表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/48

第七話 襲撃

 タケミカヅチに搭載されたのは、『GEユニット』と呼ばれるパーツだ。

 詳細は知らない。だが、これをタケミカヅチの中心部。魔力バッテリーと接合させ、『大地の恵みガイアギフト』と接触させることで何らかの反応が起こるらしい。


「お嬢様……考えは、変わらないのですか?」

「変わりません」


 昨日からずっとこんな調子だ。こんなにも頑固なアイリスを見たのはハルトも初めてである。


「しかし、タケミカヅチに搭乗するのは……」

「変わりません。まったく、もう何回言ったと思っているのですか?」


 昨日、アイリスは勇気を振り絞ってあの言葉を口にした。もっと頼ってほしいと。

 それが伝わったのかと思ったが……。


「お気持ちは伝わっていますよ? ですが、」

「嘘はやめてください」

「本当です。お嬢様にもっと頼ってくださいと言ってもらえた時……なんだかとても、嬉しかったですから」


 その発言ひとつで嬉しくなる。まったく自分は単純だとアイリスは思う。

 どうやらハルトは最後の悪あがきをしている状態らしい。だが、昼前にもなるとようやく折れた。

 そしていよいよ、タケミカヅチの進化実験がはじまる。


 ☆


 ホワイトは、背後にいる『友達』に告げる。


「さあ、はじめるよ。あの王都を落とせば、僕たちの目的は達せられる」


 彼の目の前には王都がある。

 あそこにある『大地の恵みガイアギフト』を破壊すれば、元の世界に戻る為のゲートが開く。だがそれは、この世界の一時的な崩壊を招くだろう。

 世界各地に謎の爆発現象でも起きるかもしれない。

 だが、それが彼らの狙い。

 無理やりもう一つの世界への扉を開けることで、一時的にこの世界は崩壊の兆しを見せる。その破壊現象は全世界で勃発するだろう。

 だが、ホワイト以外のヘイムダルのメンバーはそれこそが目的。

 それぞれの理由で世界に絶望した彼らが望む、世界の破壊。

 世界中を効率的に破壊できる手段として彼らはホワイトの導きを求めた。

 そのために彼らは『世界の記録ワールド・レコード』の案内人の噂を流した。実在する『世界の記録ワールド・レコード』は巨大な演算装置そのものだ。それをつかって異世界への扉を開ける。

 だがそれを他の学者たちに発見されるわけにはいかなかった。少なくとも、彼らが使う前には。

 だからこそ、ヘイムダルは噂レベルから研究データレベルでのダミーの情報を流した。

 『世界の記録ワールド・レコード』は北の大陸などには存在しない。


 このブルースター国にある、召喚の地にこそ存在するのだ。


 あの巨大な演算装置を使えば、異界への扉を開くことが出来る。

 その代償として全世界にダメージを与えられる。


 ホワイトは、友達と共に降下する。

 目指すは、王都ハクロ。


 ☆


 ハルトはタケミカヅチのコクピットに入り込むと、アイリスもタケミカヅチの中に入ってきた。

 WSのコクピットは狭い。もともとは一人用だ。その中に無理やり入るのだから、自然と二人の肌は触れ合う。


「あぅ……」

「お嬢様。狭いかと思いますが、我慢してください」

「わ、解ってます」


 もしかするとこれが子の少年と話し合える最後になるかもしれない。そう思うと、ちょっと大胆になることが出来た。

 本来は、コクピットの空きスペースに適当に座っておく予定だったが、アイリスはハルトの膝の上に座った。前は見えやすいように、彼の視界は空くように配慮する。


「お、お嬢様?」

「何か問題がありますか?」

「い、いえっ。これでも操縦は出来ますが」


 ふんわりと漂ってくる彼女の髪の香りや、豊満で柔らかい胸や、むちむちとした太ももの感触がすることは置いておこう、とハルトは心の中で思った。

 確かにこの人は命の恩人で、彼に取っての大事な人なのだ。変なことは考えないように心がける。

 これは普段からしていることで、ハルト本人は気が付いていないのかもしれないが、これが彼が鈍感である理由に一役買っているのかもしれない。


「なら、問題ないですよね?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 その笑みをこんな近距離で見せられたことでハルトは少しドキッと心が動かされる。だが、いつものように平常心を保つように心がける。


