089・再戦(今度は全員で)
おかげ様で体調も回復してきました。
まだ全快ではありませんが、かなり良くなりましたので本日より更新再開です。
どうかまた、皆さんにゆっくり楽しんで頂ければ幸いです♪
それでは本日の更新、第89話です。
よろしくお願いします。
「お疲れ様」
「ま、こんなものよね」
戦闘が終わると、僕とクレフィーンさんの所に、アルタミナさんとレイアさんも歩いてきた。
黒髪の美女は、
「よしよし。がんばったね、シンイチ君」
クシャクシャ
と、僕の頭に白い手を乗せ、軽く撫でてくる。
(わ?)
なんか、子供扱いだ。
耳の長い赤毛の美女は、足元にある人型ゴーレムの残骸を見つめ、「ふぅん」と呟く。
僕を見て、
「秘術の目、使わなかったの?」
「あ、はい」
僕は頷く。
「使わない状態で、どれだけ戦えるのか試したくて……」
「そう」
「全然、駄目でしたけどね」
「そうね。動きがまるで素人だったわ」
グサッ
ド直球の感想が胸に刺さる。
(うぐぐ……)
でも、この嘘のない正直な言葉を紡いでくれるが、このエルフさんの良い所です。
時々、痛いけど。
彼女は言う。
「せっかくの力だし、出し惜しみせずに使ってもいいと思うわよ?」
「うん……」
「何?」
「でも、秘術の目に頼らないで、僕自身の実力も鍛えたくて」
「馬鹿ね」
「ば……」
「その目も、貴方の実力の内でしょう? 剣士が剣を使わない戦い方を鍛えるより、剣を使った戦い方を鍛えるのは当たり前だわ。貴方もその目を生かした戦い方を鍛えなさい」
「うぐ……はい」
美人なエルフ先生の見事な正論。
反論の余地、ありませぬ。
アルタミナさんも苦笑しながら、「そうだね」と同意する。
クレフィーンお母様は、
「まぁまぁ……シンイチ君にも、シンイチ君なりの思いがあるのでしょう」
と、僕の判断を尊重してくれた。
(お母様……)
やはり、女神……お優しい……。
そんな会話のあと、僕ら4人は、溶解して床に崩れているゴーレムの残骸を確認する。
お母様の『白き炎霊』で、装甲の6割ほどが溶けている。
壊れた装甲の間からは、焼け焦げた骨組みと筋肉や血管、神経みたいなチューブの束と、金属製の内臓みたいな異様な器官がいくつか見えていた。
(……むぅ)
ちょっと、グロい。
3人は、各部を指差しながら、
「この部品が動力部かな?」
「そうですね。心臓と同じで、この器官を破壊できれば機能停止させられると思いますよ」
「そうね。でも、守る装甲は硬そうね」
などと、見解を述べる。
(ふ~ん?)
僕も頷いて、
「確かにこの装甲、『土霊の岩槍』でも壊れなかったですもんね」
と、参加して呟く。
すると、3人の美女は僕を見る。
クレフィーンさんが、
「いえ、違いますよ」
「え?」
「装甲が頑丈なのは確かですが、シンイチ君の魔法が通じなかったのではありません。あれは、ゴーレムが技術で防いだんです」
「え、技術で?」
驚く僕の前で、他2人も同意するように頷いている。
(どういうこと……?)
答えを求めるように、彼女たちを見つめてしまう
3人は互いの顔を見る。
そして、クレフィーンお母様が言う。
「あの時、シンイチ君が魔法を発動して実際に岩の槍が射出されるまで、ほんの一瞬のラグがありました。その僅かな間に、このゴーレムは衝撃を弱めるために後方に跳躍していたんです」
「え……?」
僕は、目を丸くする。
あの時、あの一瞬で……?
黒髪の獣人も、尻尾を揺らしながら頷く。
「いい反応と動きだったよ」
「…………」
「しかも、奴は空中で、両手で岩の槍をこんな風に押さえていてね」
グッ
空中で、バスケットボールぐらいの大きさの何かを持つように手を動かす。
そのまま身を捻り、
「で、こんな感じに、上手く横にズラしたんだ」
グイッ
と、横に押し出す動作。
(……マジで?)
