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不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。  作者: ちょすニキ


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68話 YEAH

こんにちは作者太郎です。

今回のお話は、割と暴力描写が目立つ⋯⋯そんな回となっております。

それにちょっと読む人によってはかなりキツイ場面もあるかもしれません。


どうぞよろしくお願いします笑

念の為注意喚起です。



         ***



ある屋敷の一室。

そこでは、貴族たちの笑い声が響いていた。


「ではブッサ、四代クランのウォリアービーストとの件は上手く行っているということで大丈夫か?」


「問題ありません」


重たいローブを身に包み、同じようにテーブルを囲う貴族達と遜色ないが、少し質が劣る生地を身に纏っているブッサは元気よく言葉を返した。


'早く終わらせて、家に帰らないと'


最近妻がやたら小遣いが欲しいなどぬかす。

金の管理は俺だから良いものの、これが妻だったらと思うと⋯⋯先が思いやられる。


家庭内で語るなら、ブッサは決して悪い父親ではない。⋯⋯特別良くもないが。


'コイツらの対応を終わらせて、早く娼館でも行って──スッキリしたいものだ'


と胸の内で大きく溜息をつくブッサ。


それもそのはず。

この一室で平民はブッサのみ。しかも、並ぶ貴族たちのランクはかなり高い。


言動一つ間違えばあの世行き。話している内容は理解できないことの方が多いが、話を振られればどんな事であれ答えなければならない。


そんなプレッシャーが乗っかる中で食事が喉を通るわけが無い。


「そういえば、最近異世界からの勇者たちが召喚されて割ともう時間がたつな?」


「ええ、確か今回のリーダーは神宮寺とかいう気に入らないガキですよ。ウチの方でもゴブリンメイジの杖と交換だなんて⋯⋯舐められたモノです」


「とか言っておいて交換に応じたのだろう?アレの価値を理解しているからなっ!」


「仕方ないでしょう?あれがあれば⋯⋯奴隷が何人買えるとお思いで?」


下卑た男たちの笑みが充満するこの一室では、いくらブッサでも肩が重い。


'貴族は凄いな。私もかなり遊んだ自覚はあるが、まだまだ上がいるものだ⋯⋯聞いている私ですらどキツイ話があるぞ'


そのままある程度の時間が過ぎる。

ブッサを含め、もう夕方手前。


時間にして、16時過ぎ頃。


「ブッサ、今日はあまり構ってやれずすまないな」


「いえ、私には過分なお言葉です」


「お前も王都では大商人なのに、私達といてしまうと、ただの平民になってしまうのが気の毒だ。今度は娼館を借り切ってお前にもしっかり普段のお返しをさせてもらうよ。これも、君の質と対応がいいからだがな」


「有り難き幸せでございます」

「おい、出せ」


門の前でそれぞれの貴族たちが自分たちの家路へと馬車で向かっていく。ブッサは馬車で去るまで、頭を下げて見送る。


およそ一分ほど頭を下げ続けたブッサは頭を上げる。


'今回も無事に生き残れたな'


