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第10話「向かい合わせの影」【Fパート ウェポン・フォール】

 【6】


 戦いが起こっているであろう場所の近くへと、ウィルのバイクで到着した華世。

 進行方向に向かって垂直になるように向きを変えながら、格好をつけたブレーキを掛けるバイクから飛び降り、華世は屋上へとつながる路地の階段を駆け上がる。


「ドリーム・チェンジ!」


 登りながら変身し、カンカンと鉄板を踏み鳴らす音を響かせ上を目指す華世。

 不意に、リボンから甲高い声が聞こえてくる。


『華世、すごいミュ!』

「青ハム、いきなり何よ」

『ハムって言わないでミュ! それより、ついに華世にも天使の翼が発現したみたいミュね!』

「……は?」


 たったいま変身したばかりで、特にこれまでと変わった点はない。

 強いて言うなら新しい義手に新機能が追加されてはいるが、ミュウが喜ぶ内容とは方向性がぜんぜん違う。


「ついに脳までハムスター並になった上に、ボケたんじゃないでしょうね」

『えっ、光でできた翼みたいなの生えてないミュか? 華世の魔法反応から確かに天使の翼を感じたんミュけど……』

「……なるほど、読めたわ」


 先ほどバイクの上で見た光景を思い出す華世。

 屋上で激しい爆発が起こった後、その中から抜け出すように飛び上がった光。

 遠目で結衣のような人物の手を引きながら羽ばたいた何かが、おそらくはミュウが言った天使の翼だろう。


『天使の翼は魔法の力を使いこなした魔法少女が使える魔法ミュ! 誰か他に魔法少女がいるミュか?』

「ほぼ確実に、いまから戦う相手ね……!」

『ええっ!?』


 通信を切り、屋上の床を踏みしめる華世。

 そこにいたのは、全身から黒い煙を立ち昇らせ膝をつくホノカの姿だった。


「あらホノカ、随分と派手にやられたようね」

「……この修道服は耐火構造だから割と平気。あのツクモロズ、あなたよりもよっぽど手強いから」

「ご忠告どうも。……来たわね」


 上空で光の尾を引きこちらへ向かってくる人影。

 結衣の姿がないのを見るに、どこかで降ろされたか捨てられたか。

 彼女の無事を確認するすべは今無いため、とりあえずは目の前の状況への対処を始める。


「……ウェポン・フォール! コード017・AAM-21エアレイダー!」


 華世が義手である右腕を振り上げ叫ぶと、空の一点がピカリと輝く。

 数秒の後、華世の直ぐ側へと筒状のコンテナが落下し、コンクリートの床へと突き刺さった。


「な、なにそれ……?」

「アーミィのキャリーフレーム投下システムを流用したあたし用の武器供給システム。でもってこれが……」


 自動的に展開したコンテナから発射され、宙に投げ出された筒状の武器をキャッチし、構える華世。

 エアレイダーとは、コロニー・アーミィで採用されている携行可能な誘導対機ミサイル投射兵器である。

 本来の用途は対キャリーフレーム用ではあるが、設定を弄ればこの状況でも使い物にはなるだろう。

 照準器越しに、空を飛ぶ魔法少女へと狙いを定め、ロックオンする華世。


「待って、あの子はVフィールドのような物が使えるみたい……!」

「あんたの惨状みればなんとなく察せられるっての、喰らいなさい!」


 バシュウ、と白い煙を噴射しながら放たれるエアレイダーミサイル。

 大きく弧を描きながら対象物へと向かっていく飛翔体だったが、あと一歩で当たる……というところで止められた。


「いわんこっちゃ……」

「起爆!」

「えっ?」


 華世が抱えた発射装置のボタンを押すと、同時に空中で球体の爆炎が発生した。

 あのミサイルには、いざというときのための手動信管が内蔵されており、遠隔操作で爆破することが可能である。

 いかにVフィールドのように弾頭の動きを止める機構があったとしても、爆発までは無効化することは出来ないのだ。


 爆炎からこぼれ落ちるように、人影が頭を下にして落下する。

 けれどもその影はすぐに体勢を立て直し、輝く光の翼を羽ばたかせて華世の前へと降り立った。




    ───Gパートへ続く

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