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隣の想い人  作者: 流音
17/26

16、気持ちの行く先


ヒロと二人で教室までやってくると、私は鞄だけ置いて真っ先に明日香のところへ向かった。

明日香はいつものようにクラスの男子に囲まれて話をしていたのだけど、私に気づくと男子に断ってこっちに来てくれる。


「改めておはよ。昨日は泣いて帰っちゃうから心配してたけど、さっきの様子だと大丈夫そうだね。」

「あ、うん。昨日は勝手に帰っちゃってごめん。そのことで明日香にちゃんと話しときたくて…。」


私がどう自分の心の変化を伝えようかと考えていたら、明日香が私の手をとって人気のないベランダまで引っ張っていく。

外は教室内よりもムワッとしていて暑かったけど、人目を気遣ってくれたのか明日香はベランダの扉を閉めてから「話って?」と促してくる。

私はまっすぐ向けられてくる明日香の目を見つめ返すと、一呼吸おいてから考え込まずに言いたい事だけを口にした。


「昨日、のことなんだけど…。泣いたのは…ヒロと明日香がアイスを交換してるのが嫌だったからなんだ。」


私はこんなことを口にするのは友達として間違ってる気がして、心苦しさから明日香から目を逸らす。


「明日香からヒロのこと好きになったって聞いてたのに、こんなこと思うなんて友達としてひどいことだって分かってるんだけど…。私、やっぱりヒロとのことで素直に応援できなくて…。なんで自分がこんな気持ちになっちゃうのか、自分でもよく分からないんだけど…。でも、ヒロは…やっぱり私にとって特別だった…みたい…なんだ…。」


私は言いきってからギュッと目を瞑ると、精一杯の謝罪のつもりで頭を下げた。


「明日香…、本当にごめん。」


嘘偽りなく本心を伝える事ができて満足だったけど、明日香から返ってくる言葉が怖くて頭が上げられないでいたら、耳に楽しそうな笑い声が入ってきた。


「ふふっ…。菜摘、やっと素直になったね。」

「へ?」


私は想像していた明日香の反応があまりにも違って、明日香の笑顔を見つめて放心した。

明日香はクスクスと笑いながら、更に私を驚かせることを口にする。


「あのね、謝ってもらって心苦しいことではあるんだけど。私、菜摘のいう意味の『好き』で花崎君のこと好きってわけじゃないんだよね。」

「え??」

「私の中で男の子って、なんとなく好きだな~って人とそうじゃない、アウトオブ眼中?っていうのかな?そういう感じで二分割されてるんだよね。」

「アウトオブ眼中??」

「あははっ、まぁ簡単に言うと恋愛対象かそれ以外ってことかな。」


明日香はベランダの壁に背をあずけると、きょとんとしている私を見て笑い出す。


「花崎君は数ある男子の中でも恋愛対象の側に入るんだけど、それが付き合いたいとかいう本当の『好き』かっていうと、まだ私の中では微妙なんだよね。なんせ私、ずっと片思い中の人がいるからさ。」

「………へ?片思い…??え?明日香が??」


私は明日香から初めて打ち明けられた話に面食らって、理解が追いつかない。

明日香は笑い続けながら頷く。


「そう。それも中学のときからだよ?笑っちゃうよね。」

「え??それって…ヒロじゃないの??」


私は否定されてるにも関わらず、未だ信じられなくて聞き返した。

すると明日香が「しつこいよ!!」と少し怒りながら言う。


「片思いの相手は花崎君じゃないよ。だって中学のとき、菜摘と花崎君に憧れてたぐらいなんだから。」

「憧れてた!?」

「あははっ、驚きすぎ。中学の時は私だけじゃなくて、結構な人が二人見て憧れてたと思うよ?中学入学したばっかりの頃から二人のこと有名だったし。」

「えぇっ!?」


私は今まで聞いた事のない話の連続にただ驚くしかなくて、全然話が整理できずに目が回りそうだった。

明日香は少し眉根を寄せて苦笑すると、ふっと視線を落とす。


「私、菜摘と花崎君みたいな関係になりたかったんだ。その片思いの相手と…。まぁ、いまだに叶わない夢みたいな話なんだけどね。だから、菜摘が私と花崎君のことで、そんな気持ちになる必要ないんだよ。菜摘があまりにも天邪鬼だったから、意味深な言い方してからかっただけなんだよね。ごめんね、菜摘。」