内心バクバクだったブッサはほっと胸をなでおろす。


「ブッサさん」


そこへ、この屋敷の執事の一人がブッサのところへと早足でやってくる。


「どうした?」

「いえ、今回も何とかなりましたね」

「あぁ、なんとかな」


誰も警戒する人間がいないと判断したのか、ブッサは深い鼻息を漏らした。


「今回は要求がかなり多かったですね」


「あぁ、A級モンスターの肉が食いたいだの、希少品である樹液を使ったなんだったっけか?」


「レイドルーリの木です」


「そうそう、それだ。あれ、確か聖貨10枚だったよな?」


思わずシワを寄せて、すごいすごいと言うように変顔を見せる。


「聖貨一枚でも大変ですよ?それを貴族っていう生き物というのは」


執事も相手がブッサだからなのか、かなり力が抜けたように言葉を吐いている。


「にしてもブッサさん、トラシバ近くにご自宅があるんでしたっけ?」


「そうだ。だからわざわざここの土地を買って貴族御用達の場を作ったのだ」


「奥様も快調で?」


「勿論さ!この間も大変だったぞ?」


 そしてそのまま二人は立ち話が長引くと思ったのか、二人は屋敷に戻って軽いティータイムを過ごした。



**



「ほれ、今回の開催分だ。掛かった金額を書くといい」


「本当ですか?今回かなり準備に助力して頂きましたが」


執事は門の前でブッサに申し訳なさそうに小刻みに頭を下げる。


「大丈夫だ。それより」


「分かっています」


ブッサの言葉を割って、いつもの如く返事をする執事。


「ここでの出来事は私達のすべてを総動員してでも足を消さなければならないからな」


 この屋敷はいわゆる貴族たちが好き放題する無法地帯。女遊びから違法なモノの輸入の基盤になる場所。


⋯⋯バレたら全員の首が飛ぶ。

全員が全員の弱みを握っており、そうそう裏切る者などいない。


そしてこの執事を含む屋敷の担当をしている者は、全員がソッチ方面の清掃プロ。

 証拠、ニオイ、探知系統の不具合を強制的に起こさせるなど⋯⋯彼らに掛かれば簡単。


だから代金やそれに掛かる費用は少額では済まないのだ。


「とりあえず私は一旦自宅に戻る。今度の開催は2週間後だったな?」


「はい」


「であれば、また頼んだ」


そうしてブッサは久しぶりの自宅へと向かう。



         ***



「帰ったぞー」


返事がない。

ブッサはすぐに違和感を感じた。


'いつもなら働いている者達がいるはずだが'


ブッサは貴族と懇意しているお陰で、メイドや執事がついている屋敷を作れた。


いつもなら当たり前のように出迎えがあるはずだが、ここの玄関門は夜の森にいるような静けさが広がっていた。


なんだ?それに、アイツが来ないのも珍しい。


恒例通りなら、ブッサが帰ると妻が小遣い欲しさに玄関門まで迎えに来る。それもほぼ毎回。


「おーい、帰ったぞ」


少し進むと、上に続く階段が2つ。

いつもなら点いている照明も点いていない。


ブッサはすぐに結論付ける。


「もしかしてどこかで飯でも食べているのか」


そうだ。

アイツは金遣いがとんでもな女だ。それなら納得出来る。


頭の中で⋯⋯そう呟いた時だった。


玄関門の端。

説明し忘れていたが、この玄関門はかなり広い。貴族レベルの玄関門、広さで言うと全力で叫ばないと端にいる者は届かないほどの距離といえばわかるだろうか。


ブッサから見て左側、薄暗い奥の方から何やら低い音が耳に入ってくる。


「なんだ?」


一人、しかも証明がついていないせいでかなり薄暗い。少し重たい足取りで音のする方へと行くブッサ。


するとブッサは慣れない音がして動揺する。


'なんだ?この音は'


重たく、体の内部まで響くようなこの音は一体?


警戒心が高まるブッサだが、好奇心が勝って更に足を進める。


『dum♪、dum♪』


ゆったりとしたリズム。


'なんだ?これは曲なのか?'


染み込んでくる曲調。


⋯⋯そう。

まさしくこの家で流れているのはレゲエとEDMが組み合わさったような曲が今まさに流れているのだ。


「ん?」


なんだ?金の音か?


ブッサの耳には追加で金の落ちることが聞こえてくる。


何がどうなってるんだ⋯⋯。


完全に困惑状態のままゆっくりと一歩ずつ進むと、最後には知らない者たちの会話が聞こえてさえくる。


「ほら、見えるか?お前らがあれだけ欲してた金だぞ〜?」


「ご主人様、これいつまでやるんですか?」


「ん?いや、昔散々言われたんだよね。カネカネカネカネって。お前らも金が欲しいだろ?」


「欲しくないと言えば嘘になりますね」


「だろ?どうだ?これ全部金貨だぞ?どうだ気分は?」


ブッサの瞳に声の主が映った。


 セミロングで白髪の男が豪華な赤色のソファに頭の後ろに腕を回して寝っ転がり、もう数人は謎に金貨を上に向かって投げている姿だった。


『ほら負けないよ、君なら勝てるよ、この人生に敗北なんてないYeah』


「ご主人様、この曲は一体なんて言っているんですか?」


「まぁわからねぇよな。俺の友達が作った曲だ。中々良い曲調はしてるだろ?」


「表現するのが難しいですが、なんかいいですね」


'なっ⋯⋯?'


