065・王都の移動中……。(あ、あれは?)
東の空に、太陽が昇る。
――朝だ。
本日の僕は、クラン加入手付きのため、王都にある冒険者ギルド本部に行く予定である。
(よっしゃ、やるぞー!)
と、気合を入れて起床。
着替え、本日の外出準備をしていると、
コンコン
(ん?)
部屋の扉が叩かれた。
はて……?
と思いながら、「はいは~い」と返事して木製の扉を開く。
ガチャッ
「――おはようございます、シンイチ君」
(ぐわっ……!?)
女神!
金色の髪をした微笑む女神がいらっしゃった……!
目が、目が灼けるぅ。
そんな神々しいぐらいお綺麗なクレフィーンお母様が、廊下に立っていらっしゃる。
私服や。
そして、お胸の谷間が見える。
やばい、大きい。
(いや、じゃなくて……!)
僕は、こっそり深呼吸。
何とか、
「お、おはようございます」
と、お返事。
彼女は柔らかにはにかみ、
「朝食の準備ができているそうで、皆、食堂に……と。シンイチ君もよかったら、一緒に行きませんか?」
「あ、はい」
コクコク
僕は何度も頷く。
お母様は嬉しそうに「よかった」と笑う。
ズキュン
む、胸に刺さる。
何だろう……?
何か新生活が始まったからか、お母様、本当にお綺麗になられてませんか?
表情に暗さが一切なくて、本当、眩しいです。
(……いや)
これが本来のクレフィーンさんなのかな?
僕、惚れ直しちゃうよ。
気づくと、彼女がジッと僕の顔を見ていた。
え、えっと?
「あの……何か?」
「あ、す、すみません」
彼女はハッとする。
誤魔化すように、長い金髪を揺らしながら背を向けて、
「では、部屋で待っているファナを連れてきますので、少しだけ待っていてくださいね?」
「あ、はい」
僕は頷く。
お母様は、隣室への廊下を去っていく。
(……?)
なんか、耳、赤かったような……?
気のせい?
内心、小首をかしげながら、その背中を見送る。
やがて1分もしない内に、女神様は天使ちゃんと一緒に再び現れて、僕らは3人でクランハウスの食堂へと向かったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「――じゃあ、いってきま~す」
朝食後、僕は予定通り、クランの誇る3人の美人女冒険者と一緒にクランハウスを出発した。
玄関では、金髪幼女と老夫婦がお見送り。
パタパタ
幼女は小さな手を振っている。
僕もお母様も、笑顔で手を振り返す。
今日からは、ジーグルさん、ハンナさんもいるのでお留守番も1人じゃない。
(……うん)
前と比べ、お母様も安心した表情に見える。
人見知りなファナちゃんは少し緊張して見えるけど、でも、老夫婦のお2人はいい人だからきっとゆっくり打ち解けるでしょう。
がんばれ~、ファナちゃん。
やがて、僕ら4人は大通りへ。
真っ白なお城の見える中心街の方向へ、広い歩道を歩いていく。
(う~む)
人が多い。
車道にも、行き交う馬車、竜車が止まらない。
(さすが、王都)
大都会だねぇ。
しばらく歩き、広い交差点へ。
信号はないけれど、誘導員が立っていて、その指示で僕らは交差点を抜ける。
その時、
(ん……?)
左の道のずっと先に、人が集まっている。
何だろう?
目を凝らすと、広場のような場所に、巨大な門が建っていた。
でも、門だけ。
建物も、何もない。
でも、多くの人々が門の片側に集まっている。
(???)
僕、困惑。
すると、
「――ああ、『転移門』ですね」
(わっ?)
横で、僕と同じ方向を見ていた金髪の美女に声をかけられた。
ち、近い。
目線の高さを合わせるためか、すぐ横に白い美貌がある。
金色の長い髪がサラサラと僕の肩を撫でている。
ドキドキ
僕、1歩、横へ。
く……チキンめ。
クレフィーンお母様は、そんな僕を見る。
赤くなっている僕に、何だか艶っぽく微笑み、それからもう1度、言う。
「あれは、転移門です」
「転移……門?」
「はい。王国の南部にある『南都フレイロッド』と通じています」
「…………」
えっと……?