僕は、唖然である。
あの時は無我夢中だったし、命中させることに集中していたから、そのあとの動きまで注視していなかった。
それにあの速度である。
(撃ち出された大砲の弾を見るようなものだぞ?)
強化した視力でも、相当の難度だろう。
でも、彼女たち3人の目には見えていたらしい。
これが、実力の違い?
あるいは、経験の差なのか……。
耳の長い赤毛の美女も言う。
「実際は、腹部を斜めに掠めた感じね」
「…………」
「けど、その掠めただけで、あの硬い装甲をひしゃげさせているんだもの。貴方の古代魔法も大したものだわ。直撃していたら、確実に装甲も破壊していたでしょうね」
「……ですか」
僕は、何とか頷いた。
けど、確かに、
(あのあと、短剣で簡単に首を落とせたんだもの)
と、思い出す。
魔法人形の防御力は、さほど高くない。
もしかしたら、俊敏性を高めるために、装甲以外の耐久値はそこまで高くないのかも……?
その装甲も、古代魔法なら貫けるレベルで。
……うん。
(そう考えると、単純に僕の魔法の使い方が下手だったんだね)
と、理解。
う~む、自分にがっかりだ。
結局、『真眼』も『古代魔法』も僕自身が上手く使わないと駄目なのだ。
要、修練。
これも学びで、そうわかっただけでも収穫である。
だけど、
「…………」
僕は、足元の床に転がる人の形をした残骸を見る。
ジッ
しばらく見つめ、
「――結局、このゴーレムには、ただ単純に『古代魔法』を使っても通用しなかったんですね」
と、呟いた。
3人の美女も頷き、
「そうですね」
「シンイチの経験不足を差し引いても、なかなかの性能だと思うわ」
「うん、確かに」
と、同意する。
そして、黒獅子公は静かに笑い、
「――だけど、シンイチ君のおかげでこの遺跡の魔法人形の強さも、ある程度、測れたかな。この先の戦闘に向けて、良い参考になったよ」
と、楽しげに言った。
いつもの王子様スマイルと違い、獰猛な肉食獣の笑み。
(おお……)
ゾクゾク
僕の背筋が震える。
黄金の獅子の瞳も、妖しい光を灯している。
これぞ、『黒獅子公』……。
クレフィーンさんとレイアさんも頷く――その表情には、『雪火剣聖』と『赤羽妖精』という圧倒的強者の雰囲気があった。
僕は、目の前の3人を見つめる。
(……うん)
差があるのはわかってる。
僕は新人だ。
だけど、いつか彼女たちの隣に立てるように、本当の意味での仲間になりたい。
(ん……がんばろう!)
ギュッ
僕は1人、こっそり拳を握る。
――やがて検証も終わると、僕らは『光の羽根』とランタンの灯りを頼りに、再び闇に包まれた古代遺跡の中を歩き出したんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
1時間ほど歩くと、
(あ……階段だ)
僕らの進路上に、地下へと続く階段が現れた。
風化した壁画の掘られた石壁と等間隔の石柱が並び、真っ暗な階下へと向かって伸びている。
クレフィーンさんは、
パサッ
地図を広げる。
「地下2階層への階段ですね、間違いありません」
(うん)
僕らも頷く。
リーダーである黒髪の美女が、
「よし、行こう」
と、宣言。
僕らも「はい」と返事をし、階段へと足を踏み出した。
コツ コツ
ランタンの灯りを揺らしながら、瓦礫も残る段差を慎重に下りていく。
もしRPGのようなゲームの中だったなら、階層間の移動時には敵が出現しないことも多いけど、ここは現実……気は抜けない。
いや、
(真眼君が何も言わないなら、大丈夫か)
と、思い直す。
何だ、安心じゃん。
……いや、不安を紛らわせてるだけだけどね?
お化け屋敷やバンジージャンプと同じ、安全でも怖いものは怖いのだ。
(慎重に、用心して……)
やがて、50メートルほど下った辺りで階下に到着。
周囲を見る。
ふむ……?