自分の両目が泳いでいることに気がつく。


寝っ転がっている周りには、ダンジョンボス部屋にある財宝が眠っている場所のように、大量の金貨が今もなお投げられていた。


ブッサは理解できない感情が溢れ出て来る。


「貴様らは一体何者だ」

「⋯⋯ん?なんだおっさん?」

「ここはお前たちの遊び場か何かか?」


ブッサはそこから溢れ出る感情を剥き出しにして怒鳴り散らした。


「はぁ、はぁ」


大の綺麗好きであるブッサにとってこれ程嫌なことはない。


「分かったか!そもそもお前たちは何者だ!」

「⋯⋯お前名前は?」


白髪は私に向かってそう言い放つ。


「なんだと?礼儀もないガキめ」

「で、名前は?」


白髪はその場で葉巻を口に咥えた。

そして私は今後の為にも仕方なしに答える。


「ブッサだ。それで俺に何かあるのか?」


すると白髪の呼気が一瞬止まる。すると次の瞬間、白髪は私を見て何やら大声で笑いだした。


「あっははは!おい、ガル! もしかしたらお前がここに来てたかもしれないな?」


⋯⋯ガル?あぁ、私が買うはずだった奴隷の名前だ。


ジッと私は近くにいる人影に目を向ける。

特徴一つ一つを並べていくと、確かに合致している。


「何故治っている?」

「俺が治したからな、コイツを」

「冗談を抜かすな。ポーションを奴隷なんかに使ってどうするんだ?」


私の言葉に白髪はすぐに答える。


「お前こそ、惜しい人材を逃したな」

「なに?」

「まぁ今回の話はガルが本命ではない。そうそう、お前は『ウォリアービースト』を知っているな?」


「あぁ、四代クランの一つだろう?」


まだガキの一つ覚えに四代クランの名前か。

⋯⋯全く、ガキは分かりやすくていい。


「なんだ?実力行使で私の名前で繋げろとかいう話か?やめておけ、そう簡単にできる話──」


 言いかけたブッサの表情が話していく度に青ざめていく。 目の前にはボロボロの状態のグレイが無造作に置かれており、周りをよく見ると、その他にもウォリアービーストに加入している人間たちが山のように積まれていた。


「な、何だこれは?」

「何⋯⋯?言うまでもないだろう?これが答えだ」

「はは、まさかお前一人でこれをやったなんて言うのか?誰に協力してもらったんだ?」


このときブッサはまだ高をくくっていた。

目の前にいるこのガキ一人にそんな事できるわけが無いと。


「信じるも信じないのも一興。とにかく、俺は四代クランの一つを解体した。後継者はまだ決めていないが、相応しい人材にいつかは渡そうと思っている。それこそ? 社会に貢献できるような素晴らしいリーダーを据えてな」


