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2-7 伏魔殿との相互理解。折れかけた才と向かうべき希望!!

「……マスター、いつもの」


「はいよ」


カフェと飲み屋を兼ねた、行きつけの店に今日も居る。


…………あの後、自分が分からなくなっていた。


黒い空を見上げながら、じんわりと無力感が染みる。


結局俺は、自分の野望を唄いながら、ただ思考を止めて上の傀儡となっていただけではないか?





『こんな仕事も達成できんとは情けない』


『B格の恥と思え。いや、最後は手を抜いてすらいなかったか?』


『今回は追放もありうると思え。パーティ単位のお遊びとは違う、本気の追放がだ』





「俺は、なんのために…………」


ボロボロで帰還した俺への、罵詈雑言を思い出し涙が滲む。


その言葉は間違いなく間違ってない。


だが、未来を閉ざす命令だったのも確かだ。


彼らを倒すのは間違いでは無いハズなのに、倒した結果遠くない未来で後悔するのが目に見えている。


その矛盾が、いつも俺達を苦しめる。


「……はいよ、生と獣ハツお待ち」


「あ……ああ、ありがとうよマスター。……今日のは大きくないか?」


「今日は特別疲れてるみたいだからね、取っておきさ」


ありがとうよ……とこってり煮込まれ、皿に取り分けられた心臓を見て、ふと考える。


誰でも強くなれる方法があるならみんなやる。


だがそれは、リスクが許容できる範疇の話。


この時代で生の心臓を頂くのなんて、とんでもないリスクだ。薬も貴重だし、寄生虫にでも喰われたら一巻の終わりだ。


だから普通はより強い獣の心臓を調理して頂く。当然争奪戦は絶えない。このハツだって俺とマスターが親友だからこそ融通が効いているのだ。


それでも、生きた心臓には逆転に至るチカラがある。


故に危ない橋を無謀にわたり、命を落とす者も少なくない。


あるいは。


「エイル……クロース…………」


妖精騎兵・二号。


彼女の癒しのチカラこそが、妖精騎兵リミッターを外したのだろうか。想像より、遥かに。


彼女が何の変哲もない一般人だったのは明確だ。しかし彼女と会わなければ、今日ここまでになるフェアリーライダーズは無かっただろう。


それはどういうことか。


妖精騎兵・一号。


得体のしれないなにかに見えるアレさえも、きっかけがなければ腐っていた程度の『ただの人』という事なのだろうか…………。


と。


「……よっ。俺達に何か用か?」


「? お前……フィー・ヴィタール!?」


「ちょっと混ぜてくれよな。アンタとはちゃんと話しておきたい。色々聞かせておくれよ」


この図々しさは元来か、それとも二号に染まったか。


妖精騎兵一号……フィー・ヴィタールは紛れもなく強かだった。









「んでさ。オマエに俺の粉効かなかったじゃん。アレどうなってんの、サングラスは割れたけどさ」


「あああれか。音を操るチカラの応用で、空気中の選別を……ってかアレ割ったのオマエかよ!? 弁償しろよ高かったんだぞ!!」


「ざっけんなよ襲って来たご身分でヨー? ……あースンマセーン鳥モモ焼きおかわりで!!」


「はいよっ」


話してみると、コレが案外普通のガキなもので。


おーうめー、とタダのガキのように肉を頬張るフィーを見てると口が綻ぶ。


俺もあの頃こうだった。


理想に燃え、人類に尽くし突貫していた……。


「…………言っとくがなフィー。俺は間違った事をしたつもりは無い」


「あのなシマカゼさんよ……俺はどっちが正しい間違ってるを話に来たんじゃ……」


