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チートな真眼の少年は、異世界を満喫する! ~金髪幼女を助けたら、未亡人のママさん冒険者とも仲良くなりました♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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161/168

161・英雄の放つ神撃

 怪物の雄叫び。


 それは、生物として根源的恐怖を呼び起こす。


(……っ)

 

 僕は歯を食い縛り、必死に耐える。


 現れた3つ首の大蛇は黒い鱗に覆われ、真っ赤な舌をチロチロと3つの口から伸ばしている。


 首の別れた部分から頭部の先までは、約25メートル。


 それらが終結した胴体部分は、更に一回り太くなり、20メートル以上の長さがあった。


 ズズゥ


 巨大な胴がうねり、こちらに迫る。


 緩やかな動きに見えて、けれど、巨体故に移動距離は大きい。


(き、来た……!)


 6個の眼球に灯る敵意と食欲の輝き――明らかに、僕らを捕食対象と認識している。


 迫る巨体に、僕は放心。


 けど、


「シンイチ君、乗って!」


(!)


 アルタミナさんの叫びで我に返った。


 彼女は僕の前で、背中を向けて膝をつき、待っている。


 僕は頷き、


「はい!」


 ギュッ


 彼女の背に抱き着いた。


 申し訳ないけど、足を彼女の腰に回して身体を固定。


 グン


 前傾姿勢のまま、彼女は立ち上がる。


 その全身からは、仄かに金色の光の粒子が立ち昇っていた。



 ――英霊の黄金光。



 通常の身体強化魔法を合わせ、彼女の身体能力を最大50倍まで強化する古代魔法だ。


 それが生み出す膂力は、僕1人の体重など意にも介さない。


「行くよ」


「はい、お願いします」


 僕は頷く。


 彼女は小さく笑い、前を見る。


 ダッ


 一直線に、僕らに迫る50メートル近い怪物へと走り出した。


「フィン、援護するわよ!」


「はい!」


 後方から、お母様たちの声がする。


 凄まじい勢いで走るアルタミナさん――直後、そんな僕らを追い越すように、レイアさんの重力魔法で威力増加された大弓の矢が通り過ぎた。


 巨大な矢は、ヒュドラの頭部の1つに命中。


 ギィイン


 火花を散らし、鱗の表面で矢が弾ける。


(無傷……っ!)


 やはり、生半可な攻撃は通用しないらしい。


 半分予想通り、半分落胆していると、


 ボパァアン


(!)


 クレフィーンさんの古代魔法『白き炎霊』の神々しい純白の炎がヒュドラを包み込んだ。


 激しい炎。


 その輝きの中に、一瞬、巨体が消える。


 でも、


 ヒィン


 真眼が赤文字を表示する。


(――っ)


 僕は慌てて、


「正面、来ます! 避けて!」


「っ!」


 その警告に、アルタミナさんは戦斧を地面に叩きつけ、反動で跳躍する。


 直後、


 ゴパァ……ッ


 炎を突っ切り、巨大な蛇の頭部が直前まで僕等がいた空間を通り抜けた。


 ぬおお……間一髪!


 通り抜けた頭部は、近くの太い鍾乳石にぶつかり、ドガァンと簡単に砕いて吹き飛ばしてしまう。


(なんて威力だ……!)


 巨大であること。


 それが生む重量だけで、圧倒的な威力になる。


 と、


 ヒィン


 赤文字がまた視えた。


(!)


「右上2時方向、別の頭が来ます。5秒後、左11時方向から毒液の噴射が……!」


「了解!」


 タタン


 天井から生えた鍾乳石を蹴り、彼女は空中で軌道を変える。


 視界が反転。


(う、おお……!)


 僕は左手と両足で必死に彼女にしがみつく。


 ゴオオ……ッ


 そのすぐ頭の上を巨大な蛇の頭部と太い首が風圧と共に通り抜け、更にアルタミナさんがその表面を蹴り、跳躍向きを変える。


 ビシャア


 赤黒い液体が真下を通過。


 見れば、正面に見える蛇の巨大な口が開き、長い牙の先にある孔から同じ色の液体が滴っていた。


 やばい攻撃だ。


 真眼情報だと、触れるだけでも危険な毒らしい。


(でも、避けたぞ)


 3つ首の攻撃を回避し、その首の付け根、胴体部分に迫れる。


 僕はそう思った。


 ストッ


 アルタミナさんは着地し、一気に間合いを詰めようと走り出す。


 その瞬間、


 ズルルゥ


(あ……!)


