145・全員、成長してました
「――さ、眠りましょうか」
元部屋主のレイアさんが、そう言った。
僕らも頷く。
でも、室内は本来1人部屋で、4人一緒に眠るには正直、スペースが狭い。
なので、
ムギュッ
「レイア、もっとそっちに」
「痛っ……ちょっと、そんなに押さないで、アル」
と、2人はベッド。
もう2人は、床に敷布団を敷き、眠ることになった。
ベッド上には、部屋の持ち主である赤毛のエルフ様が横になり、隣に黒髪の獣人さんが寝転ぶ形で。
で、必然、僕とクレフィーンさんが床の上だ。
ポフッ
僕らも、布団に横になる。
横を向くと、
(う……ち、近い)
年上の未亡人さんの美貌がすぐ目の前にあった。
綺麗な金色の髪がサラリとこぼれ、白い指がそれを優雅に払いながら、彼女は僕に微笑んでくる。
ドキドキ
鼓動も早くなるよ。
本当、お母様、美人だわぁ。
え……本当に彼女、僕の恋人なの?
(えへへ……)
僕も何となく、笑ってしまう。
と、彼女の表情が何かグッと苦しそうなものになり、その白い腕が僕の方に伸びてきた……え?
ギュッ
いきなり、抱き締められる。
(お、お母様?)
僕は、目を丸くする。
お、お胸様が、お胸様が僕の顔に当たってますぞ……!?
そんな僕に、
「その……狭いですから、そんなに端に寄ると頭をぶつけてしまいますよ。だから、もっと私に身を寄せて……ね?」
「あ、は、はい」
彼女の言葉に、頷く。
いや、でも、
(頭、ぶつかるかな?)
もう少し、スペースあるような……?
と、
ヒィン
【クレフィーンの誘惑】
・至近距離で見つめ合ったため、発情している。
・密着するチャンスだと思い、言い訳をしながら桐山真一の身体に触れている。
・喜びつつ、他の人もいるので色々我慢している。
・愛情度、40/100。
(ふぁっ!?)
は、発情って……。
そ、そうなんですか、クレフィーンお母様?
やばっ。
僕もその密着しすぎて、股間が大変なんですが……。
押し付けないよう、気を付けて、
ムニッ
(あ)
「あ……」
動いたら、彼女の下半身に当たっちゃった~!?
僕、真っ赤。
でも、クレフィーンさんは目を見開いたあと、妙に嬉しそうな女の顔になる。
頬を上気させながら、
「ふふっ……」
艶っぽい微笑と眼差しで僕を見る。
お、おぅ……。
今のお母様、いつも女神だけど、一瞬、淫魔みたいに見えましたよ。
でも、それも似合う~。
ドキドキ
密着してることで、彼女の強い鼓動も感じる。
数秒、僕らは見つめ合う。
自然と、お互いの顔と唇が近づき、
「……フィン」
「人の部屋で、勝手にいやらしいことしないで」
「!」
(ほぁっ!?)
僕らはビクンッと跳ねる。
見たらベッド上から、2人の美女の呆れた視線が向けられていた。
(あ、あはは……)
僕は誤魔化し笑い。
金髪のお母様は少し恨めしそうに見返したあと、「はい」と残念そうに息を吐く。
僕を見て、
「……続きは、2人きりの時に」
「う、うん」
小声で囁かれ、僕は頷く。
彼女は、今はそれで納得したようにはにかむ。
そして、改めて就寝へ。
でも、
(ね、寝られるかなぁ?)
まだ、ドキドキが収まらない。
間近にある彼女の存在を感じながら、目を閉じる。
羊、羊……。
煩悩を振り払い、僕は必死に羊を数えたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
夜も更けた。
3人の寝息が聞こえている。
でも、僕は起きていた。
(……うぅ、眠れませんでした)
いや、だってね?
今までも同室で眠ったことあったけど、こんなに密着してることなかったもの。
今もほら?
