150・暗黒の大洞窟へ
翌日、僕らはオードンの冒険者ギルドを訪れた。
アルタミナさん曰く、
「暗黒大洞窟に入るには、国の許可がいるんだよ。だから、国家公認のギルドで許可証を発行してもらうのさ」
「へぇ……許可制なんですね」
「うん。洞窟内は、採掘場所だからね」
「?」
「つまり、採掘目的で入る人が多いんだけど、同じ場所で多人数が採掘してると崩落の危険があるから、事前に申請して人数制限をかけてるのさ」
「ああ、なるほど」
そんな理由なんだ?
赤毛のエルフさんは肩を竦め、
「ま、私たちは採掘じゃなくて、深部の調査目的だから問題ないはずよ」
「はい」
僕も頷く。
そして、冒険者ギルドに到着。
オードンの冒険者ギルドは石造りの無骨な砦みたいな建物だった。
し、渋い……!
中に入ると、早朝だからか人は少ない。
近くのギルド職員に声をかけ、要望を伝える。
最初は面倒そうな顔だった青年は、アルタミナさんたちの美貌に赤くなり、次いで王都のギルド本部のギルド長の署名入りの書状を渡されると青くなっていた。
う~む、信号機。
いや、気持ちはわかります。
ギルド内は、王国最強の黒獅子公の来訪に一時騒然とし、オードンのギルド長まで出てくる始末。
ペコペコされながら、もう1度、要望を伝える。
もちろん、即、許可証は発行してもらえた。
(さすが、黒獅子公ですなぁ)
新人の僕は何も言わず、ただ3人の端っこで置物のようにしてました、はい。
アルタミナさんは、
「無事、もらえてよかったね」
キラッ
白い歯を見せ、爽やか笑顔。
(ですね)
僕も苦笑して、頷く。
冒険者ギルドを出たあとは、門前で手続きを行い街を出発、竜車で約3キロ離れた『暗黒大洞窟』を目指す。
岩石だらけの大地にある街道を進む。
やがて、岩山へ。
周囲の植物はまばらで、傾斜のある道を登っていく。
約1キロほど登り、
(あ……)
遠くに、石造りの砦が見えた。
あの砦の内側に、暗黒大洞窟への入り口があるそうだ。
暗黒大洞窟は、魔物の生息する危険な場所であると同時に、オードンの街の経済を支える貴重な採掘場所である。
それゆえの厳重な管理体制らしい。
「…………」
ドキドキ
少し緊張してきたよ。
砦の前の門兵に、ギルドの許可証を見せる。
あとで聞いたんだけど、実は最優先で対応するべき特別な許可証が発行されてたんだって。
門兵さんは驚いたあと、即、上官を呼ぶ。
上官さんは、恐縮した様子で入場を許可、僕らの竜車は砦内へ。
ザワザワ
すでに砦にいた冒険者や採掘師、砦の兵士、常駐の商人や運搬車両の御者などが何事かと僕らに注目してくる。
そんな中、4人で下車。
周囲の何人かは、
「黒獅子公だ……!」
と、正体に気づいたりもしていた。
(どもども)
僕はおまけのように3人の美女について行く。
上官さん、複数の兵士さんに案内され、やがて、僕らは岩の壁面にある亀裂の前にやって来た。
大きな亀裂だ。
縦30メートル、横幅も1番広い所で15メートルぐらい。
岩肌の地面には、鉱物を運搬する車両の車輪の跡らしい溝が何本も残されていた。
入り口には照明が設置され、内部10メートルぐらいまでは視認できる。
でも、それ以降は、
(……真っ暗だ)
太陽の光も届かず、塗り潰されたような闇が広がっている。
まさに、暗黒……。
この闇の中で亡くなれば、その遺体も残らず、石化して洞窟に吸収されてしまう。
ゴクッ
僕は唾を飲む。
アルタミナさん、レイアさん、そして、クレフィーンさんの熟練冒険者3人も、瞳を細め、眼前の闇を見つめていた。
ヒュオオ……
冷気のような風が、洞窟内から吹いてくる。
正直、怖い。
けど……王都で待っている金髪の幼女の笑顔を思い出す。
(――守らなきゃ)
彼女の未来を。
幸せを。
ギュッ
僕は、強く拳を握る。
そして、
「行きましょう」
と、皆に言った。
3人は、少し驚いたように僕を見る。
すぐに笑い、
「はい」
「そうだね」
「ふふっ、言うじゃないの」
と、頷いた。
レイアさんが『光源魔法』を使い、3枚の光の羽根が空中に浮かぶ。
闇が払われ、
ザッ
僕らはついに『暗黒大洞窟』の内部へと足を踏み入れた。
◇◇◇◇◇◇◇
洞窟内の空気は、少しひんやりしている。
ジメッとした湿度も感じる。
(…………)
何だろう?
