146・友好の証をもらったよ
ザワザワ
(ん……?)
外からの騒がしい音に、僕は目を覚ました。
まぶたを開けると……う、眩しい。
朝日の光が目に刺さる。
レイアさんの部屋の床、敷かれた布団から上体を起こすと、3人の美女がもう起きていた。
彼女たちも僕に気づき、
「やぁ、おはよ」
「おはようございます、シンイチ君」
「あら、起きたのね?」
と、声がかけられる。
(う~ん、3人とも、やっぱり美人……)
眼福、眼福
と、思いつつ、僕も「おはようございまふ……」と寝ぼけた声で返事をした。
そして、3人は窓の外を見る。
(……?)
その外から、何かざわめきが聞こえる。
何だろう?
僕も立ち上がり、窓に近づく。
すると、クレフィーンさんが場所を開けてくれて、あ、ども……僕は会釈し、外の景色を眺めた。
お?
エルフさん、いっぱい。
昨日は見なかった森の妖精さんたちが、何人も通りを歩いている。
うん、皆、美形。
そんな美しい彼や彼女たちは、ある方向を指差し、同じように移動していた。
(どこに行くの?)
というか、何かあったの?
不思議に思っていると、
「治療薬が完成したそうです」
「え?」
僕は驚き、間近にある金髪のお母様の美貌を見返してしまう。
治療薬……。
(つまり、『火枯れの熱死病』の?)
表情に出ていたのか、彼女は微笑み、「はい」と頷く。
おお……!
友人2人も頷き、
「私たちが採取した霊薬草ネクレタールと他の希少な薬草を使って、昨夜未明に完成したらしいよ。その話が里にも広まったみたい」
「『精霊堂』に集められた患者に処方されて、症状も改善したらしいわ」
へぇ~!?
(凄いじゃん。そして、よかったぁ……!)
僕も嬉しいや。
採取、苦労したもんね。
樹海王熊、5頭もいたし……よく無事に持ち帰れたよ。
ザワザワ
なるほど、外のエルフさんは皆、患者の家族や友人で、安否を確かめにその『精霊堂』に向かっているんだね?
(う~ん、気になる)
なので、僕らも家の外に出ることにした。
レイアさんの家族に事情を説明し、僕ら4人は通りに出る。
人、いっぱい。
いや、エルフさん、いっぱい。
一緒に歩いていくと、ドーム球場みたいな建物が見えてきた。
白い外壁に枝が絡まり、花が咲いている。
建物の入り口に通じる正面の道には、紋様が描かれた石造りの円形の物体が並んでいて、皆、それを潜り、建物に向かっていた。
確か、精霊を祀る建物だっけ。
(じゃあ、あの石の輪は鳥居みたいなものなのかな?)
入り口は人が集まり、混雑してる。
中は見たいけど……今は患者の家族優先で、ここで我慢した方が良さそうだ。
と、4人でその場で待機。
里出身の赤毛のお姉さんに話を聞くと、
「精霊堂内には、高さ1メードほどの真っ白な『精霊樹』が植えられているわ。樹齢は10万年以上らしいわね」
「へぇ……」
「要は、グレシアンの森の中心ね」
「うん」
「精霊力に満ちて、淡く輝いているからとても綺麗なのよ」
と、少し誇らしげに語る。
(そうなんだ?)
うわぁ、見てみたいな~。
でも、今は命を失いかけた患者が多数いる訳で、気軽には覗けない。
ま、仕方ない。
(こういう巡り会わせの時もあるよね?)
うん、いつか見れる日が来るのを待とう。
見れば、精霊堂の入り口に集まるエルフさんの中には、家族が助かったのか泣きながら喜んでいる人たちが何人もいた。
その様子が胸に来る。
……もし。
もし、その病気なのが、ファナちゃんだったら?
もしかしたら、明日にも死んでしまう病に苦しんで、けど、それが治療薬で治ったとしたら……?
そんな想像をしたら、
(う……本当に助かってよかった)
僕も、もらい泣きしそう。
そんな僕の横で、
「採取、がんばってよかったね」
「はい」
と、黒髪と金髪のお姉さんが笑う。
そして、
「――その……里のためにありがとうね、アル、フィン、シンイチ」
と、赤毛の美女が呟くように言った。
(え?)
僕らは、彼女を見る。
照れ臭かったのか、レイアさんは少し赤い顔である。
あ、うん。
可愛いお姉さんですね。
僕らは3人で顔を見合わせ、つい微笑んでしまった。
でも、
(もしかしたら、これで里への負い目も少しは晴れたのかな……?)
なんて思ったり。
照れるレイアさんを、友人2人がからかったり、肩を軽く叩いたりする。
……うんうん。
僕はほっこりしながら、そのお姉さんたちの様子を眺めたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
状況も確認できたし、
(……もう行くかな)
と、僕らは精霊堂の前を離れようとした。
そろそろ、里を出発する準備もしないといけないしね。
すると、その時、
ザワッ
精霊堂の中から、エルフの一団が現れた。
先頭にいるのは、白金の髪に碧眼の美女エルフさん――女長老のクラシュレアさんだった。
でも、少し疲れている様子。
ん~?
(もしかして、徹夜で治療薬を作ったのかな?)
