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第8話 ガロン奪還作戦②

 ブルースターの戦力は圧倒的だった。新型の魔力収束コンヴァージェンス兵器の威力は凄まじく、相手の火力を圧倒していた。とはいえ、エネルギー問題が解決したわけではないのでそう油断は出来ない。

 紅い嵐が駆け抜ける。

 カグツチから放たれたCGコンヴァージェンスランチャーの輝きが敵WSをのみこみ、その度に紅い花火が戦場を染め上げる。

 改良によって消費エネルギーは抑えることができつつあったものの、このカグツチは大量の魔力を消費する。故に予備の魔力バッテリーを装備してることでその問題を解消しているのだが、そのために動きがどうしても鈍くなる。

 それを察したのか敵新型WS『ヴァラ』が近接戦闘を仕掛けるためにマシンガンを連射しながら接近する。しかしその全ては尽くカグツチの全身から発する『A.I.P.F.』によって遮断され、両腕のガトリングが火を噴いた。

 周囲の敵を一掃したところでユリはコクピット内に空中投影されているカブリオレから転送された戦場の情報を確認する。こちらの戦力はかつての基地、ガロンへと順調に進行しつつあった。

 このまま何も問題が起きなければ確実にガロンを取り戻すことができる。

 そう思った瞬間に、異変は起こった。

 さきほどまでユリの近くにあった味方の小隊が全滅していたのだ。

「……!?」

 何が起こったのか理解できなかった。

 だがそんなユリの若干の揺らぎ、僅かなタイムラグを突くかのように機体が敵の接近を知らせる。

 ヴァラだ。

 しかし、色が違う。

 先ほどから戦っているヴァラは深緑色をしていた。

 だが、目の前のヴァラは全身のボディカラーが青色だ。形状に変化は見られないことから指揮官機ではなさそうだが(指揮官機は指揮能力を上げるために頭部に情報処理強化パーツが装備される)それなりの実力があるということなのだろう。

 その証拠に、これまでのヴァラとは動きが違う。

「いくぞ血の赤レッドクリムゾン! てめぇらの部隊にはどうしても消えてもらわなけりゃならないんでな!」

 トタス・ジェイスルーの駆る青いヴァラが右手のブレードを振るう。カグツチに近接格闘用装備は存在しない。よって、ここは『A.I.P.F.』を展開して防ぐしか道は残されていない。

 ブレードと魔力の盾が激突し、スパークを引き起こす。

 いくら新型とはいえ、ヴァラの持つブレード如きでは『A.I.P.F.』は突破できない。しかしこの場合、分が悪いのはユリの方であった。

 敵の攻撃を防いでいる『A.I.P.F.』は展開するだけでも敵の攻撃を防ぐだけでもエネルギーを消費する。だが相手のブレードは実体剣だ。いくら振り回そうが消費するのは機体の駆動時に発生するエネルギーだけであって、消費率はユリの方が圧倒的に多い。

 元々、燃費の悪い装備を全身に展開しているだけに尚更だ。

「てめぇらに殺された部下の仇だ! 思い知れ!」

「……それはこっちも同じ…………!」

 フィールドを解除。

 最小限の動きで――――機体を僅かに後ろに後退させ、すんでのところでブレードの一撃を回避する。回避行動をとりながらも胸部装甲からミサイルを発射。

「ぐぅっ! おのれ、小癪なァ!」

 攻撃行動をキャンセルして咄嗟に防御行動をとったトタスの腕は非凡と言えよう。元々、ヴァラは装甲が厚い為に腕にシールドと同じ材質の装甲を纏っていたことも幸いした。

 被弾は免れなかったものの、無傷というわけでもない。

 しかし、距離は離さない。あのガトリングガンやCGコンヴァージェンス兵器は確かに強力だが砲身が長い為に距離を詰めればただの重りにしかならない。

 だがユリは敢えてそれを、右手のガトリングガンを捨てた。

 厳密にはパージして空いた右手でヴァラに鉄拳を叩き込んだ。

「マニピュレーターでの格闘戦だと!?」

 完全に不意を突かれたトタスは見事にその一撃をもらう。機体がよろけるも、設置性の高いヴァラであったが故になんとか地面に倒れることはなく耐えることが出来た。だが生まれたその僅かな隙を突かれ、バックステップで距離を離されたところで気づく。

