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隣の想い人  作者: 流音
25/26

24、決意

ヒロ視点です。




「ほんっとバカじゃないの?」


むわっとした暑さの立ちこめる昼間の屋上で、項垂れる俺を前に明日香が飽きれた様に追い討ちをかけてくる。


「うるっさいな。そんなの俺が一番分かってるっつーの!!」


俺はぐしゃぐしゃと頭を掻きむしると、その手を握りしめ膝に叩きつけた。


「まさか俺の言った事が本当だったなんて思わねぇだろ!?お前もなんで今まで黙ってたんだよ!」


俺が怒鳴りつけると、明日香はグッと口を引き結んでから罰が悪そうに視線を逸らす。

そして諦めたようにはーっと息を吐くと、俺に目を戻して言った。


「―――今まで誰にも言ったことないこと、そんなにすぐ打ち明けられるわけないでしょ?花崎君なら気持ち分かると思うんだけど。」

「――――!!」


それを言われてしまうと言い返す事なんかできない。

俺はフェンスにもたれかかると頭をガシガシと掻いた。


「なぁ、元樹のこと…いつからそうなんだよ?」


「―――………中学のとき…」


明日香は口にするのを少し躊躇っているようだったけど、視線を落とすとゆっくりと話し始めた。


「私、こんな見た目だから…周りから遊んでるって思われること多くて…。男子からそういう目的で告白されることが多かったの。」

「あー…。」


俺は中学のときの周囲の話を思い出して納得した。


そういえばそんな話題が出てたっけな…


「初めて告白されたときは、男子がそういう気持ちから告白してきたなんて知らなかったから…嬉しかったのもあって付き合ってたんだけど…。なんか…私の思う彼氏彼女とは違うなって…何人かと付き合って別れてを繰り返してたら…、女の子たちが影で私のことビッチだって言ってるの聞いちゃって…。」


思ってたよりも重い話に何も言えずに黙って聞いていたら、明日香がふっと顔を綻ばせた。


「そんなときなんだよね。小泉君が『表面ばっか見てるつまんねー奴』って…、私のこと庇ってくれたんだ。」


明日香はそのときのことを思い出しているのか嬉しそうに話すペースが変わる。


「私、それが嬉しくて。小泉君って裏表がないっていうか、何にでも正直で安心するんだよね。菜摘の事ずっと一途に好きなとこも小泉君らしくて――――」


明日香はここでしまったという顔になると、俺の顔を窺ってくる。


「いや、変に気遣うなよ。元樹がナツのこと好きなのは周知の事実だし。」

「あ、そうだよね。小泉君、中学の時から全然変わんなくて。きっと菜摘も小泉君に救われてる所あると思うんだよね。」

「?救われてるって?」


「あ、そっか…花崎君はいなかったときのことだから知らないんだ。」


明日香は一瞬間を空けてから思い出したように言った。

俺は何のことだか分からない。


「私も詳しい事はそこまで知らないんだけど…、菜摘。中学の時、わりと女子から疎まれてたみたいで…。」

「は!?なんで!?」


昔から明るく社交的なナツしか知らない俺は明日香の話が信じられない。


「私も人からの又聞きでしか知らないけど…、男子に人気があったっていうのが女子のやっかみを買ったみたいで…。菜摘、今もそうだけど恋愛に関して鈍いから…。」

「そんなんナツは何も悪くねぇじゃん!!」

「そうなんだけど。女子の嫉妬は本当に怖いの。私も経験あるから分かるけど…、花崎君がいなくなってから菜摘は相当辛かったと思う。」


「は!?」


意味の分からない醜い女子の話にイラついていたら、急に自分の名前が出てきて驚いた。

明日香はじっと俺を見つめて言う。


「花崎君が戻ってきた今だから分かるけど、菜摘って花崎君って存在に守られてたんだろうなって思う。」

「なんで俺?」

「そんなの一番近くにいたからに決まってるでしょ?花崎君、存在感あって目立つから…。菜摘の事、知らない内に影に隠してたんだと思う。あと、菜摘には花崎君がいるって暗黙の了解もあったかもしれないけど…。」