僕、理解力ないのかしら?
何をおっしゃってるのか、わからない。
と、その時、
ヒィン
【転移門】
・古代魔法の力を秘めた1対の門。
・門を潜ると、対となる門を設置した場所に転移できる。距離、無制限。
・王国には、この1基のみ。
【南都フレイロッド】
・王国第2の都市。
・人口30万人。
・王都から約1200キロ離れており、南部の中心となる都市である。
(……え?)
マジで?
本物の空間転移なの……?
う、うわああ……地球の文明、超えてるよぉ!
(そっか)
そっかぁ……。
異世界って、本当に凄いんだね?
拳銃とか自動車とかないのに、魔法や転移門はあるんだもん……本当、独自の発展を遂げてるんだなぁ。
見ていると、
(あ……)
門の内側に光の水面みたいなものがある。
そして、行列となった人々が次々とその中に入り、水面がかすかに光るとそのまま消えていく。
手品みたい……。
しばらくすると、兵士が人々を止める。
で、今度は光の水面から、突然、何人もの人々がゾロゾロ出てくる。
(おお……?)
あれ、南都から転移してきた人たちか。
す、凄ぇ……!
見入る僕に、3人の美女が笑う。
「見るのは、初めてですか?」
「うん!」
僕は、大きく頷く。
「日本国には、転移門はなくて……初めて見ました」
「そうですか」
「ま、古代の遺物だし、現存する転移門は少ないよね。大陸でもない国の方が多いし」
「そうね」
お母様に続き、友人2人も頷く。
レイアさんが言う。
「転移門管理局に申請すれば、誰でも使えるわ。使用料は高いけど、南部に行くなら馬車より安いし、冒険者や商人がよく使っているわね」
「へ~?」
「ちなみに、1人3000リドよ」
「3000……」
つまり、30万円……!
往復だと、60万円……!?
た、高い。
(けど、1度は使ってみたいかも!)
だって、日本じゃ……いやいや、地球じゃ絶対できない経験だぞ。
よし、決めた。
いつか、使う。
うむ、その日が楽しみ~!
そんな僕に、
「今度、王国の南都方面に行く時は、一緒に転移門を潜ってみましょうか」
と、クレフィーンさんが微笑む。
(お?)
「いいですね」
僕も笑う。
大きく頷き、
「じゃあ、ファナちゃんも一緒に3人で旅行にでも行きましょう!」
「え……旅行?」
「……?」
あれ?
なんか、お母様、ポカンとしている。
(クレフィーンさん?)
彼女は僕を見つめたあと、急に嬉しそうな表情になる。
長い金髪を揺らし、頷く。
「そうですね。ええ、仕事ではなく旅行に……。ファナも一緒に3人で行きましょう」
と、明るく笑った。
(???)
不思議だったけど、
「はい」
僕も、素直に頷く。
お母様の友人2人は顔を見合わせ、苦笑する。
そして、アルタミナさんが、
「ほら、2人とも? 未来の話はそれぐらいにして、今日はギルドに行くんだよ?」
「あ」
「あ、はい」
僕らはハッと我に返る。
赤毛のエルフさんも肩を竦め、
「全く……そういう話は、あとで2人きりの時にでもゆっくりしなさい」
ポン
クレフィーンお母様の背中を軽く叩く。
お母様は、少し赤くなる。
友人2人は、そのまま先に行ってしまう。
(あ……)
追いかけないと。
そう思う僕の方を、お母様の青い瞳が見つめる。
ドキッ
固まる僕に、
「行きましょう、シンイチ君」
キュッ
お母様の白い指が、僕の手を握る。
(え……わ?)
驚く僕に、彼女は微笑む。
その吸い込まれるような輝く笑顔に、僕は何もできず、その手を引かれる。
……うん。
僕も、笑った。
そうして僕らは手を繋いだまま、先を行く2人を追いかけ、王都の歩道を足早に歩いていったんだ。