お母様の長い金髪が、僕の腕に触れている。
触ると、うん、サラサラだぁ。
いや、じゃなくて……。
ま、さっきまでみたいな強い煩悩は消えたけれど、眠るにはまだ少し時間がかかりそう。
健全な男子は、辛いのです。
とほほ……。
綺麗なお母様の寝顔を眺め、
(ん……)
僕は、視線を窓へと向ける。
金の装飾の施された窓枠と透明度の高いガラスの奥には、エルフの里の夜景が見えた。
無数の枝に吊られた街灯のランプの光が美しい。
基本、淡い橙色で、他に赤、青、白、黄、緑など、カラフルな小ランプも点灯してる。
まるで綺麗な花々が里の空間に咲いているみたいだった。
(さすが、エルフ職人の里)
凄いなぁ。
巨大な大樹に包まれた光の里には、上空から3色の月明かりも差し込む。
実に幻想的だ。
しばらく、見つめてしまう。
(……うん)
何だか今、ここにいることが不思議で、何となく今日1日を思い返してしまう。
朝には森の外で。
木々の中の道を走り、森のエルフさんに出会った。
で、里の危機を知り。
希少な薬草を求めて、森の奥で樹海王熊と戦って。
そして、今だ。
(う~ん、密度が高い)
また、こうして冷静に思い返してみると、戦闘力780の魔物5頭相手に、よく勝てたなと思う。
確かに『森の守り手』のルクレードさんもいたけれど。
でも、1頭でも、僕ら4人の誰より強い。
それが、5頭。
ま、戦闘力は目安って、真眼君も言っていたけどさ。
だけど、やはり驚くよ。
(どうして勝てたんだろう?)
と、今更、思ったり。
すると、
ヒィン
(ん?)
ふと真眼君が発動し、空中に文字が浮かんだ。
【全員の成長】
・前に比べ、全員が強くなっている。
・青き落雷の大剣を手に入れ、アルタミナ・ローゼンの戦闘力は現在、1040になっている。
・レイア・ロム・グレシアンは、森の中では精霊魔法が使えるようになったため、戦闘力は700追加の1070になっている。
・クレフィーン・ナイドは戦闘力は320と変わらないが、引退後のブランクから実戦を重ね、昔の優れた感覚を取り戻している。
・桐山真一は古代魔法の数と装備の変化により、戦闘力が1025になっている。
(へ……?)
見えた文章に、僕は唖然だ。
え、戦闘力1000越え……?
いや、アルタミナさん、レイアさんはわかるけど……僕も?
煌金級と同レベル?
え、マジで?
(何かの間違いじゃないの?)
と思うけど、
ヒィン
【マジ】
と、真眼君。
そ、そうですか。
でも、確かに、古代魔法が3種類に数百万円分の装備だもんね。
あれだよ、
(潜在能力的には……って奴)
要するに、僕とアルタミナさんは同じぐらい速いスポーツカーに乗っている。
でも、乗り手の差で。
プロの実力を持つ彼女は使いこなし、素人の僕は持て余す。
そんな感じ?
要は、宝の持ち腐れですね。
なるほど、
(戦闘力は目安……本当だよ)
凄く実感。
僕は何となく、遠い目になってしまう。
でも。
でもさ?
今の僕には、アルタミナさんと同じだけの可能性があるんだ。
古代魔法を駆使し、装備を活用し、僕自身の実力を高めていければ、いつかきっと同じ高みに立てるのだ。
その証明の数値でもある。
(うん……!)
やるぞ。
暗黒大洞窟の『高濃度汚染体』が今、どれだけ強くなってるかわからない。
でも、僕らも強くなった。
僕も、可能性を秘めている。
その可能性を高めれば、きっと勝てるはず……!
なんか、希望が見えた気分。
(ん、よし)
僕は、1人頷く。
チラッ
見れば、クレフィーンさんの安らかな寝顔が見える。
とても美しく、どこか神秘的で。
クスッ
僕は笑った。
彼女のためにも、彼女の娘ちゃんのためにも、がんばろう。
そう心を定める。
覚悟を決めたら、何だか落ち着いた。
大好きな人の寝顔を見つめ、そして、もう1度、まぶたを閉じる。
ゆっくり、深呼吸。
全身の力を抜き、そして……。
――僕はようやく、静かなエルフの里での夜の眠りにつくことができたのだった。




