#2-3 伏魔殿との別離。大修行の追憶へ……
「ピヨハロッ! 今日はFー2班のミナサマと荒瀧大瀑布に来ておりまーっす!!!」
「ッてぇワケで今からここに飛び込んで貰う。覚悟決めろ」
「いや話の流れが疾風迅雷! テンポ速いってレベルじゃないて!!」
大瀑布の上、一号はフードの小人含むFー2班へ絶望を突きつける。
逃げ場のない大自然の中、当惑に満ちた小人からせめてものと抵抗が入る。
「あのー妖精騎兵さん? もうちょっとなんというか、説明が欲しいというか……」
「マジ? しゃあないな……俺達フェアリーライダーの戦いは、それぞれのチカラで作った乗り物に乗るのが基本でな?」
やれやれといった顔で一号サマが手本を見せる。
にゅぅう……ポンッ! と軽いノリで、光輝く屈強な闘牛が出る。
おぉー……と感心が登るも、一号サマはあまり得意げでもない。
「だが、当然敵も乗り物を狙ってくるから、単騎でも立体的な動きができるようにしないとならん。……お前らに貸したアーマーの羽は飾りじゃあないんだぜ?」
自身の羽をはためかせ、勢いをつけて闘牛を蹴りつける。
ッぽーーーーーん!! と……見た目通りの重量ではありえない程あっさり飛んでいく。軽いのだ。
「ああ、それで羽の生えた『妖精』で『騎兵』なんじゃな……」
「ああ。これらを使いきれるととエグい軌道で戦えるが…………そのために真っ先に克服せにゃならんのは、人間の根源的恐怖の『落下』ってワケだ」
「ああ、あーーーーそれで…………」
「理由は以上だ。……さあ、どうする?」
「「「……………………」」」
沈黙。
抵抗しきれなかった為に、もう時間でも稼ぐかと……だまりこけている小さな背中と倣う群れ。
彼らFー2班の心情を映していってる間……るちょっとだけ二人の話をする。
(……懐かしいだろ、エイル)
(うん。まだ半年も経ってないのにねー)
(ああ。お前があんな感じからここまでになるとはな)
あの時は、あたしも似たよーに喚き散らかしたっけ。
◆
『────むり、むむむむむりむりむりむりむり!! こんな急降下なんてした事ないし!』
『だからやるんだろ? これから本格的に『二号』を名乗るなら、俺と同じ動きができなくっちゃ困るんだ。見本を見せてやるから続けよ…………っと』
そう言ってのけたフィーは鎧のまま飛び込み、ドッボーンと沈んでは平気な顔で滝壺でぷかぷか浮きあがった。
『……って感じだ。ひゅーんのひょっこりで良いんだよ』
『そんなあっさり……今日は脳が悲鳴上げてるので帰』
『れると思うなよ? きっちりチカラで繋いであるんだぜ諦めなッ!』
『デスヨネーーーーーーーーーーー!!!』
結局光る糸一本で引きずり込まれ、強制的に心のリミッターを解かれたんだった…………
◆
…………あん時は、あたしもまだまだ未熟だったなぁ…………。
(さてとだ。……これ以上縮こまられても、絵的にも予定的にも良くない……わかるよなエイル?)
(こっの)
懐かしませておいてのコレ。
あたしも魔性と言われはするが……彼もまた尋常ではないのだろう。
絡め取る手に導かれるように。
(さあ出番だ…………いの一番に行ってくれ。原石達を地獄に導け!)
(へーへーらじゃ。華麗に踊って見せますよっ♪)
すっと前に出る。
糸に引かれる人形のように……しかして誰よりアツい瞳で。
導く。
「それじゃあ見本もナシに飛び込むのはアブナイので! ここはいっちょお見せしたいと思います!!」
「ひぇ?」
「一番! フェアリーライダー二号、いっきまーーーーす!!」
たたたっと軽く助走をつけて。
くるんと飛んで一回転し、鮮やかに弧を描いて…………
どっぽーーーーーーーーーーーーーーん!!
「「「「…………………………ッ」」」」
深い深い滝壺の底に沈んだと来れば、流石に心配もあるというものだが。
もちろん無用なのだ。
ざぱ……っと顔を上げて。
「ぷっはーーーー!! やっぱ真夏だと気持ちいーわ! みんなもおいでー!!」
これでもかと楽しそうに誘ってみせる。……実際、慣れるとやみつきになる心地良さだし。
それでも中々飛んで来ないが…………
「なんと平然と……いやしかし……」
「光る鎧は救命胴衣みたいにガン浮きする仕様だ。安全性は見ての通り」
そこを一号サマが更に押す。
ぐらついた決意を、こっち側へと突き落とす。
「あとは勇気だけだ…………さあどうする、お前ら?」
「ぐっ…………次は儂じゃ……儂もやるんじゃあ!」
「えっ!?」
「ぬうぉあああああああああああ!!!!」
飛び出したのはしゃがれた小人。
フードの上から鎧を着込む独特ルックで……しかして健脚で。
どぼーーーーーーーん!! と
ぶはーーーー!! と荒い呼吸音を立てながらも、その声色は満足気だった。
「やったよ! 儂やったよおおおおお!!」
「やっるー!! 気持ちいーでしょ?」
「おーおー! なんか浮き輪つけてるくらい快適じゃあ!」
最もムリそうな者の突破は、集団の枷を外すのには十分なエッセンスだ。
「じいちゃんが行った!?」「いやあれはばあちゃんだろ!?」「俺も行ってやる!!」「俺も!」「わ、わたしも!」
一人が行くと次々と。
連鎖的に飛び込む様は、未だにこの地に東洋の血が生き延びているのだと確信させるそれだった。…………ま、ありがたいケド。
どぽんどぽんと連続で上がる水音を背負い、満足気に語らう。
(さあ、こっからが本番だな)
(うんうん。みんなでいっぱい強くなれるね!)
食事でレベル上限をとっぱらい、試練で心のリミッターを外した部隊に、もう怖いものはあまり無い。
限界を超える修練へ、遠慮なく突き進めるのだ。




