#1-6 まよえるオトナと迷わぬ決意。vsドリモールス前編!!!
「何が起こってるんだ……一体なにがッ!!」
吹き上がる災炎。
立ち上る戦塵。
そこに君臨する、緋色の毛並みに輝く両の巻き爪。
『────ゴギャグルルルルルルル…………!!』
巨大魔獣ドリモールスのチカラが、あたりいっぱいを掘り返して瓦礫としていく。
屋台の街も焦げ臭く、香ばしく燃えたぎっていた…………
「おまえたち、消火だ消火!」
「あいよっ!」
「らじゃっ!!」
ばしゅーーーー!! と一発、水鉄砲が鎮火する。
正真正銘の緊急事態だと言うのに、混乱の後始末に追われるのはリーダなど街にいたパーティだ。
ありえないハズの絶対絶命に追い込まれていく中……
「ったく……こんな時になんで火薬部隊は動かない? なんのための備えだよ!?」
「アレの対応をのんびり会議してるらしい! あんのボケ老人め!!」
「……正直、アレらも首の替え時なんじゃないスかね」
辟易しながら語り合う。
もちろんこうしている間にも山ほど居るパーティが立ち向かっているのだが…………どういうわけか動きが悪い。
その理由に検討もつかないまま、頭を抱えて話を進める。
「他のヤツらもアテになりそうにない。わたしらで何とかしないと……」
一歩引き、くるり背後へ向き直る。
「出番だ、新入り」
「ひゃっ!! わわ、私ですか?」
ふわふわもふもふ、髪も衣装もマスコットじみた小さな小さな新入りの少女。
しかしそのチカラは巨大なハンマーとなり、容赦なく敵を爆殺する。
そのため大火薬時代に合わせ、相乗効果の一撃を期待し受け入れたのだが…………
「わたし達で道を作る。んでアンタの火力で片付ける…………準備しな」
「え、あの……いつもやってるみたいな、ハンマーに火薬貼っつけて投げるのだと効かないとおもいます……。おっきいのを投げつけるにしても、罠にかけるとかして、あのもぐらさんの動きを止めないと…………」
「……………………、」
加入ひと月未満でこのこなれ感。
スパルタではあるのだが、教育する間のリーダはいい上司なのだ。採集や調理のような基礎的な知識も、地獄みたいな日々の楽しみ方も分かりやすく教えてくれる。
だからみんな、『使われる』段に入ってようやく気付く。
「いいや違う。最大火力でアレに突っ込んで起爆しろ」
「……………………………………………………………………え?」
絶望の盤になってから見える…………彼女の異常性に。
「え……リーダ……今アンタ、その子に『死ね』って言いました…………?」
「なんだよ、文句あるのかッ!? 罠で捕らえるだぁ? んな都合良くポンと置けるならとっくにカタが着いてるんだよ!!!」
「だからって、だからってなぁ……!?」
取り巻き二人と新入りが、震えながらリーダを見やる。
そのひび割れた顔には、非情とは相反する滝のような汗が。
彼女も心なき外道というではない。
ただ知らないというだけの理由で、速度混ぜこぜでまくし立てる。
「このままじゃ何人も死ぬ……それよりか一人の犠牲で済んだ方がいいに決まってる!! 少しでも被害を抑えて明日を迎えるのが一番の目標だ!! ……だろ? だよなぁ? わたしの言ってること間違ってない……だろ…………間違ってないと、言ってくれよ……………………?」
「…………」
「…………」
「…………」
…………これが、彼女の限界。
なぜ回りくどい手順が要るのかを理解できず、自分の頭で理解出来る範囲かつ、より単純に事態を片付ける方だけ見てしまう。
その負担は自然と新入りにのしかかるのだが……新入りを入れ替え続けるのはそういうこと。なまじ教育の才があったばかりに、手軽に時流に合わせた使い走りを『造って』しまえたのだ。
しかし今回ばかりは事態が悪すぎた。
ここまで付いてきた二名の取り巻きにも激しい動揺が走る。
「何言ってんだアンタ……いくらなんでも度が過ぎてるだろ!?」
「そ、そうだよ……そんなに言うならアンタがやれよ!?」
「わたしのチカラじゃ無理だから言ってんだよ!?」
それでも彼女は止まれない。
ブレーキが壊れた自転車のように、破滅への坂道を転げ落ちる。
「他になんか案でもあるなら言ってみろよ! 今までラッキーで避け続けた、人一人捧げなきゃ済まない事態がついに来たってだけのハナシなんだよ! このまま何もしないよりは絶対マシなハズなんだ……!!」
「…………」
「…………」
「…………っ」
沈黙。
端っことはいえ戦場。不戦は大罪とも言えるが……議題が議題過ぎて無理もない。これを『成功』してしまえば、次から生贄を並べ出すという確信も付いてたことだろう。
リーダとて例外でないが、他のプランを出せるでもない。
政府の老人共が長話する理由を少しは察しながらも。
彼女は。
「ああもう……わかったよ…………………!!」
前に進む。
進んでしまう。
「お、おい……!?」
鋼の鞭で道を切り開き、高所に駆け上り…………叫ぶ。
「こっちだバケモン!!!! ババアで良けりゃ食わせてやるよ!!!」
『ゴギュ? ゴギャァ……!!』
ぐりん!!!! と土竜の首がリーダを睨む。
パーティーメンバーのみならず、周囲で戦っている面々にも動揺が走る。
「何やってんだアンタ!?」
「バカなのか死ぬぞ!?」
「バカでも死んでもいいんだよ!!」もう、整合性を保つので精一杯だった。「いいかアイツは今からわたしを取り殺す!! その後隙だらけのアイツにアンタが火薬ハンマーで自爆特攻をしかける!! ソレで全部解決だ!!!!!!」
「なっ……待ってそれじゃ二人死んでるだろ!?」
「違っ…………そんなつもりで言ったんじゃ…………」
「うるせーよっ!!!!!! アンタらがやれっつったんだろう!???? 元からわたしはこんなやり方しか知らないんだよっバーーーーーカ!!!!!!!!!」
こちらへ走り出すドリモールスに向かい、隙を増やすべく特攻する。
リーダは新入りの様子を確認できなかった。怯え縮こまり、後に続けないという事態が怖かったからだ。
十中八九、彼女は無駄死にだろう。
「…………ちくしょう…………なにやってんだわたしは…………なんだってこんな…………」
結局、リーダはどこまでも不器用だった。
自分の才能を正しく理解していたら、遥かに多くの戦士を教え導けただろう。
この戦場を正しく理解していたら、少なくともこんなバカな真似はしなかっただろう。
まるで戦時末期の帝国軍人のように、間違いを見直せずに崖の果て海溝の底まで転げ落ちてしまう。
そうして、当然の帰結として。
「…………………あ」
より大きな捕食者に、その空顎を砕かれる、
寸前。
────ガッキャアアアアアアアアアアアアアアン!!!
光り輝く盾携え、ヒーローが舞い降りる。
「………………………………………え…………?」
護られおっこち、尻餅をつき見上げる。
初めて見るハズなのに、どこか懐かしいケハイ。
ほのかに香る酒のカオリは、いつか誰かと飲み比べた薬酒のソレ。
そして纏う、太陽のように明るい雰囲気は…………
「誰、だ…………?」
「まあその…………ヒーロー、みたいなものかな?」
簡素ながらも輝く鎧から、滲む女性的シルエット。
金色みなぎる光のマントが、ヒーローの来訪を示していた。




