#1-10 変わりゆくための決意!! 祝・ダブルライダー結成!
「じゃー、元気でなー!!」
「次は暴れなくても、ちゃんと爪切れるようにしとくからねー!!!」
『ゴギャ! ゴギャギャ!!!』
とりあえずはと和解ムードで。
ばいばーいと手を振って見送る。
見送る背中へ、頼れるヒーローからの問いが来る。
「……知ってるか。モグラってのは同族がかち合うとどちらかを地上に『追放』するらしい」
「えっ…………いやまさか、そういうコト?」
「有り得なくは無い。進化を遂げて、手が足りない現状でもまだ旧世代の因習が残ってたら? 分不相応な『チカラ』を手に入れて、生体にバグが起きてるとしたら。…………今後もこうして地下に戻したり、それ以上のコトが必要になるかもしれないな」
「なるなる……ちゃーんと考えなきゃねぇー。……あっ、新世代の建材で迷宮を覆っちゃうとか? かったいの無かったっけ?」
「いいなソレ。たしか塗ると鬼硬くなるのあったな……」
なーんて未来の話をしてると、見知らぬ誰かからの問いかけがくる。
「あの……なんで……なんであなた達は配信者やってないんですか?」
「?」
「ほえ?」
「それだけの知識……それに強さ……配信で使える要素ばかりです。目立つことも嫌いじゃない様子ですし……」
「あー、それだがな…………実は」
「────ゲホッ!?」
「……げっ」
異変。
最後の最後に王子サマに頼ったツケが回る。
よく見ればあちこちで、いくつかのパーティや配信者が咳き込んでいた。
「あー吸い込んだか……理由のひとつはま、こういうコトだ」
申し訳なさそうに、フィーは自分の欠点を明かす。
「……俺が新しくチカラを使うと、こうしてすこぶる体に悪い粉が出ちまうんだ。喉から胃からズタボロにするかもしれないレベルのな」
「おえぇぇ…………そ、そんなリスクが…………」
「ああ、致命的な弱点だ……これまではな」
ちらり。
こちらへの視線が、やるべき事を思い出させる。
「だがコレからは、もうそこまで気にしなくていいかもしんないぜ?」
「…………?」
「っとと……咳き込んだヒト、てかダメージ受けた人みーんな手あげてくださいねー!!」
なんとか声を振り絞る。
判別した被弾者に駆け寄り、手を当てながらチカラを使う。
「あれ、痛みが……」
「いいだろ? 腕利きのリジェネヒーラーを味方につけたんだ。これでもしものフォローも効くってもんだ」
あたし達の能力の相性は抜群なんだ。
いざという時にフィーの一撃に頼ってしまっても、あたしのチカラがあれば深刻になる前に治せてしまうのだ。
貰ったチカラの分は返す。
その意気で各所をめぐり、回復の元のピヨちゃんを届けていく。
「そ、それで今になって表に……?」
「ああ。日陰でずーーーーっと戦ってきたが……やっぱり俺も表で出張る方がいいらしい…………」
言って、フィーは空を仰ぐ。
鎧を着たまま両手を広げる。
瞳を閉じ、風を感じているのか。
染み入ってる様子の妖精騎兵サマを避けるように。
「……………………へ?」
『……凄いなこの子』『鎧来てるけど、この子は妖精騎兵じゃないの?』『アシスタントみたいな……?』
あたしの方へ、視線が集まる。
ぺろり、鎧の奥で舌を見せる気配。
「なあ雛鳥さんよ…………考えたんだ」
「?」
はて? となってるあたしをおいて続く。
「実を言うとな……全くやってなかった訳でもないんだわ、配信」
「えっ」
「微塵も見られなかったがな……一応、ドリモールスの対処法も発信してたんだぜ?」
「え……え゛ぇぇえええええ!?」
「にゃ、にゃはは……」
市民サマのリアクションに苦笑する。
……そういえば妖精騎兵って、だいぶ前に偽物の配信者がいっぱい出て廃れたりしたっけ。
それでホンモノが埋もれるんだから、ネットワークとは怖いものだ。
「でも、オマエとなら。もっと上手くやれる気がする……お互いに証明し合える気がするんだ」
「えっと…………ッ!?」
ようやく。
ようやく言いたい事を理解して。
大マジメな顔でぐいぐいと。
「……俺たちがヤツらを食った事で得た『チカラ』は千差万別。真似できるなんてもんじゃあない。それぞれ違うから、俺たちは手を取り合うんだろう……そう、今なら理解できる」
歴史を背負い、知識を背負い。
輝ける鎧の奥、甘く鋭い目線をまっすぐ向けて告げる。
「────雛鳥さんよ。俺と一緒にやってくれないか、配信者」
「……………………ッ!!!?!?」
誘ったのは自分でも、誘われるのは想定外。
数瞬の空白が生まれる中、周囲から好き放題言われてしまう。
『なにこれ実質プロポーズじゃね!?』『騎兵サマの告白アツ過ぎるだろ!!』『ちょっと感情の生理が追いつかない!』
どよめき、ざわめき、どちらに寄るか見守られるが。
答えなんて、決まりきっていた。
「よ────喜んでっ!! この雛鳥……もとい! 妖精騎兵二号、あなたと共に駆け抜けて見せましょう!!!」
「二号……なら俺は一号か!! 良いねぇ、よろしく頼むぜ二号ッ!!」
「ッ!! らじゃらじゃっ!」
返事と共に、硬い握手がかわされる。
今度こそ、大歓声が上がる。
本当の大団円が、ようやっとこさ訪れたのだ。
◆
「…………ってハナシなわけよ♪ 当時を知ってる人もケッコー居るかな?」
〈*°꒰ঌ( ˘꒳˘ )໒꒱*°〉〈。..꒰ঌ˘^˘໒꒱..〉〈0(:3 )〜 _('、3」 ∠ )_〉〈☆*°꒰ঌ( ͡ ͜ ͡ )໒꒱*°☆〉
「にゃはは…………みーんな昇天しちゃったかぁ…………」
そして現在へ。
みんな、コメントもそこそこにしんみり聴き入ってた。
微かに声を上げるのは、黒歴史を明かされ放心中のリーダだけだった。
「……ったく、我ながら余ったるい誘い文句なこった」
「んんー? 後悔でもしてるぅ?」
「まさか。サイコーの相棒と居られて悔やむわけないだろ?」
「くぅー!! 言ってくれるねーこのこの」
『ぐはっ!!?_:( _ ́ཫ`):_』『やめろぉ!! それ以上は過供給で死ぬゥ!!』『二人がベストマッチでなによりです…………電 話』
自然体の絡みをする中眠っていたコメント欄も狂気乱舞する。
…………こんなふうに、バカ騒ぎできるうちが花。
今日まで守った温もりを噛み締めつつ、あたし達フェアリーライダーズは配信の締めにかかるのだ。




