#1-3 配るは信頼、繋ぐは未来の小さな勇士。
「聞かせろ。お前はどこからどこまで見た?」
「え……」
夜の森の中。
月の光差し込む中で、小さな戦士との問答が続く。
「……わからないか?」反応が悪いか、苛立ち混じりに、騎士だった小さな王子サマは言う。「『何も見てなかった』と言えばそういう事にするってことだ。もう一度訊くぞ……『どこからどこまで見た?』」
「……………………、」
その言葉が、どこまで耳に入っていたか分からかった。
ただ、正直に。
感情が溢れた。
「か…………」
「か?」
「かぁーーーーっくいぃーーーーーーーーーー!!!」
「……………………………………………………………………あ????」
王子サマは本気で分からない、という顔で固まる。
それでもなんとか持ち直して問う。
「いや感想じゃなくて……いや感想言ってる時点で割とアウトだがな? 俺はどこからどこまで見たか聞いてるんだが?」
「えっとどこからどうって……全部見てたけどぜんっぜんわかんなかった! なになに今の何やったの!? 教えて教えて知りたーい!!!」
「ああそうかなるほど! お前が空気を読めないヤツって事はよくわかったよッ!」
うわぁ……と頭を抱える王子サマ。正体バレの時にどうするかの具体案が無かったのか、この世の終わりみたいな顔でうずくまってしまう。
しかし酔いがぶり返してたのか、あたしは構わずずけずけ訊いてしまう。
「えへへー…………んだからさー、さっきの戦いは何をどうやったのさぁ?」
「ったくマイペースな……何って、ただぶった斬っただけだが?」
「いやいや無理無理ただ斬るだけじゃあんなにならな…………おえええええええええええ…………!!!」
「お、いいいいいいいいいい!?」
話し込んでたら異常事態。
酔いだけじゃない、強烈な違和感。
口から胃の奥に至るまで、今まであまり感じたことのないような痛みと異物感が支配する…………
「アレ、喉とかめっちゃイガイガ……?」
「ワリ……あーもう白状するよ……俺のチカラはめちゃくちゃ迷惑かかるチカラなんだ」
言ってぱちり、指を鳴らす。異常が嘘のように収まった。
更にもう片手のひらから、サラサラと光る粉を出してみせる。
「……見ろこの粉。コレが俺のチカラだ。コイツを撒いて、敵に食い込ませながら戦う訳だが……当然味方でも吸い込めばタダじゃあ済まない。狙って消さない限りはな」
「あーうん……? 攻撃力ってより、凍らせて割るみたいな細工したってコト?」
「遠からず……かな」
今のは、そしてさっき魔獣に撃ち込んだのは侵食攻撃だったのだろうか。
そりゃあ内側からも攻撃を受けてくれるなら、相手がどんなに強くても倒せるだろうけど…………コレを近くで振り回される同僚は溜まったものじゃないだろう。
「おかげでパーティー戦じゃあ約立たず。味方を喰わずにできるのは、かっるい剣と盾を振り回すくらい。しかもこっそりヒーローの真似やってんのがバレて追放。……ま、パーティにマトモに役立って無いのに人助けしてる場合かってハナシだよなぁ」
「あー? あー…………にゃはは……そりゃ、そっか……そうなるよね……」
「? 笑うか?」
「ごめっ、そーじゃなくて!!」
焦って訂正。
「いやさ……あたしもなんだ。自分よりパーティーより、もっと困ってるヒトに気をやっちゃうの」
「……マジ?」
「大マジ。ソレであたしも追放されちゃった」
ぽりぽりと頭をかいて照れくさく語る。
「いやー、外から見てみるとわかるもんなのね……お腹空いた子とかに弁当やったり、相談乗ったり……んな暇あったら貢献しろってワケ、だったんだろうなぁ……ってさ」
「……そうか」
どこか、最初より弛緩した様子で。
どこか、前世からの友でも見つけたみたいに語る。
「俺も似たことをしてたが……なんせこのツラだ。何やっても助けられる側だと思われちまう。…………だから、世にいう妖精伝説から派生させて戦士を作ったんだ」
「えっ…………それが、妖精騎兵……?」
「ああ」自嘲するように言う。「バレた時こっちの大将はキレてたよ。なんせ自分トコだと約立たずのヤツが、自分より有名なヒーローを演じてるってんだからな」
哀愁漂う小さな背が、より小さく見えた気がした。
自分を頼もしく見せるための鎧が、いつの間にか人々の希望になっていたというのか。
あたし自身も憧れていたが、しかしその像は今にも砕けそうな危うさだった。
何より似た者同士。
話してみれば馬が合い、今後もっと関わればより仲良くなれると確信できた。