「それで、お前は一体私に何を言いに来た?」


ブッサが放った一言。

聞いていた白髪は口元を歪ませて悪魔の笑みを浮かべた。


「簡単だ、お前が持っている情報を今からもらう。そして、お前のところに月に一度、"集金"に来る。金額は月に聖貨100枚。それから──」


「いやいや待て待て待て」


手を前に出してブッサは自然にトンデモ発言をする白髪を止める。その事に「ん?」と意味がわからなそうな表情を浮かべる白髪。


「何を言ってるんだ?」

「何が?」


駄目だコイツ、どうかしてる。


「何を言ってる?集金?そもそもなんの話だ?」


「ん?だから、お前の系列店を含めて毎月聖貨100枚(十億)俺が集金に来てやる。もし回収できない場合は言わなくてもわかるだろう?」


「どんな権限があってそんなこと言ってるんだ?」


「あ~。別に理由なんてないぞ? ただ、俺がやりたいからやる。例えば⋯⋯そこにいるウォリアービーストの残党が磔になってるとかな」


ブッサはそう言われて白髪が顎で指す場所へ向く。


「⋯⋯は?」


そこには、男女関係なく壁に磔にされている冒険者たちが数十人並んでいた。

⋯⋯その様は虫の標本。


そのタイミングで荒々しい吐息が聞こえた。


グレイだ。グレイが目を覚ましてキョロキョロ辺りを見渡している。白髪を見つけると、青筋を浮かべて叫び散らかした。


「おい、テメェ⋯⋯!!」

「お〜おはよう、リーダーグレイ」


グレイが立とうと腕を使う。しかし何度も試すが一向に立てない。


「は?」


グレイは完全に青ざめている。見ていたブッサも遅れて青ざめる理由に気付く。


そう、彼には両足がもう無かった。


笑う白髪はずっとそれを見ながら大爆笑している。ブッサは目の前にいる白髪が普通ではない事に⋯⋯徐々に気付き始めていた。


「てめぇ!まさか俺の足を!」


無言で悪魔の笑みをグレイに向ける白髪。


「くっそ!!!ブッサ!早くポーションを!!」


「あ、あぁ」


すぐに倉庫へ行ってポーションを取りに行こうとした時、白髪は俺に声を掛ける。


「ブッサ、一つ言っておいてやる」


自分が無意識に足を止めたのに驚いた。


「ちなみにもし、お前が良からぬ事を考えたら⋯⋯お前の子供の爪を一枚ずつゆっくり剥がすがいいか?」


全身から湧き上がる激情がブッサの表情を燃え上がらせる。


「なんだと?」


「文字通りだ。俺はあえてフランクに接してやってるが、今、お前の奥さんは離れた場所で闇の住人たちに預ける手筈を整えてある。息子の方は⋯⋯まだ色々使える。 鉱山は晩年人手が足りない、小さい頃から躾ければいい人材に育つだろう」


「貴様!!」


近くにある机を蹴り上げて荒らげるブッサ。

しかし白髪は無表情で見続けている。


「何を怒っているんだ?」

「なに?」

「うっ⋯⋯!」


白髪は笑いながら下で蹲っているグレイの髪を掴んで、自分の方へと引き寄せる。


「俺、悪党って大好きなんだよね」


グレイが引っ張られて悲痛な鼻息を上げる中、白髪は続ける。


「グレイ、お前両親は?」


「し、死んだ」


「おーそうかそうか、それはつまらないな。大体お前がやってきたことはある程度の理解しているつもりだ。強姦、脅迫、もみ消し、拉致……言い始めたらキリがない。 相手に申し訳なかったとは思わなかったのか?」


槍で突かれたような顔を浮かべるグレイ。

数秒経ったのち、「ククク」と肩を震わせながら大声で笑い始めた。


まるで白髪が何を言いたいかが分かってるように。


「なんだ、力はあるのに思想は大分いい子ちゃんなんだなお前」


「⋯⋯⋯⋯」


「弱い奴がいけないだろ。弱肉強食なんだから」


「ほう」


「どいつもこいつも弱い奴ら共だ!そんな奴にまともな事を権利はねぇよ!! なんだよ、簡単なことだろう? 皆そうだ!口では綺麗事抜かしやがるくせに、いざという時、それに普段の行い! 誰も何も弱者を救うような事をしてねぇ奴ら共がよく言えたもんだぜっ!? 最高だろ!?」


「だな」

「だろう?」


白髪は間違いないと同調して頷く。


「おう、別に構わないが、それは俺からすればどんぐりの背比べに過ぎない」


「何?」


「現に今、お前に喋らせてやってる権利、生きる権利⋯⋯俺がやらなければお前は息すらままないくらいの痛みを与えることが可能だ」


先程まで捲し立て高々に発していたグレイが一瞬で口を噤んだ。


「自分で言ってて気づかないのか?今お前にやってる事は全部──今までお前がやってきた事と何ら変わらない。これからお前にやる事成すこと全部⋯⋯お前がやってきた事を俺もやるってだけだ」


