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2-2 伏魔殿よりの並行観察。…………そして、戦慄。

「シマカゼ・ディーネB格。任務を遂行し只今帰還しました」


「ご苦労」


白昼より薄闇に、向けた声に労いが返る。


「おお、でかしたでかした」


「見ていたぞ。あれだけ脅せばヤツらも立場の違いを理解するだろう」


「また一匹……いや二匹、飼い犬が増えそうだな」


上層部の受けは上々だ。


葉巻と蝋燭の香りで満ちた会議室は、今日も薄暗く豪奢を塗りつぶしていた。


…………ここ第八自治政府は、ある程度復興のテンプレートが出来た頃に作られた組織だ。


故に前時代的な、腐った思考のたまり場になりがちだが…………皮肉にも俺にはそれが心地良かった。


なぜなら。


「これで、フェアリーライダーズも我々の駒のひとつだ」


「Fー2班は落ちこぼれ以下のクソカス共の集まり、育成など不可能なクズの群れ」


「人間何事も『失敗した』という負い目は交渉事で足を引っ張る。心という最も弱い部分でな」


「ヤツらという枠組みを自在に操る上で、これほど都合のいい手もあるまい。今回の失敗でケチを付け、幾十の瞳に直に咎められる恐怖を刻んでやろう」


どっはっはっはっと笑う老人達を、いっそ微笑ましく見据える。


獣に人類種ごと斬り刻まれる…………そんな現状を無視したような流れを、心地よく思ってしまう感性が憎い。


お袋の中に居た時から聞いてた、清々しい程のバカのやり取りは俺を30年前まで運んでくれる。


ガキの頃の漠然とした憧れに、今も俺は酔っているのだろう……おそらく、彼らも。


「ご機嫌宜しいようでなにより。……紅茶でも煎れましょうか?」


「おお、気が利くねぇ。ついでにケーキセットも人数分頼むよ」


「承知しました」


言って、不在の家政婦の真似事でもしようかとした所で。


バタンと破られる。


「────大変です!!」


「あぁ?」


何事もそう上手くは行かない。


得てして酔いを覚ますイレギュラーは起こる。


「急にどうした一体……」


「自分がムツ・エメルC格に命じて調べさせていました。ヤツらの動向を読むために……ムツ、報告しろ」


「ハッ! 第二次資料保存館からこのようなモノが……過去配信の記録らしく!」


息を切らして運ばれる内容は、どうにも宜しくないモノのようだ。


資料保存館は、ロストテクノロジー寸前の前時代遺産を保存する場所を指していた言葉だ。しかし配信等が活発化してからは、新時代の技術を補完する別館も建てられている。


俺がこの仕事をする理由のひとつ歯、第一次の方にちょくちょく寄れるからだったのだが…………


「配信記録ぅ? それがどうしたと言うんだ」


「その中から、彼らが過去に新規育成を行っていた映像が出てきました!」


「ふん。あれだけ人気ならその程度はありうるだろう。だからこそクソ共を……」


「違います!! 彼らが育成を試みたのはフェアリーライダーズとしての人気が出る『前』です!!」


は? と困惑する上役達に、理解出来る範疇で必死に伝える。


その間も、俺は予測と対策の脳をガン回ししていた……


「どうも配信を見る限り、初手の内輪を稼ぐためのようで……同じ釜の飯を食った経験が、彼らのコミュニティの最初期を支えたようです」


「あれかな……ファン限イベント? みたいなものかしら? まあ元から人気でしたからね妖精騎兵一号さん。バッタもん多すぎて廃れましたけど」


「でも待て、玉石混交と石オンリーでは難易度がだな」


「これをご覧下さい。…………そんな次元の話では無いかと」


「うむ? どれどれ…………」


言って、今やフラワー・ネットワーク上には残ってない記録を眺める。


と。





『自分、痛いのとか苦しいのとか嫌なんです それでも強くなれますか!?』


『うん! 強くなれるよ……あたしだって強くなったもん♪』


『自分は背も低いし体力もありませんし、チカラもF評価が並ぶミソッカスなんですが……それでも強くなれますか!?』


『ダイジョーブ! 思ったより強くなれるモノなんだよ♪』


『あなたくらい……一号さんくらい強くなれますか!?』


『ああ。一生懸命トレーニングすりゃ俺超えるくらいヨユーだと思うぜ?』


『分かりました……自分、合宿に参加します!』


『いい返事だ。……じゃあ俺たちの衣装のスペアを貸そう。危ないからな』





「「「「…………………………………………!!」」」」


地獄の入口があった。


最初に、その地獄があった。


その後約三時間、niceboat.じみた映像に差し替わったようが……これは有志が作った代理画像だ。多くの配信を見守り、アウトになりそうなら差し替えてるらしい。


裏で何が起こっているのか想像もしたくない。


上役達にどよどよと激震が走る。


「……つまりこういう事か、奴らはとっくの昔から育成に手慣れている……?」


「シリーズの説明を見るに、主に一号がその役を担ってるようです。しかし二号によるフォローとアフターケアのおかげで、突き落とせる地獄のケタがひとつ上がっているような……」