外から見た俺たちの話に、俺は複雑だった。

ナツと俺がセットだと思われてた事実は嬉しくもあり、それと同時に離れていた時間が苦しくもある。


俺がいればナツは悲しい思いをしなかったかもしれない…

今、こんなことを後悔しても仕方ないのだけど…


「だから花崎君の代わりにずっと傍を離れなかった小泉君の存在は、菜摘にとっても大きいと思う。あの仲の良さはちょっと嫉妬しちゃうけどね。」


明日香の言葉に、俺はいつも仲の良い二人を思い出して顔をしかめた。


ナツが元樹にあそこまで心を許してるのはこういう経緯があったからか…

くっそ…マジで元樹に勝てねぇ気がしてきた…


俺は再度頭を掻きむしると、首を振って大きく息を吐いた。


でも諦める理由にはならねぇ


一気に息を吸いこむと顔を上げて明日香を見据えた。


「二人のことはよく分かった。そんで明日香の本当の気持ちも。」


明日香は目を瞬かせながら俺をじっと見つめてくる。

俺はその目に決意を伝えようと、一呼吸おいてから告げた。


「俺は元樹に負けるわけにはいかねぇ。ナツの隣は俺のだから。これまで以上に遠慮なんかしないでガンガン行く。明日香はその間に元樹の気持ち変えちまえ。」


自分を奮い立たせるようにそう口にすると、明日香がふっと笑い出した。


「あははっ!なんか変に心強いんだけど。じゃあ、お言葉に甘えて私もガンガン行かせてもらおうかな。」

「おう。俺らだってやればできるってとこ見せてこーぜ。」


俺は拳を明日香に突出すと、明日香は笑みを浮かべながら「だね。」と拳を突き合わせてくれた。


こうして明日香との協力関係が結ばれ、俺は一人じゃないことに妙に心強く感じたのだった。








***







――――――――――




明日香と二人で教室へ戻ってくると窓際に絵のように並ぶ二人の姿が目に入ってきて、俺は息をのみ込んで足を止めてしまった。

俺の後ろで明日香も同じように固まるのを気配で感じる。


「いつもなんだかんだ仲良いよな~。」

「それな。二人とも見た目良いから目引くし、あーやってるとカップルみてぇ。」

「ははっ。それ元樹に言ったら跳んで跳ねて喜ぶぞ。」


教室の扉近くで屯っていたクラスメイトの話す声を聞いて、俺は否定できない光景に足が竦んだ。

それを見抜かれたのか、後ろから明日香に背中を叩かれる。

振り返ると明日香がムスッと眉間に皺を寄せて俺を睨んでいて、俺は一息吸い込むと背を押されるように足を二人に踏み出した。


遠慮しないって宣言してすぐ竦むなんて、相当臆病になってんな…


離れていた時間分、ナツに対する自信が喪失したままなので、気を強く持ちながらもドキドキしながら二人の間に割り込んだ。


「ナツ。何話してんだよ?」


「あ、ヒロ。明日香も。二人こそ内緒話は終わったの?」

「え―――?」


ナツからの思わぬ切り返しに言葉に詰まっていると、元樹がドヤ顔を浮かべた。


「最近仲良いよな~って話してたとこだったんだよ。休み時間になったら二人で消えるしさ。一体何してたんだか~。」

「は!?変な勘繰り入れんじゃねぇよ!明日香とはたまたま自販機で一緒になっただけだから。な!!」


俺が思いつく言い訳を明日香に向けると、驚いた顔で明日香が同意してくれた。

でも元樹の疑いは晴れてないようで、馴れ馴れしくナツに「怪しいよな~。」と耳打ちしている。

その光景にイラッとした俺は、ナツの腕を引っ張って自分に引き寄せた。

そして元樹との間に割り込む。


「え?」

「は?」

「お前が横に居たらナツに変なこと言うから交代。ナツはすぐ誤解すんだからな。」

「あんだと!?お前こそ、こっち帰ってきてからナツの隣独占し過ぎなんだよ!!お前さえいなけりゃなぁ――――」


「はーい、ストップ!!」


俺と元樹が言い争っていると、明日香が俺と元樹の間に割り込みながら言った。


「そろそろ顔を合わせたらケンカするのやめようよ。間に立たされた菜摘が困るでしょ?」


明日香に言われてナツを横目で覗き込むと、ナツは口を引き結んでじっと床を見つめていた。

その表情が緊張感に満ちていて、これが困ってる顔かと思っていたら明日香が続けた。


「二人共菜摘が大好きなのは分かるけど、好きな子困らせるのは本意じゃないでしょ?」

「―――――まぁ…。」

「そりゃそうだけどさ…。」


「だったら菜摘を挟んで揉めるのはナシ!!争うなら菜摘の目の届かない所でやってよね。」


明日香に取りまとめられて、俺は元樹と顔を突き合わせると渋々頷いた。

それを満足そうに見ていた明日香は話を文化祭のものへ切り替えてきて、俺はふっと息をついてから隣に目を向けた。


そこには目を丸くさせて俺を見つめるナツがいて、さっきと様子が違うことに問いかけた。


「ナツ、どうした?」

「え――――、えっと…。その、さっき…明日香が言ってたこと…否定しないんだ…と思って…驚いたっていうか…。」

「へ?明日香が言ってたって?」


「その…、私のこと…好きな子って…。」



――――――――!?!??!!



モジモジと照れながら言うナツの言葉に、ぐわっと顔に熱が集まり汗が噴きだす。


「そっ!!それは!!ま…―――前にも言っただろ!!ナツはずっと俺の大好きな幼馴染だから!!何も間違ってねぇだろ!?」


俺は前回の『大好き』告白を出して、誤解しやすいナツにちゃんと自分の気持ちを伝えておこうと一気に捲し立てた。


やっぱり前の告白はちゃんと受け止められてなかったんだな…

でも、これだけはっきり言っておけば、さすがのナツも少しは意識してくれるはず


俺はそう期待してナツの様子を横目で盗み見ると、ナツは照れながら「そっか…。」と複雑そうな表情を浮かべていた。

その表情にナツの気持ちが追いついていないことを察して、俺は掴んでいたナツの腕から手に移動させて手を握りしめた。


「ナツは今まで通りで大丈夫だから。何も気にしなくていいんだよ。俺ら、特別だし。」

「え?」


ナツは何のことか思い出せないようで、じっと俺を見つめて首を傾げた。

俺はそんなナツに微笑むと、過去のことを思い返して言った。


「昔、よくからかわれてたときに約束しただろ?俺たちは『誰よりも特別』だって。」


言葉にしたとき同じように思い返していたのかナツの声が被さってきて、ちゃんと覚えてくれていたことに嬉しくなる。


「そうだね…。ずっと一緒…だもんね?」

「おう。」


ナツからやっと笑みがこぼれて、俺は自分の一方的な気持ちを重く背負わせずに済んだことに安堵したのだった。















更新が滞っていて申し訳ありません。

少しずつ書き溜めて早めに更新していきますので、気長にお待ちいただければ嬉しいです。

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