第10話「向かい合わせの影」【Iパート 人間兵器】
【9】
「結衣、邪魔を……しないで」
偽の華世をかばうために、結衣は両腕を広げて華世の前に立ちはだかった。
殺意をむき出しにした華世の前に立つのは怖い。
今にも涙が溢れそうになっているし、両手両足はガタガタ震えている。
けれども、絶対に華世を止めなきゃという思いが、結衣の小さな身体を突き動かしていた。
「ダメだよ、華世ちゃん。この子を殺しちゃ……ダメだよ!」
「そいつはツクモロズよ、あたしたちの敵。ここで殺さなきゃ、また何が起こるか」
「この子は悪い子じゃない……! 心から、いろんな人に親切にしてた! 話せばきっと……わかってくれるよ!」
「甘いわね。敵を助ければ、助けた敵に裏をかかれる。あんたが殺される可能性だってあるのよ」
「でも……ダメだよ! 私には、華世ちゃんに人殺しをしてほしくない!!」
「そうだな、君は……いいことを言うじゃあないか」
コツリ、コツリと靴音を鳴らしながら、どこからか現れた影。
オレンジ色のアロハシャツと麦わら帽子を身にまとった男が、結衣の前に立ちサングラスを外した。
その男の存在に、華世が目を見開く。
「アーダルベルト……おじ、さん?」
「華世。お前の言うことも一理あるが、話のわかるツクモロズを生かす意味はあると思うぞ?」
「伯父さんまで、何を甘いことを」
「彼女は我々にとって、ツクモロズに繋がる貴重な情報源になりうる。冷静になれ、華世」
「今すぐに……殺すべきよ。邪魔をするなら、伯父さんであっても……!」
華世がゆらりと、斬機刀の切っ先をアーダルベルトへと向ける。
その目には光がなく、まるで心ここにあらずと言った感じだった。
「私に刃を向けるか、華世よ」
「邪魔をする奴は、誰であっても……」
「時に華世よ。なぜ、私が人間兵器制度などというものを作ったかわかるかね?」
「何を……」
「なぜ、私のような老いぼれが大元帥などという階級を持っているか、その理由は知っておるかね?」
彼の言葉とともに、一陣の風が吹いた。
────いや、一瞬でアーダルベルトの身体が空を走ったのだ。
目にも留まらぬ速さで華世の横をすり抜け、背後で立ち止まるアーダルベルト。
一瞬で通り過ぎた大元帥の手には、華世が持っていたはずの斬機刀とその鞘が握られていた。
アーダルベルトは背中を向けたまま、斬機刀を鞘へと収める。
「ああ、円佳には悪いことをしたな……」
カチン、と斬機刀の柄が鞘とぶつかった音を出す。
その瞬間だった。
鈍い黒鉄色を放つ華世の義手義足が、一瞬でバラバラになり爆ぜる。
何度も鋭い刃物を入れられ、輪切りにされたかのようにアスファルトへと崩れる、手足だった残骸。
身体を支える足の一つを失った華世が、その場にパタリと静かに倒れた。
「……確保しろ」
アーダルベルトの令で現れ、華世とホノカ、そして偽華世を取り押さえるアーミィ隊員たち。
あまりに一瞬のことに呆然とする結衣の頬に、雨粒がひとつ。
静寂を取り戻した町並みの中を、降り始めたにわか雨がかき鳴らす。
それは、この戦いの終わりを告げるフィナーレの音楽となっていた。
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登場戦士・マシン紹介No.10
【マジカルヴァイパー】
全長:28メートル
体重:不明
華世そっくりの少女が変身した魔法少女が、更に変化した姿。
巨木の幹ほどもある太さの身体を持つ、白色の大蛇の姿をしている。
頭部付近には羽のような部位があり、これが魔力を司る器官の働きを持つ。
この器官によって発生する魔力障壁は、ビーム・シールドに匹敵する防御能力を持つが、意識外からの攻撃は防げず、また分散した方向からの同時攻撃に対しては耐久性が著しく低下する。
口の中に生成された魔法陣より、強力なビームを吐いて攻撃する。
このビームは短射程ながらかなりの威力を持ち、直撃させれば軍用キャリーフレームを大破させるほど。
この姿の肉体はほぼ全てが実体化した魔力で構成されており、致命傷を負うことで崩壊する。
【次回予告】
華世の偽者がアーミィへと捕縛されたことで、明らかになるツクモロズの生態。
同時に投獄されたホノカへと、誘いをかける華世。
新しい生活が、始まろうとする。
次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第11話「結成! 魔法少女隊 前編」
────昨日の敵を友とするには、相応の試練が必要となる。




