153・闇より忍び寄る恐怖
【35キロ地点】
(お?)
移動中、真眼が文字を表示した。
本日の目標地点――35キロ地点に到達したみたいだ。
僕は即、3人にも報告。
「そう。じゃあ、今日はここまでにしようか」
「うん」
「はい」
「ええ、わかった」
「よし、じゃあ、野営できそうな場所を探そう」
僕とお姉様方は、洞窟内のなるべく平らで見通しの効く場所を探しながら前方へと進んでいく。
傾斜があると、意外と大変なんだ。
(寝ようとすると、身体がずり落ちてくんだよね)
だから、平らな場所、大事。
見通しも、危険のいち早い発見をするために大事な要素だ。
キョロキョロ
僕は周囲を見回しながら、ゆっくり歩を進める。
その時、
(ん……何だ、あれ?)
鍾乳石の並んだ洞窟の端の方に、動物みたいな4つ足の石があったんだ。
4本の足は、皆、地面と同化してる。
変な石。
何となく見ていると、
ヒィン
真眼が発動した。
【冒険者の成れの果て】
・5年前、ここで息絶えた冒険者。
・暗黒大洞窟の特殊な性質により、その肉体が石化、洞窟と一体化している。
・魔素が含有した希少な鉱物となっている。
(え……)
その正体を知り、僕の足が止まった。
しばし茫然と立ち尽くす。
いや……見れば、他にも人の面影を残した奇妙な岩が、洞窟内の地面や壁に無数にあることに気づいた。
(これ、全部?)
冒険者の……人間の死体?
それが石化した物なの?
僕の様子に気づき、3人の美女も足を止める。
「シンイチ君?」
「どうかしましたか?」
「何よ、顔色が真っ青じゃないの?」
と、聞いてくる。
僕は数秒、沈黙、そして、その事実を伝える。
3人も驚き、
「ああ……言われてみれば、確かに人の形だね」
と、頷く。
でも、僕ほど動揺してないみたい。
アルタミナさん、レイアさんは周囲を観察し、クレフィーンさんが哀しげに微笑む。
「暗黒大洞窟は、長年、希少な鉱物を求める冒険者たちが何人も訪れ、そして、かなりの人数が散っていった場所でもあります。その痕跡が、ここではこのような形で残るのですね」
「…………」
「悲しいことですが、ですが、それは皆、覚悟の上でのことですから」
「…………」
「それが冒険者の生き様です」
僕は、彼女を見る。
雪火剣聖と呼ばれる美女は、美しくも凛々しい表情で頷く。
(――うん)
僕も頷いた。
その後、しばらくして野営に適した場所を発見する。
テントを設営。
食事を終わらせると、全員で見張りを交代をしながら休むことにする。
ただ、
「シンイチ君は慣れていないので、私と一緒に」
「あ、はい」
と、僕とお母様は2人で見張りをすることになった。
で、途中で睡眠を途切れさせるのも大変だろうと、本日の1番最初の見張りを、僕とお母様で担当することにしてもらえた。
色々、便宜を図ってもらってます。
(すみません、ありがとうございます)
と、感謝。
アルタミナさん、レイアさんはテントの中へ。
そして、寝る前にレイアさんがかけてくれた『光源魔法』とランタンの灯りを頼りに、僕とお母様は周囲を見張る。
光の照らす範囲以外は、真っ暗だ。
……1人だったら、怖かったろうな。
でも、今は隣に、長い金髪を背中に流して座るクレフィーンお母様がいる。
(うん、心強い)
僕の視線に、
ニコッ
と、彼女も笑ってくれる。
見張りは、3時間交代の予定だ。
洞窟の中なのでわかり辛いけど、真眼情報だと今は夜の9時ぐらいらしい。
(ファナちゃん、元気かな?)