 残る左手のガトリングガンにロックオンされている。

「!!」

 だがガトリングガンから弾が打ち出されることはなかった。一筋の閃光がガトリングガンを撃ち抜いたかと思うと、爆発がカグツチの左手を包み込んだのだ。

「……新手!?」

 ユリが攻撃を受けた方を見る。

 直後。

「――……!」

 驚愕する。

 そこにいたのは純白の鎧に身を包んだ騎士であった。だが右手に装備している巨大な鉛色をしたバズーカランチャーが不釣り合いではあるが、問題はそこでもあるがそこでもない。

「飛んでる……! 『フライトユニット』を装備している……?」

 そう。

 突如として出現した純白のWS、ヴェラゲイルは空中に浮遊しているのだ。あれは間違いなくフライトユニット。WSが空を飛ぶための装備。

 そして右腕に持っているのは恐らくCG兵器。先ほどガトリングガンを撃ち抜いた一撃は間違いなく魔力攻撃によるものだった。

 確かに相手はこちらの軍の残骸からCG兵器の開発がなされていても不思議ではなかった、が。未だXシリーズにしか搭載されていないフライトユニットまでどうして相手が有しているのか。

 それに試作品とはいえCG兵器まで実戦投入している。

 ハルトのようなイレギュラーでもない限りこんな短期間にCG兵器やフライトユニットの開発、それだけでなく実戦投入は不可能だ。

 第三者から技術提供を受けたに違いない。

 ではどこが? 誰が?

 ブルースター騎士団に裏切り者が? その線もあるだろう。だがそうでない可能性もある。

 ユリはあの純白の騎士のような機体にどこか見覚えがあった。そう。沿岸要塞での攻防戦の際に見かけたあの――――ファングという機体にどこか似ている。

 同型機ではなくとも確実にその流れをくんでいる機体であることは間違いない。

 ヘイムダル。

 ユリの頭の中にひとつの単語が浮かんだ。

(……ヘイムダルが、ドミナントに協力している?)

 どうやら本当にただの武装集団ではないらしい。これだけの技術レベルを有しているとなるといずれこの世界そのものの強力な敵となる。


 □□□


「トタス、下がれ」

 ルークからの通信にトタスは忌々しげにカグツチを睨みつけた。

「了解」

「あれが噂の血の赤レッドクリムゾンか。丁度いい。この機体の良い調整相手になりそうだ」

 この新型のWS、『ヴェラゲイル』は試作機にして実験機である。

 ヘイムダルという武装組織から提供された技術を詰め込まれており、その性能はドミナントで現状、開発されているWSの中でも間違いなくトップに君臨するだろう。

 何しろフライトユニットにCG兵器、更には『A.I.P.F.』というブルースターが独占していたはずの最新技術を全てつぎ込んでいるのだから。

(あのヘイムダルとかいう組織が何なのかは知らないが、何を考えていようがどうでもいい)

 利用できるものはなんでも利用する。

 それにルークは突き詰めてしまえばただのい一人の兵士であり、そんなことは上の人間が考えればいいだけだ。

 ルークは物ごころついたときには戦場にいた。彼の中には戦いしかなかった。それは結局は人として空っぽであるということと変わりなく、自分たちに協力しているヘイムダルという組織が何を考えているかなど、どうでもいいことだった。

 そういったことを考えるのが酷く億劫だった。

 空っぽの彼にとって出来ることと言えば戦うことだけで、そんな彼の幼いころからの経験値が彼を生き延びさせていた。

「トタス。こいつの相手は俺がする。だからお前は例のヘイムダルからの兵士と共に実験部隊を叩け」

「了解」

 トタスの駆るヴァラが後退し、それを見たユリはすかさずCGキャノンを撃ち込む。

「……させない」

「それはこちらのセリフ!」

 だが、紅蓮の閃光は純白の騎士の展開した『A.I.P.F.』によって弾かれた。四散した光の粒子が辺りに舞い、それを切り裂きながらヴェラゲイルが加速する。

血の赤レッドクリムゾンよ、このヴェラゲイルの礎となってもらうぞ!」

 ユリは機体を巧みに操り、一度は放棄したガトリングガンを拾い上げると銃弾の雨をばら撒く。だがヴェラゲイルは空中で回転しながらそれを回避し、同時に宙づりのような状態のままバズーカランチャーの引き金を引いた。

(! ……フライトユニットシステムをもう使いこなしている?)

