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不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。  作者: ちょすニキ


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25/102

25話 賭け

「おいおい!こりゃ一体どうなってるんだ⋯!?」


『Guu⋯⋯⋯⋯』

『AAAA〜』


目の前の信じられない光景に慌てて腰にあるロングソードを抜きながら構えるアレックス。


そしてそのまま目の前に起こっている状況を考え出す。


'あれは⋯ホブゴブリン!?それにあっちはバーサカーボア?おいおいどういうことだ!?'


他にも。なんでこんな所にB級モンスターやA級が!?ありえない⋯⋯一体何が起きてるんだ。


アレックスの瞳にはつい数分前まで沢山の人達が行き交い、笑っている光景があったはず。しかし今──。


『助けてくれ〜!!』

『嫌〜!!!』


何故かトラシバの入口が簡単に破壊され、そこから数百?いや、もっと大きな数を感じる魔物の行進がトラシバの町の人間達の瞳に映っている。


'とにかく、今はドーグとリーナと合流して──'


「きゃー!!」

「危ないっ!!」


手にする剣で恐怖で腰が抜けている女性をニタニタと悪笑を浮かべながら剣を振り下ろすコブリン。その光景を瞬で捉えたアレックスが全速力で少し距離が空いているのにも関わらず突っ込む。


「ぐうっ!!」


ギリギリゴブリンの振り下ろしを切り抜け、アレックスは女性を抱えて距離をとった。


「あっ⋯、ありがとうございます!!」

「はい!ですが今は、急いで避難を!」


周りを見渡すアレックス。


'くそっ!どこだ?'


舌打ちをする。もはや周りを見渡さなければ、どこに何があるかが一瞬理解できなくなる程の風景があるからだ。


「あっちです!あっちに冒険者ギルドの方角なので、そこへ何があっても全速力で走ってってください!」

「ありがとう!ありがとうございます!!」


必死にアレックスに言われた方角へと走り始める女性。


「それにしても、あの二人はどこ行ったんだ?急いで合流しないと行けないのに!」


だが、アレックスの耳に入る音は──どこもかしこも爆発の音や悲鳴、そして誰かが魔法を行使しながら戦っている音だ。


'俺一人じゃ⋯⋯何も出来ない!'

でも、俺一人でも戦わなきゃだよな!!


なんの為に鍛錬を積んだ?

なんの為に師事したと思ってる。


その言葉が頭の中を駆け巡り、気付けばアレックスの足は⋯⋯戦闘中であろう方角へともう向かっていた。


「急げ!」


全速力で走る。


以前とは違う。全速力で走っても⋯何故かそこまで疲れない。師匠のおかげだろうか。速度も早い。これなら怪我人くらいは移動させれるくらいの仕事が出来るはずだ。


今やらずしていつやるのだろうか。


「ハァ、ハァ、ハァッ」


そうしてアレックスは音が大きい中心部へと全力で向かった。



         ◇ ◇ ◇



「おい!魔法が使える奴は早く撃て!魔物がこっちに来てる!!」

「分かってる!だけどポーションがもう無いのよ!」

「蒼き星のドーグ!お前は最前線で守れ!雑魚にはそれくらいしかできねぇだろ!」


──同時刻。

町の対処は思った以上に迅速な対応だった。

すぐに冒険者ギルドから避難令が出され、急いで避難所へと走り出す人々。避難令は出されたが、完璧な護衛などない。


 人々の上空からは毒付きである矢の雨が降り注ぎ、毒に侵され倒れる人々。極めて状況は最悪⋯⋯なんて言葉で済ませてはならないだろう。

 だが、済ませなくてはならない。


『S級冒険者の風神は!?』

『現在、王都に向かっていてどうしようもありません!』


冒険者ギルドで頭を抱えているこの男はトラシバ支部ギルド長であるボルフだった。


ボルフはいち早く避難令を出すことに成功した。しかし具体的な陣形を出すのに時間がかかっていた。


'どうする?'

