#1-7 ヒーロー見参! vsドリモールス中編!!
「…………ったく、ずいぶんと派手な登場しやがって…………」
やれやれといった面持ちで戦場を見据える。
もっとも、そそのかしたのはフィーの方だが。
「あんにゃろ……ドン引きモノのプレッシャーのハズなのに、アイツ元気に『やる』と答えやがった。とんだ逸材が流れたもんだぜ」
『『…………』』
「……オマエらもそう思うよなぁ!!」
『『……ゴギャ??』』
言って、バリケードに張り付いてる獣を一瞥。
答えが無いのを承知で言ってやってたのだ。一人で戦ってるあいだは、よくこうして寂しさを紛らわしてた。
でももう、そんな必要無いかもしれない。
彼女の勝利と栄光を願う。
数年モノの孤独が癒えるかもしれない、との期待を込めて。
「とくと拝ませてもらうぜ、エイル。こっちの仕事をしながら……なァ!」
『『ゴ、グニャアアアアア!?』』
気合い一声討伐ダイブ。
余裕の表情で容赦なく急襲しながら、カメラの花でエイルを観戦する。
どう見ても年上相手なのに、フィーはまるで父親のような顔で見届けるのだ。
◆
熱を感じる。
戦いの波が押し寄せる。
自分に無数の視線が突き刺さる。
『アレはまさか…………妖精騎兵か!?』『なんだよソレ!』『ばっかおめ、知らないのか!? 数年前から活躍してる……』『だったらなんで配信者してないんだよ!?』
幾つもの憶測を背負い、あたしは戦場に立つ。
感じたことのないような興奮が、あたしを満たしていく。
その背後から、震える声でリーダが問う。
「オマエ、は…………?」
「あっとと……ナノルホドノモノジャアリマセーン」
慌ててノープランの誤魔化しをきめた直後。
轟く爪が襲う。
『ギャゴ オオオオオオオオオオ!』
「っ……とと!」
落ち着いて盾を構えて守る。
ガキンと衝撃。
素のあたしならひき肉になってもおかしくないハズだけど、攻撃を受け止めてもさして負担になってない。
これが装備の差というやつか。
『ゴギャ ?』
「さっすが王子サマ、なんともないぜっ!」
上がり調子で前に出る。
ポンと雛鳥を、見えにくいように剣の中に割り込ませ。
切れ味抜群のフィーの刃を、爆発的な火薬が押し出す。チカラで編んだ物質、形状だけなら何でもアリだ。
『ゴギャ アアアアア アアアアア!!』
しかしドリモールスも黙らず追撃。
だけどあたしもバントで合わせるくらいはできる。
ドカンと一撃。
炸裂。
『────────ゴギャア アアアアア アアアアア!?』
片方弾いた。
しかし、くるり身をよじり片方だけで迫ってくる。
『ゴギャッ!!』
「ッ!!」
紙一重で避け、しかしかすって吹っ飛ばされる。
鈍い痛みとともに叩きつけられ、苦笑が漏れる。
「ぐ……にゃっはは……やっぱ王子サマみたくいかないかぁ……」
餅は餅屋とはよく言ったもの。
あたしはフィーのように、先に侵食してから叩き斬るなんて真似はできない。
しかしもとより硬くて尖鋭。託された剣と流行りの火薬、そしてささやかなあたしのチカラがあればあの爪にも届くはずだ。
まだ足りない。
完璧ではない。
でも大丈夫。
最悪負けてもいい。
そう言われてると、体が軽くなった。
長いこと、退路はないと言われ続けたからだろうか。
「退路……かぁ」
ドリモールスを見据えつつ思う────自分は何を地面に縛られているのだろう?