明日香は儚げに微笑んでいて、私はいつも男子たちからチヤホヤされて恋愛に関して悩みもなさそうだった明日香のイメージが変わった。


明日香は中学の頃から男子にモテて、女子の妬みの対象だった。

そんな明日香が叶わない片思いをしているだなんて…誰が想像できただろう…


私はヒロとのことよりも、明日香が誰を好きなのかが気になって、勝手に口から疑問が飛び出る。


「明日香、片思いの相手って誰?」

「え、それ聞く?」

「え!?だって気になるよ!今まで色んな男の子からモテて彼氏だって何人もいたのに、片思いだなんて…。というか、好きな人いたのに彼氏いたのはなんで??」

「あ、そこ気づいちゃったか。」


私が問い詰めながらふと湧いて出た疑問を口にすると、明日香が気まずそうに笑いながら言った。


「ずっと片思いしてるとさ、苦しくて嫌になることがあるんだよね。それを好きだって言ってくれる彼氏に癒されてたっていうか…。寂しさ紛らわせてた的な?」


明日香が悪いことしてバレた子供のように笑っていて、私は恋愛というものを経験したことがなかったので、明日香の言う事の半分も理解できなかった。


「え、え?彼氏で寂しさ紛らわせる??明日香ならその好きな人に告白すれば、苦しい気持ちになんてならないんじゃ…。」

「告白が上手くいけばの話でしょ?私はとっくの昔にフラれてるから。」

「フ…、フラれてる!?えっ!!明日香が!?」


私は明日香が男子にフラれる想像がつかなくて、驚きのあまりむせた。

明日香がそんな私を見て笑いながら、どこか諦めたように言う。


「そうなんだよね~。だから誰かっていうのは内緒にさせてね。私にもプライドってものがあるからさ。」

「うそ~…。明日香が男の子にフラれるとか…信じられない…。」

「あははっ。菜摘の中での私のイメージどんだけ?私だってフラれることあるんだから。」


私が信じられないことの連続にポカンとしていると、明日香は一頻り笑ったあと、可愛く小首を傾げて続ける。


「私は今でもそのフラれた相手のことを諦められなくて、今もこの気持ちに苦しめられてる。これは嘘偽りない、私の本当の気持ち。だから、菜摘は私のことなんか気にせず、花崎君に正直な気持ちでぶつかって?」

「正直な気持ち…?」

「そう。菜摘、花崎君のこと周りにいる誰よりも好きでしょ?」

「好き!?!?」


明日香の言う『好き』が恋愛の意味の『好き』だとすぐに分かり、私は声がひっくり返りながら大きく首を横に振った。


「違う、違う!!ヒロのことは特別だって思ってるけど、明日香の言う好きではないよ!?」

「菜摘、あんなに嫉妬満載のこと私に打ち明けといて、今更誤魔化さないでよ。花崎君のことが好きだから、嫌だとか思ったんでしょ?」

「え!?嫉妬って…、私…そんなつもりじゃ…。」


私は明日香からの指摘に何か自分の気持ちの行く先を見つけ出せそうで、言い訳をしながら言われた事を考えた。


私、明日香に嫉妬してたの?

だから嫌だって思ったの??


「もう!自分と恋愛を切り離してるから、そんな意味の分からないことになるんだよ。菜摘、よく思い返してみてよ。小泉君に誰か他の女の子が近づいてきたとき、今と同じ気持ちになった?ならないでしょ!?」

「え、だって、元樹は友達だから…。別に誰と仲良くしても…。」

「ほら!!まずそこが違うでしょ!?菜摘、花崎君だったら嫌なんでしょ!?花崎君の一番は自分じゃないと嫌なんでしょ!?」

「だ、だって、ヒロはずっと一緒だったから…、元樹とは違って当たり前だし…。」

「菜摘の鈍感!!」


鈍感!?


明日香がぷぅっと頬を膨らませながら怒り始めて、私はそんな明日香を見つめ何度も瞬きする。


「菜摘は花崎君の事が好きなんだよ!!だから一番でいたいとか独占欲が出てくるし、近づく女の子に嫉妬しちゃうんだよ!!それも親友の私に嫉妬するんだよ!?これが好き以外の気持ちでどう説明するの!?」


明日香からの指摘に面食らいながら、私は言われたことをよくよく考えた。


そっか…

私、明日香に嫉妬してたから、あんなに嫌な気持ちになってたんだ…

我慢できないくらい…苦しくて、涙が出たのも…そういうことなんだ…


ずっと言い訳して考えないようにしてたけど、もうこれ以外気持ちの収め所はない…


私はスッと明日香の言葉を受け入れると、答えの出せなかった気持ちの行く先をやっと見つけることができた。


「私…、ヒロのこと…好きなんだ…。」


私は声に出してみて、今までのことを色々と思い出した。


ヒロが引っ越すと言ったとき、言葉も出ないぐらい衝撃を受けた。

おまけに付き合うなら明日香だって言われてショックだった。


あのときから私はヒロのことを好きだったのかもしれない。

一緒にいるのが当たり前すぎて気づかなかったけど、ずっと昔から特別だった。

ヒロの隣にいるのは自分だって、当然のように思ってた。


それが壊れてから私の中の歯車が狂って、行き場のない気持ちに言い訳して蓋をしてしまったのだけど…

ヒロが戻ってきた今、私はずっと蓋をして閉じ込めていた気持ちを出してあげなきゃいけない。


長い間、恋愛と自分を切り離すことでしか保てなかった、自分のたった一つの純粋な気持ち。



私はヒロのことが大好きで、ずっと隣にいたいっていう気持ち。



私は随分スッキリした気持ちになり目線を明日香に向けると、明日香がほっと安心したように微笑んでいた。

そのとき何故だか分からないけど目の前が霞み、私の胸の中に何か熱いものが生まれるのを感じたのだった。











やっとナツが自分の気持ちを導き出しました…


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