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不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。  作者: ちょすニキ


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祝勝会とブラック企業の予防

 「ご主人様!これはなんて料理なんでしょうか!?」


 「それはたい焼きだ」


 「たい↑焼きですね!?」

 

 「いやたい焼きだ」


 ミーズは相変わらず食いもんになるととんでもない胃袋を発揮するな。凄まじい。


 「ご主人様、この料理は何というのでしょうか?」


 「あー、これはフルーツタルトだ」


 「ミカエラ、これフルーツタルトって言うんだって」


 「えっ!本当に!?これがフルーツタルトなのね!?」


 何やら二人は二人で盛り上がっているようだ。少し聞いてみよう。


 「タルトがどうしたんだ?」


 「いえご主人様!これを商店で販売しましょう!絶対に売れるはずです!」


 そりゃそうだろう⋯⋯この世界ではありえないくらいのコスパで作られている料理なんだから。などとこの明るい笑顔の前では反論できん。


 「まぁいつかやろうかな」


 「いやセレーヌさん、駄目ですよ!独占しないと!他の人がこの魅力に気付いちゃったらどうするつもりですか!?」



**



 騒がしい宴会場。

 座っていた俺は外に一度出て、裏通りの壁に寄りかかって煙草に火をつける。


 「あいつらも頑張ったなぁー」


 今は祝勝会真っ最中。

 終わった俺達は一度家に戻った。まぁ理由は言わなくてもわかるよな?


 中でもガルはよく頑張っただろう。

 アイツは元冒険者だからこその気持ちの切り替えが上手くいかず、ずっと躓いていた。だからこそ俺が一度その感情を潰してやる必要があったのだが⋯⋯⋯⋯良くやったと思う。


 あいつらにとっての今回のは、だいぶ大きな意味を持つ。祝勝会という行事はあいつらにとっても非常に意味のあることだろう。


 これからも楽しく戦うためにはこういうこともやっていかないとな。


 「なんか、こういうの久しぶりだなぁ⋯⋯」


 東京なんかの夜空とは違う、澄んでいて全てが美しく感じるこの素晴らしい空は良い。


 そして同時にあっちでの事を思い出す。


 向こうではこんなこと滅多にしなかった。いや、多分してなかったというレベルでやっていなかったな。


 戦って勝利を収めたとしても、祝う事なんぞなくすぐ次だと言って別の場所へと淡々と向かう⋯⋯そんな日々だったな。


 今考えれば、本当にあいつらはよく付いてきてくれたと思う。


 「さて、戻るか」


 戻るとどんちゃん騒ぎのミーズと巻き込まれたセレーヌとミカエラといったところだろうか。俺は笑ってそこを通り過ぎ、食料がある方へと向かう。


 「ご主人様」


 「どうかしたか?今回の功労者が働く必要はないぞ?」


 「いえ!私は奴隷であり、主の為に存在していますから!」


 「はぁ⋯⋯もっと普通に接してくれていいんだがな」


 「そればっかりは中々」


 苦笑いを浮かべながら俺が新しい食材を皿に移し替えるのを手伝ってくれる。


 「こんな状況なんですが、今回の事は全てご主人様なくして出来なかったと思います、ありがとうございます!」 


 「そんな事気にするな。お前たちが鍛錬し辿り着き、掴み獲った結果だ」


 何度言っても止めないお辞儀のままガルは嬉しそうに並べる言葉に、俺も本音で返す。


 「まだまだ始まったばかりですから、これから精進あるのみです!」


 「あぁそうだな。お前には俺の特訓相手になってもらわないといけない。お前らは俺がいるけど、俺の特訓相手は誰もいないんだから⋯⋯頼むぞ?」


 「勘弁してくださいよご主人様⋯⋯。命がいくつあればそれが可能なんですか⋯⋯」


 「本当ですよ!ご主人様の訓練相手はどれだけ強くなっても厳しいですよ!」


 失笑のガルに合わせてセレーヌたちも嫌だの一点張り。俺はだいぶ嫌われているらしい。


 「まぁいつか頼むぞ」


 「はい、死ぬまでに叶えばいいんですが」


 それから暫く経ったあと、俺は外に出たときに気がついたことをみんなに尋ねてみる。


 「なぁ、ウチの店、まだやってるよな?」


 「確かにそうですね。いつも当たり前のように開店しているので気付きませんでした」


 ブラックはいかんぞブラックは。


 



 「おいおい、どんだけ並んでるんだよ」


 時刻は大体夜の八時過ぎ。

 店の前付近だが、それでもまだまだ長蛇の列は続いている。最後の方に並んでいる婦人に話しかけてみた。


 「なぁお客さん、もうどれだけ並んでる?」

 

