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隣の想い人  作者: 流音
20/26

19、邪魔者乱入

ヒロ視点です。




―――――ナツから男として見られてない―――――



自惚れないように自分で言った言葉に微妙に傷つきながら、俺はなるべくナツの望む幼馴染として接しようと頑張った。


楽しそうに笑うナツを見る度、胸が大きく高鳴ってついナツに手が伸びる。

でもここで触れてしまっては、ナツを警戒させてしまうかもしれないと、なんとか理性を働かせては寸でのところで軌道修正する。


それを何度も繰り返し遊園地に着くまでは、なんとか立派な幼馴染を演じられていたと思う。


だけど、俺のなけなしの理性なんてものは、長く続くわけもなく、開場を待つ列に並び始めたときには箍が緩み始めた。


「あ、新しいアトラクション、これだよ。ホラーダンジョン。バギーに乗って、多くの死者が眠る地を訪れ…生還できるか…、だって…。うわ…、これ本当に怖そうだね…。」


ナツが入場パスポートを買った窓口でもらったパンフレットを見ながら顔を引きつらせていて、俺は怖がってるナツも可愛いな…なんてことを思っていた。

するとナツは俺の熱い視線に気づいたのか、俺を見上げてきてビクッと体に緊張が走る。


「ヒロ、これ乗りたい?」

「え、―――――へ!?の、乗りたいって、その新アトラクション?」


俺はナツをじっと見てた事がバレたかと焦ったけど、ナツはそんなこと何も気づいていないのか普通に話しを続ける。


「今の話の流れからそれ以外に何があるの?ヒロ、私の話聞いてた?」

「きっ―――聞いてる、聞いてる!ホラーダンジョンだろ!?怖いかもだけど、せっかくなんだから体験しなきゃな!!」

「ふ~ん…、行くんだ。」


ナツは疑いの目を俺に向けたまま少しムスッとしてしまって、俺は何かマズったかとナツの表情で読み取ろうと試みた。

でもナツはパンフレットに目を戻し、表情が読み取り辛くなってしまい、俺はナツの手からパンフレットを奪うと顔を覗き込んだ。


「!?!?ちっ、近い!!!」


ナツは俺と目が合うなり平手で俺の顔を押し返してきて、俺は後ろに仰け反る。


「いででっ!!ナツっ!筋違える!!」

「えっ!?だ、だって!!急に顔近づけるから!!」

「パンフレットで顔隠すからだろ!?何か不満があるなら言えよ!!俺に遠慮するとかナツらしくねぇし!!」


俺がナツから一歩離れて首を擦って抗議すると、ナツはぐっと顔をしかめてから言いにくそうに口を開いた。


「……だって…、ヒロ…この怖いアトラクション行きたいんでしょ…?今日はヒロに楽しんでもらおうと思ってたから…、怖いのが嫌だとか我が儘言いたくなかったのに…。」


ナツは気恥ずかしそうに目を背けると頬を赤くさせていて、俺はそんなナツのいじらしさに胸がギュンッと苦しくなる。


~~~~っ!!!

なんでこう俺を嬉しくさせる事言うかなぁ~~っ!!!

くっそ!!もうこんなナツ前に我慢してられるか!!


俺は勢いのままハグしてしまいそうになるのを、ギリギリの理性でなんとかナツの手を握るだけにすると、顔が緩むのを堪えながら言う。


「俺だって同じだって。ナツに楽しんでもらおうと思って来たんだからさ、嫌なら二人で楽しめるアトラクションにしようぜ?」

「え…、いいの?ヒロ、怖いの乗りたかったんじゃ…。」

「俺はナツと一緒がいいんだよ!!ナツと同じように楽しめて笑えなきゃ意味ねぇから。大体そこまで怖いのが好きってわけでもねぇし、今更気つかうなよ。」


俺がナツの手を繋いだままかなり近くまでナツにくっついて言うと、ナツは避ける素振りもないまま嬉しそうに笑った。


「ありがと、ヒロ。やっぱりヒロはヒロだね。」


驚くことにナツは俺の手を握り返して、俺の胸に頭を預けるようにくっついてきて、俺は一気に脈拍が急上昇し体が固まった。


うわわわわわ!!!!!!

嘘だろ!?これ夢じゃねぇよな!?!?!


どう見ても俺に気を許してる振る舞いにのぼせ上がっていたら、開場したのか列が動き始め、ナツは何事もなかったかのように俺から離れてしまった。


「あ、ヒロ。入れるみたいだよ。行こ?」


ナツは繋いでた手を引っ張ると先に歩き出して、俺は繋がれたままの手に目が釘付けになってしまった。


あれ…?

これ、このままでいいのか??


俺はナツが離れてしまったのが残念だったのだけど、それよりも前は嫌がってた手を繋いだままの状況が気になってしまって、まだ胸がドキドキと高鳴る。