「はい」

「…………そうですか。問題ありませんか」


 むすっ、とアイリスは拗ねたように頬を膨らませる。頑張ってちょっぴり大胆になってみてもこの結果だ。流石に問題ないと言われるのは悲しい。だって自分も女の子だし、好きな男の子に対して頑張ってアピールして帰ってきたのが問題ないだ。


「じゃあ、はじめるね」


 エイミーの言葉に、二人は同時に頷いた。

 そして、王都の『大地の恵みガイアギフト』へと向かおうと機体を起動させたところで――――、


 空から降り注いだ禍々しい白色の閃光が、街の一部を焼き払った。


 次の瞬間、基地中に敵襲の警報がガンガンと鳴り響く。

 ハルトはすぐに分かった。ヘイムダルだ。

 実験中の事故に備え、念のために待機しておいたXシリーズがいっせいに起動する。そして、王都に配備されているイクスワンもだ。


「何が……!」

「ヘイムダルです。おそらく、王都に攻めてきたのでしょう」


 ハルトは機体を空へと飛翔させようとした。が、そこでマリナたちから通信が入る。


『ハルトくん、持って行って!』

「これは……」


 武器格納庫のハッチが開き、中から現れたのは、ウェポンユニットの数々。

 両腕に装備する、シールドブレードと呼ばれる盾と剣の役目を果たすウェポン。これにはシールドモード、ブレードモード、フライトモードの三タイプがあり、フライトモードの時には空戦能力を向上させることが出来る。小型盾の周りにブレードがついたような形をしている。

 両足にはクローブレードと呼ばれる近接専用の武器。足に付けることで、つま先から爪型の刃を展開させ、脚による攻撃も可能となっており、また、魔力の予備である小型の魔力タンクも搭載している。

 更には背中にランチャーブレードと呼ばれる射撃装備と機動力アップのためのブースターもフライトユニットの上から取り付けるバックパックタイプの装備まである。このランチャーブレードはパッと見はブレードの形をしているものの、そこから発せられるのは貫通力と切断力を向上させた魔力弾である。また、このバックパックユニットにも小型の魔力タンクを搭載してある。

 また、新しい装備は、大型ブレードの『夜桜参式』がある。これはライフルモードとブレードモードの二種類が存在し、射撃と近接戦闘の二つを行う事が出来るだけでなく、シールドとしても使えるだけの強度がある。


