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第10話「向かい合わせの影」【Dパート 三人の少女たち】

 【4】


 手を引かれ誘導された先は、とあるビルの隣にある路地。

 その場所にあった階段をテンポよく上り、やがてたどり着いたのは建物の屋上。


「わぁ……!」


 促されるままにフェンスに手をかけ、景色を見下ろした結衣は思わず声をこぼした。

 眼前には夕焼け色に染まる街の風景が、鮮やかな絵画のように輝いている。

 普段暮らしていた街の、見たことのない姿に結衣は感動をしていた。


 隣に立った偽者の華世が、同じように身を乗り出してエヘヘと無邪気に笑う。


「景色、綺麗でしょう! それにこの高さから見下ろせば、きっと友達も見つかりますよ!」

「う、うん……そうだね」


 景色を見ながら、後ろ手に携帯電話を操作する結衣。

 けれども、華世へとメッセージを送る最後のひと押しで、思わず指を止めてしまった。


(この子……すっごくいい子。そんな子を、突き出すようなマネをして良いのかな……)


 まるで華世が素直な少女として育ったら。

 そのもしもが現実になったような存在が、いま隣にいる。

 別に彼女が悪さをしているわけではない。

 困っている人へと積極的に声をかけ、手を差し伸べ、一緒に問題ごとを解決しようとしてくれる。

 そんな善意の塊のような彼女を、はたして華世本人に会わせて良いのだろうか。


 結衣が、短時間しか言葉をかわしていないこの少女に心動かされているのにはもう一つ理由があった。

 それは華世そっくりな容姿。

 親愛なる存在とうり二つな姿をした彼女へと、どうなるかわからなくなる行為を行うのにためらいが生まれていた。


(どうしよう……)


 結衣は、迷いの渦中に居た。

 この場で自分が行うべき行動は、もちろん華世への連絡。

 けれども、この優しい笑みを浮かべて景色を眺める少女に、結衣は完全に心奪われていた。


「ねっ。友達……見つかりました?」

「えっと……ええっと……」


「見つけた。ここに居たんだ」


 背後から聞こえてきた、聞き覚えのある、けれども聞き慣れない声。

 結衣が偽華世と同時に振り向くと、そこに立っていたのはホノカ。

 かつて華世へと襲いかかり、けれどもスラム街で結衣たちを助けてくれた魔法少女。


「あなた、この子が探していた友達?」

「違う。私が探していたのはあなた……そう、ツクモロズであるあなたよ」


「ツクモロズ!?」


 ホノカの言葉を聞き、結衣は無意識に一歩引いた。

 この、華世と同じ姿をした……けれども優しい少女が、ツクモロズ。

 信じたくはないが、ホノカの言うこともデタラメだとは思えなかった。


「どうやったかは知らないけど、あの華世という子と同じ姿をするなんて。偽者、あなたの目的は何?」

「私は……私は葉月華世です! 偽者なんかじゃありません!」

「嘘言わないで。感じるのよ、あなたのその体の奥から……ツクモロズの気配がね。ドリーム・チェンジ……!」


 静かに呪文をつぶやいたホノカが、激しい光とともに魔法少女姿へと変身した。

 黒いシスター服のベールの下から鋭い眼差しで睨みを効かせ、プレッシャーを放つホノカ。

 彼女は巨大な機械篭手ガントレットの手のひらを、ゆっくりと偽の華世へと向けた。


「そこの民間人。離れて、巻き込まれますよ」

「でも……」


 偽者の華世か、それともホノカか。

 どちらの味方をすれば良いのか、結衣にはわからなかった。

 生身の自分にできることなど、たかが知れている。

 けれども、何かできることがあるんじゃないかとその場を動けずに居た。

 揺れ動く心に震える肩を、偽華世の手が優しく掴む。


「心配しないでください。私を信じて」

「え……」


「人質のつもり? だったらピンポイント爆破で……!」


 素早い動作で、ホノカが巨大な金属の拳を床へと打ち付ける。

 その打ち付けた点から、空中を道があるかのように走る火花。

 迫りくる炎の驚異を前にしながら、偽の華世は腕を振り上げ、そして叫んだ。


「ドリーム・チェェェェンジッ!」




    ───Eパートへ続く

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