ふと、真眼で確認する。
ヒィン
【ファナの様子】
・ダルトン夫妻と一緒に、夕食の食器の後片付けをしている。
・洗剤の泡を触るのが楽しい様子。
・でも、滑ってお皿を落としたり、割ってしまわないように、彼女なりに細心の注意を払っている。
・夫婦も、彼女が怪我しないよう見守ってくれている。
(そっか)
ふふ、偉いぞ、ファナちゃん。
真っ暗な洞窟内で、彼女の情報は何だか癒しに感じる。
僕は、お母様にも報告。
彼女は、
「まぁ……ふふ、そうですか」
と、母の顔で優しく微笑んでいた。
それからも、彼女と小声で雑談したりしながらも緊張感を保って見張りを続ける。
時々、真眼も使うけど、
(ん、異常なし……と)
特に魔物の接近や危険な何かはないようだった。
1時間、2時間……。
そして、もうすぐ3時間が経過しそうな頃になる。
(そろそろ交代だね)
と、少しだけ安心した気持ちになっていた――その時だった。
ヒィン
突然、空中に文字が浮かぶ。
(ん?)
でも、警告の赤文字ではなく、普通の黒文字だ。
何だろう?
【50キロ地点の冒険者】
・6名全員、死亡した。
・夜間の魔物の襲撃により、壊滅。
・捕食されたあと、残された遺体の残骸は石化を始め、現在、洞窟と一体化し始めている。
(え……?)
50キロ地点の冒険者が……?
え、今の話?
この同じ時間に、彼らが死んでしまったの?
(嘘でしょ……)
僕は、茫然だ。
彼らも僕らと同じように野営をし、見張りもしていて、けど、そんな悲劇が起きている。
ブルル
身体が震えた。
「シンイチ君?」
「あ……」
「どうかしましたか? 秘術の目で、何か……?」
「あ、はい。えと……」
言うか、少し迷う。
でも、心配そうな彼女の表情に、黙っている方がより心配かけると思い、話すことにした。
クレフィーンさんは、静かに聞いてくれる。
そして、
ギュッ
「そうでしたか」
全てを聞き終えると、僕を抱き締めた。
(わっ?)
驚き、同時に気づく。
彼女の体が熱い。
いや……逆だ。
僕の身体の方が、冷え切っていたんだ。
多分、恐怖感で。
クレフィーンお母様はそれに気づいて、そんな僕の心を温めるように抱き締めてくれたみたいだった。
ギュ……ッ
僕も、彼女の背に手を回す
耳元で、彼女が言う。
「大丈夫」
「…………」
「私たちは大丈夫です。このクレフィーンが、そして、アルやレイアがいますから、シンイチ君は安全ですよ」
「……はい」
「ええ……ふふ、いい子です」
白い指が、優しく僕の髪を撫でる。
(ん……)
母性溢れるお母様の優しさに、僕の心も大分、熱を取り戻していた。
だから、僕も言う。
「クレフィーンさんも……」
「?」
「僕も、クレフィーンさんを守ります。だから、クレフィーンさんも大丈夫です」
「…………」
「絶対に」
「ふふ……はい」
彼女は嬉しそうに青い瞳を細め、はにかみながら頷いた。
僕も笑う。
その後、交代の時間が来て、起きてきたアルタミナさんと見張りを代わる。
僕らはテント内へ。
その狭い空間でも、
「シンイチ君……」
ムギュ
彼女は僕を、その豊満な胸に挟むように抱き締めてくれた。
んん……。
僕も素直に甘え、就寝する。
クレフィーンお母様も僕を抱き枕にしたことで、安心しながら眠れたみたいだ。
やがて、無事、朝が来る。
(何もなくてよかった……)
そして、僕らは朝食を頂き、野営具を片付け、再出発。
洞窟内を進んでいく。
傾斜の激しい難所を越えたり、分岐を選んだり、大型の蝙蝠みたいな魔物を倒したりしながら、奥へ、奥へと向かう。
やがて、45キロ地点。
約10キロ進んだ場所で、僕らは足を止めた。
(……おお)
僕は、目を瞠る。
僕らの持つ明かりに、洞窟内が照らされている。
その光で見える範囲には、僕らの進路を阻むような、青く巨大な地底湖が広がっていたんだ。