「はっ、はは⋯⋯」


「なんで俺が悪党を好むと思う?お前ら全員⋯⋯自分が悪党って自覚があるだろう? だからお前たちに遠慮する必要がないから好きなんだよ」


「な、何を」


私がそう言いかけた時だった。

グレイの叫び声が耳に痛々しいほど入ってくる。


「ぅぅ」

「ガル、セレーヌ、ミカエラ、ミーズ、全員覚えておくように。これから人体のお勉強だ」


白髪の言葉に奴隷たちですらドン引きしている。


「ご、ご主人様」

「どうした?」

「さ、さすがに」

「大丈夫だよ。コイツは大量の人族を犠牲にして、快楽や自身の利権から、何から何まで自分勝手な男だ」


そのまま白髪はグレイに顔を寄せる。だがその笑みは、明らかに悪意のある作り笑いだった。


「大丈夫だよな? お前のやってきたことに比べれば⋯⋯これくらい問題ないよな? 遠慮なんて俺がするわけ無いだろ。折角だ、俺の仲間たちに人体の勉強をさせる」


「ぅっ⋯⋯ァァァァァァァ!!」


白髪はそう言って、今も血が流れ続けている部分を躊躇なく踏みつけた。


「いいか?人体というのは」


『ふんんんんんっっ!!!』


『ァァァァァァァッ!!』


「見ろ、ガル。素手で戦う時、この部分を叩くといい」


「え?」


空気が歪み、グレイの腹回りにある急所部分を白髪が容赦なく1発入れる。


『んんんんん!』


「大丈夫、コイツらやり返す気力なんてないから」


当たり前のようにそう言い放ってから尚も続ける。


それは拷問なんかより悪質。

拷問はある程度耐えればいいし、目的があれば精神力でどうにかできる範囲がデカイ。


しかし、そんな目的も理由もない暴力はただの地獄。


グレイが精神崩壊するのに時間は掛からなかった。白髪が平然のやってのける行動に奴隷ですらドン引きするほど。



**



「ァァ⋯⋯」

「あぁ悪い悪い、そろそろ急所がなくなっちまうな」


グレイは終わったと安堵した。

⋯⋯手元を見るまでは。


「ウァァァァイッッ!!!」

「ご主人様⋯⋯」


色々崩壊しているグレイは奇声を上げ、ガルやセレーヌ達は引き攣り顔をみせる。


「なんだ?」

「もういいのではないですか?」

「バカ言え。悪党に遠慮は必要ない」

「咎めたいわけではありませんが、流石にこれは」


周りには体液という体液が周囲に飛散していた。壁は血と胃液のようなものがペンキのようにぶっかけられていて、とても見ていられない状態。


ガルたちが声を掛けるのも当然といえば当然だった。


「お前たちは優しいな」


白髪は穏やかな笑みを浮かべてそう言葉を続ける。


「俺はな、何度も言うが悪党が大好きなんだ。こうやって刺しても、ソイツの家族を崩壊させても、子供を悪徳業者に売りつけるのも、働かせるのも、遠慮なんて必要ない。だって、悪党だから」


白髪が嬉しそうにそういう中、私は側にいるグレイや他の冒険者、性別、年齢関係なしにボッコボッコなっている惨状を目にした。


正直この場から一刻も離れたかった。

目の前にいるのは人族ではなく、悪魔。


⋯⋯正真正銘の悪魔だ。

もはや悪魔のほうが優しいのではないのかと感じる。


 左を見れば女冒険者が全裸のまま腹部を開けられ、右を見れば屈強な冒険者の筋肉が露出したまま放置されている。


 そしてグレイは変な生き物のように痙攣しながら、目から意味不明な液体を流して病気のように叫び散らかしていた。


「だろ? 何故悪党に気など遣わないといけないんだ?俺には到底理解できない。コイツらが行ってきた事について許せないと言いながら、結局そんなモンしか考えてないからだろう。だが俺は違う」