『一応、ハルトくんの力になりたくて色々試しに作ってみたの。でも、あくまでもただの追加装備だから機体の性能そのものをアップさせるわけじゃないのが残念なんだけど』

『相手が相手ですし、武器は多い方がいいでしょう? 不要なら捨ててください』

『さしずめ、『タケミカヅチフルウェポン』ってとこだね!』


 装着作業はすぐに終わった。どうやら予め作業用アームにそれぞれのウェポンをセッティングしておいたらしい。


「ありがとうございます。マリナさん、コサックさん」

『帰ってきてくれよ。君は僕たちの大切な仲間なんだ』

『そうだよー。ハルトくんがいなくなったら、私もみんなも悲しいからね!』


 二人の気遣いと思いをしっかりと受け取り、ハルトは最後に傍にいる彼女に問う。


「お嬢様、タケミカヅチから降りて非難したりは……」

「しません。そんなことをしている時間ですら惜しい状況ですし、それに……」


 アイリスは、ハルトの目を見る。

 伝えたいことを、伝える為に。


「あなたを一人にはしません」

「……了解です。お嬢様が自分を……いや、俺を一人にしないというのなら、」


 アイリスは、ハルトが自分の目の前で『俺』という言葉を使うのを見て驚く。

 彼の中で、アイリスに対する何かが変わったような、そんな気がした。


「俺も、お嬢様を一人にはしません。必ず最後まで、あなたを頼り、そして守ります」


 ハルトの言葉に、アイリスはこんな時だというのに思わず笑顔になった。

 この瞬間。

 ようやく、彼が自分を頼ってくれていたような気がしたから。


 既に外で戦闘は行われている。ヘイムダルの機体を相手に、ユリたちも奮戦している。そしてどうやらヘイムダルは、ビーストを操作する技術を使って、大量のビーストを操り、王都へと攻めてきているようだ。

 既に多くのビーストが、王都に攻め入っていた。イクスワンたちがそれを迎撃しているのが視える。

 タケミカヅチフルウェポンは、両腕のシールドブレードを展開させ、飛行魔法を展開させる。


「――――タケミカヅチフルウェポン、アクセラレーション!」


 機体を加速させる。目指すは、彼の倒す敵。そして、すべての元凶。

 あの白いタケミカヅチ。

 そしてそれは、あろうことかクレマチス家の屋敷の上空にいた。ライフルの銃口を屋敷へと向けている。

 そうはさせない。

 ハルトはランチャーブレードから刃型のエネルギー弾を発射する。回避はされてしまったものの、ライフルの銃口をそらすことには成功した。


「やあ、待ってたよ春人くん」

「W、やはりお前か!」

「やだなぁ。今の僕はWじゃない。ホワイトさ。そして、こいつも良い機体だろう? 君の機体を参考にさせてもらったよ。名は、WWホワイトダブルさ」


 WWホワイトダブル夜桜白式ヨザクラビャクシキを展開。切りかかる。が、それにタケミカヅチも応じる。夜桜弐式を展開させ、刃と刃が激突する。


「貴様ッ……! まだ破壊を続けるのか! あれだけの人を殺してッ!」

「それは君がいえることじゃないだろう? あの世界で、君も大勢の人を殺した。そしてこの世界でも、君に殺された人は大勢いるはずだ」


 刃を互いにはじきあい、WWホワイトダブルは背中からクローアームを展開する。それは伸縮自在と思えるぐらいに伸び、あらゆる角度からタケミカヅチを襲う。

 ハルトはそれを必死でかわし、またある時にはシールドブレードのブレードモードで受け、クローブレードで蹴り上げる。

 距離を離し、ランチャーブレードと夜桜参式でエネルギー弾を放つ。が、それをホワイトダブルは紙一重でかわしていく。あの背中から展開されているクローブレードがあの起動に一役買っているのだろう。


「そうだ。俺も人殺しだ。お前がきっかけで、人殺しになった。……だから俺はもう、俺みたいな人間を生まないためにも、ここでお前を倒す!」

「その意気だよ。君とは決着をつけておきたいからねぇ。唯一僕に死という概念を感じさせた君とは、ね」


 王都上空でタケミカヅチとホワイトダブルの戦いが繰り広げられる。他のヘイムダルたちも、それぞれのXシリーズとの戦いに興じている。

 フリージアは、故郷の敵であるレドラスと。

 モネはファングを駆るシドと。

 ユリはウィンターを操るベルと。

 それぞれの戦いを繰り広げている。

 そんな彼らを横目に、ホワイトは言う。


「見てみなよ春人くん。この世界でも人間は変わらない。WSなんて兵器を乗り回して、結局は同じ人間同士で争っている。これって、とても愚かなことだとは思わない?」

「確かに愚かかもな。俺も、お前も! けど、それが人間だ!」


 ハルトの叫びに応えるように、タケミカヅチは魔力をあげる。夜桜参式という大型ブレードを振り下ろした重い一撃。が、ホワイトダブルはそれをクローを幾重にも重ねることで防いだ。


