121・赤火級の冒険者へ
徒歩で約1時間、僕らは冒険者ギルドに到着する。
(でっかいね)
アークレイン王国の冒険者ギルドを束ねる本部施設だけあり、本当、立派な建物だといつも思うよ。
建物は2棟。
冒険者用と依頼者用で、僕らは当然、冒険者用の建物へ。
建物内には、大勢の冒険者、ギルド職員がいる。
「お?」
「黒獅子公だ」
「赤羽妖精と雪火剣聖もいるぜ」
「格好いいわぁ」
「あの子供は何だ……?」
「実は、クランの新人らしいわよ」
「マジか!?」
なんて声も聞こえる。
3人は平然としているけど、僕は笑顔で軽く会釈しておく。
(ども、新人です~)
愛想、大事。
嫉妬や妬み、怖いしね。
ま、何をしても恨まれる時は恨まれるんだろうけど……その時は3人に守ってもらいましょう。
そうならない方がいいけどさ。
閑話休題。
本日の用向きは、サンドウォーム討伐の報告だ。
300個以上の『魔力結晶石』を運ぶのは大変だったけど、身体強化して、4人で手分けして何とか持ち運べた。
で、まず、鑑定カウンターへ。
「よろしくね」
と、アルタミナさん。
爽やか王子様スマイルに、受付のお兄さんは「は、はい!」と顔を赤くして答え、即、人を集めて作業に入る。
数が数だ。
20分ぐらい待たされて、無事、証明書をもらう。
それを手に、受付カウンターへ。
こちらでも、黒獅子公のスマイルに受付嬢のお姉さんが赤くなりながら、手続きをしてくれた。
う~ん、
(性別問わず……か)
凄いな、アルタミナさん。
本当、王子様だよ。
こちらも問題なく、手続きは終わる。
で、報酬は、素材報酬を含めて、なんと70万リド――約7000万円だ。
高ぁ……。
やはり『魔力結晶石』が高額で、あれだけで2000万円以上の額になったらしい。
なるほど。
(そりゃ、魔力ポーション、ガブ飲みさせてくれる訳だよ)
今更、納得。
1人1500万円の報酬で、残りから今回の必要経費を引いた分は、クラン貯金になるそうな。
1500万……うへへ。
高額報酬、堪りませんな。
僕は内心、ホクホクだ。
で、冒険者ギルドでの用事はこれで終わり。
このあと、代表者のアルタミナさんが依頼者の外務大臣に会いに外務局に行くらしくて、それでクエストは完全完了となる。
んだけど、
「あ、お待ちください」
と、受付嬢さん。
(ん?)
立ち去ろうとしていた僕らは、足を止める。
彼女は僕を見る。
微笑み、
「トウヤマ様、おめでとうございます」
「え?」
「今回のクエスト達成により、トウヤマ様の冒険者ランクが『無真級』から『赤火級』にランクアップしました」
「え、赤火級に?」
僕は、目を丸くする。
3人のお姉様方も驚き、
「へぇ、凄いじゃないか」
「やりましたね、シンイチ君」
「あら、おめでとう」
と、祝福してくれる。
(え、本当に?)
僕、冒険者登録してまだ2~3ヶ月ぐらいなんだけど、こんなに早くランクアップしていいの?
何かの間違いじゃ……?
受付嬢さんに、確認してみる。
すると、
「間違いありませんよ」
「…………」
「確かに異例の早さですが、その、トウヤマ様の場合、受けるクエストが『煌金級』の難易度なので、ギルド貢献度も高く、早期のランクアップになりました」
「あ、なるほど」
そっか。
アルタミナさんたちに付き合って格上のクエストをこなしたから、早期ランクアップなのか。
ちなみに本来は、昇級クエストも必要らしい。
でも、それ以上の難易度のクエストを達成してるので、僕は免除だそうだ。
受付嬢さんは、
「本当に、よく生き残りましたね」
「…………」
と、感心した表情で言う。
よく生き残った……そう表現されるぐらい、特異な状況なんだ、僕?