「だが『なにもしてないのに壊れた』のが俺達の世界だった」


言葉へはぁ? と返すフィーへ。


「大して長くは生きてなかったが、獣共が出る前から世界はとっくに詰んでいた。正しさを突き詰めるほどに詰んでいったんだ」


「おいおいおいおい……インフラお化け世代が何を言っ」


「俺はもう、人類は滅ぶべきとさえ思ってしまっていた。例えそう教え込まれた故だとしてもな」


「……………………ッ」


傍目から見ればバカバカしいだろう。


それほどに詰んでいた。


────こんなつまらない、生き苦しい世界など滅んでしまえ。


当時、俺を含む老若男女多くがそう思っていたに違いない。


だが。


「だがな…………実際に滅びかけると、人間は必死で生にしがみつき、過去にしがみつくものだった。俺にはずっとわからなかった。ホントは帰れもしないってのに……」


世界とともに生きていたのに。


世界とともに散る腹積もりで居たのに。


「……なんで俺は、俺達はまだ生きているんだって。とっとと腹でも切るのが正解だろうによ」


「そんなん、間違いたいからだろ?」


あ? とこっちがハテナを浮かべる番だった。


対してフィーは、ホントに分からないといったツラで。


「アンタもか……難しく考えすぎなんだよ。弱肉強食の原則に抗いたいから。弱者なのに生きていたいワケだからそりゃ無茶も出る。そこを騙し騙し続けてきたのが人類史ってヤツだろ? そりゃー矛盾ダラケよ」


「……………………」


「アンタみたいな旧世代の話はちょくちょく聞くが、例外無くバカラシー度MAXなんだよバーカ。間違い上等、まずは生きようぜオッサン」


「……ははっ…………」


思わず笑ってしまう。


「…………ハッハッハッハ!! まさか長年の疑問をあっさり解かれるなんてな! それもこんなガキに!」


「ガキで悪かったな。……っとマスター、追加でハツひとつ!」


「おいおいニイチャン流れで頼むなよ? ここはダチの顔を立てときたいん……」


「いいや、出してやってくれ」


両者同時に驚く。


ちぇ、と舌を鳴らしかけたガキンチョともう少し話したくなっていた。


「代わりに、俺も聞きたい」


「……ほうほう?」


かちゃり、サングラスを置いて問う。


「お前たちの構成はよくわかってる。天使と悪魔だか、いい警官と悪い警官だかだろう? あんな逸材、何をどうやって拾った? まさかただの偶然とか言うまいな」


「簡単だ。あいつに会うまで試しまくっただけだ」


13そこらのガキが何を、と言いかけるが読まれていた。


「アンタ、俺が3歳から活動してないと計算合わないっつってたよな」


「ああ」


「当然だぜ。俺はガチで3歳からヒーローやってたんだからな」


「なんだと?」


ありえない前提。


しかし矛盾と言うには甘い。


「…………クソみてぇな田舎、俺は両親の顔を知らん。……捨てられたんだろうな。とりあえず生きたかったんで、物乞い命乞いの日々だ。漁師を真似て、エサも無い竿で釣りした事もあったっけ……目覚めたチカラに守られなきゃ、1000回死んでも足りなかったな」


空振りも普通にあった。


当たり前の試行錯誤は彼にもあった……ただ早かっただけで。


「……だがある日、拾った綺麗な貝が肉と交換できた事があったんだ」


「何?」


「それからちょっとずつ。貝を集めちゃ、交換のために出して行った。最初はただ生きるのに必死だったが、そのうち少しずつ余裕も出てきてな? そうしてある日、村でやってる物々交換がアホほどメンドイ事に気が付いた」