 巨体がうねりながら後方に下がり、弱点の心臓部が遠くなった。


 しかも、速い。


 この多頭牙龍ヒュドラは巨大で鈍重に見えるけれど、実際ははち切れんばかりの筋肉の塊で、それが作る筋力はアルタミナさんの速さにも負けない移動速度を生み出していた。


 彼女も一瞬、唖然とした表情だ。


 でも、すぐに引き締め、


「何度でもやるよ!」


「っ……はい!」


 僕は答えた。


 何度でも……でも、1度でも相手の攻撃が当たれば、僕らは終わり。


 本当に、やり切れるだろうか……?


 いや、


(――やるしかないんだ!)


 僕は、自分を奮い立たせた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ――約30分が経過した。



 戦闘はいまだ継続中である。


 ヒィン


「右下、5時方向、来ます!」


「ん!」


「追撃、3時と9時方向……間に合わない!」


 僕は、小剣を握る右手を光らせる。


 パァッ


 魔法陣が輝き、僕とアルタミナさんを青い光の障壁が包み込む。


 

 ――古代魔法・王霊の盾。



 直後、


 ドパァア


 大量の毒液が左右から僕らを飲み込んだ。


 光の球体の表面で毒液は流れ落ち、僕らは無傷、毒の影響も受けずに地面に着地する。


 3秒後、球体が砕ける。


 ヒィン


「頭上から来ます!」


「この……っ!」


 休む間もなく、アルタミナさんは横に跳躍。


 ドゴォン


 落ちてきた巨大な頭部が岩の地面に突き刺さり、石片と土煙を巻き散らした。


 その頭部へ、


 ジャキッ


 黒獅子公は『青き落雷の大剣』を向ける。


 一瞬の溜めがあり、直後、凄まじい青い放電がヒュドラの頭部に命中した。


 バヂィイン


 洞窟内が青く染まる。


 黒い鱗の表面は、凄まじい熱に焼かれて湯気を上げ……けれど、ズズッと巨大な頭部は地面から抜け、何事もなかったように動き出す。


(くっそ……!)


 やっぱり、駄目か。


 アルタミナさんの戦斧の直接攻撃や、この青き落雷の大剣の雷魔法を何度か当てているけれど、全くダメージが通らない。


 あの鱗は物理、魔法、両方への高い耐性があるようだ。


 ヒィン


(!)


「もう1度、上から来ます!」


「くっ」


 攻撃した分、回避が遅れた。


 見上げれば、巨大な質量が恐ろしい速度で僕らを狙い、落下してくるのが見えた。


(王霊の――)


 思った瞬間、


 ボパァン


 落下途中の頭部の側面から、真っ白い炎がぶつかった。


 圧力に押され、頭部の軌道がずれる。


 ドゴォン


「うわっ」


(う……ぷっ)


 すぐ横の地面に巨大な頭部が落ち、ぶっとい首が見えている。


 巨大な眼球が、間近にある。


 目が合い、


 ドシュッ


 そこに、レイアさんの放った大弓の矢が突き刺さった。


 ブシュッ


 紫色の鮮血が噴く。


 激痛に魔物が暴れ、アルタミナさんは僕を背負ったまま、慌ててその暴走圏外に逃げ出した。


 揺れる背中で、振り返る。


 眼球に刺さった矢が抜け、


 ジュウウ


 失明どころか、一瞬で傷が塞がった。


 異常な再生力。


 攻撃も魔法も鱗で弾き、仮に鱗を砕いて攻撃が通っても、傷はすぐに修復、鱗も再生されてしまう。


(不死身かよ……!?)


 と、突っ込みたい。


 この30分の戦闘中、1度だけ、決死のお母様の攻撃によりヒュドラの頭部の1つを切断したことがあった。


 傷口も『白き炎霊』で焼き、再生を遅らせた。


 でも、


 ジュブブッ


 焼けた切断面が泡を吹きながら、3分で新しい頭部が生えてきた。


 呆れた能力だ。


 そして、現在も戦闘継続中。


 ヒィン


(く……っ)



 ――王霊の盾!