「奇遇だね春人くん。愚かで醜い事が人間。僕もそう結論付けたんだ」

「だったらなんだ? 俺とお前が今更そんなことを語り合った所で、何も変わらない。俺はただ、お前を倒すだけだ!」

「『だったらなんだ?』か。春人くん。僕は君の言葉にこう返すよ『愚かで醜い事が人間だから、僕は人間を滅ぼす』ってね」

「だからあのデスゲームを仕組んだのか!?」

「そうさ。けど、あの方法は非効率的だった。何しろ僕はただのゲームを管理するだけのAIだったからね。でも今は違う。魔力で構成された体がある。君と同じ、ね」

「同じ……? それは、どういうッ!?」


 幾重にも重なったクローのパワーによって弾かれる。そして、クローの先端からエネルギー弾が連続して発射された。ハルトは機体の両腕のシールドブレードをシールドモードにしてそれを耐える。


「ハルト!」

「大丈夫です、お嬢様!」


 ハルトは頭の中で、さきほどのホワイトの発言を理解していた。

 この体は、魔力で構成されているだけの体なのだと。


「……だから、なんだ!」


 魔力で構成されているからなんだ。この体がなかったら、彼女と出会えていない。この体がなかったら、彼女をこうして守ることを出来ない。

 ハルトはタケミカヅチを加速させる。迫りくる無数のエネルギー弾を必死にかわす。対するホワイトは、余裕とでも言いたそうに、言葉を紡ぐ。


「どうして人間って戦うんだろうね? 僕には理解できないよ。戦いなんて非効率的なことをしているから、世界から戦争はなくならない。人も無駄に死ぬ。資源も無駄だ。戦うということは、この星そのものを食いつぶしているという事なんだよ?」

「随分と大そうなことを考えているんだな……! お前、本当は人間が好きなんじゃないのか?」

「うん。僕は人間が大好きだよ。とっても大好きさ。大好きだからこそ、僕は人間を殺すんだ。人間を殺す人間を、僕は殺す」

「狂っているな、相変わらず!」


 互いの機体がぶつかり合う。気が付けばタケミカヅチとホワイトダブルは、『大地の恵みガイアギフト』の存在する補給施設の真上にまで来ていた。


「僕は君ですら大好きだよ春人くん。でも、だからこそ――――お別れだ」


 もう遊びは終わりだとばかりに、ホワイトダブルの背から翼が現れた。そして、姿を一瞬にして消失させる。

 消えたと視えるぐらいに、


「速いっ!?」


 反応は出来る。が、それでも反応するのが手一杯だ。機体がついてくるかは分からない。

 なんとかとらえた敵の姿に向かって、エネルギー弾を放つ。が、それを簡単にかわされる。

 一瞬にして距離を詰められた。


「さあ、春人くん。どうする?」

「このッ……!」


 タケミカヅチの口が開く。

 魔力が収束する。

 発動するのは、近距離波動砲『雷神の息吹ソールブレス』。

 しかし。


「遅いね」


 雷神の咆哮が発せられる前に、タケミカヅチの頭部がホワイトダブルの手に捉えられ、砕けた。

 直前まで発射状態だった頭部が大きく魔力爆発を起こす。だが、それでもまだだと叫ぶ。

 夜桜参式を振るう。が、それすらもかわされ、クローによって絡みつくように捕縛され、剣が砕けた。


「じゃあね、春人くん。君は僕の目的達成の為の鍵と一緒に、眠らせてあげる」


 言うと。

 ホワイトダブルは、クローを展開させて、タケミカヅチのフライトユニットの翼に絡みつくと、それを容易くへし折り、砕き、破壊した。そしてクローを集約させて、収束エネルギー弾を放つ。


「――――――――ッ!?」


 シールドブレードをシールドモードにし、『A.I.P.F.』と連動させて展開。だがそれでも敵のエネルギー弾の魔力は圧倒的で、頭部とフライトユニットの翼を失ったタケミカヅチはそのまま魔力の束に圧される形で補給施設に叩きつけられた。