……この出会いを、無駄にしたくない。
「あの、さ……」
「ん?」
「よかったらだけど。あたしも一人だし……当面の間組んでみない?」
「……は?」
やはり信じられない、という顔だ。
「なに、言ってんだ……喉も内蔵もまるっと逝くぞ?」
「あれくらいでくたばるなら、とっくにこの子にやられてるって。それに……」
酒瓶ふりふりアピールしつつ、ぽんっと自分のチカラを出す。
ピンポン玉くらいの、炎の雛が舞う。
「あたしのピヨちゃん。よっわいけど、四六時中癒す力もあってさ。キミのキラキラを吸い込むくらいなら、きっとなんとかできると思うんだ」
「マジかよオイ……それヒトにも使えるヤツ?」
「もっちろん! お試しする?」
ああ、と返答を受けたのでひとつ、弾丸にせずに彼の胸に吸い込ませる。
自分で使う時もそうだけど、湯たんぽみたいな温もりが全身に広がる感覚は心地良いはずだ。
じんわりと、細かな傷が癒えていく…………決していい方じゃなかった王子サマの目付きが、ぐっと和らいで見えた。
「………………………………、あったかいな」
「あたしがすぐにできるのはこれくらい」あたしも自嘲するように言ってみる。「……だけどこんなもんじゃない、あっと驚く小技をいっぱい覚えてるんだから。……ショージキ攻撃力は生ゴミだけど、それ以外なら広くあさーくだいたいできちゃうよ?」
「……………………」
「…………ど?」
「うーむ………………」
そうしてむむむ……………………とややしばらく考え。
考え考え。
考え考え考え考え考え考え考え考え……………………………………。
やがて。
「…………わかったよ」
「え……ホントに!?」
「だーがダメ元だ。ヤバいと思ったらすぐ追放手続き取るからな。半年の共闘禁止が効いてるうちに諦めろよ」
「ぅぅ、また追放!? むむ…………でもりょーかいっ! よろしくね、妖精騎兵サマっ」
「フィーだ」
「へ?」
真名を知る。
「フィー・ヴィタール。お前は?」
「にひひ……エイル・クロース。よろしくね、フィー・ヴィタールさま♪」
「ったく……様付けは要らないっての」
「あーたしかに違和感……なんか良い呼び名無いかなぁ?」
「普通にフィーでいいって……」
◆
「…………ってのが結成秘話ってワケでして」
────さすがに、ホントの全部を話すわけもない。
ところどころぼかして語る。本名はもとより、時期や時系列に若干の嘘を混ぜたりする。
まあ、当のリーダが追放したのは100人近くいるし、記録も定かじゃないのでこの配信のうちはバレやしないだろう。
ただしリーダの所業はだいたい嘘偽りなく話しており。
〈アレ、これ言うほどリーダ悪くなくない?〉〈妥当オブ妥当すぎる〉〈まあ間が悪かったというか……〉
「……て思うじゃん? ところがどっこい、パーティの立場は日を追う事にみるみる悪くなってたんだよねー」
苦笑しながらコメント返し。
ここですかさずフォローしてくれるのが一号サマだ。
「……教育だけは上手い奴が、利己主義チラつかせて人材使い潰すとどうなるか。…………わざわざ横暴なライバルを量産してるようなもんだ。実際、フェアリーライダーズに変な対抗心燃やしたから今回の事件が起きたワケだしな」
ビクッ、とゲストのリーダが震え上がる。
しかしさらに容赦なく。
「これじゃ、人を入れ替えるだけ追い込まれていく。なのに競合他者に対抗するべく、より激しく新人をこき使う。結果潰れるペースは早まる……悪循環だな。
アンタは余裕があるうちに、自分が何に向いていて何をすべきだったか知らなきゃだったんだよ」
「ぐっ…………」
〈あー、才能がカテエラ起こしてたってことか……〉〈教職行けって事か?〉〈なんかかわいそうじゃない……?〉
「あー、リーダのガチの黒歴史はここからなので悪しからず。まだまだこんなもんじゃないよー♪」
〈ええ……?〉〈もっとヤベェのあんの……?〉〈逃した魚はおっきかったチャンチャンで良いよ……〉
ううう…………と震えるリーダだけど、この後本気で一生モノのやらかしをしたのだ。ここで掘り返すぐらいにはした方がいいくらいには。
「では続きをば。かくして相方となったあたしだけど、この時点じゃあ二号にはなってない。ならそれはいつか」
しみじみと語る。
懐かしみ、優しくゆったりと…………
「コレより先に起きるある事件。そしてリーダ史上屈指の黒歴史。そこであたしはめでたく二号になる。……ではでは、後半もご観覧あれ♪」