探知系冒険者によると、数万クラス程の魔王軍らしい。何処に配置しようと、数で圧倒されてしまっては──誰であろうと難しい。


立てている旗を見れば間違いなく魔王軍だ。初級の魔法を振り回そうと奴らには効かないだろう。


⋯⋯ここに風神がいれば!


「くそっ!!!」


太腿の太さくらいあるだろうボルフの腕が机を叩きつけた。


激しい木材の壊れる音だけが部屋に響いた。


「ボルフさん、物に当たらないでください。経費が大変です」

「分かってる。メリッサちゃんごめんな」


珍しくつらそうに笑みを浮かべるボルフとメリッサ。


「数万の行進だと?ふざけんなよ〜。風神の魔法ならば、広範囲に広がってかなりの時間稼げる。俺も加勢すれば⋯かなりの時間を稼げる上に勝利出来る見込みがある!肝心の風神がいなければ──」


そこで声を荒らげるのを止め、大きく深呼吸をするボルフ。


'どうしようもないこの状況でこんな話をしている場合ではない'


「では、非常な決断ではあるが⋯⋯配置を──」


ボルフがそう言いかけたと同時に扉が開く。


「ん?君は⋯⋯」

「B級冒険者の者です!現在、前線にて数百人の冒険者達が避難をさせた上で必死に街の防衛を決行中!急いで追加の物資と派遣を!」

「何!?指示を無視して戦っているのか!?アイツらめっ!」


'だがまぁ、俺も人の事を言う権利は無いか'


─「街を守らなければなりません!!」


「ふっ」


何処か嬉しそうな表情を浮かべるボルフ。


「物資だな?具体的な数字はあるか?」

「ポーションが圧倒的に足りません!」

「分かった!」


机を支えに立ち上がるボルフ。


「これより配置とトラシバに属する冒険者達への指示を始める!!この命令は最も優先する物であり、守らない場合は後で覚悟しておけ!」


その場にいたメリッサと冒険者が返事をする。


「私も前へ出る。準備が終わり次第向かうと伝えろ」

「了解しました!」




         ◇◇◇


散々な扱いだった。

リーナは範囲攻撃が得意とされている火の魔法をポーションがあるからといった理由で機械のように使われ、ドーグは盾として使えるからという理由で上のランクの冒険者の体力維持の為に利用されていた。


「うっ⋯!」


'魔力が⋯⋯'


もうポーションの予備があまり残されていない。私以外にも魔法使いはいる。そっちの為に温存されるだろう。つまり──。


「お先真っ暗って、こんなにも辛いものなのね」


最近、ガゼルさんと出会ったせいで⋯⋯忘れていた。


私達に明るい事は一度もなかった。もし出会わなければ今頃魔物の餌にでもなっていたのだろうか。

 もし、ガゼルさんに会っていなかったら⋯⋯


その時、リーナの脳裏には過去の記憶が呼び起こされていた。


─「リーナ?私達※※※※※※※の為に貴女だけでも今すぐ逃げるのよ?」

「でも!」

─「リーナ!もうここは終わりなの。だから何があっても──私達※※※※を絶やしてはならない!」


「⋯⋯⋯⋯」


こうしてここには立っていなかった事でしょう。私の家は純血で何がなんでも男の選び方だけはしんどいなんてレベルの話ではなかったからだ。


 確かに今思えば、全員優れた能力を持っていたのは間違いないし、私だけが大したことのないゴミみたいな能力で生まれてきたのが原因だ。そのせいでしんだほうがいいんじゃなかってくらい差別があった。


「早く次の詠唱を始めろ!」

「⋯⋯っ、はい!」


すぐに詠唱を始める。

全身の魔力という魔力の感覚が無くなっていく。ただでさえ⋯もう残り少ないのにも関わらず、理不尽な言葉を掛けてくる先輩冒険者達。


両手を前に出しているリーナの掌には火が集まっている。


「火よ、我が身を助けよ──ファイアーボール⋯⋯」


詠唱が終わると思いきや、ゆっくりと目を閉じるリーナ。


何も成長していないわ。


なんの為に教えてもらったの?

なんの為に修行したの?