「あはは、どうも」
と、愛想笑い。
そして、僕の『登録魔刻石』を一旦渡し、返されると、無色だった石が真っ赤な炎みたいな色になっていた。
赤火級の色だ。
(…………)
何だろう?
現物を見たら、ジン……と胸に来た。
がんばった成果。
その評価の証が、確かな物として目の前にある。
見つめていると、
「私がつけましょうか」
「あ、はい」
クレフィーンお母様が微笑み、僕の首にかけてくれる。
ん……。
アルタミナさん、レイアさんも見守る中、僕の首に赤く揺れる『登録魔刻石』が提げられた。
ポン
最後に、お母様が軽く指で触れ、
「――おめでとうございます、シンイチ君。これでまた1つ、貴方は冒険者としての階段を昇ったのですね」
と、誇らしそうに言った。
(……っ)
その表情に、僕も息が詰まる。
何とか、
「はいっ」
と、答えられた。
お母様の友人2人も、僕の頭や肩をポン、ポンと叩き、
「よかったわね」
「クラン長として、私も嬉しいよ」
と、笑ってくれる。
それから、
「よし! それじゃあ、お祝いに、このあとみんなで美味しい食事でも食べに行こうか? もちろん、私の奢りだよ!」
と、アルタミナさん。
おお、太っ腹。
「わ、いいんですか?」
「あら、いいわね」
「まぁ、よかったですね、シンイチ君」
クラン長の提案に、3人で喜ぶ。
と、その時、
ヒィン
真眼が発動した。
(ん?)
【ファナの様子】
・現在、クランハウスでファナがクッキーを作成中。
・クエスト前にした『帰ったらクッキーを』というお兄様との約束を守ろうとしている。
・美味しいクッキーを食べさせたい、と、1枚1枚、丹念に作成し、上手に焼き上げようと健気にがんばっている。
・帰宅、推奨。
(な、何だって……!?)
僕は目を瞠る。
ファナちゃんがクッキーを、今……?
か、帰ろう!
(ありがとう、真眼君!)
もし知らなければ、ファナちゃんを待ち惚けさせてたかもしれない。
焼きたてのクッキーも冷めてしまい、がんばったファナちゃんも悲しむだろう。
もしくは、お祝いの豪華な食事と比べられて、ファナちゃんが自分のクッキーなんかじゃ……と、しょんぼりしてたかもしれない。
(駄目駄目駄目!)
悲しむ幼女、絶対、駄目!
僕、帰る。
お兄様は帰るよ、ファナちゃん!
ということで、
「いえ、今日は帰ります!」
と、前言撤回。
驚く3人に、事情を説明する。
彼女たちも、すぐに納得の表情を浮かべ、
「なるほど、そっか」
「それは帰らないといけないわね」
と、2人が頷き、
「ありがとう、シンイチ君、娘の気持ちを大事にしてくれて……。母親としてお礼を言わせてください、本当にありがとうございます」
と、お母様は青い瞳を潤ませた。
長い金髪をこぼし、頭を下げてくる。
僕は「いえ、そんな」と手を振る。
笑って、
「ファナちゃんのクッキーは、僕も楽しみですから!」
と、強く断言した。
僕の言葉に、クレフィーンさんは優しい表情で頷いてくれる。
友人2人も笑う。
「よし、外務大臣に会うのも後回しだ。私もクッキー食べに帰るよ」
「あら、いいの?」
「大臣より、ファナのクッキーさ」
「そう」
片目を閉じる黒獅子公に、レイアさんも苦笑する。
おやまぁ。
僕とクレフィーンさんは顔を見合わせ、すぐに破顔した。
そして、
「じゃあ、帰りましょう!」
と、僕ら4人は冒険者ギルドをあとにする。
天使の手作りクッキーを楽しみに、全員でクランハウスへの足を急がせたんだ。




