
「う~ん…、なんて言ったらいいかな…。俺の場合、菜摘がすんごい好きってことプラス、現状が今までで一番幸せってのもあるかな~。」
「今が一番…?」
元樹はいつのことを思い返しているのか、ふっと自虐的に微笑むと言った。
「菜摘と話す事すらできなかった長ーい期間を思うと、菜摘の傍にいられて…俺の気持ちを何回でも伝えられる今が夢みたいだってこと。」
「……話す事すらできなかったって…?」
私が元樹の言ってる時間が分からず尋ねると、元樹はにひっと笑った。
「菜摘、俺が菜摘に恋したのいつだったか分かる?」
「いつって…初めて告白してくれたの中学二年のとき…だよね?」
「そうだけど、菜摘のこと好きになったのはもっとずっと昔のことなんだよな~。」
「え!?」
今までずっと一緒にいたけど初めて聞く話に驚く。
「俺が菜摘の事…意識し始めたのは小学校の3年ぐらいだったと思う。菜摘と話したくて仕方なかったんだけど、いっつも菜摘の隣には大翔がいたからさ~。近づけなくてずっとイライラしてた。」
「………そう、だったんだ…。」
私は事あるごとに私とヒロに絡んできていた元樹の姿を思い出した。
そういえば、いっつもヒロと一緒にいることに口出ししてきたのは元樹だった気がする…
基本ヒロと言い争ってて私とはどこか距離があったから、この記憶が正しいかどうか分からないけど…
「あの頃は大翔との間に割り込めない自分が嫌いで、悔しくて…。変わりたいってずっと思ってた。」
あの頃の元樹がまさかそんなことを思ってたなんて思わず、私は幼い元樹を思い出して複雑だった。
「だから大翔がいなくなって、俺にもチャンスが巡ってきたって思ったんだ。ま、大翔がいなくなっても臆病な俺だったから、告うまで一年以上かかっちまったけど。」
元樹はここでスッと瞳を真剣なものに変えると、まっすぐ私を見て言った。
「菜摘、今も昔もずっと好きだよ。俺の中でこの気持ちが消えない限り、菜摘のこと諦めたりなんかしねぇから。」
!!!!
いつも以上にストレートに気持ちをぶつけてくる元樹に、私は少なからず心が揺さぶられた。
そして真剣だからこそ、今までのようにあしらうのはダメだと思い、元樹には自分の今の気持ちをきちんと伝えようと思った。
「ごめん…。元樹。私、元樹の気持ちには応えられない…。」
「――――分かってるよ。いつも通り、恋愛はしねぇんだろ?」
元樹は表情をいつものおちゃらけたものに戻すと、私から視線を逸らした。
私はその横顔に一瞬言うのを躊躇ったけど、一呼吸おいてからはっきり告げた。
「違うの。私…、ヒロのことが好きなんだ…。」
「――――――――……………は?」
元樹の今までにないぐらい驚いている瞳が私を貫いてくる。
私はその瞳から目を逸らすと、口にする勇気が消えないように早口で続けた。
「ヒロが帰ってきて…一緒にいるようになって気づいたの…。私はヒロが一番大事で、ずっと一緒にいたい…。本当に好きな人なんだって…。元樹はいつも一番に私のこと想ってくれてたから、ちゃんと伝えなきゃと思って…。本当にごめ―――」
「それって大翔と付き合うってことか?」
私がきちんと断ろうとした言葉を遮って元樹が訊いてきて、私は信じられないという表情を浮かべる元樹に首を横に振った。
「ううん。ヒロは私のこと、幼馴染としか見てないから…私の一方的な気持ちだよ。私がさっき元樹に聞いたのも、私がヒロにずっと幼馴染宣言されて落ち込んでたから…。元樹はどうして私なんかと一緒にいられたのか不思議に思って…。こんな小っちゃな悩みで恥ずかしいんだけど…。」
「そんなことねぇよ!誰だって好きな奴の事で悩むし落ち込むもんだよ!―――っつーか、大翔と付き合わねぇなら今回こそ俺だろ!!」
「え?」
元樹は急に声を張り上げるほど元気になると、私の両手をガシッと掴んできた。
「俺だったら菜摘を悲しい気持ちになんかさせねぇ!!菜摘の隣にいて今よりずっと幸せにする!!俺には菜摘が必要なんだ。絶対後悔はさせねぇから…菜摘!!付き合おう!!」
プロポーズのような熱い告白を盛大な大声でぶちかまし、私はしんと静まり返った教室で一番に笑みを漏らした。
「……ふっ、元樹…。声大き過ぎ…。」
「え?あ、あぁ…そんなことどうでもいいよ!!返事は!?」
周囲の目など気にした様子もない元樹にさっきまで悩んでいた自分がバカらしくなって、ヒロとのことがどこかへ吹き飛んでしまった。
そしてまっすぐ真剣な元樹を見て、以前も感じた気持ちがじわと蘇ってきた。
温かくて心を擽られるドキドキした気持ち
これがどういう感情からくるものか、今はまだ分からない
でも、汗ばんできた元樹の手の熱さを感じて、この気持ちの正体が知りたいと思ってしまった。
「元樹…。私、まだちゃんと元樹のこと好きじゃないんだよ?」
「いいよ!!これからぜってー好きにさせてみせるから!!」
その自信どこからくるの…
私はさっきまで落ち込んでたことが嘘のように笑いが止まらなくて、なんとか笑いを収めると期待に満ちた元樹を見つめ返した。
一回、信じてみようかな…
私は中学の告白の時と同じ顔をした元樹に、気持ちが緩んだ。
「分かった。私が元樹のこと好きになるまでは、(仮)彼女でいいならいいよ。」
私の返答に元樹の瞳が輝く。
「いいよ!!仮でもなんでも付き合えるなら!!いよっしゃぁーーーーっ!!!!」
元樹は掴んでいた手を引っ張りあげると思いっきり私を抱きしめてきて、私は驚いて数秒間固まったあと思いっきり元樹を押し返した。
そのとき初めて周囲からの拍手と囃し立てる声が耳に入って、教室だということに恥ずかしくて穴があったら入りたくなったのだった。