なんの為に貴重な情報を与えてくれたのか。



 カッ!と大きく目を見開くリーナ。見開くと同時にリーナを包む炎がドンドン膨む。

 大きく、そして包みながら燃え上がるリーナが纏う炎。それは火柱にも近い程の大きさに徐々に引き上がっていく。


「おい、なんじゃありゃ?」

「リーナって顔だけの雑魚じゃなかったか?あんな魔法使えてたっけ?」


そんな声が聞こえる中、ドーグはリーナを無言で見ていた。


「⋯⋯⋯⋯」


'リーナ'

マズイ、ただでさえ魔力が多くないというのに、あそこまで魔力を引き上げるなんて⋯⋯自殺行為にも等しい!


「リッ──!!」


止めに入ろうとしたドーグだったが、目の前には荒ぶる魔物の行進。その数体がドーグの構える盾に向かって突進してくる。


「くっ⋯⋯!」


『キキッ!!』

『ゥゥ〜!』


クソッ!リーナ!!気づけ!今、俺達は生き残る事を考えなきゃならないんだ!ここで死ぬ事を考えている場合じゃない!


「火を司る神──メノウよ」


リーナの瞳が紅蓮の炎を帯びる。その瞬間、周りにいた上級と呼ばれる冒険者達の見る目が一瞬で変わっていた。


『まさか、あの小娘──上級魔法を使うつもり!?自殺行為よ!!』


「良いじゃねぇか」と周りにいる魔法使いではない冒険者たちがケラケラ笑いながらリーナを見ている。


『雑魚が雑魚なりに頑張ってるんだろ?』

『やらしとけよ〜。後で理由なんていくらでも付けれるんだから』


信じられないという表情を浮かべながらも仕方なさそうに中級魔法の詠唱を始める他の冒険者達。


そして当のリーナからは最後の灯を纏う姿が映る。


「我が言葉を聞き、その御力を貸し給え──聖なる炎よ、魂の炎をここに具現せよ⋯⋯業魔の炎よ」


ドクン──。

心臓が不規則な鼓動を打つ。

何回も、何回も。


'あぁ、死ぬな⋯⋯これは'


リーナは悔しさと共に。

だがしかしその瞳に宿る闘志はまるで強者のようで、光り輝く闘志漲る炎は失われてはいない。


1度くらい⋯いいわよね?最期くらい──誰か助けたいという冒険者になる時に誓った言葉を守って死にたい。


背後の頭上辺り、そこには火の化身と思われる女性らしき姿が現れリーナに手を貸すように手を添えた。掌には紅蓮の炎が集まり、今なら何でもできると錯覚するほどの力を覚えそうな力の波動が広がる。