やべ…

昔みたいに手繋いでるだけなのに、すげー嬉しい…


俺は手を繋いでるだけでナツが自分のものだと主張している気分で、顔がだらしなく緩んでいた。

それを周囲に晒し続けるのも恥ずかしいので、空いてる方の手で顔を覆って隠すと、大きな怒声と共にナツの手が離れてしまった。


「こんの!!幼馴染詐欺野郎め!!!!」


「へっ!?え!?元樹!?」


俺がナツの驚く声を聞いて顔を覆ってた手を外すと、ナツが元樹に後ろから羽交い絞めにされてる図が飛び込んできてカッと頭に血が上った。


「元樹!!てめぇっ、ナツから離れろっ!!!!」

「嫌だね!!菜摘とデートなんて、この俺様が許さねぇ!!!」

「ふざけんな!!お前には関係ねぇだろ!?」

「関係大アリだね!!菜摘は俺の(予定)彼女なんだからな!!!」


「―――っ!!!その妄想いい加減にしろよ!!!」


俺が梃子でもナツを離そうとしない元樹に苛立って、ナツの手をとり元樹を足蹴にしながらナツを引き寄せると、ナツを抱き留めたところで更なる乱入者が元樹と俺の間に現れた。


「小泉君。公衆の面前で恥ずかしいよ!?菜摘が大好きなのは分かるけど、場所を考えて!!」

「明日香。」


乱入者は女子っぽさ全開のミニスカート姿の明日香で、元樹を怒ってからちらっと俺に目を向けた。

そして申し訳なさそうに顔をしかめ、元樹の腕を掴んで言う。


「ごめん。まさか二人がここでデートしてるなんて思わなくて…。小泉君から誘われたときに察して引き留めとけばよかったよね…。気が付かなくて、ごめん。」

「明日香…、いや…、それよりも…。」


俺は明日香の謝罪を聞きながら、なぜ元樹に今日のことを知られたのか元樹を睨みつけた。


「おい、なんで俺らが今日ここに来ること知ってる?」

「菜摘のことで俺が知らねぇことなんてねぇよ!」


………これは、明らかに立ち聞きしてやがったな…


悪びれもせず不機嫌そうな元樹を見つめて、俺はため息をつくと「ストーカーかよ。」とこぼした。

するとそれに元樹が食ってかかってくる。


「ストーカーじゃねぇよ!!!たまたま聞こえたんだよ!!たまたま!!」

「あー、はいはい。」


俺は子犬のようにキャンキャンとうるさい元樹を放っておくことにして、ナツに意識を戻すとナツが遠慮がちに俺を押し返してることに気づいた。


「ヒロ…、近いって…。」


ナツは成り行き上、俺が抱きしめてしまったことに照れているのか耳まで真っ赤になっていて、俺は今になってナツをハグしてることに慌てて手を放した。


「わっ!!悪いっ!!つい!!」


俺は自分の独占欲が無意識のうちに表面化していたことに驚いて、ナツに警戒される前に弁解する。


「元樹にイラついて、力が入っちまったんだ!無意識だった!!ほんっとごめん!!」

「そこまで謝らなくてもいいけど…。顔熱い…。」


ナツは赤い顔を触りながら片手で扇いでいて、俺はどう見ても脈アリっぽい反応に胸が動悸を奏で始めた。


これ…、どう見ても俺のこと意識してるよな…?

ハグしたこと嫌がるわけでもなく、赤くなって照れるとか…


好意以外の何で説明できる??


俺はじーっとナツを観察して期待に胸を膨らませていると、そんな期待を打ち消すように元樹がナツの手を掴んで自分の方へ引き寄せてしまった。


「菜摘。あんな奴放っておいて、俺とジェットコースター乗りに行こうぜ?」

「え、元樹と?」

「そ。俺、菜摘と乗りてぇな~。」


元樹が俺に対抗してかナツに顔を寄せていて、ナツはそんな元樹を見つめて頬を赤くしたまま困り始める。

俺はそれを見て、ナツの気持ちが元樹にも向き始めてる気がして、慌ててナツの手を掴み引っ張る。


「ナツ!!俺と観覧車乗ろうぜ?開場したばっかだとジェットコースター混むからさ。」

「おい!!邪魔すんな!!」

「お前がだろ!?その手放せよ!!」

「嫌だね!大翔こそ放せよ!!」


ナツを間に挟む形で元樹と睨みあっていたら、それを外から見ていた明日香の手によって阻止される。


「はいはい。もう皆で行けばいいでしょ?菜摘、こんな二人置いておいて私と行こー。」

「え、明日香!?」


明日香はサラッと俺と元樹からナツを奪うと、仲良く腕を組んで歩き始めて、俺と元樹は不服にもお互いを睨みながら二人のあとを追いかけることになったのだった。












やっぱり出てくる元樹です(笑)

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