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隣の想い人  作者: 流音
24/26

23、はっきりさせる

ナツ視点です。




遊園地から早々に帰ってきた日は、話をしたそうなヒロから離れるために自室へ閉じこもり、丸々一晩明日香の事を考え込んだ。


中学の頃の接点のなかった明日香のこと。

高校で友達になってからの明日香のこと。


そして自分の中にある明日香と元樹の関わりを分析して、ヒロの言葉の信憑性を自分なりに考えた。


明日香が元樹を好き。


そういう目で今までの明日香を思い返すと、明日香が元樹のことを特別視してただろう節目があるように思える。


今まで本当に一ミリも考えもしなかったから、自分の目は疑わしいけど…

明日香がよく話し、心を許した感じがする男子は元樹一人だけだ。


これはまだなんとなくの感じなので、それだけで結論付けてしまってはいけない…から―――

確たる事実だと決定付けるためには…


私はそこまで考え、ふと中学の時の友達間の会話を思い出した。


それは―――――明日香が元樹に猛アピールしてダメだったという話。

たくさんある話題の中の一つだったような曖昧な記憶なので、これも信憑性が薄いんだけど…


もし明日香が中学の時、元樹にフラれていたとしたら…


明日香の片思いの相手が元樹だと確定する。


前に明日香が自分で告白してダメだったと言っていたから…



これを確かめる方法は一つしかない。


明日香本人には聞けないので、元樹に聞く。




私はそう一晩考えに考え一つの道を導き出し、少し気持ちが楽になったときには、学校へ行く時間になってしまっていたのだった。





***





それから一刻も早く元樹に事実確認したかった私は、ヒロに捕まる前にといつもより早く家を出た。

そして駅へと向かいながら元樹に連絡をとろうとケータイを手にすると、ちょうど元樹からメッセージが来ているのに気が付いた。


『おはよ。一緒に学校行こうぜ。駅で待ってる。』


まるで私の気持ちを見透かしていたかのような連絡に『いいよ。』とすぐに返事を送ると、歩く速度を速める。


できるなら違っていて欲しい…

ただのヒロの思い違いならいい…


そうでなければ、私は今まで明日香になんてひどい仕打ちを強いてきたのか…

過去の自分を思い返しては居た堪れない気持ちになる…


私は大きく息を吸いこむと、複雑に渦巻く気持ちを抑え込んでまっすぐ前を見据えたのだった。




そしていつもよりも息を上げながら駅に着くと、改札前に元樹が空を見上げて立っていて、私は「元樹!」と呼びながら駆け寄った。


「おはよ!菜摘。―――って、なんかすげー息上がってねぇ?もしかして、待ってるとか言ったから走ってきてくれた?」

「え、あ、ううん。そうじゃなくて…、私が早く元樹に会いたかったから…。」

「へ―――!?」


瞳を大きく見開いて驚いている元樹を前に、私はもやもやする気持ちを吹き飛ばしたくて早々に本題を切り出した。


「あのね、元樹。元樹って――昔、明日香から…こう…、告白…的なことって言われたことある?」

「????急に何??」


元樹は更に目を丸くさせると首を傾げていて、私は早く答えて欲しかったので元樹を睨んだ。


「いいから!!言われたかどうかだけ教えてくれればいいの!」

「えぇ!?教えてって、なんでそんなこと…。」

「もう!変に焦らさなくていいから!!どうなの!?」


イライラしてギュッと手を握りしめながら急かすと、何やら元樹がニヤニヤ笑いを浮かべていて更に腹が立ってくる。


「え~、仕方ねぇなぁ~。何を気にしてんのか知らねぇけど、明日香から告白なんてされたことねぇよ?」

「え、本当!?」


期待していた答えが元樹の口から返ってきて、私は自然と肩の荷が下りる。


「こんなことで嘘ついてどうすんだよ。明日香から人として好きとは言われても、愛の告白なんて甘いものは一度だってないね。」

「そっか…。そうだよね…。明日香に限って元樹とかないよね…。」


私の不安要素をバシッと否定してもらったことで安心してしまい、私はつい正直に「良かった。」と呟いてしまった。

それを聞いていた元樹は何を勘違いしたのか急に私に身を寄せてきて、私は反射的に一歩後ずさった。


「何、元樹―――」

「いや、まさか菜摘が俺と明日香の関係に嫉妬してくれるとは思わなくて嬉しいっつーか…。予想外でこう押さえてた気持ちが――さ。」


………………??