魔物と人間の戦い。

数で圧倒されそうな中、リーナは真正面に両手を向け文字通り⋯⋯最後の一言を呟いた。


「悪に、救済を────十字砲火を超える聖なる一撃を""聖なる血焔槍(ラヴァブラッドランサ)""」


体が燃えていくのを感じる。だが逃げない。


「私は」


紅蓮の炎がこれまでに無いほど膨れ上がり、熱風を吹く。周りの冒険者もその熱風に耐え切れずに距離を取るほど。


「私は、」


炎を纏う女神にも見える容姿をしているリーナ。紅蓮の双眸を魔物達へと向けて、自身よりも数倍大きい深紅の槍を掌から魔力で飛ばした。


ゴォォォ──。


凄まじい風圧。ただ飛んでいくだけでも人が吹き飛ぶだけの衝撃波が広がる。やがてその槍は魔物達の中心部へと衝突し、大規模な爆発と紅蓮の炎が吹き上がった。


その炎は消えることはなくドンドン他の魔物へと伝播していき、魔物達の焼ける音が聞こえる程だ。


聞こえる魔物達の叫び声。苦しそうな悲鳴。


対して見ていた人族達は大喜び。


『やったぞ!!』

『これならまだ俺達にも勝機はある!!』

『おい!もう一発──』


数十人の冒険者達がリーナに顔を向けると、希望が絶望に変わるのに数秒も必要なかった。

 そして見ていたその一人にいたドーグは、一瞬で前線を放棄してリーナの元へと走っていた。


「リーナっっ!!!」

「おい!お前何様のつもりなんだよ!!」


ドーグの腕を掴む先輩冒険者達だったが、有り得ない力でその手を振り切った。


「うるせぇぇぇっ!!仲間があんな状態でほっとけるか!お前らが使い捨てみたいにしたからだろう!!」

「なっ!」


普段反論などしない堅物であるドーグが感情をあらわにしながらリーナの方へと向かう。


「はぁっ、はぁっ」


─「ドーグ、あんたはねぇ〜」


「はぁ、はぁっ!!」


─「堅すぎなのよ〜もっと気楽に生きたら?私達は底辺冒険者なんだから」


「はぁっ!リーナ!!!」


辿り着いた。そして全速力でリーナを抱えてその場から立ち去るドーグ。



**

「くっ⋯⋯」


俺が止めていれば⋯⋯。


ドーグは自分の不甲斐なさに苛つきながらも全速力で避難所へと走る。


ドーグ自身も体力の限界なはず。しかし関係ない。


初恋の女性が焼け焦げた状態で見る事がどれだけ彼の心を動かしたことか。


──魔力暴走。

限界を超えた力を使ったり、残り少ない魔力を使うと⋯⋯体中の血管が焼き切れるように燃え上がり、やがて焼け死ぬ。


「避難所は⋯⋯あっちか!!」


場所を見つけたドーグの目の前にはまだ数十人の人間達が走っていた。それに並走しながら周りの状況を理解しながらは同じように走るドーグ。


「皆さん!無事ですか?」

「ええ!お兄さんも怪我してるのね⋯⋯その女の人も」


同じように走る女性が何か察したようにそう言葉をこぼした。


「はい、今は死なないようにしないと」


ドーグは必死に笑みを浮かべる。そんな場合じゃない、自分は戦う冒険者の一人なんだからと。


「ねぇ!あそこ!!」

「⋯⋯っ!」


走る先には数人の死体とそれを貪る魔物の姿。


ドーグはリーナを走る男達に預けて盾と剣を構えた。


「ハァッ、ハァッ」

「ゥゥ〜」


くそっ!どうしたらいいんだ?


「ゴブリンだ!」

「ぼ、冒険者さん!助けてください!」

「分かっています!下がっててください!」


俺は確かに習っている。だが、この個体達は強化個体だ。俺に勝てるか分からない。だが──彼女はやり切った。


ドーグの覚悟が決まった。

刺し違える覚悟の眼差しでホブゴブリン達を見つめながら剣を水平に構えた。


「来い!!化物共ー!!!」


新たに獲得したスキル:『挑発』⋯⋯彼の一番の役所だろう。


「どうか、彼女をお願いします!」


切実な眼差しで集団を見つめるドーグ。

それに応えるように抱きかかえている男は頷いた。


「ああ!命に賭けてあんたの彼女を運ぶ!」

「⋯⋯はは」


ドーグは敢えて背後を振り向かず、そのまま集団との距離を離すように中心部へと少し進んだ。


「頼んだ⋯⋯彼女を助けてやってくれ」


魔物に囲まれるドーグ。


「うぉぉぉぉぉー!!!!」


渾身の雄叫びを吠えるドーグ。


'俺にはあんな事はできないだろう'