せっかくの妖精騎兵。
乗り物は貸し出し中だが、背中には舞い踊るのに苦労しない羽がある。
貼り付けられる道理なんて、最初からなかったのだ。
◆
『ここからじゃ間に合わない……着く前に誰かがやらかしちまう!』
『やらかすって……倒すとなんかマズイの!?』
『細かい事省いて結果だけ言う。街が今の数倍地獄になると思え』
『………ッ!!』
それで概要は理解できた。
出発直前、あたし達の会議は緊急を要した。
『なる。蓋みたいな役目ってワケか。さっきのとはワケが違うと』
『ああ。だから遅れてでも何とか……足の早い動物でも作れればいいんだが』
『お願い、ピヨちゃん』
『は?』
すぐさまポンと雛鳥を一羽放ち、先ほどの獣の肉を食べさせる。
『…………何する気だ?』
『またピヨちゃんを育てる。こちとら長距離運転もバッチリ対応だもの。一分ちょうだい……その後秒で運んでみせる!』
『お、おう……ずいぶんと頼もしいな?』
『えへへ……燃費悪いって言われて評価低かったんだけどねー』
照れくさくなって緩みかけるが、一方のフィーは浮かない顔だ。
『……ったく。こんな逸材のクビを切るヤツの気が知れないな。さすがに救いようが無いってかなんか……』
『あー言っとくけど。あたしはあの人も……リーダも守りたいからね?』
『あ?』
続いた言葉に顔を戻して言葉を返す。
辛い日々ではあっても、それとコレとは話が別だ。
『アレでリーダ、なんやかんや役立ってるみたいだし。まだまだ生きてて欲しいんだからさ』
『……気になったんだが。なんでそこまで庇う?」
さすがに不思議に思ったか、怪訝な顔で問い詰められる。
「リーダの噂は俺も聴いてる、少なくとも追放された側が好印象でいられる手合いじゃないだろ。ありゃあ、ボロが出たらそこまでな女じゃないのか……?』
『さーてね……だいたいいつもどっちか酔っ払ってたし、良くはわかんないや。……でもさ』
辛い事はたくさんあった。
でもそれだけじゃなかった。
なにより、それ以前の問題だ。
『あたしはさ。打算で助ける人を選ぶとか、そんな事自体をしたくないんだと思う。トロッコ問題があるなら、トロッコ自体をぶっ壊したいタイプだし』
『……………』
『やるだけやって誰かくたばる、そりゃまあしゃあないケド。最初から誰かがオナクナリの算段立てるなんて論外じゃない? そんな事してたらこの街、カンタンに終わっちゃうじゃん? あたしはやだな、そーいうの』
「………………………………なるほどな」
発し、うーむ…………と考えて。
フッと笑い、ニィッと一言。
『なあ……ひとつ、試してみないか?』
『へ?』
思考に穴が空いてるうちに、フィーのチカラが衣装を編み。
とんでもない事を言い出す。
『……お前も演ってみないかって言ってんだ。『おれのかんがえたさいきょうのヒーロー』ってやつをさ』
『………………………………ふぇっ!?』
あっさり出来上がったのは、露出こそ少ないがニッチな需要が出そうな軽鎧の衣装。
いつも着てるフィーの鎧の女性版みたいな……まさか。
すっと差し出され、喜びより困惑が勝る。
『あたしが…………妖精騎兵に……?』
驚きの声と、脱皮しはじめたピヨちゃんの雄叫びが重なった。
「……どうせコイツの運転はオマエなんだろ? だったらものの試しだ。それにお前なら……俺より上手く舞える気がする」
期待を込めた眼差し。
あたしの中でもボルテージが上がっていく。
「どうせ。最初から俺がやったら、クソ体に悪いキラキラ粉を街中でばら撒く羽目になる。犠牲前提はマズイんだろ? ……なら、そうじゃない道も試してみるさ。さあ、お前はどうする?」
最高ヒーローからのご指名。
答えなんて、決まりきっていた。
◆
ふわり、体を浮かす。
鎧に備え着いた妖精の羽が空気を掴む。あたしの弱い炎でも、上昇気流を作るくらいはどうとでもなる。
フィーは光る粉を撒いて「細かい足場」を編んでたらしいけど、こっちの方式なら迷惑のリスクもン万分の1くらいだろうか。
「待って……待って!!!」
が、テイクオフ直前に呼び止められる。
泣き崩れ、呆然としていたリーダだ。
「あんたは……あんたとはずっと会ってた気がする!」
「……………」
「その温もり……太陽みたいな雰囲気を、どこかで……。あんたは…………わたしが追放したうちの誰かなのかい!?」
ついひと月足らずのこともあやふやなのか。
酒に薄まったであろう問いかけに取り合う事もなかったけど。
「………………………………そうだよ」
なんでか、ちゃんと答えたくなった。
「時代の流れに合わせて叩き切られて、その辺に流された一人だよ」
「…………ッ」
「だけどさ」非情だけじゃ終わらせない。「その教えは、今もあたしの中に生きてる。溜まった知識と育てた心が、あたしを強くさせてくれる。恨みはないよ、今んとこ」
「……くぅ…………!?」
よく分からない反応。
自分でもどんな重いか分からずにいるのだろう。
よく分からない感情でくしゃくしゃになり、なんと言えばいいかも分からないリーダに。
あと一言だけ残す。
「────だから、そこで見ていて。あたしの戦いを、あなたの成果を!!」
「……………………ッ!!」
後に数え切れないほど叫ぶ、決めゼリフの原型を叫び前へ。
ぐるんぐるんと回転し威力を上げる。
戦塵を抜け、上空へ。
青空を認識する。
視界が開ける。
太陽を背負う。
『グギャ……ゴギャオオオオ!!』
「行くよ、ドリモールス!」
眼下の魔獣に向けて宣誓する。
握るのは、この世でもっとも硬いのではとさえ思える刃。
それをぐるりぐるりと振り回す。
火薬の力と起爆のチカラ。
そこへ遠心力まで追加して。
押し込む。
一閃。
────すっぱーーーーーーーーーん!!!!
『ギヤゴオオオ オオオオオ オオオオオ!!!??』
「やった……かな?」
ドリモールスの両巻き爪、その片方を切り崩す。
くるりくるりと落ちてくソレは、しかし片手分も揃ってない。
それでも。
「浅い…………かなぁ…………でも」
どすん、輝きを失い地に刺さる爪を見て満足げに。
『ゴギャギャ ギャゴオオオオオオオオ!!』
「まずは………一本!」
全部は果たせずとも構わない。
貰った力は、何一つ無駄になってない。
確かな手応えとともに、戦いを終わりへ進めるのだ。