「??嫉妬??って誰が誰に??」


「え?それは、菜摘が…明日香にさ…。遊園地で俺と明日香二人になったこと気にしてんだろ?それなら、何にもねぇから安心してくれれば―――」

「え―――、え!?!?ちょ、ちょっと待って!!なんで私が明日香に嫉妬しなきゃならないの!?」


あまりにも私の想像の斜め上をいく発言に混乱していたら、元樹は嬉しそうに笑いながら茶化してくる。


「照れるなよ、菜摘。俺だって一緒だったんだからさ。大翔と二人で消えられて、すげーイライラしてたんだけど、嫉妬丸出しもカッコ悪いって明日香に言われて今まで我慢してたんだからさ。いや~、まさか菜摘も同じだとは思わなくて、今日は朝から最高の気分だなぁ~。」


「ちょ、ちょっと待って元樹!!私はそんなつもりじゃ――――!!」


「ははっ、そんな焦って否定しなくても嫉妬ってのは恥ずかしいもんじゃねぇんだからさ。これは相手の事を大事に想ってれば普通に出てくる感情だから。」


元樹は否定する私の話なんか全く聞いていなくて、私はその現状にもやもやしてくる。


もう!!!

元樹はこうなったら人の話聞かないんだから!!


私は今までの経験から今は放って置くしかないと、納得いかない気持ちを抑え込んだ。

そして自分の世界に入り込みニヤニヤしている元樹を見て自然とため息をつきながら、学校に着いた頃にもう一回話をしようと心に決めたのだった。






***






そうして元樹に誤解させたまま学校までやってくると、私は上機嫌にクラスメイトと戯れ始める元樹を横目に再度どう切り出そうかと考えていた。


あの様子じゃまだ聞く耳持ってもらえなさそう…

もうちょっと時間空けなきゃダメかな…


とりあえず昼休みぐらいまで我慢しようかと考えていたら、ヒロと明日香が一緒に教室に入ってきて、私は真剣な表情をしている二人に目が向く。


何か大事な話…かな?


明日香が元樹の事が好きだなんて言い出したヒロに言いたいことがあったのだけど、二人の空気に割って入れないものを感じて様子だけ窺う。

するとヒロの目がこっちに向き、目が合うなりまずそうに表情が強張るのが見えた。

それにじとっと視線だけ向けていると、明日香に睨まれているヒロがゆっくりこっちに向かってきた。


「ナツ…、はよ。」

「おはよ。」


ヒロはかろうじて笑顔を浮かべているものの、どこかビクビクしていて、私は何か後ろめたいことでもあるのかと尋ねる。


「ヒロ、私に何かあるの?」

「へ!?何かって!?」

「??―――だって明らかに態度おかしいのに話しかけてくるから。」

「そ、それは――――」


ヒロは口ごもると助けを求めるかのように明日香をチラ見し出して、私も同じように明日香に目を向けると、明日香は笑顔でこっちに手を振ってから自分の席に座ってしまった。

それを見たヒロが何か覚悟を決めたように大きく息を吸いこんで、私に顔を寄せてきた。


「ナツ、昨日言ったことなんだけどさ…。」


ヒロは内緒話のように声をひそめてそう言って、私はヒロに言わなければならないことを思い出した。


「それ!!私もそのこと言いたかったんだけど!」

「へ?」

「ヒロ、何か変な勘違いしてない?明日香、元樹のこと何とも思ってないと思うんだけど。」

「え……??」


大きく目を見開いて戸惑うヒロに、私は今朝確かめたことを話す。


「私の昔の記憶を総動員して元樹にそれっぽいことを聞いたら、そんなことあり得ないって全否定されたんだから。」

「え!?元樹のやつに直接聞いたのか!?っていうか、どう聞き出したんだよ?」


「そんなの普通に明日香から告白されたことある?って聞いただけだけど。」

「ちょ―――、それ、ストレート過ぎんだろ…、デリケートな話なんだからもっとこう言い方あるだろ…?」

「デリケートって、私がどれだけ頭悩ませたと思ってるの?ヒロのせいで考え過ぎて夜寝られなかったんだから!!」

「いや…、俺も軽はずみに口にしちまったのは悪かったけど…。まさかそんな凶行に出るとは思わなかったっつーか…。」


ヒロが困ったように頭を抱え出したとき、私は腕を組んでこれだけは言っておこうと口を開いた。


「恋愛からほど遠い場所にいる私に、こういうこと言うのが間違ってるの!私に教えてくれるならちゃんと確信持ったものにしてよね。」


私は寝られなかったストレス分をすべてヒロに吐き出せて少しスッキリする。

ヒロはそんな私を見ながら小さくため息をつくと、何度か頷いてから口を開いた。


「だな…。とりあえず俺が悪かったよ…。今後ナツにこの手の話は振らないようにする。」

「―――――そう…?」


どこか諦めたように言われ、ちょっとバカにされた気分でムッとしたけど、今後煩わしいことがなくなるならと追及する言葉を飲み込んだ。


その後ヒロは微妙に浮かない顔で自分の席に行き、私はいつもと変わらない明日香に目を移した。

そして明日香を見ながら、昨晩の悩みが思い違いで良かったと安心したのだった。









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