ガゼルに剣術を教えられている事を微かに思い出しながら呟くドーグ。


「だが──」


全方向囲いながら上空から迫るホブゴブリンの集団。


 下を向いているドーグだったが、そこから一瞬の間に剣がホブゴブリンの頭上に移動しており、そのまま全方向から迫っていたゴブリン達の首が綺麗に落ちていく。


「毎日鍛錬はかかしていない」

───

──

「緊張⋯⋯ですか?」

「あぁ、お前は無意識に緊張している。緊張というのは非常に良くない。仕方ない部分ではあるが、筋肉の固まりができてしまうと本来の実力が活かせん」

「で、ではどうすれば?」


焦りながら尋ねるドーグ。


背中を見せながら煙草を吸うガゼルが少し首を曲げて向けながら笑みを向ける。


「ふんっ。簡単な事だ──ソレを今からお前に授けてやる。特別だぞ?」

──

───

⋯⋯ドーグ。三人の中で最も天武骨に近い体格をしている。


※天武骨。

この作品においてはある力を使う事に優れているという意味。そして戦うことに特化しているだろう骨格を指す。


「天武骨⋯⋯ですか?」


あくまで三人の中での話だ。もっと向いているのは沢山いる。だが、お前は中々恵まれている方だろう。緊張するのが勿体無い程にな。

さてドーグ?緊張という現象は──何故起こると思う?


「大舞台で戦うことや、命が懸かっている場合⋯ですか?」


そうだな。おおよそ正解だろう。

だが、少しそれは違う。不安による精神のバランスによって、筋肉や心臓が勝手に保とうとするんだ。


そして起こる原因は人によって様々だが、大体が"不安"を感じるということだ。不安?何故感じるんだろうな?


「え?それは⋯⋯」


自然な反応であることは間違いないだろう。しかし俺はふと思ったことがある。

でも、用を足す時や勉強している時、寝る時、飯を食う時、何も感じない。それは何故だろう?と。


「確かに」


共通している事は、当たり前の事や毎日平然と行っている事に緊張なんてしないという事だ。


いいか?全て当たり前(●●●●●●)にするんだ。剣が飛んでくるのも、魔法が飛んでくるのも、強い奴から耐えるのも──全てだ。

 その感覚を身につける為に、俺がお前に授けてやる。


ドーグにニヤリと悪魔の笑みを振り向きながら行うガゼル。


いいか?向いている天武骨に俺が教える技。それを身に着けたお前は⋯⋯緊張なんてする必要がないんだよ。


今からそれを身に着けさせる。

お前は──。























俺は、追いつかなければならない。

仲間のために。そして自分のためにも。



ゴブリンの体が粉々になるまで斬撃が遅れて現れる。


ドーグは見えない速度でガゼルの剣術を使って囲んでいた魔物達を斬り刻んだ。



キィィンンッ──!!!


"お前は⋯⋯三人の中で──一番強くなるだろう"


血の雨が振る中、ドーグは笑みを向けるガゼルを思い出しながら嬉々として剣を抜き、魔物を一蹴した。


「⋯⋯⋯⋯」


お前は最も強くなる。お前に眠る力と、俺が授けてやる力を100使えるようになったら。


「神門式剣術三式──霞桜神代(かすみざくらしんだい)小孔(しょこう)(あけぼの)


剣を抜いたドーグの一撃で囲んだ魔物は死体となり、他に見える魔物達に向けて更にドーグが挑発スキルを向けた。


⋯⋯huh?お前は強くなる。当たり前だろう?


『GYAッッッ!!』

『kKkkkッ!!』


周囲にいる魔物達はその力に恐れを抱き、後退りすら見せている。


文字通り俺が直接授けたんだ。極端に離れてなければ⋯お前が負ける事なんてない。だから緊張なんてするな。お前は強いんだから。



──その日、ドーグという男が将来聖なる盾の悪魔じみた化物と呼ばれる最初の一歩を踏み出した。


剣を振り下ろす音が幾重にも聞こえる。圧倒的な力とそれを動かす体、そして緊張を無くし思うように動かせるようになったドーグが負けることは無かった。


文字通りドーグの圧勝。

しかし、数が増えていく一方⋯⋯ドーグの体力は徐々に疲労を見せていた。


「⋯⋯くそっ」


いくら強くなっても、体力は嘘をつけない。

マズイな。


そこから数十分後、背後から鎧を着た者独特の足踏みが聞こえる。無意識にドーグが振り向くと──そこには見覚えのある顔が笑顔でやってきた。


「やっと見つけたよ、ドーグ」

「アレク!!」


ドーグが安堵の表情を見せる。


「さて、合流したから第二戦と行こうか?」


アレックスの笑みを見つめながら再度剣を抜いて二人は無限とも感じる程の魔物の群れへと戦いに駆けた。


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