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第10話「向かい合わせの影」【Eパート 飛翔】

 【5】


「何の光!?」


 遠くの建物の屋上で輝く光に、華世は額に手を当てながら目を凝らした。

 直後にその光のもとから立ち上る火柱。

 あの炎には見覚えがあった。


「ホノカのヤロー、あんなところで何やってんのよ!」

「華世、早速こいつの出番だな! 乗って!」


 歩道の横につけたウィルの黒いバイクへと、飛び乗るように跨る華世。

 そしてウィルから投げ渡されたヘルメットを被り、後部座席タンデムシートへと腰を下ろす。


「飛ばすよ、捕まって!」

「わかってるから、さっさと行きなさい!」

「そこは素直にわかったとでも言ってよー!」


 ウィルの嘆きの言葉と同時に、バイクのエンジンが勢いよく吠える。

 唸り声を挙げながら道路を突き進むバイクの上で、華世は一つの心配事を胸に秘めていた。


(あの場所……結衣がいるところよね……!)



 ※ ※ ※



 輝く偽華世を包み込むように発された爆炎。

 けれどもその炎は、まるでネオンで作られたような、宙に浮かぶ光の翼の羽ばたきによって、かき消されるように払われた。


「そ、その姿は……!?」


 結衣の眼前で光の中から現れた偽の華世の姿。

 それは、本物の華世に近いが赤色が強い魔法少女服に身を包んだ少女。

 手に携えたステッキには、先端に花のツボミのような形容をした意匠。

 しかし、華世と決定的に違うもの。

 それは人間離れした桃色に輝く、美しい長髪だった。


「あなた、悪い人ですね!」


 そう言って光の翼を広げ、ステッキの先端をホノカへと向ける偽華世。

 対するホノカも、負けじと両腕の機械篭手ガントレットの甲を向け、鋭い目つきで睨み返す。


「ツクモロズが魔法少女に……? そんな紛い物の力なんかに!」

「紛い物じゃありません! 私のこの力は、みんなを守るための魔法の力!」

「デタラメを言うッ!」


 ホノカの叫びとともに、機械篭手ガントレットからミサイルのように発射される無数のガス缶。

 煙の尾を引き向かってくるその弾頭群へと、偽の華世はステッキを持っていない左手を広げて前に突き出した。

 その瞬間に大気がうずまき、発生した空気の螺旋へとガス缶が巻き込まれその奔流へと飲み込まれる。

 それはまるで、華世が実体弾へと行う防御行動と同じ現象。


「Vフィールド……生身で……!?」


 そのまま弾かれるようにホノカへと投げ返されるガス缶の束。

 地面に叩きつけられたいくつかの管が、漏れ出した内容物へと衝突の火花が引火し大爆発。

 屋上で燃え上がる炎に包まれるホノカの姿に絶句する結衣の手を、偽華世の手が優しく握った。


「ここは危険ですから、一緒に飛びましょう!」

「飛ぶ……? ひゃあっ!?」


 言葉の意味を結衣が理解する前に、光の翼が羽ばたき偽華世の体を持ち上げた。

 引かれる手で共に浮かび上がる結衣。

 そのまま二人の身体はぐんぐんと高度を上げ、周辺にあるどの建物よりも高い位置へとたどり着く。

 繋いだ手だけで支えられているにも関わらず、結衣はまるで水の中にいるかのような浮遊感に包まれ、力を入れなくても宙に浮かんでいた。


「た、高いよ!? 降ろして!」

「さっきの人は、まだ倒れていません。あなただけでも、安全な場所に……」


 辺りを見回し、屋上にヘリポートの見えるビルへと高度を落とす偽華世。

 そのまま結衣をそっと、硬い屋上の床へと降り立たせる。


「戦いが終わるまで、ここにいてください!」

「終わるまでって……待ってよ!」


 結衣が呼び止める声を聞かず、光の翼を翻し先ほど戦っていた場所へと向かう偽華世。

 輝く光の粒子を散らしながら飛んでいく彼女の姿は、まさに物語の世界に出てくる魔法少女の姿そのものにしか見えなかった。




    ───Fパートへ続く

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