なんか……巨大な生き物に食べられたような気分……。
不安を飲み込み、前に進む。
コツン コツン
足音が洞窟内に反響し、思った以上に大きく聞こえる。
洞窟内は入口の亀裂と同じサイズのまま、もしかしたら、もっと広がったような空間を保持して奥へと続いている。
3枚の光の羽根が、闇を照らす。
でも、それでも照らせない闇が先に広がる。
コッ
(おっと)
少し躓いた。
転ぶことはなかったけれど、ちょっと焦った。
でも、実際、足場も悪いんだ。
天然の洞窟だから地面には凹凸があり、鍾乳石も天井と繋がるように上下に無数に生えている。
表面も濡れていて、滑り易い。
あと、微妙に下り傾斜になっている感じなんだよね。
僕の様子に、クレフィーンさんが微笑む。
「1歩ずつ、慎重に行きましょう」
「はい」
僕も頷いた。
アルタミナさん、レイアさんも優しい表情で僕らを見守る。
でも、すぐに真面目な表情に戻り、前を向く。
しばらく進むたび、
ヒィン
と、僕は真眼チェックする。
今の所、異常はなく、魔物の接近もない。
1本道なので、特に行くべき道を調べる必要もなかった。
歩きながら、僕らのリーダーである黒髪の美女が口を開いた。
「今日の内に、3万5000メード地点まで進みたいな。翌日、7万メードまで。で、3日目から未知の領域に入り、4~5日目辺りで『高濃度汚染体』を発見、戦闘が理想だね」
「……なるほど」
「ま、無理はしないで行くつもりだけどね」
と、軽く笑う。
僕も笑顔で、
「はい、わかりました」
と、頷いた。
3万5000メード……約35キロ。
身体強化魔法を使っても、なかなかの距離である。
(でも、がんばろう)
時間が経てば経つほど、この洞窟の先にいる『高濃度汚染体』は呪詛や魔素を吸収して強くなっていくのだから。
脇目もふらず、僕らは歩く。
コツン コツン
途中、水筒で水分補給したり、お母様の『水生成』の魔法で水を入れ直したり。
移動は順調で。
浅層だからか、魔物との遭遇もない。
と、1時間後、
ピクッ
先頭を歩くアルタミナさんの獣耳が動いた。
(ん?)
僕は気づく。
同時に、
ヒィン
空中に文字が浮かぶ。
【この先に冒険者あり】
・進路上に、冒険者が7人いる。
・昨日の内に洞窟に入り、採掘していた模様。現在も採掘中である。
・距離、約530メートル。
(お……?)
冒険者?
採掘中の……?
あ、耳の良いアルタミナさんは、もしかしたら、その採掘音に反応したのか。
僕は、彼女に即、説明。
「ああ、なるほどね。その音か」
「はい」
「ありがとう、シンイチ君。その目は本当に頼りになるね」
「えへへ……」
褒められた。
嬉しい。
他の美女2人も「さすがですね」「本当、便利よね」と感心した様子だった。
そのまま進むと、
カッ…… カッ……
(あ……)
僕らの耳にも、その音が聞こえてきた。
硬い何かがぶつかるような音――多分、ツルハシか何かで岩盤を叩いてる音なんじゃないかな?
更に10分ほど進むと、前方に明かりが見えた。
床にランタンを置き、壁を削っている冒険者の集団がいた。
見張りもいて、僕らに気づく。
作業の手が止まり、全員、僕らを見てくる。
アルタミナさんは、
ニコッ
「お疲れ様。奥に行くから、後ろ、通らせてもらうね」
と、友好的に挨拶。
向こうも頷く。
汗と土埃に塗れた顔に、少しだけ警戒が解けた表情が見えた。
クレフィーンさんも柔らかに微笑み、僕も軽く会釈、レイアさんだけは澄ました顔のまま前だけを見て、7人の後ろを通り抜けた。
しばらく進むと、
カッ コッ
遠く、再び採掘音が聞こえ出す。
振り返る。
明かりの中、黒い影が動いてる。
顔の識別は、もうできない。
(…………)
しばらく見つめてしまう。
と、
「シンイチ君?」
足の遅れた僕を、少し先を行くクレフィーンお母様が呼んだ。
(あ……)
「ごめんなさい、今、行きます」
僕は、慌てて追いかける。
彼女は『大丈夫』と安心させるように微笑んでくれる。
(うん)
僕も笑った。
でも、すぐに表情を引き締める。
前方の闇だけを見つめ、3人と一緒に洞窟内を進んでいった。
ご覧頂き、ありがとうございました。
ここからお知らせです。
年内の更新は、今話が最後となります。
今年、この作品を見つけ、こうして読んでくれた皆さん、本当にありがとうございました。
再開は、来年1月5日(月曜日)を予定しております。もしよろしければ、どうかまた読んでやって下さいね。
また来年からは、週3回、月、水、金の更新にしたいと思います。
今年一杯、毎日更新を続けてきましたが、今後も安定した執筆を続けるため、どうか少しだけ更新ペースを緩めさせて下さいね。よろしくお願いします。
今年ももう終わりという事で、この時期は時の流れの早さに毎回驚きますね。
改めまして、本作含め、作者の作品を読んでくれた皆様、本年もお世話になりました。また来年もよろしくお願いいたします。
どうか、よいお年を!
月ノ宮マクラ