 その結果として。


 王都ハクロの『大地の恵みガイアギフト』は、破壊された。


 ☆


 フリージアは、目の前の赤いWSと対峙していた。


「貴様が、私の故郷を!」

「あぁん? んなこと知るかよめんどくせーな」


 キオネードの猛攻を、レドラスの機体は軽くいなす。次いで、ボウガン型のライフルで追撃する。


「くっ……ウィザードシステム!」


 出し惜しみはなしだ。

 必死に訓練で身に着けた力を今ここで使う。使わなくてどうする。

 キオネードの装甲を、吹雪が覆っていく。

 機体に展開された氷の翼をはばたかせ、キオネードFBフルブリザードはレドラスへと駆ける。レドラスの機体より放たれたエネルギー弾を回避し、氷で覆ったことによって完成した大型ブレードで切りかかる。


「つーかさぁ。私はいちいち潰した街のことなんか覚えてないっての」

「貴様ぁ!」


 互いの機体の刃がぶつかり合う。だが、フリージアは自分がおされ始めていたのを感じていた。明らかに敵の技量が上だ。ウィザードシステムも使っていないのに、だ。


「あははははは! つーかさつーかさぁ! んなこたぁどうでもいいから、さっさと殺し合いを楽しみな!」

「お、前はッ……! そんな、そんなくだらない理由でこれまで多くの人を殺して来たのか!?」

「理由? 理由なんて大そうなもんいらないっしょ! 私はWSに乗って好き放題暴れられれば、それでいいんだよっ!」


 トリッキーな攻撃に翻弄されつつも、なんとか食らいつく。

 こいつだけは……この狂った化け物だけは自分がここで倒さなければならない。


「ほらほらもっと私を楽しませろぉ! そんな程度じゃないだろう!? 復習者ってやつはぁ!」


 フリージアは覚悟を決め、決意をする。

 ウィザードシステムを最大限に発揮させ、機体をレドラスの機体へと突っ込ませる。攻撃を受けても構いはしない。悔しい事に、技術は相手の方が上だ。ならば自分にできることは、下手に避けることよりも突き進むことだけ。

 フルブリザードの氷の走行を最大展開させる。装甲が砕けるのが先か、それとも敵に到達するのが先か。

 キオネードの胴体の一部が破損した。右脚が砕ける。左腕が破壊される。

 これは、賭けだ。

 機体がもつかどうかの。


(もってくれ、キオネード! 私に力を、貸してくれ……!)


 賭けに勝利したのは……フリージアだった。彼女は土壇場でウィザードシステムを最大限に発揮させることに成功し、なんとか耐えきった。

 0距離。

 キオネードはかろうじて残っている右腕を振るい、敵のコクピットに氷の剣を差し込む。最後のチカラを振り絞り、相手に突き刺した剣から手を離し、右手に氷を纏わせる。右手には氷で出来た、先端がブレードになったナックルガードが完成した。

 それを、渾身の力をこめて、敵のコクピットに叩き込む。


「いっけぇえええええええええええええええええええええええええ!」


 キオネードの右腕は、敵のコクピットに深々と突き刺さり、そして。


「あ、ハはっ。ナァンだ、やれば、デキルジャン……」


 真紅の機体は、断末魔を残すことなく爆散した。

 少女の復讐と共に、それは炎に焼かれて散った。


 ☆


 ユリとモネは、目の前の二体のWS……ファングとウィンターに苦戦していた。

 やはり手ごわい。

 そう簡単には勝てない。


「話にならんな。ウィザードシステムも使えない状態で、俺に勝てると思うな!」


 言うと、ベルはウィザードシステムを起動させる。シドも同様に、システムを起動させた。

 その光景を見たモネは、思わず顔を引きつらせる。


「あちゃー。こりゃピンチってやつ?」

「…………」


 ユリは答えない。ただ、静かに瞑想するかのように意識を集中させている。

 その間にもウィンターはユリのカグツチへと迫っていた。氷の化身が、カグツチへと剣を振るう。

 その時。

 カグツチが、炎に包まれた。


「!? これはっ!」

「……ウィザードシステム」


 システム起動画面には、確かにウィザードシステムと表示されている。

 ユリはあれから何もしてこなかったわけではない。

 今度は守られるわけではなく、守るために努力を重ねた。

 もうあの時のように、やられはしない。


(……ハルトはアイリスを守らなきゃならない。だから、私はハルトに助けてもらわなくてもいいようにする)


