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#10 万人へ贈る理解への配信。

「んじゃ、帰るかな?」


『ま、おきをつけ なすってよ』


片付けを済ませば帰り支度。


一旦配信は切っている。泥臭い作業なんて、ソレをテーマに据えない限りお呼びでないのだ。


取り巻き達は本体の力ある限り、ホイホイ出てくれる資源だが……最後の炎でまとめて灰になってしまった。


持参した大袋を使い切るくらいの黒い山。都合よく出ても消えてなんてくれない。あたし達の運搬限界いっぱいにかさ張るのだ。


『まったく…… このシンジュウ エゴイズムにいどんで おみやげがソレとはなぁ……』


感心を通り越して呆れ顔の神獣サマ。さっきの問答がなかったら、あたし達を無私のナニカと思い気味悪がりでもしただろうか。


まあ、そんな存在ネガイサゲだけど。


『タンマリだしたトリマキまで キレイサッパリもやしやがって。ここにくるまでテマもかけたろ ゴミいがい てぶらでかえってダイジョウブなのかい?』


「ヘーキヘーキ♪ 今さっき、一番大事なモノ貰ったでしょー?」


『…………ハッハッハ! そりゃそうかこのヒトたらしめ! いやシンジュウたらしか!!!』


安心したか、くるりと向き直って。


締めくくるように告げる。


『にごうチャン!! いちごうクン! あとなんだっけ…………リーダーのヒト!!』


ビクゥ!! と震え上がる。


廊下の隅で大人しくしてたダレカサンにも向けて。


『いろいろヒドイこと いってごめんなぁ!! コンドがあったら もっとタノしいジカンにしようぜ!』


「望むところ! 何度だって楽しんじゃお♪」


拳を突きつけ再戦を誓い、エゴイズムの巣を後にするのだ。









出入口をくぐるなり蓋がしまる。


切り開け無くはないだろうが、修繕の邪魔をするのも野暮ってやつだ。


「……オマエにだけは、次も手は抜いてくれないだろうな。全力で遊べると思ってやがる」


「ジョートー♪ その方が配信も盛り上がるし♪ ……相手のノリが良いとこっちもありがたいってもんよ」


軽やかに答え、すぅ……とひと息。


切り替え、そして廊下の隅を見下ろす。


「……………………」


あたしの元リーダー。


リーダ・フラトップ。物心ついた時から、自分が偉くて当然だと思ってたらしい可哀想なヒト。


それが今、項垂れ見下ろされ、気まずげに目を背けている。


「で…………どーするよ? リーダさん」


「自力で帰るさ。幸いケツ拭けるチカラはあるからね」


わざとらしく言っても、リーダは目を合わせようとしない。


自分が更新中の黒歴史が歩いてるようなものだ、まあ無理もない。


でも聞くべき事はあるわけで。


「……ほかのメンバーはどったの? 取り巻きにでもやられた?」


「笑えないジョークを…………逃げたさ。ヤツを見た瞬間に」


「うっわ」


思わずまんまの反応が出て、やっとくすりと声が漏れた。


「ハハ……無理をしすぎた。もう元には戻れないかもね……結局、私は器じゃなかったんだろうさ」


「かーもねー。リーダじゃ一人ずつ育てるのが精一杯だと思うし」


「ッ、あのさぁ……」


「役割が違うもん」


へ? と。


何もわかってない酔っ払いに言ってやる。


「きっと師匠とか、そんなだよ。モノを教えるのは得意でも、その後仕切って使う才能がゼツボー的なんだと思う。そのくせ頑固者の意地っ張りだし……だから来たんでしょ、今日も無理してさ」


「……………………、」


「大丈夫だよ、心配しなくても」残酷を自覚して、なお続ける。「リーダの教えてくれた事は、今まであなたが追放してきたみんなの中に生きてる。だから、大丈夫だよ」


……この言葉の酷さを、あたしも理解している。


「わざわざこっちに来なくても……むしろ来ない方が、大丈夫になるんだよ」


「……………………」


それでも言っておきたかった。


それくらい必要だと思った。


何度か。


何度か言い返そうとしたリーダも、はぁ……と大きくため息をついて。


「ああ……くそ。手放すんじゃ無かったよ、アンタの事」


「?」


「ずっと、手元に置いておきたかったよ。そうしたら、こんな事にならなかったのにさ」


「ばーか。今更悔やんでももう遅いっての」


ふっと笑って、また力を抜いた。


ダーメだこりゃ。


「……あの、さ」


「なにさ」


まあそれでも、悪縁もまた縁だし。


「また、会わない? パーティーとしてじゃなく」


「は?」


「ぶっちゃけ元上司とか考えるのメンドイしさ。どっちが上とかじゃなくて……対等に、飲み仲間として、ね」


「たく……」


あるいはその方が、相手にとっても気が楽なのか。


「言ってくれるじゃん。一升瓶用意して待ってな」


「えへへ……オーライ」


歪でも、約束は約束。


ようやっと、荷をおろせた気がした。


あたしは……フェアリーライダー二号は、エイルは。


追放の過去を、今ようやっと乗り越えたのだろう。















「…………あー、いい感じで解散しようとしてるとこ悪いが」


「? どしたの」


ここで、しばらく黙ってた一号サマが口を出す。


「そこな女にはまだ役目がある。具体的に言うと、次の配信に混ぜねばならん」


「え」


なんで? と思ったが、すぐにとんでもない発言を思い出す。


「…………!? あ、あーあーあー!!! そーだったあああああああぁぁぁ!!」


大事なコトを忘れてた。


「ま、待った待った何事さ!?」


「いやほら……さっき勢いでコラボ配信約束しちゃったじゃん?」


「あーアレ……絶対死なせない宣言みたいなもんでしょ?」


「そうなんだけどサ。その……約束は約束だから……うん……」


「まさか……アンタのキャピキャピした配信にガチで混ざれと……?」


「だけじゃないぞ」


辟易しながら、一号サマが補足説明してくれる。


「ダブルブッキング。…………キリ番記念配信は伸びがいいんだ。だからやらないわけにいかないが……アンタとの配信も約束した以上やらなきゃいけない。それもこの直後にだ。アンタが混ざるのは、ただの配信なんかじゃあない」


