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チートな真眼の少年は、異世界を満喫する! ~金髪幼女を助けたら、未亡人のママさん冒険者とも仲良くなりました♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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157・悪魔の幻覚

 咄嗟に全員、動けなかった。


(何で……ファナちゃんがここに……?)


 僕は絶賛、混乱中。


 クレフィーンさんを始め、美女3人組も目を見開いて彼女を凝視している。


 金髪の幼女は、僕らを見る。


 パァッ


 不安そうな表情が明るくなった。


 浮かぶ笑顔。


 だけど……??? 何だろう……何か違和感を感じる。


 その時、


 ヒィン


 赤文字が躍った。




【偽者のファナ】


・バフォメットの幻覚魔法である。


・他の3人も、違う幻覚を見ている。


・即、攻撃せよ。




(へ……?)


 偽者……!?


 僕は文字と幼女を交互に見てしまう。


 幼女は笑ったまま両手を広げ、僕らの方へと小さな歩幅で近づいてくる。


 バッ


 僕は反射的に、右手のひらを向けた。


 魔法を……。


(……っ)


 でも、撃てない。


 だって、見た目、ファナちゃんなんだ。


 例え偽者だとわかってても、あの子の姿を殺そうとするなんてできないよ……!


 ヒィン ヒィン


 強く促すように、赤文字が明滅する。


 わかってる。


 でも……だけど……っ。


 熟練冒険者である3人の美女も攻撃できないでいる。


 アルタミナさんは、


「義父さん、義母さん……」


 と、震え声で呟く。


 いつも細い尻尾が太く膨らみ、獣耳が自信をなくしたように項垂れている。


 レイアさんも、


「何で……貴方が……っ?」


 と、目の前の存在を拒否するように首を振る。


 表情は苦々しげで。


(みんな、違う幻覚なんだ……)


 と、僕は実感する。


 そして僕の視線は、最後にクレフィーンさんを向く。


 彼女は、茫然と立ち尽くしていた。


 剣を構えることもなく、その青い瞳を見開き、幻覚を凝視する。


 パラッ


 長い金髪の一部が、美貌にこぼれた。


 その唇が動き、



「……アレ、ス」



 と、その名を紡いだ。


(!)


 ドクン


 その名前を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。


 自分の大好きな年上の恋人の口から紡がれた、彼女のかつて愛した男の名前……その事実に、胸の奥がカッと焼けたようだった。


 息が、上手く吸えない。


 彼女は、ただ幻覚を見つめている。


 僕ではなく……彼を……。


 ドクドク


 心臓が早鐘を撃つ。


 ヒィンヒィン


 赤文字が激しく明滅する。


(ああ……)


 僕は泣きたい気持ちになり、足場が崩れていくような感覚がした。


 その時、


 ニチャ……


 金髪の幼女が、その母親を見て嫌らしく笑った。


(――――)


 まるで悪魔のような笑み。


 人の心の弱さを笑い、騙される愚かさを愉悦する邪悪な笑みだ。


 違う……。


 彼女は、あの子じゃない……!


 コレ(・・)は、絶対に違う!


 確信と共に感情が爆発し、



「――土霊の岩槍!」



 僕は、叫んだ。


 ドン


 衝撃と共に、魔法の岩槍が射出され、不意を衝かれた幼女の頭部に命中した。


 ボパァン


 金色の髪が舞い、脳が弾ける。


 血肉が吹き飛び、


(!)


 けれど、その全てが靄に包まれるように歪み、醜悪な山羊の頭部に変わった。


 頭部の巻角が砕け、肉の一部が削れている。


 ボタボタ


 多量の紫の鮮血がこぼれている。


 小柄だったはずの肉体は、いつのまにか、巨漢の大男のそれに変わり、奴は苦悶の声を上げてよろめいていた。


 ヒィン




【追撃せよ!】


・今が好機。


・決して逃すな。




 赤文字が、僕を叱咤する。


(おおっ!)


 僕は走る。


 右手に『霊樹の小剣』を握り締め、全力で奴に肉薄した。


 幻覚魔法で完全に騙せていると油断したのか、負傷したバフォメットとの間合いは5メートルもない。


 奴は、蹄の足で後方に跳ぶ。


(逃がすか!)


 タン


 僕も、跳躍。


 後ろに跳ぶより、前に跳ぶ方が距離が出る。


 僕は奴に追いつき、剣の間合いに入った。


 バッ


 瞬間、奴の両手が僕に伸びた。


 両の手のひらに無数の炎の塊が浮かび、流星雨のような炎の矢の雨が、僕目がけて一斉に射出された。


(……っ)