 「あら、会長さん!会長さんが新しく造ってくださった婦人用の広場⋯⋯大人気ですよっ!」


 「気に入っていただけて何よりです。数も増やしていけるように順次着手していくつもりです」


 「あらあらあいけない。みんなにも早くこの情報を伝えないと⋯⋯!」


 「失礼、何時頃から並んでいらっしゃるんでしょう?」


 「そうね⋯⋯大体菜の時刻かしらね?」


 「菜?もうそれだけ並んでいるんですね」


 「仕方ないわよ〜。会長の商店は安全性抜群!質も良ければ懐に優しいなんて⋯⋯むしろ儲かっているのかこっちが聞きたいくらいよ?」


 「それは問題ありませんよ。きっちり儲かるようにしてますから」


 婦人との会話は暫く続き、それから数十分が経つとやっと店が閉まった。


 「あっ!会長だ!お疲れ様です!」


 「「「「お疲れ様です!」」」」


 一人の子を筆頭に俺を見つけた子どもたちが礼儀正しく綺麗なお辞儀を披露する。


 「お疲れ様。みんなはまだ働いているのか?」


 見たところ、まだ在庫確認や明日出す商品の準備などをしているようだが。


 「はい!あともう二刻ほど回ったところで終わりにしようと思っていました!」


 「⋯⋯え?駄目だぞ、仕事ばかりしてどうする。早く帰って休まないと」


 「か、会長!私達は仕事を貰えただけでも幸せなんです!お給金も出ますし、他の家族も養う事ができます!だから働くことくらいなんの問題もありません!」


 「ぼ、ぼくも!!」


 「おれもっ!」


 なんか意味を間違えているような気が⋯⋯。


 と、俺は喉まで出かかった帰れの言葉を飲み込む。


 ホワイトに行こうぜなんて、地球の日本位なものだろう。


 そうなのだ。実際この世界では時給という言葉は存在しない。全て上の奴らが仕事を見ていくら払うかを決めているのかが現状の給料状況だ。


 俺が色々他の職場を調査した結果、大体のところは日本円で言うところの5万から8万。子供に至っては出来ない事が多いのを分かっているからか⋯⋯一万で抑えようとする大人も存在する。


 まぁ確かに色々事情はあるんだろうけどよ、もう少しきっちりいかねぇか?


 要約すると、ブラックは存在しない。


 そもそもホワイトだの、ブラックだの言えてる事自体贅沢ってやつだ。


 「二人はどこにいる?」


 「上の部屋にいますよ!案内しますか?」


 「いや?邪魔しちゃ悪いからな。あ、せめてこれ食うか?」


 俺は懐から蒲○きさんを数人分用意して袋を開けて手渡す。


 「はむっ。ん〜!会長!これとんでもなく美味しいです!」

 

 「美味しいー!なにこれ!」


 美味そうに食べる子供たち。この子達をcmに出したら絶対売れる気がする。


 「これはかばさんってお菓子だ」


 「え!お菓子なんてもらっていいの!?」


 「(小声)おい、敬語!」


 「えっ?あぁ⋯⋯え⋯⋯」


 きっちり教育が届いている。 

 これなら良さそうだ。


 「まだ始まったばかりだ。別に最初からできるやつなんてそうそういない、気にするな。⋯⋯だが、自分がこの先大人になって自分の目の前に似たような間違いを犯したとしても、間違っても攻撃をするような大人になってはならんようにな?」


 子供たちの視線に合わせて屈み、笑ってそう伝えると二人は満面の笑みを浮かべて元気良く返事が返ってくる。


 「はい会長!頑張ります!」


 「頑張ります!」


 「おう、頑張れよ」


 背を向けることはしなかったが、俺は手を振って店内に入っていった。


 

 

***



 「以上が報告でございます」


 「そうか、なかなか異常の比率だな」


 「はい、毎日即売り切れの商品ばかりでして、私どもも非常に困っております」


 報告書を読み上げるガゼルは窓の外を眺める。


 やっぱり収益率が尋常じゃない。あっちでの利率と比べても、数字にしたら偉いことだ。


 まだ部隊の完全配置は済んでいないし、飯屋の方もまだ進んでない。

 それに⋯⋯⋯⋯


 「会長?どうかなさいましたか?」


 「ん?あぁ⋯⋯よく頑張っていることはいいことなんだが、子供たちの退勤時間を早めるように整える事はできないのか?彼らはまだ子供だ。十分な休養も不規則な就業時間では、彼らの成長を妨げてしまう」

 

 「お言葉ですが会長、現在我々の商店に従業員を200人以上の新入りが就職している状態でございまして、今の収益率は保っているのもこの時間までやっているからで⋯⋯」


 申し訳わけなさそうに話すのをガゼルが手で止める。


 「そうだそうだ、しっかりと金を渡していなかったようだったな」


 「い、いえ⋯⋯そんなつもりは」


 てっきり金を渡したと思っていたんだが。


 「とりあえずこれで足りるな?」


 ドスンとガスパルの前に置いたのは、重すぎる白金貨が入った大きな巾着。


 「確認しろ。中にきっちり1000枚入ってる」


 「せっ⋯⋯!?」


 (十億)数字を聞いたガスパルが慌てたように巾着袋の中身を覗き、瞬きが止まらない。


 「こんな量の追加資金を⋯⋯どこで!?」


 「まぁ色々ある。とりあえずそれでガキ共の給料として使え。だから頼む、ガキ共の健康を優先してやってくれ。空気で残るからみんなも残らないとなんて、死んでも思わせるな。仕事ができる奴はさっさと帰らせるようにしろ」