と、想像する。
それを肯定するように、精霊堂に集まったエルフたちは、皆、彼女に感謝の言葉を投げていた。
うん、やっぱり。
女長老さんも微笑み、片手を上げて応じている。
と、その時、
パチッ
彼女の視線が僕らの方に向き、ふと目が合った。
すると、3000歳のエルフさんは人垣をかき分け、僕らの方へと一直線にやって来る。
おお……?
僕ら4人の前に来ると、
ギュッ
僕の手を握った。
「ありがとう! 君たちのおかげで無事、治療薬も完成した。多くの里の者が助かり、死者も1人も出さずに済みそうだよ……!」
「そ、そうですか」
「ああ、本当にありがとう、人の子よ!」
「ど、どうも」
ブンブン
上下に手を振られ、僕は目を白黒させちゃう。
あ、圧が強い。
あと、美人に迫られて、ドキドキする。
そのあとも、白金の髪の美女エルフさんは、僕以外の3人の手も順番に握り、感謝の言葉を述べていく。
3人も笑顔で応じていた。
女長老さんは、
「他の長老たちからも、君たちに感謝を伝えるように頼まれたよ」
と、言う。
(……ふ~ん?)
でも、その割には、他の長老さんは顔を出さないんですね――と思ったり。
すると、その時、
ヒィン
(ん?)
真眼が発動する。
【エルフの長老】
・長老たちは、皆、肉体の3~7割が樹木と同化した存在である。
・そのため、移動は困難である。
・思考も半分人ではなく、ほぼ植物と化している。
・同化が進めば、やがてグレシアンの森の一部となる。
・現在、クラシュレア・ロム・グレシアン以外、動ける長老は存在しない。
(え……?)
植物と同化?
エルフの長老って、そういう存在だったの?
ひぇぇ……。
少しホラーじゃん。
(でも、森の妖精であるエルフには名誉なことなのかしら?)
よくわからんけども。
う~ん?
悩んでいる間にも、彼女は集まったエルフたちにも僕らの功績を伝え、皆が一斉に感謝を伝えてきた。
あ、あわわ……!
褒められたり、お礼を言われたり、撫でられたり、背中を叩かれたり、頭を下げられたり、泣かれたり……なんかもう、色々と大変でした。
(ど、どうもどうも)
僕もペコペコしちゃう。
いや、日本人の性質ですね……。
でも、悪い気はしない。
むしろ、エルフの役に立ててよかった、と思う。
だってね?
異世界ファンタジー好きなら、みんな、エルフも大好きだもん。
僕も同じさ。
だから、なんか嬉しいんだよ。
えへへ……。
そんな僕らを、女長老のクラシュレアさんも優しい表情で眺めている。
そして、
「――君たちに、これを渡そう」
と、言い出した。
(え?)
見れば、お付きの人から渡された一振りの剣が僕らの方に差し出されていた。
1番近かった僕が、受け取る。
えっと?
見た目は、白と緑色の木製の剣だ。
でも、練習用の物とは違い、柄や鍔の細部まで装飾が施され、片刃の剣身も紋様が刻まれ、色違いなので2種類の木材が使われている様子。
工芸品?
いや、美術館レベルの美しさだけど、多分、実用品だ。
なんか、雰囲気でわかる。
(……よし)
ヒィン
即、真眼で確認する。
【霊樹の小剣】
・グレシアンの森の霊樹を素材に造られた小剣。
・木製の剣なので金属剣よりも軽く、けれど、金属よりも遥かに強度が高く、斬れ味も鋭い。
・グレシアンの森のエルフとの友好の証。
・値段なし。非売品。
・攻撃力、30。
(おお、いいじゃん)
素敵な小剣だ。
しかも、木製なのに金属より強いって格好いいよね?
あと、これ。
(友好の証)
凄いじゃん。
僕は、目の前にいる白金の髪のエルフさんを見る。
彼女は微笑み、
「君たちは、我らの友人であり恩人だ。その証として、どうかこれを受け取ってもらいたい」
「…………」
「これを所持する限り、グレシアンエルフは全員、君たちの味方だよ」
「クラシュレアさん……」
その真摯な声の重さに、何だか感動する。
僕は、3人を振り返る。
彼女たちは微笑み、頷いた。
(うん)
僕も頷く。
再び、里の代表となる彼女を見返して、
「ありがとうございます。この剣、大切に受け取らせてもらいます」
「ああ」
彼女も笑った。
それに、僕も笑顔になる。
その後、皆と話し合いの結果、この『霊樹の小剣』は僕の装備品となった。
今までの『初心の短剣』は、予備武器に。
(えへへ、新武器だ)
なんか嬉しい。
重さは大して変わらないのに、刃渡りが10センチ以上伸びたよ。
チャキッ
その小剣を頭上に掲げる。
木製ながら美しく、陽光に照らされた白と緑の2色の鮮やかな刀身が、淡く輝いているように見える。
その素晴らしさに、僕は瞳を細めてしまう。
(……うん)
大きく頷く。
周囲のエルフたちも僕を見て、拍手を送る。
パチパチ
友好の音色。
クレフィーンさん、アルタミナさんは笑い、レイアさんは驚いたように同胞を見ていた。
やがて、
「そう……そうね」
と、柔らかに微笑む。
それは、150年前に刺さった何かが溶けたような、そんな表情に僕には見えたんだ。




