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第10話「向かい合わせの影」【Cパート 遭遇】

 【3】


「おいおい、ザナミさんよぉ。あの鉤爪コピー、とても何かをしでかすようには見えないんだけど?」


 ツクモロズの本拠地、謁見の間。

 アッシュから報告を聞いていたザナミに対して、レスは不満を顕にした。


 鳴り物入りで投入した秘密兵器。

 だというのにも関わらず、入ってくる報告は人間へと親切を働いたことばかり。

 派手に暴れまわったとかの華のある報告を期待していたレスにとっては、肩透かしもいいところだった。


「こりゃ、レスよ! ザナミ様になんという無礼を!」

「爺さんは思考停止でイエスマンしてれば良いから楽だろうがね。僕は道楽に付き合うためにここにいるんじゃないんだよ。なあセキバク」

「…………」


 いつもは流暢に歌を読む三度笠の沈黙。

 それは彼なりの訴えには他ならない。

 けれども、レスたちの不満の声を聞いたザナミから返ってきた声は、不敵な笑い声だった。


「レスよ、くでない。あの者には切り札を仕掛けてある。それにこの度の作戦は、今後に向けての布石なのだ」

「切り札に……布石だって?」

「アッシュからの報告で、かの鉤爪の女の内には“魔”が住んでいることがわかった。その魔の目覚めは、必ずや我々の利となるのだ」

「じゃあ、あのコピー女が鉤爪ん中の魔ってやつを呼び覚ますってことかい? どこまで信じたらいいのやら……」


 半信半疑なまま、レスの話題は打ち切られた。



 ※ ※ ※



「見つけたら、見つからないようにして、華世ちゃんに連絡。見つけたら、見つからないようにして、華世ちゃんに連絡……っと」


 偽の華世を見つけたときの対応を何度も復唱しながら、自分の担当するエリアへと足を踏み入れる結衣。

 すでに時刻は夕方に差し掛かり、太陽代わりにコロニーを照らす光もにわかにオレンジがかってきていた。

 時刻的に、帰宅途中の高校生や買い物に出かける主婦たちの姿が街の中にチラホラ。


「……この中から人を探すのって、大変だなぁ」


 右へ左へと顔を動かし人混みを眺めながら、ポツリと呟いて途方に暮れる。

 どんな姿をしているかは判明しているが、いかんせん容姿くらいしか情報がない。

 しかもこの場所にいるか否かすら不明なので、探すにしても限界がある。

 一応、日が暮れたり疲れたら帰っていいとは言われているが、結衣は華世の役に立ちたい一心でできるだけ長く探し続けようと思っていた。


 思っていたのだが。


「このあたりをずっとグルグルしてたら怪しまれるよね……。どうしたら良いんだろう……」


 横断歩道の前で立ち止まり、ふぅ……とひとつため息を吐く。

 やる気はあるが方法が思いつかない。

 なんともいえないもどかしさに、自然と表情が暗くなっていくのを自分でも感じていた。


 信号の赤と青が切り替わり、自分の後方を流れていた人の列が動きを止める。

 そして前の人混みが動き出し、前からくる人の列と交差していく。


 その時だった。


「あのぅ。あなた、誰かを探しているんですかっ?」

「わっ!? えっ!!?」


 突然背後から尋ねられた結衣は、声をかけられた瞬間と振り返った瞬間、短い間に二度も驚きの声を漏らした。

 なぜなら、言葉をかけてくれた少女の容姿が、まさに華世そのものだったからだ。

 けれども彼女は華世とは違い、朗らかな笑顔を結衣へと向け、歳相応の仕草で結衣の手を両手で包み込んでいた。


(もしかして、この子が華世ちゃんの偽者……!)


 危険だから接触は厳禁、と言われていたが話しかけられてしまった。

 けれども結衣は内心で自分を落ち着かせ、話を合わせることに決める。


「えっと……友達とはぐれちゃって、探してるの。あの、電話もつながらなくて」

「そうですか。それは大変ですね! 私が一緒に探してあげましょうか!」

「あ……お願い、します」

「じゃあ行きましょう! レッツゴーです!」


 元気よくハキハキと、それでいて優しく手を握り引っ張る偽の華世。

 本物の華世が絶対に見せないであろう彼女の表情に、結衣は内心ドキドキしていた。




 ※ ※ ※



「あら? ウィル、どこ行くのよ?」


 指定のポイントに向かう途中。

 一緒にいたウィルが目的地と違う方向に歩き始めたので、思わず華世は彼の肩を掴んだ。


「えっと……今日、バイクの納品日で」

「バイク? あんた免許持ってたっけ?」

「華世の役に立とうと頑張って取ったんだよ! それで、お金貯めて中古のバイクを買ったんだ」


 ウィルは、特別隊員とはいえ一応はアーミィに所属している。

 即ち、小額ながら給料が出るわけで、それを元手にバイクを買ったのだろう。


「あたしの役に?」

「遠方で事件が起こった時、走るの大変だろう? そこで俺が颯爽とバイクで駆けつけて、乗れ! って」

「……ありがと」

「え?」


 華世が述べた礼の言葉に、目を点にして固まるウィル。

 その反応に睨みを効かせると、ウィルはあわあわとし始めた。


「何よその顔」

「い、いや。君が素直にお礼を言うなんて、って思って……」

「言うわよ。まったく、あのクソお嬢様といい、あたしのイメージって悪いのかしら」


 ぼやきながら、華世はウィルが向かう先へと一緒に歩いていった。





    ───Dパートへ続く

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