 「⋯⋯失礼ですが、会長はあの子どもたちにいくらの給金を与えるつもりなんでしょうか?」


 「銀貨20枚だ」


 「ぎぃっ!?し、しょ、正気ですか会長!?その金額は大人が稼げる額とほぼ変わりありません、それが知られれば⋯⋯」

  

 「何かおかしいか?お前は俺の年齢を知っているか?17だ、じゅーなな。そんな年齢で物事を測るようになったら──良い人材は一瞬で逃げていくぞ。俺がお前を選んだように」


 ぎょろぎょろ泳がせ尋ねるガスパルにガゼルは冷静にそう返した。ガスパルは信じられないといった表情と、眼鏡をずらしてガゼルの顔を確認する。


 「確かにそう言われればかなりお若いですね」


 「⋯⋯今更かよ」


 まぁてことはガスパル自身俺を年齢を見ていなかったということになる。なるほど。


 「ガスパル、いいか?」


 「はい」


 「大人になって俺みたいなやつが現れて才能や資質が開花するやつもいれば、ガキの時から無知や機会が無かっただけで⋯⋯お前よりも才能があるかもしれないやつが死ぬほど眠っていることもある。そんな原石を⋯⋯⋯⋯たかが年齢如きで考えるなんてのは古くせぇクソッタレだ!」

 

 ガゼルはその場で加えた煙草を挟む指をガスパルに向け続ける。


 「いいか?いつか機会が訪れるだろうが、これは何も労働に限ったことではない話だ。戦いだってそうだ。天才と言われているやつが古い教えに従い続けて壁にぶちあたったとき、おんなじ伝統とやらを続けたところで意味がない。強くなるには新しい刺激がいつもそこにはある。そう、お前にとって俺だったように⋯⋯アイツらにはお前という商売の指導者がいる。そうだろ?」


 「私が浅はかでした⋯⋯っ!!」


 ガゼルの足元まで走ってスライディング土下座をかますガスパル。


 「違う。謝罪などしてどうする。⋯⋯ここはあいつら全員────お前と並ぶ商売人にして俺に利益を上げ、お前はお前で商人としての地位を固めろ。俺の名前を使ってな」


 そう言いながら。ガゼルは煙草を深く吸い、幻想なのか両目を紅く、紅く燃え上がらせてガスパルの肩を掴んで、こう言った。


 「お前は今、このガゼルという教えを得た。これからお前は何処に行っても最強の商人として名を残す事ができる。忘れるな?俺が教えた事は、これから身を持ってお前が体で覚えていくだろう。その時、常に俺がどれだけそこら辺に茂っている草木よりもデカイものなのかを知ることになる」


 「はいっ!!!!」


 「俺はお前に求めていることはただ一つ。この大陸でお前が頂点に君臨し、流通という、この分野において右に出るものいないくらいになれるほどの知識をこれからも与えていく予定なんだ。今の段階でも、お前はこの街で一番の商人になれる情報量がある。あとは────行動のみなんだ」


 更に燃え上がる紅い龍の眼と言って差し支えないこの眼光は、ガスパルの心臓が破裂しそうな程高まらせていた。


 「おれは何度もガキ共が死にゆくのを見た。助けを乞い、水が欲しいと。パンの一つでいいから欲しいというガキを何万と見てきた。明日の生きる理由が欲しいと、地獄を見る人を見た。ガキはぬくぬくしておけばいいんだよ。


 ⋯⋯いいな?あいつらは、残業などと抜かさずに終わらせられるように指導するんだ」


 「⋯⋯⋯⋯はいっ!!!!!!」


 「よし。そうだ。俺の下で名を残すには、それくらいの気合いと覚悟が据わってるやつじゃないと」


 開きっぱの瞳孔がやっと終わり、ガゼルは席に座り直した。内心ほっと胸を撫で下ろしたガスパルは気持ちを切り替え、この追加資金の使い道を考える。


 「あ、お前たち兄弟にも、勿論成果報酬という形で渡すつもりだ」


 「⋯⋯本当ですか!?」


 「本店以外の今あるまっちの商材の売上から七割⋯⋯支店を作って安定させてからすべての支店で売れたまっちの売上から7割だ」


 い、いくらになるんだ!?


 ガスパルは喜びと悲しみ、いや驚きの感情が渦巻く。


 一体どれだけ先を見据えているのか。

 何がこの天才に見えているのか。

 

 ガスパルはもはや王族よりも恐ろしいこの男に全面降伏状態である。


 「さて、俺が居ても仕方ないだろう。俺はここで帰る。頑張れよ」


 「はい!!!このガスパル、天下一の商店に立たせていただきます!!!!」


 背を向けずに軽く手を振るガゼルと、いなくなっとも数分間興奮で頭を下げっぱなしのガスパル。


 この男が将来────商いの加護得たとまで言われるようになるのは、数年後の話である。

 

 

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