 負けじと両足からミサイルを一斉発射。赤い尾を引きながら迫るそれはまるで蛇のようだ。

 しかしヴェラゲイルは腰からブレードを抜刀。と、同時に剣を巧みに振るい、襲いかかる蛇をなぎ払っていく。

 このままだとエネルギー消費量の関係で完全にユリが不利だ。これまでの戦闘で消費しているだけでなく、おそらく敵はついさきほど出てきたばかりだろう。

(ッ……。このままじゃ……!)

 どうすべきか思考を巡らせるも、その一瞬の隙を突かれ、弾幕を突破された。機体と同じ色をしたブレードが迫りくる。

「もらった!」

「――――!」

 しかし、ブレードがカグツチのフレームを貫くことはなかった。

 白い機体と赤い機体の間を、紫色の光が駆け抜けたからだ。

 ヴェラゲイルの挙動が僅かに停止する。遅れて、漆黒の影がヴェラゲイルに肉薄する。

 ルークは瞬時に反応し、黒い機体――――タケミカヅチの一撃を受け止めた。

「ハルト……!」

「ユリ! 一度カブリオレに戻ってエネルギーの回復を!」

「……わかった」

 カグツチが後退するのを見届けるとハルトは目の前の騎士のような機体と向き合う。こちらの騎士団が独占していたはずの技術を持っているこの謎の機体。

 間違いなくヘイムダルが絡んでいる。

「お前は黒騎士……ちょうどいい、相手になってもらう!」

 背中のフライトユニットから魔法陣が浮かび上がり、それを置き去りにして加速する。だがハルトはその衝撃を受け流すかのように円の動きでかわす。と、同時にCGショートライフルを連射。

 対するヴェラゲイルはフライトシステムを中断。飛行能力をカットし、重力に身をまかせながら地上に落下し、ショートライフルをかわすと、落ちる前に再びフライトシステムを再起動。

 ホバリングしながら空中のタケミカヅチにバズーカランチャーを放つ。

「やるな! 黒騎士!」

 ルークは未だかつてないほどの高揚感に包まれていた。彼は優秀すぎた為に戦場において敵はいなかった。彼はこの戦いの日々で常に勝利を収めてきた。

 彼は求め続けていた。

 自分の敵を。

 それが今、ここに現れたのだ。


 □□□


 フリージアは『キオネード』を飛行形態に変形させて戦場を駆け抜けていた。さきほどから不自然に味方が撃破されているポイントがあり、そこに向かっていた。

 彼女は元々、北の大陸の出身ではあるが、今はこうしてブルースターの側についている。そうなった以上、全力をもって戦うつもりだ。それに所属がどうとかそういった考えは今は持ち合わせていない。彼女の中にあるのはヘイムダルのWSを倒し、家族の仇をとることなのだから。

 それに、こうして自分がブルースターの側について戦っていることは決して無駄ではない。ブルースターは技術を提供し、ヴェトルはフリージアという優秀な人材を提供する。

 その結果、祖国は最新技術を元に防衛力を高めていき、更にそれは祖国の平穏に繋がっていく。自分がこうしてこの戦場で戦うことで復讐に一歩、近づくだけでなく祖国が守られるのだからフリージアとしては文句はない。

 瞬間。

 機体のセンサーが地上から放たれた一筋の閃光を感知した。それは飛行形態のキオネードに対してまっすぐに直進しており、フリージアはとっさに機体を傾けてスレスレのところで閃光……CG兵器の一撃を回避する。

「今のは……CGタイプの一撃か!?」

 現状、CGタイプの兵器の技術を独占しているのはブルースターである。取引が行われたヴェトルにもCG兵器のデータは譲渡され、このキオネードが開発されたものの、その技術を全て得たわけではない。あくまで一部のみだ。

 それにこの戦場でCG兵器を使うのはブルースターのWSのみ。ということは味方の誤射なのだろうか? そんな疑問が脳裏を過るが、その疑問はすぐに晴れた。

 攻撃してきたのは青竹色のWS。

 右手にはCGライフルを手にしている。

 一度、フリージアが配属される前の『魔術師の実験プロトウィザード』が戦闘を行ったとされているヘイムダルのWS、ウィンター。

「こいつは!」

 ハルトが戦闘を行った時に習得したデータと照合し、確信する。

 ウィンターをロックオンするとキオネードは弾丸の如く突き進む。空中で人型に変形すると同時に抜刀し、そのまま叩きつける。ウィンターはブレードを展開し、それを受け止める。