物々交換に刺し戻った場所は少なくない。


国そのものが吹き飛んで、紙幣の価値が無くなったからだ。旧時代の『金貨』がなければ、自治政府の擁立さえも危うかったろう。


「そこで天才閃いた。この貝殻を間に噛ませて回していけば、わざわざ物々交換なんて面倒をしなくても済むんじゃないか、と」


通貨の発明。


車輪の再発明とはいえ、乏しい判断材料から繰り出せるのは本気で天才の発想だ。


「だが、ソレをやるには絶対的に信頼出来る『なにか』が必要だ。割れたら終わりの貝殻より、もっと信頼出来るヤツがな」


俺は今、化け物を見ていると確信していた。


獣とも幻想とも違う、リアルモンスターとでも言うべき化け物。


「で、思った。あの日紙芝居で見たヒーローのように……俺自身を作り変えればいいんじゃないかってな」


何が彼を突き動かしたのか。


何をすべきかを本能的に知り、己が正しいと思った道をひた走る。


「情報は心だ。経済は絆だ。そしてヒーローは希望で信頼だ。信頼を配るヤツが居るなら、俺の野望も達成できるハズだ。そう思い、村を回し、皆を助けて何人かの相棒と出会い、別れて……繰り返しながらここに来れるまでになった」


その自信は若さゆえか。


それとも、純然たる才能か。


「…………ってワケだが。まっさか村出てソッコーパクられるのはビビったわ! しかもとっくに金貨が出回って? くっそツマンネー偽モンとかがかき集めてると来た!! 馬鹿らしいったらありゃしねぇ!!」


それでも、あっさりと潰してしまう。


これほどの才人が、世界の残酷さにあっさり潰されかけていた。


酒の匂いで酔いでもしたか、軽くテンション上がりながらもなお。


「……あっとと。結局この街に来ても、何人かの相棒やパーティを乗り継いだが長持ちしなかった。俺がアイツに出会えたのは…………ほんとに、会えるまでやったからなんだよ」


「……………………」


「…………この言葉……お前は信じるか?」


「ふん。信じるしかあるまいよ。何せ成果がここにいる」


続けられた語らいに同意する。


ようやっと、フィー・ヴィタールに一定の人間性を見た気がする。


あるいは、妖精騎兵の本質。


『タダの人が、鎧と騎馬を以て英雄と成る』。


その源泉は、やはりそういう奴だったのだ。


確かな才人だが…………呆気なく流されかねない、儚い存在。


それが彼。


フィー・ヴィタール…………妖精騎兵一号の本質なのだろう。


「……あーそれから、俺達のこと、天使と悪魔だのいい警官悪い警官で例えてるの、ブレてるぜ?」


? と小首傾げる言葉。


「なら、なんだ?」


「やっと出逢えた……俺の翼の片割れだよ」


「……………………え?」


「……………………あ」


その言葉の意味を聞いて理解するのと、言って理解するのは同時だった。


「「…………ぶーーーーーーーーーーーー!!!!」」


ゆえ同時に吹き出す。


「おいおいくっせぇな!! 誰だ口から屁ェこいたのは! 中二にゃまだ早いだろ!?」


「ああ、ガチでくせぇ! クサすぎて笑えてくらァ!! よく言ったな俺!!」


ゲラゲラゲラゲラ、大笑いが重なり爆笑と響き渡る。


ひとしきり笑って、ひーひーと息して力も抜けた。


彼とは、悪くない関係が築けそうだ…………。


「はー……ひとまずの決意は聞かせて貰った。お前たちになら、コイツを安心して渡せそうだ」


「くくっ……なんだよ、特別な仕事でもあるのか?」


「ああ」


スっと差し出したのは、とんでもない数字が描かれた数枚の書物。


「迷宮攻略の依頼だ。打つべき敵は『神獣』グリルゼロス」


「ほう?」


ニヤリニヤリフルスロットル。


ワルい笑みで俺達は語らう。


「オマエ達の手で、火薬部隊を配信者の世界に導いてくれ。明日の世界を掴むため、新しい風を吹き込んでくれ!!」


「イイね。その話乗ったァ!!」


快諾。


業界そのものを変えかねない提案は、驚きのフットワークで受領される。





漢二匹が未来を見据える。


目指すべきは、迷宮の奥に眠る好敵手(オタカラ)だ。

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