 青い障壁を張り巡らせ、振り回された蛇の首の薙ぎ祓いを受ける。


 光の球体に包まれたまま、地面を転がる。


 バリン


 球体が砕け、


「すまない、シンイチ君!」


「いえ……!」


 必死に返事を返す。


 薙ぎ祓いにより、周囲の鍾乳石は粉々に砕け、更地になっていた。


 土煙が凄い。


 そして、その向こうに、巨大な3つ首の黒い影が揺れている。


 今の内に、


 ゴクゴク


 僕は、魔力回復ポーションを服用。


 アルタミナさんも飲み、空の瓶を投げ捨てる。


 パリン パリン


 瓶のガラスが砕ける音が2度、響く。


「はっ、はっ……ふぅぅ……」


 アルタミナさんの呼吸が聞こえる。


 最初に比べ、かなり荒い。


 それはそうだ。


 僕を背負ったまま、ずっと動き続けている。


 短期決戦を狙っていたのにまさかの長期戦、ここまで1度もミスなく集中力が持続しているのは、まさに彼女が『黒獅子公』ならばこそだ。


 でも、


(いつまで持続できるか、わからない)


 1度のミスで、全てが終わる。


 その極度のプレッシャーの中、もう1秒後に集中が切れてもおかしくないんだ。


 僕も、そう。


 常に、真眼を使い続けている。


 指示が遅れたら、間違えたら……その怖さはずっとあり、でも、それを感じる前に次々と襲われるので、深く意識する間がないのが唯一の助けかもしれない。


 と、その時、


「……シンイチ君」


 今までと違う、アルタミナさんの声だ。


 僕は、彼女を見る。


 彼女は前を向いたまま、


「そろそろ限界だ。だから……次で最後の攻撃にするよ」


「!」


 僕は、身を固くする。


 このままでは勝ち目がない。


 現状維持では、いつか負けてしまう。


 だから、玉砕覚悟で強引に仕掛けるつもりなのだ――アルタミナさんは、そう僕に告げていた。


 ゴクッ


 僕は唾を飲む。


 そして、


「はい、お付き合います」


 と、答えた。


 彼女は笑い、


「フィンじゃなくて悪いね」


「いえ、生きて帰りますから。別に悪くないですよ」


「ふふ、そうかい」


「はい」


 僕らは軽口を叩き、笑い合った。


 そして、一緒に深く息を吐く。


 覚悟が定まる。


 彼女は、後方の2人に向け、


「フィン! レイア!」


 と、叫んだ。


 長年の付き合いのある彼女たちだ。


 アルタミナ・ローゼンの決死の意図を正確に見抜き、2人は息を飲むと即、行動を開始した。


 雪火剣聖が、


「白き炎霊……!」


 ボバァアアン


 最大火力の炎を、僕らを飲み込むようにしながらヒュドラに放った。


(……っ)


 突然のことに僕は身を固くする。


 でも、指向性のある魔法の炎は僕らを焼かず、ただ、その輝きによりヒュドラの目から僕らを隠していた。


 そして次の瞬間、


 グン


(!?)


 僕とアルタミナさんの身体が何かに吸い寄せられるように前に動く。


 これは、


(重力魔法……!)


 古代魔法・魔霊の力場。


 赤羽妖精の力を借りながら、黒獅子公は、英霊の黄金光で強化された足で地面を蹴る。


 ドン


 岩の足場がひび割れ、白い炎の中を加速する。


 今までで1番の速さだ。


 と、その時、


 ヒィン


(!)


「右3時方向、薙ぎ払い、来ます!」


「ん……!」


 彼女は、軽く跳躍。


 直後、白い炎を吹き飛ばしながら、巨大な蛇の首が横から襲いかかってきた。


 ヒュッ


 黒獅子公は『青き落雷の大剣』を鋭く揮う。


 ガキィン


 黒い鱗に火花が散り、彼女は薙ぎ払いの威力を大剣で受け、加速に変換しながら、その右手を大剣の柄から離した。


(う、お……!?)


 弾丸のような速度。


 僕らは空中を飛び、白い炎の範囲外に飛び出る。



 ――近い!



 3つ首の付け根、胴体部分はすぐ10メートルほどの距離だ。


 ギャッ


 彼女の足が地面に着地、そのまま蹴る。


 両手で戦斧を握る。


 凄まじい速度のまま、心臓部に肉薄し、


 ヒィン


(く……っ)


 頭上からの強襲を、真眼が感知。


 でも、これ以上、アルタミナさんの足は止めさせられない。


 僕は、


「僕を信じて、走って!」


 と叫ぶ。


 彼女が頷いた気配を感じつつ、


(王霊の盾!)