「貴様がヘイムダルのメンバーか!」

 接触回線を開き、敵に話しかける。

 いや、話しかけるというよりそれは叫びに近かった。

『ほぅ……どうやらもうそこまでの調べはついているようだな?』

「やはりそうか!」

 剣と剣が激突し、弾き出されたかのように両者の距離が開く。フリージアは『マナ・ソニック』を発動させながら機体を加速させた。

 魔法陣が浮かび上がり、キオネードが剣を構えながら再びウィンターに襲いかかった。ただの実体剣では防御不可能。だがウィンターはブレードでそれを受け止めた。見てみると、ブレードの表面に『A.I.P.F.』を展開させている。

 高密度の魔力が激突することで辺りにスパークが迸った。視界が光で塗りつぶされる。だがそれでも、フリージアの眼は確かに眼の前の悪魔を捉えていた。

北国ヴェルトにあった私の故郷……フィリアスという村を覚えているか!?」

『フィリアスだと?』

「貴様らが……あの赤いWSが潰した村だ!」

 拒絶するかのように剣が再度、弾かれる。

 だがそれでフリージアが諦められるわけでもなく、再び突撃する。

 幾度となく交わされる刃の応酬。その戦いは迂闊に手を出せるレベルのものではなかった。

『赤いWSに北国と来れば……そうか、レドラスのやつだな?』

「レドラス……! 誰だそいつは! 今どこにいるッ!」

『そこまで教えてやる義理はない!』

 ウィンターのCGライフルが唸る。そう遠くはない距離から放たれた一撃をフリージアは執念とも言うべき超スピードで反応し、飛行形態への変形運動でそれをかわした。同時に変形状態のまま突進する。ブレードが機首に来ているために突撃は有効的な攻撃手段だ。

 ウィンターはブレードを盾にして飛行形態と化したキオネードの一撃を受け止めた。

『ちっ! レドラスのやつ……厄介な人材を残しておいたものだ。あれほど村は徹底的に殲滅させろと教えただろうが!』

「ッ! 殲滅、だと……!?」

『ああ、俺が潰した村は例外なくそうしてやった! レドラスがしたというのなら、貴様の故郷とやらもそうなったはずだ!』

「貴様ぁぁぁあああああああああああああああ!」

 キオネードは激突したままの状態でライフルを連射する。対するウィンターは状態的に『A.I.P.F.』を発動させることが出来ない。

『この馬鹿がァ! 調子に乗るなよ!』

 至近距離からのCG兵器の直撃で勝利するはずだった。だが、次の瞬間にその現象は起きた。いきなり物凄く大きなパワーで弾かれたかと思うと、機体がバランスを大きく崩していた。咄嗟に人型形態に変形させて着地してみるも、手に取ったブレードに変化が起こっていた。

(ブレードが……凍結している?)

 直後。

 巨大な雪が、吹雪が、冷気が、辺りを包み込んだ。周囲のWSの残骸が凍りつき、次第にそこは氷原へと変貌していく。

(これは、報告にあったウィザードシステムか!?)

 このXシリーズにも搭載されていると言われている未知のシステム。

 その強大な力はこれまでのWSの力を遥かに凌駕しているという。

『――――消えろ!』

 吹雪が、キオネードを襲った。それに捕まるまいと飛行形態へと変形。上空へと逃げるが、まるで吹雪そのものが生きているかのようにキオネードをホーミングする。更に加速させる。機体の背後に魔法陣が浮かび上がり、キオネードを更なる高みへと引き上げていく。

 だが、ウィザードシステムの力はその更に上を行く。

(速い! 飛行形態のキオネードですら振り切れない!?)