 僕は歯を食い縛り、


 ボボボボォン


 奴の魔法の全てが直撃する。


 膨大な炎が弾け、洞窟内が一瞬で明るくなった。


「シンイチ君!」


「シンイチ!?」


 黒と赤の髪の美女2人の叫び声が聞こえる。


 金髪のお母様は言葉もなく、その表情を失ったまま茫然と眼前の光景を見つめていた。


 山羊の顔が、醜悪な人間みたいに笑う。


 歪んだ笑み。


 けど、その表情は、一瞬で驚愕に変わった。


 真っ赤な爆炎の中から、青い光の球体に包まれ、無傷の僕が現れたんだ。



 ――王霊の盾。



 5秒間、完全無敵の古代魔法。


 その輝く球体は、僕が奴の前に立った直後、砕けるように消える。


 ドスッ


 同時に、僕の右手の『霊樹の小剣』がバフォメットの人間部分の胸部――すなわち、心臓を貫いた。


『……がっ!?』


 山羊の口が、血を吐く。


 僕の頬に、返り血が飛ぶ。


 それを無視し、


「っ……ああああああ!」


 怒りの感情に任せ、身体強化された腕力を使い、小剣を上へと振り抜き、山羊の頭部を完全に両断する。


 ドパァン


 魔物の上半身が、完全に2つに分かれた。


 2歩、3歩、奴は後ろに下がる。


 そして、4歩目で躓き、


 ドシャッ


 仰向けに、大の字で倒れた。


 大量の血液と湯気を上げるピンク色の臓物、そして、脳の残骸が岩の地面にこぼれ落ちていた。


「はっ、はっ、はっ」


 興奮のまま、僕は荒い呼吸を繰り返す。


 ヒィン




【バフォメット】


・死亡している。




 それを確認。


 その事実に安堵し、けれど、収まらない感情が身体の中で蠢いていた。


 ザッ


 血濡れの剣を手に、振り返る。


 視線の先には、3人の美女たちがいる。


 2人は歓喜の表情を浮かべ、けれど、僕の様子に怪訝そうになった。


 それを無視し、歩く。


 タッ


 止まったのは、クレフィーンさんの目の前だ。


 彼女の目は、涙に濡れている。


 僕のためじゃない。


 別の男のために流した涙。


 そして、その瞳は、今だ幻覚を見ているように焦点が揺れていた。


(……っ)


 僕は手を伸ばし、


 ガッ


 彼女の頭部を挟むように掴む。


 そのまま、強引に唇を重ねる。


 青い瞳が驚いたように開き、ようやく僕を見る。


 顔が離れる。


 唇が外れ、視線が重なる。


 その意識を自分だけに向けさせながら、



「――クレフィーンさんは、もう僕のものだ!」



 と、叫んだ。


 彼女の美貌が、驚愕の色に染まる。


 構わない。


 僕は、戦いの興奮と泣きそうな感情に表情を歪めながら、言う。


「昔は知らない!」


「…………」


「でも……でも、今のクレフィーンさんは僕のものだ! だから、今は……今だけは過去を忘れて、僕だけを見てください……!」


「……シン、イチ……君」


 彼女の青い瞳が、僕を見つめる。


 そこに反射する僕の表情は、幼子みたいに泣きそうだ。


(ああ……)


 情けない。


 そんな自分に驚き、余計に涙が出そう。


 だけど、クレフィーンさんは青褪めた表情で息を飲み、


 ガバッ


 突然、僕の頭を抱くように強く抱き締めた。


 思わぬ行為に驚き、でも、動かずに彼女の行動を受け止める。


 胸が押し付けられ、


 ドク ドク


 彼女の心臓の強い鼓動が聞こえる。


 その生命と存在を、感じる。


 クレフィーンさんは、僕の髪をゆっくりと白い指で撫でた。


 お互いの悲しみを溶かすような、優しい指使い。


 吐息が聞こえ、


「ごめんなさい」


「…………」


「本当に、私は、いつまでも弱くて……。ええ、今、私の腕の中にいるのはシンイチ君です。今の私が愛している人は……貴方です」


「…………」


「ごめんなさい、ありがとう、シンイチ君」


「……うん」


 僕は、何とか頷いた。


 興奮していた感情が抜けていく。


 ブルブル


 同時に、手足が、身体が震え出す。


 バフォメットを倒すために単身で飛び出し、1歩間違えれば死んでいた爆炎の威力を思い出して、今更、肉体が恐怖を感じ出したんだ。


(でも、いいんだ……)


 彼女がいるから。


 無事だから。


 そして、取り戻せたから……。


 彼女に対する自分の独占欲の強さと心の弱さに、自分自身で驚くけれど……でも、それでもいいんだ。


 少し身体が離れ、彼女が僕を見る。


 綺麗な青い瞳。


 そこに溜まった涙がこぼれ、頬に流れる。


 誰のため?


 きっと、今は僕のために。


 クレフィーンさんの白い美貌が、澄み切った美しさで微笑んだ。


 そして、顔が近づき、


「ん……」


(ん、ぅ)


 今度は彼女の方から覆い被さるように、甘い唇を重ねられたんだ。

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― 新着の感想 ―
何とも趣味の悪い奴が出て来たものだ・・・クレフィーンを弄ぶような行いをしてなければ真一は何も出来なかったが、クレフィーンの心は・・・
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