 ユリはモニター越しにモネを見る。

 訓練に付き合ってくれた彼女に、感謝する。


「んじゃ、私も使っちゃおっと」


 システムを起動させる。そして、アマテラスもカグツチと同じように、炎に包まれた。

 魔力の炎。

 これが、この二機のウィザードシステムの力。その光景を見たシドが、口笛を吹いて素直に驚きを露わにする。


「へぇ。こりゃ凄いじゃねぇか。こんな短期間でウィザードシステムをモノにするなんてなぁ」

「あ、知らなかった? 私って天才なんだよね」


 四機の機体がいっせいに動く。

 カグツチは強化された射撃能力で確実にウィンターを追い詰める。全身から炎の矢が放たれ、ウィンターが作り出した氷の壁を突破する。

 ウィンターは回避を試みるも、ホーミング性能のある矢に四肢を撃ちぬかれた。


「バカな! この俺が圧されている!? ついこの間まで、ウィザードシステムも使えなかったやつなんかに!?」

「……もう守られるばかりじゃない。私も、戦う!」


 紅蓮の巨大な閃光が放たれた。

 少女の抱いた決意の一撃は、氷の化身をこの世から完全に消滅させた。




「お友達が死んじゃったみたいだけど、降参しない?」

「ハッ! するかよ!」


 ファングとアマテラスが激突する。その激しい戦闘は、周囲のビーストたちを巻き込み、破壊し、蹂躙する。


「やっぱ良いよなぁ! 戦いって言うのはよォ!」

「私にはわかんないけどねっ!」


 今のところ戦いは互角。が、シドは更に魔力を発する。これ以上に行くために。もっと戦いを楽しむために。


「アハハハハハハハハハハ! もっとやろうぜ!」

「ッ……! 付き合いたくはないなぁ……!」


 機体の限界を、ウィザードシステムによって更に引き上げる。それによって更なる負荷が機体にかかる。シドはそれでもかまわなかった。目の前の少女との戦いを楽しむことが出来ればそれで。


「てめーのウィザードシステムその程度か!? あァ!? ただ火だるまになるだけか!? もっと俺を楽しませろ!」

「お断りだよっ!」


 アマテラスは変形してファングの周囲を飛び回り、多方向から射撃を加えていく。

 シドからすれば拍子抜けだ。今更その程度の操作をされて、自分がとらえられないとでも?

 今、自分はウィザードシステムによって機体も、体も、能力を限界以上にまで引き上げられているのだ。

 システム発動前ならいざ知らず、今の自分にそんなものは通用しない。

 バーサーカーと化したシドの眼は的確にアマテラスを捉え、限界以上の性能をたたき出しているファングは一瞬にして、アマテラスへと接近。間髪入れずにその爪を変形状態のアマテラスへと叩き込む。


「あはははははははははは! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


 が、その手ごたえはない。

 空を掴むかのような感覚。

 そして、ファングの背後にいるのはアマテラス。

 気が付いた時にはズドン、と『A.I.P.F.』で収束させたエネルギーブレードを背後からコクピットのある部分に突き刺していた。


「、ハ?」

「ごめんごめん。今、君が切ったのはさ、アマテラスのウィザードシステムの魔力が作った陽炎ニセモノなんだよね」

「……、…………、……ア?」

「そっか。聞こえていても、もう答えられないんだよね。それじゃあさ、」


 アマテラスはライフルの銃口を、ファングのコクピットに向ける。


「死ねば?」


 至近距離におけるエネルギー弾の連射。

 それにより、ファングとバーサーカーは、王都上空で消滅した。


 ☆


 ハルトの目の前は、真っ暗な闇に閉ざされていた。

 何が起こっているのか分からない。

 彼は気が付くことはなかったが、タケミカヅチは今現在、破壊されたはずの『大地の恵みガイアギフト』に浸食・・されていた。

 まるで失った何かを補おうとしているかのように、漆黒の巨人を侵食していたのだ。


 自分はどうなったのだろう。分からない。でも、確かなことは……自分はまだ生きている。

 では、彼女は? アイリスはどうなったのか?

