026・天使とデート
本日2話更新の2話目です。(※1話目(第25話)を飛ばしてないか、ご注意下さいね)
それでは第26話です。
よろしくお願いします。
(あれ?)
宿屋に戻った僕は、驚いた。
宿の玄関前、小さな段差に金髪の幼女が1人ポツンと座っている。
ファナちゃん……?
通りで立ち止まる僕。
その時、彼女が僕を見つけ、
「あ……」
と、立ち上がった。
表情がパア……と輝いている。
僕は近づく。
彼女は、小さな両手を握り、
「お、おかえりなさい」
恥ずかしそうに言う。
僕は「うん、ただいま」と頷いた。
それから聞く。
「こんな所でどうしたの?」
「も、もうすぐ帰ってくるかなって、お兄様、待ってたの……」
「……僕を?」
「う、うん」
コクン
おかっぱの金髪を揺らし、頷く幼女。
(天使……!)
なんか、泣きそう。
異世界で1人ぼっちになった僕を待ってくれる人がいるなんて……嬉しいよぅ。
僕は「そっか」と頷き、
ポム
金色の髪に手を置く。
撫でながら、
「ありがとね、ファナちゃん」
「う、ううん」
彼女は少し赤くなりながら、はにかんだ。
そして、僕らは宿に入る。
しかし、
(……いつから待ってたんだろう?)
う~ん?
内心で、少し首をかしげる僕だった。
…………。
…………。
…………。
部屋に戻り、荷物を置く。
お風呂に入って汗を流したあと、少し早いけど、ファナちゃんと食堂に行った。
モグモグ
今日も、一緒の夕ご飯。
昨日みたいに、僕はクエストの話をする。
本日も薬草採取のため、2時間かけて南の草原へ行き、1時間で採取し終え、おまけで5万円ほどの価値の植物を採り、なかなか儲けて、お兄様がんばったよ、と。
幼女は、うんうん、と聞いてくれる。
そして、
「が、がんばって偉い、お兄様……」
と、褒めてくれた。
なんて、素直ないい子でしょう。
その無垢な笑顔を見てるだけで、歩き回った疲れも吹っ飛ぶよ。
僕も「ありがと」と笑う。
それから、
「ファナちゃんは、今日、何してたの?」
「ご、ご本、読んでた」
「うん」
「…………」
……うん?
(あれ、それだけ?)
僕は、目を瞬く。
「……ご本以外は?」
「…………」
フルフル
金色の髪を散らし、首を左右に振る。
え?
1日中、読書?
(それって、昨日と同じじゃん……)
心配になり、僕は聞く。
「お外に出たりは?」
「う、ううん。あの……お、お母様がね、1人で出かけると危険だからって……」
「危険?」
「あ……ひ、人攫いとか」
「人攫い……」
「う、うん。町だと、よくあるって」
「…………」
そっか。
ここは、安全大国日本じゃない。
地球の海外だって、女性の夜の外出や子供の1人歩きが危険だとはよく聞くもの。
まして、ここは異世界。
日本ほどの治安はないのかも……。
(なるほど)
安全なのは、宿の玄関先までぐらいか。
…………。
だけど、なぁ。
理屈はわかる。
でも、こんな子供が2日間、1人で客室に籠もって読書だけってのも……なんか、寂しいよね?
しかも、お母様が戻るまで、あと2~3日。
(う、う~ん)
僕は、考える。
そんな僕に、彼女は「?」という顔。
(よし、決めた)
明日、冒険者の仕事はお休みにしよう。
少しお金に余裕もできたし、1日ぐらい、構うまい。
僕は、彼女を見る。
「ファナちゃん」
「? う、うん」
「僕、明日は1日、町の散策してみようと思うんだけど……よかったら、ファナちゃんも一緒に行かない?」
「え……」
幼女は、青い目を瞬く。
「お兄様と……?」
「うん」
「…………」
「どう、かな?」
僕は、彼女の顔を見つめた。
ファナちゃんは、困惑した表情だ。
少しオドオドと視線を彷徨わせ……けれど最後に、また上目遣いで僕を見る。
そして、
「う、うん……行く」
小さな声で呟き、頷いた。
少しだけ頬が赤い。
僕は「そっか」と笑った。
(よぅし)
明日はしっかり、留守番の気分転換になるような楽しい1日にしてあげよう。
お兄様、がんばるよ!
◇◇◇◇◇◇◇
で、夜が明け、朝が来た。
朝日を浴びながら、
(今日は、お出かけの日だ)
と、僕は起床する。
今朝も食堂で、ファナちゃんと一緒に朝食を食べ、
「じゃ、またあとで」
「う、うん」
食事後は、一旦解散。
各々部屋で、外出準備を整える。
(ん~、持っていくのは、護身用の短剣と財布ぐらいかな?)
ま、町中だしね。
他の荷物は、客室の鍵付きの木箱にしまう。
ガチャン
(ん、おけ)
あと財布の中身も確認する。
ええと、142リド……1万4200円か。
今朝の食事代と宿泊費4日分、追加で支払いしたから少し減ってるんだよね。
でも、これだけあれば充分かな。
多分、お昼、食べるぐらいだしね。
「よし」
行くか。
僕は部屋を出て、1階へ。
(あれ……?)
階段下の受付前で、ファナちゃんが先に待っていた。
は、早い。
僕を見つけ、
「あ……お、お兄様」
「ごめんね、お待たせ」
「う、ううん」
フルフル
金色の髪を躍らせ、首を振る。
(……うん)
やっぱり彼女も、外出できるのを楽しみに思ってるみたいだね。
僕は笑って、
「じゃ、行こっか」
「う、うん」
「今日のデート、楽しもうね?」
「……デ、デート」
ポッ
幼女は真っ赤になる。
うむ、可愛い。
ちなみに僕も、異性との人生初デート……相手は9歳の幼女だが。
(ま、天使だからいっか)
で、出発。
宿屋を出る。
出た所で、
「どこか行きたい所、ある?」
と、聞く。
ファナちゃんは、
「ど、どこでも」
「どこでも?」
「お、お兄様の行きたい所に……」
「そう」
本当、いい子だね。
でも、どこに行っていいのかわからないのも、本当なんだろう。
(僕もわかんないけど……)
ま、いいや。
「じゃあ、少し大通りを歩いてみようか」
「う、うん」
金髪幼女は、頷く。
ギュッ
僕は、その小さな左手を握る。
ファナちゃんは驚き、
「迷子対策」
「あ……」
「よし、行こう」
「う、うん」
赤い顔で頷く。
僕も笑って、妹の手を引く兄のつもりで道を歩きだした。