白髪は何か考えているようだった。

その表情からは色々な記憶を振り返ったのか、ゆっくりと瞬きを数回してまたグレイ見下ろして続ける。


「本質を俺は知っている。こういう奴らってのは⋯⋯死なないと分からない奴らってのがほとんどだということだ。しかし、俺は殺さない。二度と過ちを繰り返させない為にも──俺は施す。地獄の罰以上の痛みと苦しみを。コイツらから全てを奪う。言っただろ?俺はイイヤツではないと」


白髪はグレイの首を地面に押し付けながら眼球を一突き。グレイは絶叫を上げるが、白髪は無視して言葉を続ける。


「これが実戦で必要な技だ。こうすればすぐにスキルで回復も時間がかかるだろう。さて、ポーションで回復させるからお前たちも一人ずつ挑戦していこう」


白髪は元気に「食事に行こう」とでも言うように、明るく爽やかな笑顔でそう言って奴隷たちにもやらせた。


それから数時間が経つ。

奴隷たちの反応は様々だった。

⋯⋯当たり前だ。奴隷でも中々される事のない暴力と拷問以上の苦しみを味合わせるなんざーー人族でもみたことはねぇ。


当の白髪ご本人は歪んだ表情のまま、コチラをゆっくりと見た。一連の流れを見ていた私は既に腰が抜けていた。


⋯⋯白髪がコチラへ来る。

逃げたいのは山々だが、私にそんな精神力など微塵も残ってはいない。


「ブッサ、どうする?法的にもお前を殺すことはおそらくできるだろう。ウォリアービーストもこんな始末だ⋯⋯いずれボロが出るはずだ」


白髪が親指で背後にいる泣き叫ぶ冒険者たちを指した。


『は、話します!!全て話しますから!!だからもうやめて!!』


『もう痛いのは嫌!!』


『何でもします!体でも、スリでも何でもやります!』


「何でもやるって言ってんのに今の状況は断るのはオモロイ話だな」


「望みはなんだ?」


「あ?だから、とりあえず下準備はある程度済ませてある。競合も王都だとかなり少ないのだろう?」


「あぁ、私の商店の傘下もある」


「知ってる。だからお前のボロを少し探ったらボロボロ湧き出てきた。法的に殺すのは容易いし、お前をどう料理してやろうかと思ったが、どうせ俺を殺せないだろうし、悪党の名はお前も負けてない。グレイは運が悪かったって奴だ⋯⋯。とりあえず集金額は聖貨100枚。傘下店舗からは三割引いてこい」


「分かった」

「偉い物分りよくなってんじゃん」


「それは、これを見て反論する者がいたらソイツは勇者にでもなってるだろう」


「まぁそれもそうか。とりあえずこの自宅は現状維持のままでいい。後はお前の背後で面倒を見ている貴族たちかな」


「待て、貴族に手を出すつもりか?」


「勿論、もしかしたら王都に行く用事ができるかも知んねぇだろ?早い内に仲良くできたらいいじゃん」


ソレを仲良くだなどと抜かせるとはな。


「とりあえず手始めに、馬車を数台。お前の息がかかった奴等な。それと、お前の肌感でいいから⋯⋯貴族や金を持つ平民たちが集まりそうな場所に一区画でいいから用意しろ。 本当ならお前はコイツと同じ運命を辿る予定だったが──金の成る木を捨てるのは勿体無い。代わりに法だけ守れよ?法さえ破らなければ俺がお前の身分と背後にいる人物として喋ってもいいぞ。ただ人身売買とかそういう明らかなやつはやめろよ?あくまでも敵対勢力が出てきたときの話だからな」


「分かった」


「じゃあ早速死ぬ気で馬車を持ってきてくれ」


それから私は、地獄のような日々が始まった。

詳細はあまりにも酷いから尋ねないでくれ。

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