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隣の想い人  作者: 流音
21/26

20、宣戦布告

前半がナツ視点で、後半がヒロ視点になります。




明日香と並んで遊園地の中へ入場しながら、私はヒロに掴まれていた腕をそっと撫でた。

そしてドキドキと収まらない心臓の音に顔の熱がとれなくて、自分を落ち着かせようと大きく息を吸いこむ。


もうダメだ…

ヒロの近くに居過ぎてヒロへの気持ちがバレそう…


私はムズムズする身体を両手で触りながらギュッと目を瞑ると、横から楽しそうに笑う声が聞こえた。


「菜摘のそんな顔見られるなんて、すごく新鮮。」

「明日香…。」


明日香はクスクスと可愛らしく笑ってから、私の赤く染まる頬を触って言った。


「まるで生まれたての子供が戸惑ってオロオロしてるみたい。そんなに初めての気持ちは厄介?」

「厄介っていうか…、ヒロのこと…好きって分かったら、気持ちが上手くコントロールできなくて…。自分がどうヒロに接してたか分かんなくなっちゃって…。」

「ふふっ、困ってるんだ?」


まるでからかうように微笑む明日香を見て素直に頷くと、明日香が嬉しそうに私の手を握ってきた。


「それが恋なんだよ、菜摘。これからそうやって困る事も多いと思うけど、自分の気持ちには正直にね。変に意地張るのだけはダメだからね?」

「……、わ、分かった。」


今まで何度も言われてきた注意を聞いて、私は明日香に余程心配されてるんだな…と思った。

それから何とかあまり意識せずヒロと接しようと、気を引き締めにかかる。


大丈夫…

ヒロはただの幼馴染…


好きなのは私だけなんだから、普通に…平常通りで…


私は短くふっと息を吐くと、なんとか気持ちの切り替えに成功して、後ろを歩くヒロと元樹に振り返った。

ヒロは元樹と何やら話をしているようで、二人の間の空気は良いとは言えなかったけど、割と普通に見えた。


「あーやってると中学の時みたいだね。」

「え?」


明日香が私と同じように二人に振り返りながら言う。


「だって花崎君が転校するまで、あの二人よく一緒にいたでしょ?」

「あー…、うん。同じ小学校の出だからね…。」

「それもあるかもしれないけど、どこか似てるのかもしれないよね。」

「似てる?ヒロと元樹が??」


「うん。二人とも目立つのもあるけど、堂々として自分を持ってるところとか。あと、二人の空気かな。」

「空気??」

「そ。オーラみたいな。」


オーラ…


明日香に言われてみて再度二人に振り返ってみると、二人は同じように不機嫌そうにしながらも話を続けていた。

その瓜二つな姿に、私は確かに似てると納得する。



ヒロと元樹。

昔からそこまで仲の良かったイメージはないけど、何かと絡んでいた気はする。

なんせしょっちゅう私と一緒にいるヒロをからかってきていたのは、毎回元樹だったから。

あのヒロから引っ越しの事を聞いたときもそうだ。


仲良くはないけど、よく一緒にいる不思議な関係。


今も楽しそうじゃないのに二人並んで話をしてる。

これは二人が似た者同士だから、お互いを引き合わせてるのかもしれない。


私は明日香の話を聞いてそう推察して、なんだか二人が可愛く見えてきてしまった。


似てるから噛み合わなくて、お互いを意識してしまう。

二人は同族嫌悪してるだけなんだ。


私は不機嫌そうながらも話をする二人を見て笑いがこみ上げてきて、しばらくその笑いを堪えてお腹を抱えたのだった。






**~~~**







前を楽しそうに女子トークしながら歩くナツと明日香を羨まし気に見ていると、同じように二人を見ていた元樹が不満そうな声を漏らした。


「なんで男二人で遊園地を並んで歩かなきゃならねぇんだよ。」

「それはこっちのセリフだ。堂々と邪魔しに来やがって…。」


元樹の自分勝手な物言いにイラッとして言い返すと、元樹も言い返してくる。


「邪魔するに決まってんだろ。たかが幼馴染の分際で菜摘とデートとか身の程を考えろ。」

「は?何度も振られてる人間に言われたくねーんだけど。さっさと諦めろよストーカー。」

「ストーカーじゃないっつってんだろ!?俺は純粋に菜摘を一途に想ってるだけだし!!」

「一途って…、ただの執着だろ?」


俺が喧嘩を吹っ掛けるように鼻で笑ってやると、元樹は大きく息を吸いこんだあとに前を気にしてから息を吐いた。


「お前は知らねーかもしれねぇけどな。俺は小学校のときから、ずっと菜摘だけを見てたんだよ。」

「はぁ??」


元樹の急なカミングアウトに顔を歪めると、元樹はまっすぐ前を歩くナツを見つめながら続けた。


「小学校から中学の一年までは、お前がベッタリ菜摘の横をガードしてたから近づけなくて、俺はただ菜摘を見てる事しかできなかった。だけど、中学一年の冬にお前が転校して…、いなくなって…、俺にもチャンスが巡ってきた。」