地上1階と変わらない雰囲気。
僕らは地図を確認しながら、再び歩き出す。
地下2階層も広く、暗闇の中なので距離感や時間感覚がバグりそうになる。
と、その時、
ヒィン
(む……!)
赤文字の警告。
【警告】
・魔導人形3体が接近中。
・距離、402メートル。
・戦闘力、170、120、110。
(今後は3体か)
僕は3人の美女に、即報告。
クレフィーンさんたちも頷き、武器を用意して臨戦態勢に入る。
僕も同じくで、
(今度は『真眼』を使うぞ)
と、決める。
やがて、3体のゴーレムが暗闇の中から現れた。
「お……?」
僕は、少し驚く。
3体の内の1体は、先ほどと同じ人型。
だけど残る2体は、犬のような、狼のような4足歩行の形態をしていた。
ただ、耳はなく、赤い眼球が中央に1つ。
口には、鋭い牙。
足指に生える爪も刃物のようで、尾の先端は太い針のように尖っている。
ヒィン
【魔法人形〈獣型〉】
・古代技術で造られた魔法人形。
・自律思考もできるが、現在は人型の指揮に従って侵入者を排除しようとしている。
・人型より俊敏性が高い。
・戦闘力、120と110。
(へぇ……?)
色々、種類があるんだね。
しかも、ゴーレムにも上下関係あるとか、面白い。
黒髪の美女が、
「シンイチ君、再戦してみる?」
「え?」
「今後は、秘術の目を使うつもりでしょ? 顔に書いてあるよ」
と、笑われた。
(マジ……?)
ゴシゴシ
思わず、顔を擦っちゃう。
クレフィーンさんも微笑み、レイアさんは呆れ顔である。
僕は頷き、
「はい、したいです」
と、答えた。
アルタミナさんも頷き、
「わかった。じゃあ、人型は任せるよ」
「うん」
「ん。じゃあ、残る2体は私とレイアが。――フィンは、シンイチ君のサポートをお願いするよ」
「わかったわ」
「はい、お任せを」
2人も頷き、
「がんばりましょう、シンイチ君」
「はい」
綺麗な金髪を揺らして笑うお母様に、僕も安心して頷いた。
と、
カシャン
足音を響かせ、3体のゴーレムが近づいてくる。
僕らも武器を構える。
4足歩行のゴーレムが脚を曲げ、直後、爆発するような速さで飛びかかってきた。
(――速っ!?)
僕は驚き、
バキィン
それ以上の速さで、黒獅子公の戦斧が弾き返した。
火花が散り、暗闇が一瞬、明るくなる。
同じようにレイアさんも大弓の矢を放ち、もう1体の獣型ゴーレムを狙って回避されるものの、奴の動きを牽制し始めた。
僕の前には、人型ゴーレム1体のみ。
(ありがとう)
2人に感謝。
僕は深呼吸して、前に出る。
背後からは、クレフィーンお母様――雪火剣聖の頼もしい気配も伝わってくる。
僕は『初心の短剣』を構え、
ヒィン
目に集中し、真眼を発動した。
【勝利方法】
・指示に合わせて短剣を振り、10分の1魔力の『土霊の岩槍』を放つ。
・必要時間、2秒。
(…………)
え、2秒?
しかも、やることも2手だけ……?
内心、僕は唖然。
でも、真眼君の言うことは信じると決めている。
よし、
(わかった、頼むよ、真眼君!)
と、覚悟を決める。
更に1歩、前に出る。
途端、人型ゴーレムが右腕の剣を構えて、カカンと足音を響かせながら突進してきた。
速い……!
獣型より遅いけど、充分に速いぞ。
僕は、文字を待つ。
まだか?
まだか……!?
と、目前に剣先が迫った瞬間、
ヒィン
青い文字が空中に表示された。
【短剣を横に振れ】
(えいっ!)
僕は、文字の現れた空間に、左手で短剣を振ろうとする――同時に、
ヒィン
【魔法を撃て】
最初の文字の斜め下方に、同じように青い文字が表示された。
右手で……!
