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2-4 成果物の提出。怒りの自治政府、裁きの時。

『シマカゼ先輩大変ッス! 崖からの飛び込みの次は丸太で素振り始めましたよ!! アイツら甲子園でも目指してんスか!?』


「まあ去年めでたく奪還した場所だしな……ってそうじゃない。まったく馬鹿げてるなチクショウ!」


張り付かせていたフブキ・ブリュンC格からの入電。


自治政府の会議室でテレビ電話を受けつつ頭を抱える……どうやら本格的にシャレにならなくなってきたようだ。


流石に動かない訳にも行かない……そう思うも。


「待ってろフブキ、今そっちに……」


『ボギャブッ!?』


「ふ、フブキィッ!?」


やはり手抜かりが無い。


怪しい動きはスグに察知される……今回は一号が出向いたようだ。


『ったくC格ってもこんな感じかァ…………よっ、シマカゼのオッサン』


「お前……フブキに何をした!?」


『心配すんなよ。ちょっとツボをちょんっとな? それより話ならこのままテレ電でやろうか。こっちの鍛錬は順調だ、なんの文句がある?』


言葉に詰まる……流石はR18ーGヒーローに例えられる口の悪さ。


「くっ……昭和の野球漫画みたいな鍛え方に文句を言いに行くつもりだったんだ。お前達のやり方は異常すぎる!」


『ったくそんな事言いたいのか? 温故知新だぜ、具体的な指示も無かったしな』


「チィ!!」


我ながら苦しいと思った。…………あの部隊を丸投げしたのはこちらなのだ。


正直、あのクズ達の役割は『組織の最低辺であること』の一点のみ。


彼らが居ることで他の者は「自分は底ではない」と安心し、また「ああはなるまい」と奮い立つのだ。


能力の改善自体が役割の維持に関わる。


なのに彼らに任せた以上、そこから何を言っても難癖にしかならんのだ。


矛盾に満ちた、失敗の予定調和。


それが、英雄ならざる英雄によって崩されていく……。


『まあなんだ……心配すんなよ?』


そこを見透かしたように、甘ったるい声で一号は。


『俺達が目指すのは地獄の底でも、甲子園(アサッテ)なんかでもない。獣達の心臓、それを喰らった先の未来だ…………お前ら!! 丸太は持ったな、行くぞォ!!!!!』


『『『オオオオオオオオオオオ!!!』』』


ブツリ、勝手に切られた配信電話を握り呆然とする。


────イカれてる。


0を1に、1を10にするより、10を100にする方がよっぽどラクなハズだ。


あんなどうしようも無いヤツらを鍛えても身入りは少ないハズなのに。


そう思ったが……


『ヤツらに責任を取らせろ!』


理解なき怒号にハッとする。


『そうだ! あんなものクビだクビ!!』『しかしFー1班他多くの階級の心象に宜しくないのでは……』『減らした予算を彼らに回すのはいかがでしょう?』『馬鹿! 五十歩百歩のクズを甘やかしてどうする?』『底辺であることが重要なのだぞ!』『つけあがらせない為にも引き締めは必須だ!』『新たに別のFー2を作ればいいのです、代わりは幾らでも居ます!』


「……………………」


背後の声に、わからなくなる。


もう、こんな思考は通用してないのではないか?


彼らこそが新時代に対応した『新人類』とやらで、俺達は時代遅れではないのか?


狂っているのは、実は俺達の方ではないのか……?


