2-9 伏魔殿抜ける、他愛ないアンサー。
「うん? 娘さんが二人とも火薬部隊に居るんだって?」
「ああ。さっき元嫁から連絡が入ったんだ。一人は元からB格と知ってたが……まさか下の娘も、とはな」
数日後、涼しげな朝方。
そこそこに話すようになったフィーと共に、準備の済んだFー2班に会いにいく。
これより成果を見せる戦いへ出向く。
討つべき敵は神獣・グリルゼロス。
うざったるいほど長い石畳の先、既に二号……エイル・クロースが準備運動を済ませているらしい。
「ん? てかアンタ今の娘さんの顔知ってんの? 別れて随分経つんっしょ?」
「わからん。自分で探せとさ。……まあ、同じディーネ姓を名乗り続けてるらしいしそのうち見つかるだろう」
今日はとてもいい天気だ。
花も咲いている。鳥も囀っている。
こんな日にも、燃え盛るように問題は迫るものだ。
「だがおかしんだよな……ソイツが言うには、配信で見たって言うんだ。妙じゃないか?」
「おいおいそりゃ無いだろ。だって配信なんかしてる部隊はFー2だけなんだぜ??? それじゃアンタはあの日、実の娘を罵倒しまくった事に……」
「だよなだよなそうだよなぁ? なにかの間違えかもしれんし、気長に探そうかと……」
正直、自分も上の娘もBなのに下がFなのも極端だ……と。
思い語らいながら、集会所に続くドアを開け────
◆
「────あの……もっかい言ってくれる? あなたの名前って……」
「はい! キャラット・ディーネです!!」
((ッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!??????))
空きかけの隙間から、二人揃って声にならない叫びを上げる。
二号が相手する、ふっわふわの少女……俺の娘、キャラット・ディーネを前に戦慄する。
よりにもよって、あの日俺が骨から砕くと宣言した相手だ。
「あの、もしかしてその名前って……」
「ハイ…………お母さんが名乗って損は無い名前だって。……あっ、さっきも話してたら『もしグラサンのゴリラに会ったら慰謝料でも求めればいいよ』って!」
((あばば!! あばばばばばっばばばっばあ!?))
吹っ切れたような笑顔を前に二人して泡を吹き、亜光速で作戦会議。
(言われてるけどオッサン大丈夫? ホントに損無かったって言えるねえ!?)
(言えない! 言える訳がないだろこんなドブカスの父親が!!)
(自覚あるんならアンタももうちょいマトモに父親してくんない!? 会うなって言われてるわけでもあるまいし!)
(上の娘と上手くやるので精一杯だったんだ! てか普通に前線出てたからな俺も!!)
扉の裏でどったんばったん大騒ぎ。
さすがに二号もドン引き加減で、恐る恐る訊き進める。
「あのうん…………大丈夫? 色々とさ、無理してなーい?」
「大丈夫です! 前のパーティーでも自爆技強いられましたし、もう死ぬことを求められるのにもなれてしまったので」
「あ…………その節はウチのリーダがごめんね…………? てかホント、生きてね…………」
(ああああ慣れないで~~~~!! 体で慣れても心で痛い事を怖がって~~~~!!)
掘り下げるほど火薬が出てくる、爆弾庫を前にぐっしゃぐしゃ加減の心境。
泣き言加減に遥か年下の少年へ縋ってしまう。
(オイオイオイオイどうすればいい? 俺が悪いよな? もう詫びた方がいいかな? ライフルでも咥えて逝った方がいいかなぁ????)
(バカよせオッサン! 余計にあのねーちゃんの顔を曇らせるだけだろうが!! てかくっつくな獣くせえ!)
(クソッそうかお前アイツより年下なのかよ! なんでそんな冷静なんだその鎧のおかげか!? 寄越せこの!)
(ざけんなゴラァ!! そんなことやってる場合じゃ……)
わちゃわちゃ取っ組み合いになり、ガツンガツンと扉にぶつかってしまう。
とくれば流石に、扉の向こうにも何らかの異変は伝わるわけで。
「……あれ? 向こうからなにか聞こえる気がします?」
「あーうん……気のせいかなにかじゃないかなぁ……??」
(合わせる顔がないんだよ! せめて仮面だけでもいいから出してくれヴィタえもん!)
(えもん……なんじゃそりゃ!? てか落ち着けバカ!! この体格差で組み合ったら足がもつれて…………)
グラッ────────バッタアアアアアアアアン!!!!
「「「「…………………………………………は?」」」」
全員凍結。
世界一レベルでダサい入場をしてしまうが…………隣の妖精騎兵はいつの間にか、文字通りの石になってる。獣に喰われたつもりでやり過ごす気か。
結果、俺だけに視線の全てが突き刺さる。…………特に娘のキャラットの無垢な瞳が。
「あ…………いや………………その……」
「あの、えっと…………」
コミュ障みたいなどもり加減。
互いに困惑するも……宙を数回仰いだ後にきっぱりと言ったのは。
「…………3億…………3億で許します!!!!」
「いや案外図太いなオイイイイイ!?」
非常識を叩きつける瞳は、折り重ねて打ち上げたような刃の輝き。
心配事の大半はやはり、話してみるとあっさり解決するというのか。
相手に恵まれていたおかげで、どうやら大惨事にはならなそうだ…………。
(いやー良かったなグラサンゴリラ。なっさけねーのは確定だが。プークスクス……)
「ふんっ!!」
(ごベっ!!?)
煽る大岩をドアの奥に蹴り戻し再入場を促す。
しばしの別れまで、間もなくだ。