 捕まる。

 そう感じたフリージアは咄嗟に機体を人型に変形させて『A.I.P.F.』をフルパワーで展開させる。そんな決死の防御態勢をとるキオネードを、無慈悲な吹雪が飲み込んだ。


 何がどうなったのか分からない。

 ただ物凄く大きな衝撃が機体を襲ったのは確かで、フリージアはほんの一瞬とはいえ意識を失っていた。

 たった一撃。

 たった一撃で、敵の力が、ウィザードシステムがいかに強大かを認識した。

 ただの技術では埋めようのない暴力的なまでに圧倒的な力。

 意識が朦朧としながも機体の状態を確認する。

 右脚と左腕を損傷。ブレードと『A.I.P.F.』も使用不可能。フライトユニットはなんとか無事だが、もう飛行形態への変形は出来ないだろう。どちらにしろ出力が低下している分、飛べたとしてもさきほどのようなスピードは出まい。そうでなくても飲み込まれたのだ。

 残る手段は。

 フリージアは一枚のカードを取り出す。それには雪をデフォルメしたイラストが描かれていた。

 ウィザードシステムのシステムキーである。

 これを差し込めばこの機体に搭載されているであろうウィザードシステムが起動待機状態となる。あとは発動させるのみだが、どうやって発動するのかが解らない。起動方法は未だ不明でハルトの報告書にしても不明としか書かれていない。

 彼自身にもどうやって発動させているのかが解らないらしい。

 ただハルトの言葉を借りるなら、

「多分、あのシステムは人の心、強い想いや意思の力で発動するんだと思う。そのシステムに、WSに、想いをこめる」

 らしい。

 人が扱う魔法とはそもそも『心』から生まれる力である。

 そんなハルトの考察は理にかなっており、このシステムが何らかの魔力的な仕組みで動いているのなら、起動に心の力が必要であることは当然と言える。

(想い……意思……)

 ぼんやりとする意識の中で、フリージアは自然とシステムカードをセットする。そうしなければいけないと、自分の中にある何かが言っていた気がしたからだ。


 ――システムカード認証

 ――ウィザードシステムスタンバイ

 

 そんな無機質な文字が空中投影されたまま、システムは沈黙した。

 まだ足りない。

 このシステムを発動させるための想いが。意思が。覚悟が。

(私は……)

 考える。

 だが、敵は待ってはくれない。

 機体が更に凍結し始めている。止めを刺そうとしているのだろう。

 CGライフルの一撃が飛んできた。機体の周囲に着弾する。凍土と化した基地の一部が砕け、破片が機体に降り注ぐ。次は当たった。右足の付け根が吹き飛ぶ。

(負ける……わけには……いかないんだ……!)

 ここにきてようやく、自分の故郷を滅ぼしたWSを駆るパイロットの名前を知ることが出来た。

 レドラス。

 それが自分の家族を、友達を奪った者の名前だ。

(そうだ……こんなところで……!)

 脳裏を家族と友達の笑顔が過る。

 父と母は自分たちを育ててくれた。毎日、頑張って働いて育ててくれた。まだ小さかった妹もいた。輝かしい未来が待っているはずだった。

「う……あああああ……ッ!」

 機体が次第に動かなくなりつつある。敵のウィザードシステムによって発生した凍結効果が機体を蝕みつつあった。

「動け……! 動けキオネード!」

 がむしゃらに操縦桿を動かす。しかし、機体は徐々に動きを失いつつあった。敵のCGライフルの一撃が左肩が吹き飛ばす。次いで右肩。あまりの損傷に機体が悲鳴をあげている。コクピット内に警告音が鳴り響く。

 ロックオン警告。

 敵の銃口がコクピットに向けられている。

「動け……動け! 動けぇぇぇえええええええええええええええええええ!」

 叫ぶ。 

 それは祈りだった。

 それは願いだった。

 それは契約、だった。


 ――高密度魔力を計測。

 ――基準値をクリア。

 ――ウィザードシステム 起動


 瞬間。

 少女の祈りに、願いに、契約に応えるかのようにキオネードのツインアイが力強い光を放つ。

 敵のCGライフルの一撃を吹き荒れる魔力の輝きで弾き飛ばしたかとフリージアが認識した瞬間、コクピットに文字が空中投影される。

 その文字はこう書かれてあった。


 WIZARD SYSTEM


 キオネードの周囲に吹雪が吹き荒れる。ウィンターのものではない。この輝く青白い光はキオネードが起こしたものだ。

 それは純白の機体の腕と脚を構築してゆく。それはただの氷の結晶ではない。柔軟に動き、尚且つ強固な防御力を誇る。

 キオネードのウィザードシステムによって発生した吹雪は傷ついた機体全体を包み込み、それはフリージアの願いを形にした鎧と化す。

 雪のような白さを持った騎士が、今ここに顕現した。その姿は美しく、まるで氷の彫刻品のように見えた。


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