元樹はそこで俺を睨むように見つめてくると、堂々と言い放つ。


「お前がいない間、俺はやっとの思いで、今のポジションまで菜摘に許される関係になったんだ。お前が戻ってきたからって、そう易々と菜摘の隣を奪われてたまるか。」


元樹からのまっすぐな宣戦布告に一瞬怯みかけたけど、ここで退いたら負けだと立ち向かうつもりで睨み返した。


「ナツの隣は昔から俺のもんなんだよ。諦めろ。」

「諦めるわけねーだろ。この告白もできやしないヘタレ野郎。」

「はぁ!?一方的に気持ちをぶつけるのだけが良いと思うなよ!?」

「まずは自分の気持ちを知ってもらわねーと、菜摘に意識してもらえねーだろうが!!俺はいつまでも友達でいるつもりはねぇ!!ただの幼馴染は俺が菜摘を落とすのを指くわえて見てろ。」


俺は元樹の挑発にカチンとくると、元樹に身体を寄せて低く脅すように告げた。


「ナツに無理やりなんかしてみろ。許さねぇからな。」

「っは!!恋愛には駆け引きは必須なんだよ。お前に許されなくたって、俺は俺の思うようにするさ。」

「てめ!!元樹!!」


俺が我が物顔の元樹にブチ切れそうで胸倉を掴みかけたら、元樹は軽やかに俺から離れると「バカめ。」とだけ言い残してナツの方へ小走りに向かった。

俺はそれをただ見てるだけではいられず、大きく踏み出すと元樹より先にナツの腕を掴み引き寄せた。


「走れ、ナツ!」

「え、へっ!?!?」


俺は元樹からナツを引き離したい一心でナツの腕を掴んだまま走った。

ナツは困惑しているようだったけどついてきてくれていて、後ろから元樹の「待ちやがれ!!」と怒声が飛んでいた。


俺は追いつかれるわけにはいかなかったので、あえて人ごみに突っ込んだり、建物の間の細い通路を通ったりして、なんとか元樹をまくことに成功して足を緩めた。


「さすがに、もう来ねぇだろ…。」


大きく息を吐きながら後ろに目を向けると、同じように荒く呼吸しているナツが赤い顔で俺を見上げてきて、俺の心臓がビクッと跳ねた。


あ、勢いのまま連れ出しちまったけど…

ナツ…、どう思っただろ…?


俺がナツの機嫌を損ねてないかが気になりドキドキしていると、ナツはふぅと一息ついてから首を傾げた。


「ヒロ、元樹とケンカでもしたの?」

「―――――へ??」


ナツから筋違いなことを聞かれ拍子抜けしていると、ナツは飽きれた様にため息をつく。


「ケンカするほど仲が良いとは言うけど、ほどほどにしときなよ?毎回敵視してたら疲れるでしょ?」

「仲が良い!?敵視とか、俺が元樹と何を話してたかも知らねークセに―――」


俺がナツの勝手な思い込みにイラッとして口を滑らしてしまい慌てて口を閉じると、ナツはそんな俺を見つめて目を細めてから言った。


「確かに知らないけど、こんなとこに来てまでピリピリしてたら楽しくないでしょ?せっかくなんだから皆で楽しもうよ。」

「――――――………。」


皆って…


俺はナツと二人の予定がなくなり、いつの間にか皆で楽しむことに切り替わってしまってることに不満で顔をしかめた。

同意を求めてくるナツには悪いけど、皆で楽しむ気分じゃなくて不満をそのまま態度に出してしまう。

そんな俺を見て、ナツが困ったように尋ねてくる。


「なんでそんなに機嫌悪いの?さっきまであんなに楽しそうだったのに…。」


それはナツと二人だったからだ…


とは言えず、俺は子供のようにふて腐れてナツに目で訴える。

するとナツはふっと息を吐くと、辺りを見回して何かに目を留めてから、驚くことに俺の手を握ってきた。


「とりあえず、あれ行こう?ヒロ、乗りたかったでしょ?」

「へ―――!?」


俺が手を握られたことに過剰反応してドキドキしていると、ナツは長蛇の列になっているアトラクションへ向かっていった。

手を引かれるままそのアトラクションが何かを確認すると、それを見て俺はもっと驚くことになるのだった。










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