「あ……」


一瞬理解が遅れたようだが、元から青い顔がみるみる青くなっているあたり理解はできたのだろう。


「それって……まさか???」


「ああうん……そのマサカ」


…………人は、ソレを地獄と呼ぶ。












しばらくお待ちください…………


しばらくお待ちください……………………


しばらくお待ちください…………………………………


「……ピっヨハロ♪ 視聴登録者数十万人記念!! 追加放送(ついほう)フェアリーライダーズのお時間でーす♪」


〈イエーイ!!!〉〈ピヨハロ!!〉〈待ってましたーーーーー!!!〉〈今日は宴じゃああああああ!!!!〉


雑談枠の配信…………通称を『追放フェアリーライダーズ』。


迷宮攻略のあとはこうやって雑談枠を配信する事が多い。生死確認も兼ねており、リスナーさんを不安がらせないための工夫だったりする。


そも、ダンジョンの中からしか配信しない人は少ない。視聴先の切り替えがちょっと面倒だったりするので、ひとりの配信者が多種多様な内容をカバーしたりするのだ。


今日も一昔前の通販みたいなノリを混ぜてみる。


「さてさて本日の目玉! こちら金の盾になっておりまーす♪ ほら見て見てホントに金ピカの盾なんだよー?」


なーんて話してる横に立ってるのは、解説のタイミングが来るまで気配を消してる一号サマと……もう一人。


「シテ……コロシテ…………」


〈なんだこのオバサン!?〉〈ものっそい場違い感www〉〈約束を守る配信者の鏡(コラボ先の人権は考えないものとする)〉〈酷い公開処刑を見た〉


マスコットいっぱい、キラキラふわふわの配信画面が死ぬほど似合わない、ひび割れた顔の三十路越え女性が一人。


宣言通り、元上司のリーダにもきっちり来てもらったのだ。彼女には酷な内容を予定していたが…………ま、別にそのままでいいでしょ。


「……とまー紆余曲折あってコレに辿りついた訳だけど……まだまだここから! さらに気合い入れて……」


「ねえごめんせめて触れて! 晒し上げの放置プレイはさすがにシねる!」


「えー、でもこの後の内容的に今触れるのもねー」


「この後!? 待って怖い怖い! せめて安心出来る材料ないのかい!?」


あの頃と大差ないワガママを見せるダメ元上司に。


ならばと一言。


「じゃあ…………ありがと」


「え」


「リーダにしごかれた過去がなかったら、今のあたしはなかった。リーダに追放されなかったら、あたしは今のあたしになってなかった。だから……ありがとう」


〈……コレ言えるの大したもんだよ〉〈器の深さがマリアナ並すぎる〉〈一生付いてけるわ〉


「リーダだけじゃないよ?」


困惑が勝ってるリーダを置いて、画面に目をやる。


「一号サマはもちろん…………ここまで来れたのは、みんなのおかげでもあるからさ……マジで」


〈いやいや俺たちなんてミジンコみたいなもんで……〉〈配信者にしちゃいい子過ぎてもうね、うん〉〈いや全業界見ても天使MAXでしょ酒漬けなだけで〉〈心のアルコール消毒でしょ〉〈←オマエ天才か!!〉


謙遜しなくてもいいくらいには、ガチで助けられてるのに。


限界MAXのコメント欄を眺めつつ、喉を整え切り替える。


「こほん……さってと! じゃー本題! 今日とかこないだとかが初見の人も多いと思うので! 改めての自己紹介と…………もうひとつ」


懐かしむように、繰り出す。


「みんなに聞いてほしいんだ。あたしがどうやって妖精騎兵になったのか。始まりのハナシをさ」


〈ゴクリ……〉〈遂に仮面の奥の正体が!?〉〈気になる気になる!!〉〈楽しくなってきたァ!〉


ぞわり、にわかに反応が色めき立つなか。


しみじみした舌の根が乾く前に…………ちょっぴりわるーいオモイが出てきてしまう。


さすがのすっとぼけリーダも状況を理解したらしい。


「てーわけで始まりをどこにするかなんだけど……やっぱり長ったらしいのもアレだし、手っ取り早く運命の日から。となると……」


「あ、あのさ? こういうのは普通に生まれた時からだよねぇ? いきなり私の黒歴史から始めないよね!?」


「えー? そんな期待されちゃぁね……よっしゃ、じゃーあたしがパーティを追放されたシーンからで! それではあたしの回想兼・リーダ・の黒歴史聞き切るまで帰れまてん10、派手にすたーとっ!!!!」


「やめろてぇぇぇええええええええ!!!!」


〈待ってましたァ!〉〈公開処刑開始ィ!〉〈やっぱイイ性格してたわwww〉〈よっブラックパーティの申し子!〉〈今夜はいい肴が入ったぞ!!〉


ノリのいい反応を眺めながら、心の中で改めて想う。





さてさてこれより始まりますは、あたしことエイル・クロースの始まりの物語。


どうかミナサマ最後まで、ご覧いただければ。






エピソード4.0 因縁の終わりと対話の始まり 了




NEXT…………エピソード5.1運命と出会うサイショのハナシ

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