エピローグ
現代日本と異世界が繋がった当時の日本は大混乱に陥った。
なにしろデスゲーム騒動を引き起こしたAIが一人のプレイヤーと共に異世界にとばされて、この世界に新たな肉体を得て帰還してきたうえに異世界のロボットと激しい戦いを繰り広げたなんて。
異世界からやってきた調査団と、日本政府が接触。
その後、仲介してくれた二人の少年少女の人力のおかげもあって、二つの世界は協力関係を持つに至った。
あの謎の空間は現代世界と異世界との技術協力の結果、なんとか安定させることに成功。
謎の空間は『ワールドゲート』と称されるようになり、二つの世界は互いに行き来することが出来るようになった。
だが、それだけですべてが終わることはなかった。
ワールドゲートを開いたことで異世界側には世界規模での被害が訪れていた。その復興に力を貸した日本政府ではあったが、異世界も現代も含めてすべての人間が協力的なのではない。
WSの技術が現実世界に流れたこと。
異世界の魔法と言う技術が強力であること。
そして、すべてが急すぎたこともあり、現実世界と異世界との間で戦争が起こった。
現実世界が開発したWSと異世界側が開発したWSとの戦闘。
戦火は二つの世界に広がった。
だが、そんな戦争を止めようとする、現実世界の人間と異世界の人間が手を取り合って生まれた第三の勢力が出現。
第三勢力の必死の働きで、戦争は開幕から一年後に終戦した。
二つの世界に、平和が訪れた。
そして、終戦から二年後。
二つの世界の平和は保たれていた。
☆
「ほら、もう朝ですよ」
恋人に起こされた天城春人は、ベッドから上半身を起こした。隣で一緒に寝ていたはずの彼女は、もうエプロン姿で呆れたような顔をして自分を起こす側にまわっている。
「もうっ。今日もお寝坊さんですか? 異世界にいた頃は早起きだったくせに」
「だってあの頃はほら、お嬢様の使用人だったわけだし。今は違うだろ?」
「関係ありません。まったく、大学に遅れちゃいますよ?」
「分かってるって。……でも俺の気持ちも分かってほしいかな。こうやってアイリスに起こされるのも、なんだか幸せ~って感じがするから」
「だったら早起きして私の事を起こしてほしいですね」
ぴしゃりと言われた春人は肩を竦めて、ベッドから完全に身を起こす。
今はこうして、二人で大学の近くにあるマンションで暮らしている。二人とも割と資金はあるので、このマンションも良いものにした。
天城春人、アイリス・クレマチスを初めとする『魔術師の実験』は第三勢力として参加。四機のXシリーズとそのパイロットたちは『四騎士』と呼ばれ、戦争を終戦に導いた英雄として伝説となった。
だが、戦争中でも二人は離れなかった。異世界から帰還した春人はアイリスと共に同じ高校に通い、高校卒業後には大学に進学。同棲を始めた二人は今に至る。
政府のサポートや異世界のクレマチス家からの資金援助もあって、二人は身分を隠して平穏に暮らしている。二人の名前は有名になりすぎた。
だから戦争が終わった今こそ、二人は普通の暮らしを望んでいた。
大学卒業後は二つの世界が協力して誕生した『世界政府』で働くと決めている。世界政府もそれを歓迎していた。なにしろ伝説のWSパイロットと伝説の指揮官がわざわざ政府で力になると言っているのだから。そして、戦争を終戦に導いた功績も考慮され、こうして二人は世界政府の援助を受けることが出来ている。
戦争の被害を最小限に抑えられたのは、第三勢力『魔術師の実験』のおかげであり、二つの世界の衝突を企む者を突き止め、その目的を阻止したのもまた『魔術師の実験』なのだから。
朝食を食べ終えると、二人は支度をして大学に向かう。
大学に近くなってくると、人々の目がアイリスに集まる。
アイリスはかなりの美少女だし、今年で二十一になってもそれは変わらない。むしろその美しさに磨きがかかっている。
「むぅ……」
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっとアイリスがじろじろと他の男に見られるのはなんか嫌だ」
「ふふっ。心配しなくても、私はあなただけの物ですよ」