サングラスがずり落ちそうな汗の中、戦慄の情報が流れ続ける。


「このシリーズは最後までは描かれませんでしたが……噂ではこの合宿は『失敗』。参加者30名中12名しか最後まで残らなかったようですが、残った面々はいずれも活躍のギアを上げているとか。……もしも、彼らがこの時の失敗を元に、改善したメニューを温めていたとしたら……」


「マズイ……」


嫌な予感は的中したようだ。


やはりヤツらのネジの飛び方は半端では無い。


「ヤツらの配信予定を突き止めろ!! 今回の依頼をショーにするかもしれん!! 我々の謀略が十万の視線に晒されるぞォ!!」


「それが……既に35分前から配信しております!!」


「嘘だろオイ!?」


判断が早すぎる。


即断即決のスピード感で、腑抜けた企みは地獄へ飛ばされつつあるようだ。







『おーっと一気に閲覧数増えたねぇ……ハロピヨっ!!

今回はグルメな企画でねー……』


『さあ食え!! 心臓を生で行けぇ!! 踊り食いだ!』


『嫌じゃ嫌じゃあ!! 儂はこんなの食えん!!』


それは、そのまま絵画(かいが)に使えそうな絵面(えづら)だった。


小さな背の者を騎兵二人で挟み、何やらグロテスクな塊……生の心臓らしきものを喰わせようとしてるのだから。


「む、酷い…………ッ!?」


「こ、これがヤツらの配信だと言うのか……?」


「あの……ご存知、無いのですか……?」


戦慄しながらもムツは噛み砕き伝える。


「ヤツらのヒーローとしての種別は、旧時代末期に若干流行った地獄のヒーローや蜘蛛男の公式パチモンとだいたい同じなんですよ。二号の方はだいぶマシのようですが、一号の本質は基本Rー18Gです」


「えぇ……?」


ドン引き加減の中、画面の向こうで地獄は展開されていく。


『嫌じゃ嫌じゃ!! そんなグロいモノ生で行きとうないんじゃあ!』


『諦めろ。そもそもヒーロー家業に育成なんざ頼むヤツの部下になった時点でロクな道じゃあないんだぜ?』


『居るよねー、現場で成果出したからって地位だけ上げて不向きな仕事させるヒト。あれキミたちの上司』


『勘弁してつかあさい!! なるべく辛いことともグロいモノとも無縁な生活送りたくてこの仕事に入ったんじゃあ!! 後方から火薬弾打ち込む簡単作業って聞いて面接したんじゃあ!!』


『あぁん? そんなヌルい仕事がきょうびあるワケねぇだろ』


正義バリバリのヒーローアーマーの奥、しかし全身がん細胞みたいな毒吐き具合でたれ込む。


『建設業はいつ獣に崩されるかわからん賽の河原状態、農畜なんてヤツらのエサ育ててるような気分だろうぜ。メシも場所も無きゃその上に立つ経済なんてありゃしない!!』


『そ、そうなんです……?』


『それでも俺達配信者が辛うじてやってけるのはなぁ? 『情報』っつー形の無いものを、たまたまそれが得意なナマモノを使ってできてるってだけなんだ。……もっともいずれも出向く場所はお前らと同じ、地獄の最前線だがなァ……!!』


『ひぃ…………!』


フードを被る小さな背中に、言うだけ言って更に心臓を突きつける。


『てーわけで先輩からの贈答品だ。コレを食って強くなれ。心臓を平らげよッ!!』


『わかった!! どこも地獄なのは分かったからせめてその心臓だけは勘弁してくれェ!! なにか取り返しのつかない事になりそうで怖いんじゃあ!』


『何言ってるのカナー? 取り返しが付かなくなる……元からそのために食べさせるんだよ?』


『なにィ!?』


ここで怖いのは二号だ。


ニコニコ笑顔で、すんなり飲みやすい猛毒をぶっ込んでくるのだから。


『あたし達のチカラはヨモツヘグイだからねー♪彼らの血と肉を体に入れるほどLVが上がるんだよ?』


『それ昔やったゲームでLOVEとか表記しそうなヤツなんだけど! 最後は人じゃないナニカにならない!?』


『中でも心臓のEXP(けいけんち)は強力でさ。事切れるまでの一生分、チカラが通って力強く染み込んでるからねー。生で行った日には、今までの地獄がヌルく見えるほど強くなれるんだ♪』