ほぼ同時のタイミングでの別行動。
左手の短剣を横薙ぎに振りながら、並列思考で集中して、右手の甲に魔法陣を光らせる。
ジジッ
細長く、小型の黒い岩の槍が生まれ、
ドン
と、発射。
直後、まるで自分から当たりに来たように、右手の先に人型ゴーレムの頭頂部が現れ、
ギャリン
(――わっ?)
火花を散らして、小型の黒い岩槍は装甲を貫通する。
頭頂部に丸い穴が開き、小型の黒い岩槍は胸部まで到達――心臓の部位にある動力器官を破壊し、人型ゴーレムは力を失って、ガシャンと音を立てながら床に倒れた。
ヒュゥ、ゥ……ン
赤いレンズの1つ目の光も消えていく。
機能停止……してる。
自分でやっておきながら、僕、茫然。
(えっと……)
あれだ。
僕の振った短剣を、人型ゴーレムはかい潜ろうとしたんだ。
そのまま僕の胸部に右腕の剣を突き立てようとして……でも、その時にはもう、僕の右手は回避先へと向けられている。
で、魔法発射。
避けることもできず、10分の1魔力の『土霊の岩槍』が命中した、と。
それだけ。
うん、それだけだ。
…………。
……いや。
いやいや、
(真眼君、凄すぎぃ……!)
タイミングが神がかり過ぎる。
多分、僕の身体能力、反射神経、反応速度など計算した上での文字の表示タイミングだったんだと思うけど。
でも、信じられない。
前回の戦いでは、全力の古代魔法でも勝てなかったのに……。
今回は、その10分の1の魔力で。
しかも、
(2秒だよ?)
たった2秒で勝利。
振り返れば、あ……ほら、クレフィーンさんも青い瞳を丸くしている。
目が合い、
「……お見事です」
と、ようやくお言葉が。
僕も「ど、どうも」なんて、間抜けな返事をしてしまう。
しばらく見つめ合い、
「…………」
「…………」
「……ぷっ」
「ふふっ」
やがて、お互い噴き出すように笑ってしまう。
いやはや、
(自分でも驚きです)
思わず、自分の右手を見てしまう。
そんな僕の様子を、クレフィーンさんも青い瞳を細めて見つめる。
やがて、彼女は言う。
「秘術の目の能力の高さを、改めて理解しました。本当に素晴らしい力ですね」
「はい」
僕も頷く。
でも、
「でも、過信しないようにします」
と、言葉を続ける。
それは、自分自身にも言い聞かせるために。
真眼は便利だけど、
(でも、きっと万能じゃない)
表示される指示を実行するのは、僕自身。
結局は、僕自身の能力が限界値となる訳で、どんな状況でも、何があっても大丈夫なんてことはないはずだから、そこを勘違いしてはいけないだろう。
僕の表情を見て、お母様は頷く。
「シンイチ君の心構えは、本当に立派ですね」
サラッ
頷く拍子に、綺麗な金髪がサラサラと流れた。
(えへ……)
彼女に褒められるのは、凄く嬉しい。
おっと、いけない。
まだ、戦闘中だ。
アルタミナさん、レイアさんの方は……あ。
振り返ると、獣型ゴーレムより速く動き回る黒獅子公が、振り上げた戦斧でゴーレムの心臓部をゴシャッ……と叩き潰している所だった。
火花と破片が散り、奥の壁までゴーレムは弾け飛ぶ。
ガシャアン
壁面にひび割れが広がり、砕けた残骸が床に落ちた。
(わぉ……)
僕は目を丸くする。
一方、レイアさんの方も、
ガシュン
偏差射撃した大弓の矢が走るゴーレムの動力部を正確に射抜き、転倒したゴーレムは床の上を火花を散らしながら転がっていった。
彼女は美しい赤毛の髪を、白い手で優雅に払う。
(……うん)
その仕草が凄い似合う。
長年の相棒である2人の女冒険者は、軽くグータッチ。
そして、僕らを見る。
「そっちも終わったんだね、お疲れ様」
「ま、こんなものね」
と、軽い口調で言う。
うん、なんて頼もしいお姉様方でしょう。
僕とクレフィーンさんも顔を見合わせ、笑い合うと、彼女たちの方へと向かったんだ。