 分からない。


「――――ルト……ハ……」


 もう、どうすればいいのか分からない。

 まるで精神が汚染されているような感覚。

 ネガティブな思考で頭が埋め尽くされていくかのようだ。

 これが話にきいていた『大地の恵みガイアギフト』の精神汚染なのだろうか。

 でも、それもどうでもいい。

 すべてがどうでもよくなってきた。

 勝てない。

 あの白い化け物には、勝てないのだ。


「――――ハ……ルト……」


 誰かの声が聞こえる。誰だ?

 いや、自分はこの声を知っている。

 この世界に来て見つけた、もっとも大切な人の声。


「――――ハルト!」


 はっと目が覚める。気が付けばハルトは、アイリスに抱きしめられていた。

 それを自覚して、彼女の存在を確かめるかのように、ハルトはアイリスに呼びかける。


「お嬢様……?」

「ハルト! よかった……! 無事だったのですね?」

「はい……一体何が、どうなって……」

「あのWWホワイトダブルという機体に、私たちは『大地の恵みガイアギフト』に叩きつけられたんです」

「そう、でした……確か、そうだった、はず。でも、そこから……」

「そこからあなたは急に意識を失って……何が起こったのかと、心配したんですよ?」


 彼女の目にきらりと光る涙のようなものが見えた。ハルトは自然と彼女の目もとに指をそえて、そっとぬぐう。


「……また、助けてもらいましたね。あの時と、同じです」


 はじめて出会った日。

 この世界に来たハルトは、アイリスに助けられた。


「でもそこからは、私が助けてもらってばかりでした」

「違いますよ、お嬢様。俺は、ずっとあなたに助けてもらっていたんです」


 この世界に流れ着いて、ハルトは一人だった。

 元の世界に帰る方法は分からない。

 孤独や恐怖に押しつぶされそうになりそうだった時もある。

 だけど、そんな時にはいつも彼女の笑顔に助けられた。だからこそ、彼女の為に働こうと思った。使用人でも、彼女の役に立てるのならなんだってやる。WSでだって戦ってみせる。