『やっぱ怖いんじゃ!! 嫌じゃあそんなGルート待ったナシの選択儂は死んでもしやせん!』


必死の抵抗を見せるが……そこで一号はやれやれと片目をつむり。


『そうかそうかそれは残念だったな……この件に関しては、お前はとっくに「選択済み」だ』


『ナニィ!?』


『さっき賄いでとっても美味しい肉シチューの賄い出したでしょ? アレ心臓のユッケ使ってる』


『人の心とかないんか!? 魂なき(Soulーloess)Pルート爆走中なんじゃけどこのご婦人!!』


『おぉっとここらで一旦別映像を! これから向かう場所の予習映像作ったから見てみてねっ♪ 30分後までバイッピヨ♪』


『待て待て待ってくれ! この状況で世間さまの目から隠さ────』


泣き喚く小さきものを無視して、配信画面は雄大な自然の大河へ。…………事実上の、セルフniceboat.だろう。


「……………………」「オイ……コレどうすんだよコレ……」「あのコレ人権問題とかに引っかかんない? まあ六法はもう吹き飛んでるんだけどねぇ?」「自分、もう吐き気が止まらないんですがオロロロロロ」「ムツ、吐くならトイレ行け」


自然をバックにした解説を聞き流しながら、頭を抱えるばかりの30分。このうちに救出するべきだったかもしれないが、それを切り出せる勇者はどこにも居なかった。


そして時は満ち……再び幕が上がる。


映し出されるのは、ニコニコ笑顔が鎧から透ける妖精騎兵(キチクども)と、泣きながら下を向くF-2班だった。…………よく見ると、最初の24名から四名(いちたんい)減っている。


『…………お前達の幸運は、俺達がこの作業を経験済みということだ。だから無駄は省けるぞ……まずは見習い用のヒーローアーマーを着込め!!』


『ああようやっと…………それ着れば今日はもうお開きというこt』


『ただしその鎧、俺のチカラの副作用をまあまあ受ける!!』


恐ろしい情報がまたもサラッと開示される。


『杉アレルギーが杉の前家通っても平気だとして、中に住むときっちり拒否反応出るみたいなもんだ。────よって装着中は、常に二号のチカラを抱えて行動するように!』


『ふえぇ!?』


『あっどーぞ、うちのピヨちゃん!! これで副作用のダメージをごまかせるよ♪ コレはコレでお腹空いてくケド、さっき食べた心臓のおかげでヘーキなはずだから!』


バレンタインチョコみたいに笑顔で差し出されるが、その中身はまたも劇物。


『結果としてはあたしみたいにものすごい勢いで体が作り変えられるケド…………まー良いよね強くはなるし』


『理解が追いつかん! 儂たちはどう生きるの!?』







「「「「……………………………………………………………………」」」」


お通夜のような空気。


恐怖と混乱で思考を空回し、残りの配信内容が入らないまま時だけが過ぎていた。


「…………どうします? なんかまた合宿みたいなのやるって言っちゃいましたけど」


俺や上役達が頭を抱える中、若いムツだけが声を上げる。


それに後押しされ、少しづつ意見が上がり始める。


「み……見守る、か……? 最悪『潰れるだけ』なら代わりが幾らでも居る存在ではあるのだし」


「しかし、あの規模の班を手の届かない所に運ばれるのは色々とマズイのでは?」


「まずはリタイアしたと思しき四名の確保が先決だ…………C格を一単位向かわせよう」


「……………………」


滝のような汗を流しながら、俺はもっと良くないことの予感を受け取っていた。


脳裏に浮かぶのは、王以外全てが玉に寝返った将棋の盤面。


なぜ浮かんだのか、それを言語化する余裕は今は無かった。


しかし。


「シマカゼ・ディーネB格、引率を頼む。……シマカゼ?」


指示も入ってこない程の当惑。


サイアクな目にあわされそうな気がする。


フェアリーライダーズ…………お前達は一体、何をする気だ…………!?

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