 ギギィイン


 巨大な頭部が光の障壁に激突――瞬間、僕は受け流しの技術を使う。


 頭部は球体の表面を滑り、地面に突き刺さる。


 爆発するように地面が砕け、土煙が舞う。


 僕らは、その煙を抜ける。


 バッ


 彼女が戦斧を振り被った。


 偉大なる鬼王の戦斧――アルタミナ・ローゼン愛用の赤い紋様のある戦斧が強く光を放つ。


(来た……!)



 ――古代魔法・神霊の天罰。



 黒獅子公が1日1回のみ使える、最大最強の攻撃強化魔法だ。


 竜さえ屠る一撃。


 だけど、


 ヒィン


(!)


 真眼が再び感知する。


 右斜め上方から最後3つ目の頭部が嚙みついてくるのを知る。


 王霊の盾――けど、発動しない。


 クールタイム中だ。


 強力な古代魔法ゆえに連続発動はできず、数秒間、使えなくなるのだ。


(~~~~)


 回避?


 いや、もう2度とこんなチャンスはやって来ない。


 ここで決めないと。


 決めさせないと……!


(――なら)


 僕は、腹を括った。


 ヒィン


 真眼を駆使し、狙う位置を確認。


 右手を向け、



「――土霊の岩槍!」



 ドン


 黒い大理石のような岩槍を射出する。


 同時に、上方から落ちてきた巨大な頭部、その大きく開いた口蓋の牙に岩槍は命中する。


 ギギィイン


 火花が散りながら、毒牙が砕けた。


 衝撃で頭の位置がずれる。


 大蛇の口が噛みつきのために閉じられ、


 ブチュン


 今の『土霊の岩槍』のために伸ばした分、僕の右腕だけが斜めに挟み込まれ、肘の上の部分から嚙み千切られた。


 痛みで悲鳴が出るのを必死に堪え、アルタミナさんの腰に回していた両足を外す。


 最後に、



「――行けぇ、アルタミナ・ローゼン……!」



 と、背中を蹴り飛ばした。


 少しでも加速を与え、思いを託して……僕は地面に落ちる。


 ドサッ ゴロゴロ


(うぐっ)


 赤い血が噴き出し、地面が濡れていく。


 い、痛い痛い痛い……っ!


 脳が焼ける。


 歯を食い縛りながら必死に耐え、



(――不死霊の奇跡!)



 1日1回の完全回復魔法を使う。


 古代魔法は発動し、僕の右腕の切断面が虹色の炎に包まれ、ヒュドラに負けぬ再生力で新しい右腕がズリュッと生えた。


 脳を焼く痛みの信号が、ようやく消える。


 と、同時に、



 ドッゴォオオン



 洞窟内を揺るがすような大震動が発生し、背後からの眩い光が暗闇を吹き飛ばした。


(!)


 僕はハッとする。


 顔を上げ、そちらを振り返る。


 ほぼ同時に、クレフィーンさん、レイアさんの2人も僕の救助にやって来ていて、3人で同じ方向を見た。


(あ……)


 巨大な蛇の胴体が、宙に浮いている。


 それは、ほぼ真っ二つで。


 やがて、自由落下を開始し、


 ドシャアアン


 と、地面に落ちた。


 凄まじい衝突音と振動。


 そして、大量の紫の血液が、雨のように洞窟内に降ってくる。


 ザザァア


 僕らは茫然とそれを浴びる。


 恐ろしい脅威として僕らを襲い続けた3つ首の頭部は、けれど、力を失ったように今は動かない。


(…………)


 僕は、真眼を使う。


 ヒィン




【多頭牙龍ヒュドラ】


・死亡している。




 その文字の意味。


 それが頭と心に浸透し、全身が震え出す。


「……シンイチ君っ」


 ギュッ


 お互い魔物の血液に汚れたまま、クレフィーンさんが僕を背後から抱き締めた。


 その回された腕に、僕も自分の手を触れさせる。


 そんな僕らの視線の先で、


 ガシャッ


 重そうな戦斧を杖代わりにして立つ、黒髪の美女がいた。


 彼女が顔を上げ、目が合う。


 ニコッ


 いつもの笑顔。


 そして、勝利を訴えるように、軽く右手を掲げた。


「……っ」


 僕らは息を飲む。


 次の瞬間、僕らは3人で、現代の英雄であるアルタミナ・ローゼンの元へと走り出していた。

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― 新着の感想 ―
最後の賭けに出てなければ負けてましたな・・・これは。真一による真眼のアシストを以てしても即死を回避出来た相手、本当に厄介でした。
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