「……先輩?」


「……、ああいやスマンなムツ。大丈夫だ」


同僚の声に持ち直す。


大丈夫だ、今日までなんとかなっていた以上は。


……そう思うことでしか、立ち上がれない事から目を逸らして取り繕う。









「………………」


「………………」


なんて現実逃避の思考から早幾晩。


結局大した対策もできず、監視に送ったC格はことごとくやられた。


俺も直接出向いたりしたが、まずもぬけの殻で追いつけなかった。……なんなら、ムキになって追った時は配信に使われ、鬼ごっこの鬼として三日三晩ネタにされまくった。


それに……どうにも毎日彼らを見るうちに、こちらにも変化が起こってるようで。


「アレから半月か。毎日配信はしているようだが。また黒曜石の家作るみたいな無茶苦茶してるんだろうかな」


「見えているだけでも狂ったメニュー、裏ではどんだけ好き放題やらかしてるか……ただ豚蟹のカレーは私も食べたかったが」


「メニューと言えば、こないだの猛毒生物全部当てるまで眠れま10は流石に笑ってしまいましたわ……なんせ半分がグロッキーになるの前提なんてそんなの笑うしか」


「コホン」


「…………失礼」


どことなく、会議室の中まで染み込みつつある彼らに怯えながら……今日も容赦なくその時は来る。


「…………本日の配信です。ご観覧を」


すっと運び込まれるフォトラフレシア。4Kもかくやの高解像度大画面で鑑賞する。


100インチは下らない大画面に映るは、巨大な双頭狼(オルトロス)の姿だった。


「コレは…… 《魔獣》ブラスバーン、か……?」


魔獣の中でもまずまずのイカれ具合。少なくとも、火薬部隊10人で挑んで倒せるかどうかの獣()()()()()()()()


Fー2班で勝てるはずがない。


勝ってはいけない。


なのに。


『じゃ、みんな行っくよーーーー!!』


『『『oh YES!!!』』』


やる気満々のヒーローアーマーの群れが、もう勝ちを確信させに来る。


「さあおさらいだ。コイツの石頭をどんだけ殴ってもムダだ。関節狙え関節! 四つの足をぶった切ってダルマにしてやれ!!」


『『『Roger!!!!!!』』』


やめろ。


やめてくれ。


そんな簡単に勝たないでくれ。


『オッケーいい感じ! このままあたし達が頭を抑えとくから、みんなは胴体をめちゃんこ狙ってね!』


『ここまでの地獄の総仕上げだ!! 気ぃ抜くんじゃねぇぞ!!』


『『『おおおおおおおおおおおおおお!!』』』


やめろフェアリーライダーズ……やめてくれえええええ!!!




────ザクザクダムダムドガクシャドビュシ!!!!!!




「……………」


心中の願いも虚しく。


ぶっ倒され、ただの肉塊となったブラスバーンの前で、勝利の雄叫びが舞い踊る。


『ね、らくしょーだったっしょ?』


『ああ……そうじゃな……儂らがこんなにできるとは思わなんだ』


『無限に力が湧く気がする……今なら誰にも負ける気がしねぇ!』


『なんならもう、S格まで狙えるんじゃあないか? 俺ら最強じゃないか???』


強すぎる。


強くなりすぎてる。


制御なんて甘い事言ってられない……下手なC格よりヤバい化け物が群れで生まれてしまったのでは?


『よぉーーーーっしコイツを捌いたらメシにするぞ! 今日ばっかりは派手に宴だ!!』


『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』


『っとと……この後の宴は編集して後日アップするのでしばしお待ちを。さっすがにハメ外しすぎる未来しか見えないからねー、にゃっはは…………ではではまた明日、実地試験編でお会いしましょー!! バイッピヨ♪』


まくしあげ、プツン…………と配信が切れる。


お通夜を超えて、世紀末のような空気感。……懐かしい、終わりが始まった夜と同じだ。


「……まもなく、あの怪物達が野に放たれます」


「放たれるとどうなる?」


「わかりませんか」


もはや戦力になれないと悟ったムツが、それでも必死に絞り出す。


震える手でサングラスを下ろしながら……俺は狂いなく狂う真実を訊く。


「地獄です。地獄が、始まります……!!!!」









『申し上げます!! 第八森林地帯にてFー2班による大伐採を確認! 山のような材木が送り付けられています!』『申し上げます!! 第十六山岳にて大規模な開拓! 人工物と思しき新規ダンジョンが形成されています!!』『申し上げます!! 第五十六湖畔の底より巨大沈没船が引き上げられました! 周辺はちょっとした名所に……』『申し上げます!!』『申し上げます!』『申し上げます!』「申し上げます!!!!」


豪雨が外を支配する中、頭が痛くなるような報告の数々。


ピシャンと雷光に照らされた、上役達の顔も揃って曇りきっていた。


配信されるのは本当にごく一部だと痛感した。裏では山ほどのヤラカシがあったのだろう。


「報告総数、活動開始より三日で十三件……F-2班、文字通り草の根一本残さぬほどの大活躍です……」


「「「「…………………………………………」」」」


もう、災害かなにかだった。


完全に、言葉一つで制御できる段階を超えていた。


初めて会ったあの日からおよそ三週間……流石に結論は出ていた。


「…………シマカゼ。やってくれるか」


「ハッ。仰せのままに」


迷いなく下される指示に。


俺もまた、迷いなく従う。


例え俺達が狂人だろうと。


「俺がFー2班を……フェアリーライダーズを打倒し、その進撃を食い止めます」


この脅威を、もはや見ないふりはできない。

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