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第12話 現れたモノ

 ハルトはウィザードシステムをほぼ無意識の内にコントロールしていた。機体を魔力エネルギーの塊へと変質させる<落雷ライトニングストライク>にも関わらず、こうしてマニピュレーターでタンクを持ち上げて移動できるのも、そのコントロールの賜物だ。

 現状、腕部以外を雷化させているこのシステムであるが、その速度に変わりはない。立ちはだかる障壁を全て破壊し、突き進む。懸念されるのはこうして持ち運んでの移動中に爆破されないかということだが、爆破の術式を雷の力で麻痺させ、一時的にだが爆破を不可能にしているので問題はない。

 しかしその麻痺もシステムが切れてしまえば効力を失う。そのシステムもここに来るまでに多用しているので残量魔力的にもキツイ。

 時間は限られている。

 ハルトは表示されるシステムの限界時間を確認しつつ、歯がゆい思いで空を駆ける。

 黒い影はやがて見えてきた光の中へと飛び出す。直後、目の前には戦火の光景が広がる。どの部分に落としても味方に被害が及ぶ。となると、残りは上になるしかない。

 急上昇。同時に、システムの限界時間が訪れようとしていた。

(間に合わない……!)

 もしシステムが切れれば即座に遠隔で爆破させてくるかもしれない。Xシリーズが基地の外に出ているとわかればせめてこの機体だけでも葬り去ろうとしてくるはずだ。

 決断はまさに一瞬。

 ウィザードシステムによって発生した魔力を総動員してタンクを真上に放り投げる。巨大なタンクは軽々と飛翔し、そしてタケミカヅチから放たれた雷撃が炸裂する。

 ガロンの上空で、巨大な爆発が巻き起こった。

 衝撃はシステムの限界時間が訪れたタケミカヅチにも容赦なく降り注ぐ。だが、寸前のところで純白の機体がタケミカヅチを掻っ攫い、爆発から離脱していく。

 黒騎士の魔力はもう限界に達していた。次のエネルギー補給を終えるまで満足に戦闘の出来ない機体の中でハルトは大切な人たちを何とか守り切れたと、安堵した。


 □□□


 その後、戦闘はすぐに収束した。最後の策を破られ、更にXシリーズの鬼神の如き活躍に抵抗できなかったドミナントは主戦力を回収したのちにすみやかに撤退した。ブルースターは晴れて、ガロン基地を取り戻したのだ。

 それらのことを主に報告したレドラスは、遠くからガロンの基地を眺める。

「さぁてと。結局あの基地の大地の恵みガイアギフトに<鎖>はなかったってことは調べて分かったわけだが……まあ無駄足ってこともなかったかな」

 彼女らヘイムダルが今回の戦闘に協力したのはレドラスを基地内に入りやすくするため。そして彼女は基地内で調べなければいけないことがあった。ガロンの基地の大地の恵みガイアギフトが<鎖>であったか否か。

 鎖。それは、この世界に存在する一部の大地の恵みガイアギフトに宿ったあるものの封印。ヘイムダルの現在の目的は鎖の宿った大地の恵みガイアギフトの破壊。

 例えばメガロ。

 例えばストックキャニオン。

 例えば沿岸要塞。

 例えばセイヴィルド。

 例えば、ガロン。

 鎖が宿っているか否かは実際に現地に赴き、直接データベースで調べるかヘイムダルのWSに搭載されている特殊なセンサーで確認しなければならないのだが、メガロ、ストックキャニオン、沿岸要塞に関しては無駄足だった。

 最近の当たりはセイヴィルドのみ。

 メガロはわざわざ試作品を持ち出し、ストックキャニオンや沿岸要塞に関しては海賊を誑かして(少し裏で洗脳系の魔法も使用したが)まで戦闘を仕掛けたのにこのザマだ。

「やれやれ。悉く邪魔をしてくれるねぇ。実験部隊とやらも」

 ここ半年ほどでこの世界の技術は飛躍的に進歩した。

 その起点は間違いなくあの実験部隊。

 だがその恩恵はヘイムダルも受けている。

「が、そろそろ目障りかな。クレマチス家の連中もそろそろ邪魔になってきたことだし、あの子にも働いてもらおうとしますかね」

 そういったレドラスは邪悪な笑みを浮かべながら、真紅の機体へと身を躍らせた。


 □□□


 ハルトは自軍の物となったメガロ基地の真ん中で立ち尽くしていた。その視線は待機状態にあるWSや忙しく動き回る人々ではなく、一人の少年の姿を捉えていた。

 背丈はハルトと同じぐらい。年齢も同じぐらいだろうか。いや、それだけではない。姿形そのものが、ハルトとほぼ同じもののように見えた。まるで自分のドッペルゲンガーでも見ているかのようだが、自分とその少年には違いがった。

