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#1-7 ヒーロー見参! vsドリモールス中編!!

「…………ったく、ずいぶんと派手な登場しやがって…………」


やれやれといった面持ちで戦場を見据える。


もっとも、そそのかしたのはフィーの方だが。


「あんにゃろ……ドン引きモノのプレッシャーのハズなのに、アイツ元気に『やる』と答えやがった。とんだ逸材が流れたもんだぜ」


『『…………』』


「……オマエらもそう思うよなぁ!!」


『『……ゴギャ??』』


言って、バリケードに張り付いてる獣を一瞥。


答えが無いのを承知で言ってやってたのだ。一人で戦ってるあいだは、よくこうして寂しさを紛らわしてた。


でももう、そんな必要無いかもしれない。


彼女の勝利と栄光を願う。


数年モノの孤独が癒えるかもしれない、との期待を込めて。


「とくと拝ませてもらうぜ、エイル。こっちの仕事をしながら……なァ!」


『『ゴ、グニャアアアアア!?』』


気合い一声討伐ダイブ。


余裕の表情で容赦なく急襲しながら、カメラの花でエイルを観戦する。


どう見ても年上相手なのに、フィーはまるで父親のような顔で見届けるのだ。







熱を感じる。


戦いの波が押し寄せる。


自分に無数の視線が突き刺さる。


『アレはまさか…………妖精騎兵か!?』『なんだよソレ!』『ばっかおめ、知らないのか!? 数年前から活躍してる……』『だったらなんで配信者してないんだよ!?』


幾つもの憶測を背負い、あたしは戦場に立つ。


感じたことのないような興奮が、あたしを満たしていく。


その背後から、震える声でリーダが問う。


「オマエ、は…………?」


「あっとと……ナノルホドノモノジャアリマセーン」


慌ててノープランの誤魔化しをきめた直後。


轟く爪が襲う。


『ギャゴ オオオオオオオオオオ!』


「っ……とと!」


落ち着いて盾を構えて守る。


ガキンと衝撃。


素のあたしならひき肉になってもおかしくないハズだけど、攻撃を受け止めてもさして負担になってない。


これが装備の差というやつか。


『ゴギャ ?』


「さっすが王子サマ、なんともないぜっ!」


上がり調子で前に出る。


ポンと雛鳥を、見えにくいように剣の中に割り込ませ。


切れ味抜群のフィーの刃を、爆発的な火薬が押し出す。チカラで編んだ物質、形状だけなら何でもアリだ。


『ゴギャ アアアアア アアアアア!!』


しかしドリモールスも黙らず追撃。


だけどあたしもバントで合わせるくらいはできる。


ドカンと一撃。


炸裂。


『────────ゴギャア アアアアア アアアアア!?』


片方弾いた。


しかし、くるり身をよじり片方だけで迫ってくる。


『ゴギャッ!!』


「ッ!!」


紙一重で避け、しかしかすって吹っ飛ばされる。


鈍い痛みとともに叩きつけられ、苦笑が漏れる。


「ぐ……にゃっはは……やっぱ王子サマみたくいかないかぁ……」


餅は餅屋とはよく言ったもの。


あたしはフィーのように、先に侵食してから叩き斬るなんて真似はできない。


しかしもとより硬くて尖鋭。託された剣と流行りの火薬、そしてささやかなあたしのチカラがあればあの爪にも届くはずだ。


まだ足りない。


完璧ではない。


でも大丈夫。


最悪負けてもいい。


そう言われてると、体が軽くなった。


長いこと、退路はないと言われ続けたからだろうか。


「退路……かぁ」


ドリモールスを見据えつつ思う────自分は何を地面に縛られているのだろう?