鈍い春人はまったく気が付いていないが、この二人は学内でも最高のカップルだと噂だ。
アイリスですら聞こえてくるぐらいの噂なのに、春人はまったく知らない。
今ではその鈍さですら愛おしい。……たまにちょっと、その鈍さが恨めしくもなるけど。
「それにしても、そうやってお寝坊さんばかりしていると単位を落としちゃいますよ? 頑張って戦争しながらも学校に通って、必死に勉強してようやく入った大学なのに」
「けど、ちゃんとアイリスが起こしてくれるんだろ?」
「だから私ばかりアテにしないでください。……はぁ。いっそのこと、使用人に戻りますか?」
「俺はそれでもいいけどな。それではお嬢様、明日から朝は自分にお任せください」
「はい。では、そうしてもらいましょう」
くすっ、と笑いながら二人は手を繋いで大学までの道のりを歩いた。
昼休みにはアイリスの手作りお弁当を一緒に食べたり、一緒に抗議を受けたりして平和な時間が過ぎ去ってゆく。
今日は昼過ぎまでしか講義がないので、一緒に大学を後にすると今日のこれからの行動を話し合う。
「じゃあ、今日はどこにデートに行く?」
「うーん。どこにしましょうか……あ、それではお家デートで」
「それ、デートっていうのか?」
「デートはデートです」
一緒に暮らしているのに。
苦笑しつつも、春人とアイリスは家に帰宅した。
家に帰るとさっそく、二人でのんびりと過ごす時間が訪れた。ベッドの上に腰を下ろした春人の膝の上にアイリスが座って、春人がアイリスを後ろから抱きしめる。アイリスは幸せそうな笑みを浮かべて、春人も同じような笑みを浮かべていた。
ようやく手に入れた、平穏な時間。
これがいつまで続くのかは分からない。
でも今は、これがいつまでも続いてほしいと願うばかりだ。
二人きりの部屋でキスをする。触れるだけの、ちょっとしたキス。それが終わると今度は長く、深く。
アイリスがそこにいるということを実感する。アイリスも、春人がそこにいるということを実感していた。
「ん。こんどは、私が膝枕してあげます」
ベッドの上に座ったアイリスの膝に、春人が頭を乗せる。
そんな彼の頭を、アイリスは優しく撫でた。
春人は彼女のむちむちとした太ももの感触を堪能しつつ、幸せをかみしめる。
しばらく時間が経って、いきなり春人はアイリスを抱きしめて、二人はベッドの上で互いを抱きしめながら寝ころぶ状態になった。
「……平和ですね」
「……平和だな」
どちらかがというわけでもなく、自然と唇を重ねていた。それが終わると、二人とも恥ずかしそうな、照れたような笑みを浮かべる。
異世界でお嬢様の使用人だった少年は、今は現代でお嬢様の恋人になっている。
そんなことがふと頭の中で思い浮かんで苦笑する。
我ながら、奇妙なことになったもんだと。
使用人時代のことと、今朝の会話を思い出した春人は、アイリスに向かって使用人モードで話しかける。彼女の事を抱きしめて、もう離さないとでも言うかのように。
「お嬢様。これからも、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
二人が手にした優しい世界。
これからも二人は、その世界を共に歩いてゆく。
異世界でお嬢様の使用人兼パイロットをやってます
完.
これにて完結。
もうこの小説を書き始めてからあと一ヶ月もすれば一年になっていたのですが、読者の方々はそれほどまでの長い期間、この小説にお付き合いくださって本当にありがとうございます。
色々と至らないところばかりだったのですが、なんとか完結させることが出来ました。
この作品はヒーロー文庫の最終選考にまで残らせていただいたりと、本当に幸せな作品だったと思います。
最初はただ「ロボットと金髪碧眼真面目系お嬢様キャラが好き」という理由だけで書き始めたのに、まさか最終選考に残る作品になるなんて思ってもみませんでしたが(笑)
ラストに関しては、僕はハッピーエンドが好きなので、二人の幸せな日常風景を描いてみました。二人が幸せそうで何よりです。
それでは最後に読者の方々、この小説に最後までお付き合いくださって本当にありがとうございました。
これにて完結です。