 その少年は限りなく、白かったのだ。

 不自然なほどに、白い。

 だがそれを気に止める者は周りにはいない。

 いつしか音すらも消えたように感じた。

 そんな静寂の中、少年は口を開く。


「――初めまして。いや、久しぶり、とでも言うべきかな?」


「……お前、は?」

 さっきからこの少年に目が離せない。そして、この少年と会ったのは今日が初めてではないと感じている自分がいることにも違和感を感じていた。

「まあ、この姿で会うのは初めてだからね。それも君自身の姿ともなればその反応も無理はない」

「…………」

「でも、仕方がなかったんだ。僕がこの世界に来る直前に目の前にいた人は君しかいなかったから」

「この世界、だと……?」

 その言い方に引っ掛かりを覚えたハルトはすぐに気づく。

「まさかお前は……いや、お前も……!」

「そう。僕も別の世界から来た存在だよ」

 呆気なく、少年はそれを認めた。

 ハルトと同じ、別の世界からこの世界にやってきた存在なのだと。

「そんなことよりも、ガロン奪還作戦お疲れ様。君は相変わらずの強さだね」

 にっこりと微笑む。が、自分ではない自分の笑みを見ても不気味だとしか思えなかった。

「そう。君は相変わらず強い。けどそれは、何も変わっていないことと同じだよ」

「言いたい放題だな」

「うん。けど、僕も君のことを言えないかな。相変わらず、僕は人への気持ちを変えられない」

「……何を言っている?」

 ハルトには理解できなかった。

 この不気味な少年の言っていることが。

 だからこそ、不気味だった。

「前のやり方は非効率的過ぎた。何しろ限られた人間しか選別できなかったのだから。けど、今回はもっと手っ取り早い手段をとることにするよ」

「前のやり方? お前は何を言っている?」

「いずれ分かるさ」

「……待て。お前は、まさか……!」

 気づく。

 これまでのこの少年の発言。それらを統計し、更にこの不気味な感覚。そうだ。ハルトは覚えがある。この感覚に。この世界に来る直前。こちらの姿をコピーした存在。

 蘇る記憶はあの死闘。あのデスゲームを支配していた黒幕。


「自立型AI、<W>……!」


「あはっ。やめてよそんな言い方。僕はもうこの通り、人間になったんだから」

「お前、この世界で何をする気だ……!」

「だから言ったろ? いずれ解るさ。じゃあね。天城春人くん」

「待て!」

 手を伸ばす。だが、捉えられない。手が掴むのは虚空。

 音が蘇る。

 同時に、白い少年が消える。

 残されたハルトは分けもわからず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

 なぜならば勝利の後にもたらされた情報があまりにも多く、重く、そして大きなものだったからだ。


 □□□


 確かにこの戦いには勝った。だが、その後もたらされた突然の情報。元の世界へと情報。それが、ハルトの足を鈍らせる。

(どうして……なぜ、あいつが……)

 ハルトはこの世界においては敵はいなかった。その引き継いだスキルやデスゲーム時代に培った操作技術。そして、この世界におけるある程度の知識。イレギュラーは何もさっきの出来事だけではない。

 だが、あの<W>という得体のしれない、不気味な何か。そして、彼がやろうとしていることを考えるだけで恐怖がわいてくる。

 この世界の大切な人を、巻き込んでしまうかもしれない。

 ――また、あの地獄が始まるのか。

 足が鈍る。体が震える。ふらつく。

 そんな体を誰かが支える。支えてくれた。

 手だ。暖かな、手。顔を上げる。

「大丈夫ですか?」

「お嬢様……」

「どうしたのですか? どうやら酷く狼狽しているようですが……何かあったのですか?」

 怖い。

 あの多くの人々を地獄へと突き落とした悪魔が。

 元々、ハルトはただの子供だった。戦場の恐怖はもう感じない。だが、あの<W>という少年に対する恐怖だけは、いかんともしがたい。目の前のこの少女にすら刃を向けたらどうなるのか。それを考えたら。

「なんでもありません……申し訳ありません。ご心配をおかけして……」

「ハルト」

 背後からアイリスがハルトの体を抱きしめる。どこか自分とは別の世界へといってしまいそうになるハルトを繋ぎ止める為に、とっさにとった行動だった。アイリス自身も自分がこんな行動をとったことに驚いたが、だがそれでも、目の前の少年を逃がさないために、ただ抱きしめる。

「一人で何でも抱え込まないでください。……その、私でよければ、力になりますから」

 背中の少女の体温を感じつつ、ハルトは、小さく呟いた。


「……ありがとう、ございます」


 アイリスがいてくれる。

 ただそれだけで、ハルトは再び前に進めるような気がした。



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