せっかくの妖精騎兵。


乗り物は貸し出し中だが、背中には舞い踊るのに苦労しない羽がある。


貼り付けられる道理なんて、最初からなかったのだ。







『ここからじゃ間に合わない……着く前に誰かがやらかしちまう!』


『やらかすって……倒すとなんかマズイの!?』


『細かい事省いて結果だけ言う。街が今の数倍地獄になると思え』


『………ッ!!』


それで概要は理解できた。


出発直前、あたし達の会議は緊急を要した。


『なる。蓋みたいな役目ってワケか。さっきのとはワケが違うと』


『ああ。だから遅れてでも何とか……足の早い動物でも作れればいいんだが』


『お願い、ピヨちゃん』


『は?』


すぐさまポンと雛鳥を一羽放ち、先ほどの獣の肉を食べさせる。


『…………何する気だ?』


『またピヨちゃんを育てる。こちとら長距離運転もバッチリ対応だもの。一分ちょうだい……その後秒で運んでみせる!』


『お、おう……ずいぶんと頼もしいな?』


『えへへ……燃費悪いって言われて評価低かったんだけどねー』


照れくさくなって緩みかけるが、一方のフィーは浮かない顔だ。


『……ったく。こんな逸材のクビを切るヤツの気が知れないな。さすがに救いようが無いってかなんか……』


『あー言っとくけど。あたしはあの人も……リーダも守りたいからね?』


『あ?』


続いた言葉に顔を戻して言葉を返す。


辛い日々ではあっても、それとコレとは話が別だ。


『アレでリーダ、なんやかんや役立ってるみたいだし。まだまだ生きてて欲しいんだからさ』


『……気になったんだが。なんでそこまで庇う?」


さすがに不思議に思ったか、怪訝な顔で問い詰められる。


「リーダの噂は俺も聴いてる、少なくとも追放された側が好印象でいられる手合いじゃないだろ。ありゃあ、ボロが出たらそこまでな女じゃないのか……?』


『さーてね……だいたいいつもどっちか酔っ払ってたし、良くはわかんないや。……でもさ』


辛い事はたくさんあった。


でもそれだけじゃなかった。


なにより、それ以前の問題だ。


『あたしはさ。打算で助ける人を選ぶとか、そんな事自体をしたくないんだと思う。トロッコ問題があるなら、トロッコ自体をぶっ壊したいタイプだし』


『……………』


『やるだけやって誰かくたばる、そりゃまあしゃあないケド。最初から誰かがオナクナリの算段立てるなんて論外じゃない? そんな事してたらこの街、カンタンに終わっちゃうじゃん? あたしはやだな、そーいうの』


「………………………………なるほどな」


発し、うーむ…………と考えて。


フッと笑い、ニィッと一言。


『なあ……ひとつ、試してみないか?』


『へ?』


思考に穴が空いてるうちに、フィーのチカラが衣装を編み。


とんでもない事を言い出す。


『……お前も演ってみないかって言ってんだ。『おれのかんがえたさいきょうのヒーロー』ってやつをさ』


『………………………………ふぇっ!?』


あっさり出来上がったのは、露出こそ少ないがニッチな需要が出そうな軽鎧の衣装。


いつも着てるフィーの鎧の女性版みたいな……まさか。


すっと差し出され、喜びより困惑が勝る。


『あたしが…………妖精騎兵(フェアリーライダー)に……?』


驚きの声と、脱皮しはじめたピヨちゃんの雄叫びが重なった。


「……どうせコイツの運転はオマエなんだろ? だったらものの試しだ。それにお前なら……俺より上手く舞える気がする」


期待を込めた眼差し。


あたしの中でもボルテージが上がっていく。


「どうせ。最初から俺がやったら、クソ体に悪いキラキラ粉を街中でばら撒く羽目になる。犠牲前提はマズイんだろ? ……なら、そうじゃない道も試してみるさ。さあ、お前はどうする?」


最高ヒーローからのご指名。


答えなんて、決まりきっていた。







ふわり、体を浮かす。


鎧に備え着いた妖精の羽が空気を掴む。あたしの弱い炎でも、上昇気流を作るくらいはどうとでもなる。


フィーは光る粉を撒いて「細かい足場」を編んでたらしいけど、こっちの方式なら迷惑のリスクもン万分の1くらいだろうか。


「待って……待って!!!」


が、テイクオフ直前に呼び止められる。


泣き崩れ、呆然としていたリーダだ。


「あんたは……あんたとはずっと会ってた気がする!」


「……………」


「その温もり……太陽みたいな雰囲気を、どこかで……。あんたは…………わたしが追放したうちの誰かなのかい!?」


ついひと月足らずのこともあやふやなのか。


酒に薄まったであろう問いかけに取り合う事もなかったけど。


「………………………………そうだよ」


なんでか、ちゃんと答えたくなった。


「時代の流れに合わせて叩き切られて、その辺に流された一人だよ」


「…………ッ」


「だけどさ」非情だけじゃ終わらせない。「その教えは、今もあたしの中に生きてる。溜まった知識と育てた心が、あたしを強くさせてくれる。恨みはないよ、今んとこ」


「……くぅ…………!?」


よく分からない反応。


自分でもどんな重いか分からずにいるのだろう。


よく分からない感情でくしゃくしゃになり、なんと言えばいいかも分からないリーダに。


あと一言だけ残す。






「────だから、そこで見ていて。あたしの戦いを、あなたの成果を!!」






「……………………ッ!!」


後に数え切れないほど叫ぶ、決めゼリフの原型を叫び前へ。


ぐるんぐるんと回転し威力を上げる。


戦塵を抜け、上空へ。


青空を認識する。


視界が開ける。


太陽を背負う。


『グギャ……ゴギャオオオオ!!』


「行くよ、ドリモールス!」


眼下の魔獣に向けて宣誓する。


握るのは、この世でもっとも硬いのではとさえ思える刃。


それをぐるりぐるりと振り回す。


火薬の力と起爆のチカラ。


そこへ遠心力まで追加して。


押し込む。


一閃。





────すっぱーーーーーーーーーん!!!!


『ギヤゴオオオ オオオオオ オオオオオ!!!??』






「やった……かな?」


ドリモールスの両巻き爪、その片方を切り崩す。


くるりくるりと落ちてくソレは、しかし片手分も揃ってない。


それでも。


「浅い…………かなぁ…………でも」


どすん、輝きを失い地に刺さる爪を見て満足げに。


『ゴギャギャ ギャゴオオオオオオオオ!!』


「まずは………一本!」


全部は果たせずとも構わない。


貰った力は、何一つ無駄になってない。


確かな手応えとともに、戦いを終わりへ進めるのだ。

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