 すべては彼女のために。


「俺はずっと、心の中であなたを頼っていたんです。この世界に来て、一人になって。そんな時に、お嬢様の笑顔に癒され、助けられてきました」


 アイリスはハルトの言葉に驚きつつも、『この世界』という単語にも反応した。さきほどの会話はすべて彼女はきいている。

 それにこれ以上、彼女に隠すこともない。


「お嬢様。俺は、あなたに嘘をついていました」

「嘘、ですか?」

「はい。俺は、記憶喪失でもなんでもありません。別の世界の、人間なんです」


 ハルトは話した。

 もともと自分は別世界から来た人間だという事。

 デスゲームに巻き込まれ、ゲームと酷似したこの世界へとやってきたこと。

 すべてを、話した。

 彼女を、頼った。


「申し訳ございません。お嬢様。今まで俺は、あなたを騙していました」


 嫌われてしまっただろうか。いや、そもそも自分は好かれるほどの事をしたのだろうか。所詮は人殺した。しかし、たとえ嫌われたとしても、ハルトのすることは変わらない。

 彼女の為に、全力で戦うだけだ。

 だが、アイリスは。

 嫌うわけでもなく、拒絶するわけでもなく。

 ただ。


「……嬉しい、です…………」


 涙を流していた。

 突然の彼女の反応に戸惑うハルト。だがアイリスは、それでもと、言う。


「お、お嬢様?」

「嬉しい、と言ったんです。ハルトが、私に本当のことを言ってくれて、私を……頼ってくれて。とっても、嬉しいです」

「でも俺は、お嬢様をだまして……」

「私に嘘をついていたとか、ハルトが別世界の人間だとか、そんなことはどうだっていいんです。あなたが今まで私やみんなの為に命がけで戦ってくれたんですから。嘘をついていたのがなんだっていうんです? その嘘だって、異世界から来たなら当然じゃないですか。怒る理由なんて何もないです。怒るどころか、自分の世界でもないのに、一生懸命に戦ってくれたハルトには、感謝しても感謝したりないぐらい」

「……本当の俺は、こんなやつじゃないんです。現実の俺は、ただの子供なんです。この体は魔力で出来ていて、スキルだって所詮はゲームの、仮初の物なんです。現実の俺は、WSの開発だとか、そんなことは出来ない、普通のやつなんですよ?」

「それこそ、関係ありません。ハルトはハルトです。私の大切な人……」


 アイリスは、ハルトと向き合う。すべてを打ち明けてくれた少年に対して、今度は自分の気持ちを打ち明ける番だと思った。そしてアイリスは、ハルトの唇に、自分の唇を重ねた。

 驚くハルトをよそに、アイリスは美しい、満面の笑みを浮かべる。


「……私の、好きな人。ハルト。私は、あなたのことが大好きです。私は、あなたのことを愛しています」


 彼女の気持ちを受けて。

 ハルトの答えは、自然と口からこぼれ出た。


「――――俺も、お嬢様が好きです。あなたのことが大好きです。アイリスのことを、愛しています」


 もしかすると、ずっと前からそうだったのかもしれない。

 自分自身でも気づかなかったことだが、ハルトはずっと前から、目の前にいる彼女のことが大好きだったのかもしれない。

 だからこそ、次の言葉も自然に出た。


「これからも、俺の事を支えてくれますか?」

「当たり前です。だってあなたは、私の世界で一番大切な人なんですから」


 二人はもう一度、唇を重ねた。今度はお互いから。そして、二人は互いを抱きしめあう。

 もう何も怖くはない。暗闇なんてない。

 彼女がいれば、あのホワイトにだって勝てる。

 あの時は一人でホワイトと戦っていた。

 けど今は違う。

 アイリスと言う、世界で一番大切な、守るべき人がいる。

 自然と、光が溢れた。

 『大地の恵みガイアギフト』から溢れる魔力の輝き。

 そしてその輝きは、タケミカヅチを包み込み、新たな形へと――――進化させていく。


 光が、迸った。


 それは補給施設の残骸を突き破り、その光の柱にのって進化したタケミカヅチが飛翔する。

 その光景に、ホワイトは初めて表情を歪めた。


「これは……!?」


 光の柱の中には、さきほど葬ったはずのタケミカヅチがいた。

 だが、形状が変化している。

 背中にはホワイトダブルと同じ、『フライトウイング』が搭載されている。形状も侍や武士といったものから騎士のようなものへと変化している。

 両腕にはこれも形状の変化したシールドブレード。

 両足には形状の変化したクローブレード。

 そして、背中のバックパックにはフライトウイングと一緒に形状の変化したランチャーブレードが搭載されている。

 そして右手には、刀から剣へと形状を変化変化させた、『夜桜極ヨザクラキワミ』。

 これこそが、進化に成功させた新たなタケミカヅチ。

 その名も、


「――――『タケミカヅチFWフルウェポンキワミノツバサ』、加速アクセラレーション!」


 翼から発せられた魔力により、進化したタケミカヅチは加速する。


 最終決戦の幕が開く。




最後にあった通り、これが最終決戦です。

もうあと一、二話ぐらいしたらこの物語も終わりを迎えます。

あとは最終話まで一気に突っ走ろうと思いますので、よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